竜王様の愚痴2
アルがうざい。
アルが言った通り、結婚して直ぐに私は妊娠して、現在、妊娠後期に入ったところ。
つわりも酷くなくて、私はずっと元気だし、お腹が大きくなるのは、子供が順調に育っている証拠だし、何も問題は無いはずなんだけど。
私のお腹が膨れてくるにつれて、アルの心配性が再燃してしまった。
そりゃあ私だって、お産は初めてだから心配は心配だけど、アウラや竜の子も含めて何人も子供をとりあげているベテランのお産婆さんがついてくれてるし、竜の子を産むといっても、なんら人間のお産と変わらないとの話だったから、なんとかなると思っている。
むしろ、竜族と交合した私のような人間は、普通の人間よりもずっと生命力が強いから、お産で死ぬ事はないし、産後も夫に魔力を分け与えてもらえるので、肥立ちもすこぶる良いらしい。
ますます、心配は無用の長物だと思うのだけど、困ったことに、アルはそうじゃないみたい。
とにかく私にべったりくっ付いて離れない。
私の行動を監視して、研究は危ない、魔法は使うな、勉強は熱が出ると何もかもを取り上げて、一日中私を抱っこして過ごそうとする。
アルは竜族の雌が大量死した時のトラウマを抱えてて、心配が過ぎると干からびてしまう。
そう思って、心配をかけないようにと行動してきたけれど、さすがにこう一日中つき纏われて、あれこれ口うるさく言われると、愛しい夫と言えど正直辟易する。
「ローリー、身体が重いであろう? だから、我が食堂まで抱っこして連れて行ってやる」
「そりゃあ重いけどね、自分の体だし、歩けるからいいよ。それにね、私、動かないと難産になるんだって、アウラが言ってた。だから、どっちかというと、せっせと歩かないといけないの」
「そうなのか? だが、そなたの腹は日増しに大きくなって、今にもはち切れそうではないか。ちょっとした振動でも、破けてしまうのではないかと、我は心配なのだ」
「アルったら。お腹は破けたりしないよ」
「でも、この前、躓きそうになったであろう? やっぱり、抱っこしていった方が良いのではないか?」
「今は転ばないように、ちゃんとアウラについてもらってるから。だから心配しなくても、大丈夫」
「そうか、しかしだな、」
「アル、大丈夫だから!」
「わかった・・・・・・ならば、魔力を補充してやろう。歩いて行くのなら、力は必要だろう?」
・・・・・・
ああ言えば、こう言う。
毎日毎日繰り返されるこのやり取りに、正直うんざり。
「あの、竜王様、では、私の代わりに、王妃様の手を引いていただけますか? あの、私は、王妃様が躓くといけないので、廊下に邪魔な物が落ちていないか、見て参りますので! よろしくお願いします!」
私がイラッとしたのを敏感に感じ取ったアウラが、気を利かせてくれる。
アウラの労わりがとても嬉しい。
「アル、お願いしてもいい?」
甘えた調子で言えば、アルは喜んで引き受けてくれた。
「おお、もちろん良いぞ! 我に任せよ。ローリーが転ばぬようエスコートすれば良いのであろう?」
「ありがとう」
疲れる。
と、いうことで、一日中アルと一緒にいると気力の消耗が激しいため、最近はある方法でうざい夫を追い払っている。
研究も駄目、魔法も駄目、本も取り上げられて、いったい私は何をして時間を潰せばいいのって状況も解消してくれる良い方法だ。
「アル、今からここでお茶会をするの。申し訳ないけど、早めに宰相様のところへ行ってもらってもいい?」
「なぜだ? 我もお茶を」
「ざ・ん・ね・んなんだけど、これは女子会なの。ごめんね! あ、多分そのまま、ランチに突入するから、アルは宰相様と一緒に食べてね!」
アルを大きなお腹で押し出すよう部屋の外に出し、首を下げさせて、いってらっしゃいのキスをして追い出した。
思いっきりお喋りをすれば、ストレス解消にもなるし、竜王国についての情報収集も出来て一石四鳥くらいになる。
今日は、同年代の若い女の子ばかりだったから、恋バナや流行ファッションの話題で盛り上がった。
私は一人竜王国にお嫁に来たので、お茶に呼べるような友人はいない。
ディーンはまだレノルドに留学中だし、ティムは連れて来たけど、新婚の間はアルに悪いからって、竜王国に着くなり眠ってしまった。
フェリシア母さまとエリックさんは、私と離れるのが辛いと言って最後まで迷っていたけれど、やはりお互いの番いに会う事を恐れて、竜族が多く住む竜王国には来なかった。
だから、アウラに勧められて、お城に勤めている人達を呼んでお茶をしている。
私は、最初、仕事中にそんな無理を言ってはいけないと思うと遠慮したのだけれど、アウラが言うには、人間の世界と違って、ここでの仕事は暇つぶしのようなもので、全然無理ではないらしい。
仕事が暇つぶしとはどういう意味なのか、聞いた時は全然分からなかったけれど、最近はなんとなく理解出来るようになってきた。
竜王国には、仕事という観念自体がないと言った方がいいかも。
まぁ、元は竜だし?
とにかく竜王国は、宰相様から事前に教えてもらってはいたけれど、人間の国とはひと味もふた味も違っていた。