ジュリアの王子様1
「おい、ジュリ、レオンの代わりに上流のパトロールを頼まれてくれないか」
「ええー!! めんどくさーい」
1000歳を超えた父上はまだばりばり元気だけど、いずれは代替わりをしなければならないのだからと母上に命令されて、私達兄弟は父上の仕事を手分けして手伝っている。
「ルカウス兄さまが自分で行けばいいじゃん!」
「俺が行ったら警戒されるだろーが」
「うー」
竜の谷の上流には祖先が眠る墓場があって、その近くの渓谷の絶壁に、純粋な竜族つまり古老達が巣を作り住んでいた。
実のところ、この古老の中に竜族至上主義の者がいて、竜王国に人間が住む事を快く思っていないらしく、私が生まれるずっと前の話だけど、父上と揉めたっぽい。
確かに、次代の竜王と目されるくらい魔力の高い兄上が行くと、せっかく大人しく寝てる子が再び起きて来ないとも限らない。
「美しい黒蝶が一匹紛れこむくらいなら、向こうも目くじらを立てたりしないと思うんだ。頼むよ」
しようがないなぁ~。
兄上に言われなくても、みそっかすの私が誰よりも一番適任なのは分かるけどさ。
人間の母上の方に似たのか、何故か私だけ小柄で、黒髪黒眼は他の兄弟同様父上譲りだけど、黒竜のくせに魔力も高くない。
パトロールかぁ~。
あんまり得意じゃないんだよねぇ~。
父上やルカウス兄上ならひとっ飛びでも、魔力も竜体も小さい私には結構大変だったりする。
でも、レオンの番いであるフローラは現在妊娠中。
レオンをフローラから引き剥がすわけには、さすがに出来ないわよね~。
私はなるべく竜気を抑え、古老達を刺激しないように静かに飛んだ。
結界の綻びはあちこちにあって、直して回る。
もう、レオンってばパトロールで何をしてたんだか。
ようやく終わって、さあ帰ろうという時に、オオワシの群れに襲われた。
結界の修復をしているうちに、繁殖中のオオワシの巣に迷い込んでしまったらしい。
「きゃあー、ごめん、ごめん」
つつかれ、鋭い爪でひっかっかれながらも、なんとか無用な殺生はせずに群れから逃げおおせた。
やれやれと思ったのもつかの間、逃げて飛び回っているうちに、またしても不穏な空気が漂った場所に入り込んじゃったみたい。
今度は巨大なハゲワシに捕まった。
もうヤダ~。
竜気を発する事が出来れば、獣も魔獣も寄って来ないのに~。
電撃の魔法を繰り出せば、ギャーっと離れたけど、その声を聞いて仲間が集まって来る。
口から火を噴いて威嚇したりして、黒竜の私に対してなんて生意気な態度なの!
小さいからって、ジュリちゃんをナメてかかると痛い目をみるわよ!
や~ん、なんなの?! このハゲワシ達!!
魔獣化してるのは分かるけど、それにしたってぜんぜんやられてくれない~!
竜気をガンガンに出しても怯まないどころか、一層ファイトを燃やし始めたように見えるのは気のせい?
ん~もう、黒竜って一番強いんじゃなかったっけ?!
なんかどんどん集まってくるし~。
もしかして、ジュリちゃん大ピンチ?!
地面に降りて縮まりんぐ。
バリアを張って、とにかく翼をたたんで小さく丸まった。
翼で叩かれ、つつかれ、引っ掻かれ、情けないけどハゲワシごときにいたぶられてマス。
あ~ん、ハゲワシ達が諦めるまで、このまま待つしかないのかな。
「きゅーん、きゅーん」
誰か助けて~。
あー、もう! ムリ!! 魔力切れになる前になんとかしなくちゃ。
私のツヤツヤな自慢の鱗にキズが残ったら、泣いちゃう!
もう、ジュリちゃんの必殺技を出しちゃうんだから!
出来る事なら避けたかったけど、もうこの際、レオンに馬鹿にされたっていいっ!!
いじめっ子のハゲワシども、魔石になって後悔するがいいわ!
この伝家の宝刀で・・・って、アレ? 無い! ない! ナイ! 無いぃ~!!
ウソでしょ。
こんなこともあろうかと、ちゃんと首にかけてきたはず。
私の通信具のペンダント、どこ?!
あ! さっき捕まった時に、鎖が外れたのかも!
辺りを見回してみると、やっぱり落ちていた。
自分の魔力も込められてるから、探すのは容易い。
見付かったのは嬉しいけど、困ったことにちょっと場所が離れてた。
結界を解くわけにはいかないから、このままよちよち歩きて行く?
それとも転がった方が早いかしら?
転がったのは失敗だった。
早く移動出来たのは良かったけど、目が回って結界の魔法が解けてしまった。
ペンダントさえ手に入れればと、必死に手を伸ばしたところで、背中に衝撃が走る。
ズブリと太い爪が鱗を突き破って深く刺さったのを感じた。
ハゲワシは私をつり下げたまま大空へと羽ばたき、激痛に意識がうすらぐ中、ペンダントが遠くに見えた。
もう、お終いだと思ったその時、奇跡が起きた。
王子様が、ハゲワシをやっつけて私を助けてくれたのだ。
王子様は私を抱き上げ、自分の城に私を連れ帰ろうする。
一緒に帰るのはもちろんOKだけど、とりあえず家族に連絡しとかなきゃと思って、ペンダントを探す。
あ、そうだ、落としたんだった。
「あの、そのへんにペンダントが落ちていないかしら」
私が言うと、王子様はすぐに拾って来てくれる。
これで安心、私は王子様にぐったり身をゆだねた。
ダイアナがオーティスの王子と結婚してからというもの、私のところにもカッコいい白馬の王子様がきっと迎えに来てくれるって、ずっと信じてた。
なのに、レオンに先を越されて、私もルカウス兄上やシルヴィア姉さまのように番いが見付からず、行かず後家になるかもってちょっと焦ってたから、すごく嬉しい!
今まで見せびらかされた分、倍返しでみんなの前でいちゃいちゃしちゃうもんねー。
「心配かけおって」
・・・・・・
「背の具合はどうじゃ? 傷は塞いでおいてやったが、まだ痛むか?」
・・・・・・
「間に合って本当に良かった」
・・・・・・
目覚めて、まじドン引き。
助けに来たのは、白馬の王子様じゃなくて、白髪のじじいだった!!




