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終わりの果て



彼女が俺の前から姿を消してもう5年が経つ。

だが、彼女を失って空いた心の穴はまだ癒えない。




※※※※



ミリアが姿を消してから一月が経った頃、俺は王宮に呼び出された。

要件はおおよそ検討がついた。以前から打診されていた王女との婚約についてだろう。

だが、いくら戦いに勝つためとは言え、あんな卑怯な手を使って王を討った俺には報酬を貰う資格なんてない。

ましてや頼んでもいないのに王女様と結婚なんて、はっきり言って面倒なだけだ。しかも今俺は惚れた女に逃げられたばかり。とてもじゃないがそんな話をする気になれない。

そんな訳で、今まで国王の使者が来てものらりくらりとかわしていたが、いよいよ向こうも焦れてきたのか、とうとう王印の入った書状を持ってやってきた。これを断わったら俺は即牢獄行きだ。


半ば連行されるように王宮に連れてこられた俺を迎えたのは、栗色の髪と飴色の瞳を持つ女性だった。



―――…ミリア!


その女性、セシリア王女は、ついこの間まで俺の家に居た彼女ミリアに似ていた。


…いや、正確には似ていない。


確かに髪と瞳の色は似ていた。が、彼女はこんなに艶のある髪はしていなかった。こんなに華やかな雰囲気ではなくもっと地味で、体つきも貧相で…。今目の前に居る目映いばかりのオーラを放つ女性とは全く違っていた。

そう、見れば見るほど似ていないと実感するのに、ぱっと見の雰囲気が、ふとした仕草が、ミリアを想わせた。


戸惑う俺に、彼女は俺の手を取り言った。


「父が無理を言ったようでごめんなさい。

父は貴方を気に入って私との婚約を持ちかけたみたいけれど、貴方には心に想う人が居ると聞いています。このまま強引に話を進めても、きっと誰も幸せにならないわ。だけど父は言い出したら聞かないの。恐らく今断っても受け入れてもらえない。

ですから私達、知り合うところから始めてみませんか。

沢山会って、話をして、それからゆっくり二人で決めたら良いと思うの。

それでお互いが納得出来ないと言うならば、父もきっと赦してくれるわ。」



セシリア王女の言葉は、俺にとって都合の良いことばかりだった。


ミリアを失ったばかりの俺に今、セシリア王女の事を考えろと言っても無理だった。

そして、俺個人で王からの話を断ることなんて出来ないのだ。


今思えば問題を先延ばしにしただけだったが、はっきり言って何もかも面倒だった俺は王女の提案に乗った。






セシリアは、よく笑う人だった。


明るく聡明で、人の気持ちに悟く、誰にでも平等であり、全ての人から愛される王女だった。


彼女に会うたびに、明るく楽しい気持ちになれる。身分の違いなど気にならない程気さくな性格で、たわいもない話をしては無邪気に笑っている姿に、心の底から癒された。

彼女はお忍びで街に出るのが好きで、よく付き合わされた。護衛も兼ねて二人で外出をしていると、まるでデートをしているような気分になって意識すると気恥ずかしくなったりもした。


