ジュリアの王子様2
めんこいのう~。
ハゲワシにぶらりとつり下げられている姿を見た時には、心臓が止まるかと思ったが、怪我も大したことなくて良かった。
もうこのまま朽ちるしかないのだと諦めておったに、なんという僥倖。
黒竜ゆえ、おそらくはアルベルトの子であろう。
運命のいたずらかと笑わずにはおれぬが、それすらもう些細なこと。
可愛い番いを目の前にすれば、何もかもがどうでも良くなった。
顔のすり傷が治るようにぺろぺろと舐めてやる。
背中の傷は塞いでやったし、大丈夫だと思うのだが。
じゃが、アルベルトの子ならば、人間とのあいのこか!
確かに、体も魔力も、アルベルトの子とは思えぬほど小さい。
あいのこは、よわっちいのかのう?
そうじゃ! ワシと魔力を交換すればよいのだ。
すぐに元気になれるぞと、口から魔力を吹き込んでやろうとしたその時、番いの目がぱちりと開いた。
悲鳴を上げて飛び起きた番いは、何やら喚いて洞窟の壁に張り付いている。
「怯えずともよいぞ。ハゲワシどもは全部追っ払ってやったゆえな」
怯えて震える番いを落ち着かせようとに優しく声をかけてやると、番いは目を剥いてワシを凝視している。
番いだとようやく気付いてくれたかと、喜び熱い抱擁を交わそうと近付くと、若い番いは横に飛び退く。
「どうしたのだ? 恥ずかしがる必要はない。ワシらは番いなのだから、水入らず仲良くしようではないか」
「は?! 今、番いって言った!? 誰と誰が番いですって?! ナイナイナイナイ、おじーさん頭おかしいんじゃないの?! 助けてもらったのは感謝してるけどさ、それ以上近付いたら、セクハラで訴えるからね!!」
若い嫁はヒステリーを起こして、また何やら喚き始めたが、ワシの耳にはキンキン響くだけでよく聞き取れぬ。
近付くと烈火のごとく怒るので、とりあえずはそっとしておく。
ハゲワシどもに襲われて、かわいそうにまだ頭が混乱しておるのだろう。
ワシはとりあえず興奮している嫁を落ち着かせるために、離れたところから優しく話しかけることにした。
「心配かけおって」
「・・・・・・」
「背の具合はどうじゃ? 傷は塞いでおいてやったが、まだ痛むか?」
「・・・・・・」
「間に合って本当に良かった」
「・・・・・・」
そう言えば、まだ名を聞いておらなかった。
「我が名はヴォルフリートじゃ。そなた、名は?」
「・・・・・・」
嫁のヒステリーはおさまったが、今度は能面みたいな顔をしてまったく口を開かなくなった。
何が気に入らぬのか、さっぱり分からぬ。
若い嫁は気難しいのう。
途方にくれていると、どこからか声が聞こえる。
『ジュリ? ジュリ? 聞こえるか? 今、どこだ? 帰りが遅いと心配するだろ? おい、返事をしろよ、ジュリ?』
すると、その声に気付いた嫁が寝床の方へ走っていったかと思うと、置いてあったペンダントを拾い上げ、それに向かってまくしたてるように話す。
「兄さま! 助けて! もうろくじじいが、セクハラしてくるの!! 助けてもらったけど、白馬の王子様じゃなくて仙人みたいなじじいなんだもん! じじいが、ヘンなことほざいて、迫って来るの! じじいが、じじいが、」
『ジュリ、落ち着け。一体何の話だ? じじいって?』
「だから、仙人みたいな毛むくじゃらのじじいが私を自分の番いと間違えて、迫ってくるのよ! とにかくすぐに迎えに来て! 緊急事態なの! 兄さま、わかってる?!! 私の貞操の危機なんだからね!!」
『わかった、わかったから。そっちに着くまでに、俺に状況が分かるように話せ』
嫁は、ハッとしたように顔を上げワシを見ると、釘を刺すように言った。
「おじーさん、私、今、家族とお話中だから、後ろから襲うような卑怯な真似はしないで、そこでじっとしててよ!?」
そして再び後ろを向いて、ペンダントとひそひそ話を始める。
「だからね、結界を直してたら・・・・・・、でね、ハゲワシに襲われて、・・・・・・助けてもらったのはいいんだけど、・・・・・・見た事がないくらいすんごいじじいなのよ。でさ、私が思うに・・・ねぇ、ちゃんと向かってくれてる? うん、ならいい、超高速で飛んで来てよ? 乙女の純潔が大ピンチなんだからね! で、なんだっけ、そうそう、私が思うにきっと歳をとり過ぎて、番い感知のアンテナが誤作動起こしてるんじゃないかな? こんなところに独りでずっと籠ってるからさー、私みたいな若いぴっちぴちのギャルを見たもんだから、ヘンなスイッチ入っちゃった的な? そーゆーんだと思うんだよねー。え? 私? ナイナイ! だって、髪だか髭だかわかんない毛で全身が覆われてんのよ? ナイわー、ナイナイ、カンペキにナイから!! でね、話を戻すけど、このじじい、困ったことに私が違うって否定しても、ぜんぜん聞いてないのよ。兄さま、なんとかして」




