第3話 お爺ちゃん
翌日、早速というか、ダークドラゴネスがまた来た。
今日は僕一人だ。もちろんカメラは即破壊させて貰った。
「くそっ、くそっ、昨日大枚叩いて買った高級カメラを破壊するなんて鬼か!僕はただ君を撮りたいだけだったのに!」
「うるさい!そんな事だけで来るな!」
「そんなことだなんて!僕には大切なことだよ!僕のカラスきゅんフォルダを潤わせたかったのに!」
「そんな恐ろしいフォルダ知らない!」
ホーリーランス(と、さっき名付けた魔術で造った光の槍)を投擲しながらドラゴネスに詰め寄る。
当のドラゴネスは、普通にかわしながら、「今日のために新規フォルダ作ったのに!」とわめく。余裕そうなのが非常にムカつく。
「くっ、こうなったら君の装備を破いて、憐れな姿にして肉眼に焼き付けてやる!」
「やめろ!そんなことゆるされない!」
本当に許されない。PTA辺りから厳重な抗議が来るだろう。
「右腕が疼くわ!ォォォォオオ……!唸れ我が腕!」
ドラゴネスはそう言いながら腕からビームっぽいのを撃ってきた。それをなんとかかわしながらツッコむ。
ドラゴネス、その腕は左腕だ。
「左右くらい把握しろ低学歴!」
「残念だったな!こう見えても現役○○大生だ!」
大学生なのかよこいつゥァアー!!!意外と若かったよ!しかもその大学超レベルの高いとこじゃねーか!何してんだ○○大!そんな奴入れるな!
「もういい!今日はもう帰る!」
次もカメラ持ってくるからなー!、と言い残し、背中の大翼を羽ばたかせ飛んで去っていった。次も破壊してやる。
戦闘が終了し、ヒーロー機関に連絡を入れようとした所で気付いた。
…うわ、めっちゃギャラリーおる。
口々に「ホーリーナイトちゃんだ!」「写真撮らなきゃ!」「ぺろぺろしたい」と言いたい放題で、悪の組織幹部であるダークドラゴネスなぞ眼中にないようであった。
「……アークウィング」
魔術で光の翼を造り、それを使い上に飛んで離脱する。下から「おおー!天使だ!」という声がするが聞こえないふりをする。
♢
ヒーロー機関に直帰し、変身を解く。
疲労を感じながら、報告のために指揮室に向かう。
道中、全身ラメゴールドの眩しい金ピカ男に声をかけられる。「おっ、クロウボーイじゃないか!お元気?」
ケツァルコアトルス。
「ねぇ、ケツァルコアトルスさん。」
「なんだいボーイ?」
「どうしてここの地区は個性が強すぎるんですか?普通のヒーローさんが目立たないって泣いてましたよ」
「ははは、おかしなことをいう。レッドくんとか普通の極みじゃないか。」
「全然普通じゃありませんよあんなストレスで死にそうな顔した人……」
「そうかい?」と金ピカケツァルコアトルス。飄々とした態度だ。
「君だって昨日から魔法少女デビューしたそうじゃないか。君のことずっとモニタリングしてた上層部が歓喜の叫びを上げていたよ!」
何してんだ上層部ゥ!!