俺は次第に、きらきらと眩しい太陽のようなセシリアに引かれていった。

だが、それでも俺はミリアを忘れられなかった。


寡黙で、滅多に笑わない、声を出さずに静かに涙を流すミリアが、時折セシリアに重なって見えるのだ。






気が付けば5年が経っていた。


俺とセシリアが互いに想い合っていることは誰の目から見ても明らかだった。周りはことあるごとに結婚を急かしたが、彼女から俺に何か言ってくることはなかった。

でも時折、俺を物言いたげに見つめる瞳が、ふとした拍子に遠くを見ながらつくため息が、彼女の気持ちを雄弁に物語っていた。きっと、彼女は俺の言葉を待っている。


若かった彼女はもう既に結婚の適齢期を越えてしまっていた。





「セシリア様、俺と結婚してください。」


俺は彼女に長らく待たせていた言葉を告げた。

俺の拙く飾り気のない言葉に彼女は、常に笑顔だった顔をくしゃくしゃにして飴色の瞳から涙を流した。

余程待たせてしまっていたのだろう。初めて見る彼女の涙に、この結論を出して良かったと心から思った。


でも、なぜだろう。

涙を流すセシリアは、より一層ミリアと重なって見えた。



※※※※



誰からも愛される王女と国を守った英雄と呼ばれる男の婚約は全ての国民から祝福された。

誰もが待ち望んでいたニュースに国全体が沸き立ち、トントン拍子に話が進み、短い婚約期間を経て国を挙げた婚姻の儀を行うこととなった。


その婚姻の儀まであと2週間となった頃、セシリアから「二人だけでとある場所へ行きたい」とひっそりと告げられた。





「貴方は、私に姉が居たことは知っていた?」


遮る物のない一面に白いの花が咲く草原を抜け、小高い丘の上にある石碑の前に立った彼女は振り向きながら俺に質問した。

そこは王都から少し離れた大きな湖と長閑な田園風景の広がる田舎町だった。

俺は眼下に広がる青い水を湛えた湖を見下ろしながら彼女の質問に首を横に振って答えた。


「この地は、私とお姉様が幼い頃共に過ごした土地なの。物静かなお姉様とお転婆な私はあまり似てはいなかったけど、とても仲が良かったわ。そしてお姉様は8年前、国同士の平和の為に隣国の王に嫁いだの。」


彼女が『隣国』と表現した国は今、地図から消えている。6年前俺が滅ぼした国だった。


「隣国は小さいけれど国民を大切にする王が治める平和な国だったわ。王は若くして国を継いだけれど素晴らしい人格者で、お姉様との間に赤ちゃんも出来て、とても幸せに暮らしていると風の噂で聞いていたの。でも、6年前に戦争が起きて、それから先は貴方も知っているでしょ…。」


6年前、隣国が突然この国に牙を剥いた。

和平同盟を結んでいた国の突然の進撃に国中に動揺が走ったが、この国に隣接する大国と呼ばれる国に力を借りて、隣国を打ち倒した。

それはつい数年前に起こった、この国の年寄りから子供まで誰もが知っている歴史。


「でも、本当は違った。お姉様の国は裏切ってなんかない。裏切ったのはうちよ!

大国に牽制され、父は自国を守る為に隣国を売ったの。

隣国を騙し、奇襲をかけ隣国を落としたのよ!!」


セシリアの言葉に、俺は目を見張った。


「勿論わかってはいるわ。父は国を守る為に隣国を騙し、貴方は自分の責務を全うするために王の首を取ったって。

でも私はお姉様を奪った貴方も父も、憎くて憎くて堪らなかった。

だから父から貴方との婚約話を持ちかけられた時、思いきり反発したの。だけど父は貴方と会うことが私の為になると言って引かなくて。だから、婚約話をなくすにはどうしたらいいか考えて、貴方を呼びつけて罵倒してやろうと思ったの。そうすれば、私もすっきりするし、貴方は私の事が嫌いになるだろうから。

でも、会ってみたら貴方は想像と全然違った。英雄とか呼ばれてどれだけ鼻高々になった勘違い男が来るかと思ったら、恋人に振られてこの世の終わりみたいな顔した情けない男で、これで私が罵詈雑言浴びせたら本気で自殺とかしちゃいそうで。

だから作戦を変えて、最初にあんなことを言ったの。」


『沢山会って、話をして、それからゆっくり決めたら良いと思うの。』


「そしたらついうっかり絆されちゃって、本気で好きになっちゃって……馬鹿よね。」


セシリアは瞳に浮かんだ涙を袖で拭うと、目の前にある自分の背より高い石碑を見つめた。

この5年間の間に彼女の中でどれだけの葛藤があっただろうか。

想像するだけでも胸が引き裂かれるようだ。


「この石碑は『お姉様のお墓』なの。」


戦の混乱で遺体は見付からなかったから、中身は空だけどね。

セシリアはそう小さく呟くと、石碑に一歩近づき、来る途中の草原で積んだ白い花を墓前に飾った。


「お姉様は自分と夫を殺した男に嫁ぐ妹を許してくれるかしら。…いや、決して許してくれないわね。

でも私はお姉様に知って欲しかったの。貴方が本当は優しい人だって。

自分勝手だとは分かっているけど、お姉様にこの結婚を許して欲しかったの。」


俺は、墓前にすがるように膝をつき泣き崩れるセシリアを無言で抱き締めた。




目を閉じればあの時の光景が昨日のことのように思い出される。


戦火に焼かれ火の手を上げる城の中、姿を消した国王夫妻を探して、俺は城の深くを数十の兵を連れて歩いていた。

そして最奥の部屋に、妻子を全ての災いから守るように抱き締めた黒目黒髪で全身黒の鎧を纏った男を見つけた。


国王だ。


彼は既に満身創痍で、鎧はあちこちに刀傷を受けかろうじて形を保っている程度、左腕は深い刀傷から赤黒い血が流れ、だらりと垂れ下がり腕が上がらないようだった。

だが、彼は怒気を孕んだ形相でこちらを見ると、ゆらりと立ち上がり唸るように言った。


「妻と娘には指一本触れさせない。」


彼は子供を抱いた王妃を逃がすと、右手に持った剣一本で鬼神の如く戦った。

だが、多勢に無勢の上怪我をした体は思うように動かず、彼の命はそこで尽きた。




「お前は俺の分まで生きろ!」


あの時の王の声に、走り去る王妃が不意に振り向く。


―――栗色の髪と、飴色の瞳。


その顔は、ミリアに瓜二つだった。





※※※※



5年と言う短くない時間を過ごした俺達だったけれど、きっとまだ胸の内に多くのわだかまりを抱えていて、互いに全てをさらけ出すにはまだまだ時間を要するだろう。

だけど、これから先、言葉を重ね少しずつでも互いに歩み寄っていけたら、きっと信頼し合える良い関係を築いていくことが出来るはずだ。



彼女の姉の墓を辞し、真っ白な花が咲き乱れる草原を二人で手を繋いで歩いた。

今までお忍びで出歩くことはあっても、あくまで女王と従者と言う関係だった為、始めて繋ぐ手がくすぐったく思える。まるで10代の初恋の時のような甘酢っぱい空気がどこか気恥ずかしくて、ちらりとセシリアの方を見ると、彼女も頬を染めてこちらを見ていたので、目が合い二人とも照れて笑った。


そのまましばらく歩くと、草原の中で二人の親子と出会った。

ここの町人だろうか。栗色の髪の若い母親と黒髪の男の子の二人は積んだ花びらを篭に入れて、雪のように降らせて遊んでいる。


キレイだな。


微笑ましい光景に素直にそう思い見ていると、セシリアが突然足を止めた。



「……ミリアお姉様?」



セシリアの声を聞いた栗色の髪の母親がこちらを振り向く。

そして母親につられて、黒髪の男の子もこちらに顔を向けた。




そこには、ミリアと、俺にそっくりな5才位の子供が立っていた。








運命の歯車は、噛み違えたまま回り続ける。


それが、破滅に繋がるとも気付かずに。




~完~









スミマセン、これで終わりです!

続き書いてくれる方いたら、お願いします!!