「それはさておき」とケツァルコアトルスは表情を変え、真面目な風体で僕に言う。
「ヴァイス。知ってるよね?」
「……はい」
ヴァイス。直訳。悪。
この時代における、三大悪の組織の一つだ。
とても巨大な組織で何を目的としてるのかも分からずいくら探っても根が見えない、そんな組織だ。
「彼らがクライシスを傘下に加えたと聞く。ダークドラゴネスは何か言ってなかったかい?」
クライシス。
三大組織ほどではないにしろ、それなりに巨大な組織だ。ダークドラゴネスはそこの幹部で、首領は不明。
目的もヴァイスと同じく不明。
三大組織の「サクリファイス」のように、「クリーチャーの活きる世界を創る」みたいな分かりやすい理由がない。
ダークドラゴネスだって、襲撃はしてきてるけど、器物破損位しかしてない。人は襲わない。故に上層部も危険視しにくいというわけだ。
物を壊して何がしたいんだ、と上層部は頭を悩ませてることだろう。
「いえ、今日のアイツは僕のことを見に来ただけだと思いますよ。」
「あ、やっぱりー?」
やっぱりってなんだやっぱりって。
この人も何度もダークドラゴネスとやりあってるから何となく分かっちゃうんだろうなぁ……イヤだなぁ……。
♢
「よう、烏」
「なんか用?、お爺ちゃん」
「用がなけりゃ孫に会いに来ちゃいかんのか?」
夜、部屋でのんびりしてたとき、ノックもなしにお爺ちゃんが入ってきた。
お爺ちゃんは意外と若く、まだ60歳。白髪混ざりのちょび髭で、仕事部下からは「ダンディーな人」として人気があるらしい。僕からするとただの孫煩悩のお爺ちゃんなんだけど。
よっこらせ、と僕の向かいに座るお爺ちゃん。
「爺ちゃんな…再婚するかもしれん」
「?!?!」
「嘘に決まってるだろバカ」
座って早々爆弾ジョークをかましてきたお爺ちゃんにイラっと来ながらも、要件を促す。
「いやホーリーナイトのスカートの中がどんなんになってるのか気になってな」
「ショートパンツに決まってるだろ!」
今度は冗談ではないらしい。真剣な眼差しで聞いてきた。
「なんだ、パンツじゃないのか。」
「男孫のパンツみて嬉しいのかてめーは!」
げんなりしながらも、ホーリーナイトについて考える。
先日、魔法少女となってしまったホーリーナイト。今までの戦術経験が総崩れしてしまったものの、なんとかコツをつかみ、今の所うまく使いこなせてる。はず。
物理型が魔術型になってしまったが、これはこれで戦いやすい。遠隔攻撃が可能になったのは大きい。ただ、やはり軽くなってしまった武器は物足りなさを感じる。上層部に掛け合ってせめて大きな武器に変えてもらおうか。
「ところでだ、烏。仕事はどうだ?」
「ぼちぼち。ホーリーナイトが魔法少女になってやる気減った。」
「まぁそういうなよ、評価はビックリするほど伸びてるぜ。」
「評価は求めてない……」
ニヤニヤしながらお爺ちゃんが言う。
だが、その締まりのない顔もすぐ変わる。
「クライシスのことは聞いたか?」
先程の浮ついた空気はなく、真剣味を帯びた声色で僕に問うお爺ちゃん。
どうやら重要な話らしい。
「クライシスね、ケツァルコアトルスさんから聞いたよ。
どうしてヴァイスはクライシスを傘下にしたの?」
「同じだからさ。」
同じ。ヴァイスとクライシスの目的が同じ、という意味だろう。
ヒーロー機関ではヴァイスやクライシスの目的を掴めていないが、その目的は至極単純なもの。
「必要悪」。正義が活躍するための土台。
平和ボケしないためのマッチポンプ。
アンノウンが減った今、「悪の組織」というのは世界にとっての大きな障害。しかし、悪の組織は常に動くわけではない。最近目立つ「サクリファイス」だって、最後に動いたのも去年の話。半年以上なりを潜めている。
その間、ヒーローの気を抜かせない為の、必要悪。
「儂らヴァイスは」
お爺ちゃんが言う。ヴァイス。お爺ちゃんが束ねる組織。ヴァイスは詳細がほとんど分かっていない、世間にはミステリアスな組織として広く認識されている。
「ヒーローが平和ボケしない為の必要悪だ。
所々札付きのアンフェアを配置し、悪事を働かせてるが……」
「なんか問題あるの?」
「ありまくりすぎる。まず、内容がなさすぎる。」
自分で言うのもなんだがな。と続けるお爺ちゃん。
「大きな目的が無いんだよな。だから最近は、「実はそんなに悪くない奴」なんて評価の付いた部下たちが増えてきてる。」
「あー、ドラゴネスもそんな評価付きかけてるな。」
「だろ?だから……」
うん?まさか……本当に悪事に走るつもりか?
「もっと奇をてらった様なことをしようと思う。
例えばお前みたいにヒーローの装備を性別転換させるとか」
だよね。お爺ちゃんから出てくる発想はそんなもんだよね。
でもいい案だ。ふふふ、僕と同じ苦しみを味わうがいい!