以下、オマケ話です。

本編とは全く関係の話ですので、時間に余裕のある方、ちょっとつきあってやってもいいか、と言う方、よろしくお願いします。


ちょっとギャグですが、本人は至って真剣です。



※※※※




同僚の苦労




俺の同僚には、すげー有名人がいる。


そいつは、この間の戦争で相手国の王の首を取った、英雄と呼ばれる男だ。

でも、そんなものすごい奴なのに、ちっとも偉ぶったところはないし、仲間想いで仕事は真面目、しかもイケメン、女に人気の細マッチョ。

神は二物を与えずって言うけど、こう言う奴が間近にいるとそれって嘘だろって思う。世の中は不公平だ。

だけど、若い頃は色々とすげー苦労したらしい。

本人はあんまり詳しくは話してくんねーけど、何気ない会話の端々からそんな雰囲気が滲み出てるんだよな。

だから英雄って呼ばれるくらい有名になっても、こんなにイイ奴なんだろうな。


そんな男の俺から見ても男前な奴が、ある日突然、拾った女と一緒に暮らし始めた。


って、猫じゃあるまいし「拾った」ってなんだよって思うけど、本当に拾ったんだよ。


どしゃぶりの雨の日に警備の仕事で行った隣町の道端で出会った薄汚い女。

酔っ払いの方がまだマシなくらい足元は覚束なくて、髪の毛はボサボサ。いつ風呂入ったんだって言う位汚れてて臭うし、服はそこらじゅうが擦り切れた、辛うじて服とわかるくらいのぼろ布を引っ掛けているだけ。

何より、長い前髪の隙間から見える瞳に生気がない。木の洞のように虚ろで生きているのにまるで死人のようだった。

これならその辺で寝てる浮浪者の方がよっぽどマシだ。いくら若い女でも近寄りたくない風体だった。


そんな思わず避けて通りたくなるような女に、あいつは近づいていって話を聞き、寄り添い、そして住む場所のないその女を自分の家に住まわせた。


なんだよそれ。どんだけイイ奴なんだよ。見た目だけじゃなく中身もイケメンかよ。


それでも、よくある同情かと思って傍観してたら、いつの間にかやることやっちゃってるし…まぁ若い男と女が一つ屋根の下で暮らしてたらそうなっても仕方ないかもしれないけどよ…。

だけどよ。その得体の知れない女、本当に大丈夫なのかよ。


よく聞けば、お前が滅ぼした国の?それも未亡人?旦那と子供は戦死したって??

お前それマジで信じてるの?騙されてるんじゃないか?

いってえ、いきなり殴るなよ。えっ、彼女は人を騙すような人間じゃないって?はいはい、疑って悪かったよ。

しかし、それが本当だとしたら、いろいろと問題ありすぎやしないか?

なに?愛があればどんな困難でも乗り越えていけるって?昼間から目ぇ開いたまま何寝ぼけたこと言ってんだよ。

いいか、よく聞けよ。愛なんてまやかしだ。そんな形のないものなんて信じるだけ無駄だ。愛じゃ飯は食えねえんだよ。


しかも、お前、わかってんだよな。

お前には、王様から縁談がきてるんだぞ。


どんな女と遊んだっていいけど、お前の結婚相手は、この国の姫様なんだからな。




※※※※


「おーい、女将さん!麦酒一つ!!」


あちこちからガラの悪い男たちが怒鳴り声が聞こえる。

今は仕事帰りで、ここは行きつけの飲み屋。

そんな荒くれもの達が大騒ぎするなか、目の前で酒を飲みながら項垂れる男が一人。


「ミリア…。」


あっけないもんだ。

あれだけ燃え上がっていたのに、一月で女は姿を消した。

傍目から見ても上手くいってたように見えたんだが、とかく男女の仲とはわからないものだ。


「ミリア…。」


聞いたところによると、ある日いつも通り警備の仕事を終えて家に帰宅したら、彼女がいなくなっていたらしい。

朝、出掛ける時は特別変わったところもなく、あまりに突然のことだったので事件や事故に巻き込まれた可能性も考えたが、彼女の少ない荷物がなくなっていたことと、町の門番が夕方、一人で町から出ていく彼女を見たと言う証言があり、彼女は自分の意思で出ていった。と言う結論に達した。 (こいつは最後まで否定したが)

やっぱり俺の言った通りだ。愛なんて形の無いもの信じたって無駄なんだよ。


「ミリア…。」


それよりその女、なんのためにこいつに近づいたんだ。

こいつに聞いても家からは特に盗まれたものはないって言うし…。

あれか?これから王家と縁続きになる男に取り入って、自分も甘い汁吸おうと思ったのか?

だけど、こいつが思いの外自分に傾倒してきて、姫様の縁談を蹴ろうとしたから、面倒になって逃げたとか。

ありえない話じゃないな。

だったら、そんな物騒な女と早々に縁が切れて良かったじゃないか。


「ミリア…。」

「………。」


それにしても、女が姿を消してから、とにかくこいつがウザイ。

何をしても上の空。10分置きに女の名前を繰り返し呟き、彼女と同じような背格好の栗色の髪の女を見れば脇目も降らず駆け寄って行き、不審者扱いされている。


せっかくのイケメンが台無しだ。英雄の名が泣くぞ。



「……っ、ミリア!!」


突然弾かれたように、目の前の男が立ち上がった。


視線の先を見ると、今店に入ってきたばかりの栗色の髪の女をロックオンしている。

俺は咄嗟に同僚の男の腕を掴んだ。

ちょっと待て、その人は三軒隣の八百屋の女将さんだ。

確かに髪は栗色だが、年齢はギリおばさんと呼べるレベル、横幅は愛しの彼女の三人分を優に越えていて、狭い店の入り口に腹がつかえている。何より、あのきついおばさんパーマが目に入らないのか。彼女は確か肩までのストレートだっただろうが。


小声でそう伝えると、同僚は何度か目を瞬かせ、手の甲で目を擦り、頭を二三度振ってから俺に「すまない」と告げた。


いやいや、わかればいいのよ。


でもお前さ、その症状前より酷くなってないか?




こいつの気分転換になればいいと思って酒に誘ったけど、なんだか、このまま飲んでても辛そうなだけだと思い、早々に酒場を後にすることにした。


女が出ていってからまだ一月。

こいつにはまだ、時間が必要なのかもしれないな。


イケメンなこいつは、きっと振られるのは初めてで、耐性がないんだろう。

心配するな。今がどんなに辛く悲しくても、いつか時間が解決してくれるさ。

必ず、あの時、あんなことはもあったよな。と笑って話せるようになるさ。

常に片思い、告白しては失恋、好きな女の子から違う男への橋渡しを頼まれることは当たり前、「友達だったらいいけど、付き合うのはちょっと…。」が基本の辛いことは粗方網羅している俺が言うんだから間違いない。

このことにかけては、俺は先輩だ。って言うか師匠レベルだろ。

だから安心して、今は、たっぷり悲しみを噛み締めていろ。

それがきっと、心の糧になる。

未来の自分の幸せにつながるんだぞ。


なんか俺、すごくない!?

なんか恋愛マスターっぽくない!?

今すげーいいこと言ったよなぁ、って、ちょとお前どこにいくんだよ。


おい、待て!

お前が今、両肩を掴んでいる人は、町外れに住む御年93歳、トメさんだよ。

すでに孫が15人。この間ひ孫どころか夜叉孫が産まれたって聞いたぞ。

「ミリアじゃないのか!」って、嘘だろ。トメさん白髪で腰曲がって杖ついてて総入れ歯だぞ。性別以外どこにも共通点見当たらねーよ。


大丈夫かよ、お前、ちょっとヤバイんじゃないか?

酔ってるとかじゃ済まされないぞ。


明日、王様ところに呼ばれてるんだろ。

そんなんで行って大丈夫かよ。姫様の前で彼女の名前とか言ってくれるなよ。不敬罪で捕まるからな。


あっ、こら!

何すれ違い様にハッとした顔して女の子の腕を掴んでんだ!

その子は、まだこの間学校に入ったばかりの隣組のサーヤちゃん6才だぞ。

幼女誘拐とかシャレにならねぇ!止めてくれ!!


大丈夫かよこいつ。一人で王宮とか俺すげー不安だわ。



おい、まて!どこに行こうとしてる!!

そこは、女子トイレだぞ!

今、ミリアが入ってったって!?

万が一それが本当だとしても、せめて出てくるまで待ってくれ!

英雄が変態のレッテル張られて捕まるなんてありえねぇ!



こいつホントやベーよ。病んでるよ。

ぜってーこいつ、いつかやらかす。デカイのぶっぱなすぞ!

その時は、俺を巻き込んでくれるなよ。

俺は質素で平凡だけど、幸せな生活を望んでいるんだからな。




あっ、おい、こら、待てよ!!







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