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俺がKPPKKKKKにKPPKKKKKKKKKKKと呼ばれる事になった全ての流れとその結果

 話を始める前にとりあえず名乗ろう。

 俺の名前は『幸田和正』だ。

 別に覚えなくていい。


 俺はディアボロスオンラインというネットゲームにハマっていた。

 どれくらいハマってたかというと、通っていた高校にも行かなくなる程。


 何故ハマってたかというと、この世界は殺伐としていたからだ。

 リアルでは手に入らないその感覚。それを求めてのめり込んだ。


 殺伐としていた理由だが、このゲームにはPKというものがある。

 プレイヤーキラーを略してPKと言うんだ。

 殺せばPKポイント、略してPKPが貰える。

 このPKPを溜めていくと、キャラクターが強化されたりする。

 100万貯めると、ゲームシステムに口出しができる『キーパー』という存在になれるらしい。

 他のネトゲーだと『ゲームマスター』とか言ったりするやつ。


 話を戻すと、キルしたら相手が持っていたアイテムをも奪える。


 つまりこれは略奪が許可されたゲームだったんだ。

 リアルでやったら捕まるだろ。

 でもスリルはリアルなんだ。

 だからハマった。




 ある日、気持ちよく俺がPKをしていると、白ネームの集団に囲まれた。

 白ネームとは一定以上PKを『していない』者を指す。

 ある一定以上の数のプレイヤーをキルすると名前表示が赤くなるんだ。


 集団相手に1人で敵うわけないよな。

 もちろん殺された。白ネームだからと油断していたのもある。

 俺にトドメを刺した奴はPKKという名前だった。


 そこで俺は晒しスレを見に行った。

 知ってるだろ晒しスレくらい。

 困ったプレイヤーを晒し上げる掲示板だ。

 俺をキルしやがったプレイヤー名を検索してみると。


「なんだこりゃ」


 プレイヤー名『PKK』

 PKKギルド設立中!PKを排除して明るく楽しいディアボロスライフを!

 

 そんな書き込みが目に入った。

 ここは晒しスレだぞ。宣伝禁止だ。禁止事項は悪だ。


 何クソみたいな事言ってるんだコイツは。PKは俺の全てだぞ。

 それに禁止もされていない。許可されてるんだ。


 何より、PKを殺した時点で正義でも何でもない。それもPKだからだ。

 同列だ。身内を殺された人が殺人犯を殺したらそいつも殺人犯だ。


 物の道理がわからない奴がいるもんだと、その時は軽く考えていた。




 このPKKギルド。

 『正義』と言う名の元に堂々と行えるPKに人は集った。


 PKPも溜まるのだ。PKPを多く持つPKをPKKすればPKPが多く入る。




 ……何言ってるかわからないって?

 ここからもっとわかんなくなるから我慢してくれ。


 俺はそのPKKギルドに腹が立った。あと名前にも腹が立った。

 俺のプレイヤーネームは『KK』

 イニシャルだ。


 名前がかぶってんだよ。


 ディアボロス愚痴スレを覗くと、PKKギルドへの怒りを募らせたPKプレイヤーの書き込みが目立った。

 そこで俺は思いついた。




 プレイヤー名『KK』

 PKKKギルド設立中!PKKを排除し殺伐としたDBOを取り戻そう!


 DBOとはディアボロスオンラインの略称だ。


 程なくしてそこそこに賛同者は集まった。


 この賛同者は曲者ばかりでキルできればなんでもいいという人も多かった。

 腕があるのに囲んでキルするのがつまらない、という意見でPKKギルドから流れてくる人も居た。


 奴らは常に集団で動くわけではない。

 PKKギルドの者が1人生産活動を行っているところを、同じくPKKKギルドの者が1人でそっと近寄ってキルする。

 スカイプで連絡を取り合うというのも成功した要因だ。


 集団で囲んで殴るわけでもないので、逃がしてしまう事もある。

 しかしそこは腕次第だ。それがPKKKギルド員には受けた。


 仕返しは成功した。そこそこ殺伐とした世界が戻ってきたのだ。

 しかしそれも長くは続かなかった。




「なんだこりゃ」


 プレイヤー名『PKKKKK』

『PKKKKキングダム建国のお知らせ』

 我々PKKギルドはPKKKギルドによる迫害を受けています。

 そこでPKKKをキリングするための国を作ろうと思います。

 国名は『PKKKKK』となります。

 何卒よろしくお願いします。


「バカじゃねーの」


 バカだ。本物のバカだ。

 向こうもただ喧嘩をしたいだけになってるんじゃないか。

 もう相手はしてやらん。そこそこ殺伐としたDBOは戻ってきてるんだ。


 ……そう思っていたんだが。




『KK killd by PKKKKK』


「またお前かよクソがッ!」


 粘着をされたのだ。PKKKKKの者に。

 粘着とは、同じ人間に常に張り付いて攻撃をし続ける事である。


「ゲームになんねえよ」


 コントローラーを投げ、掲示板を開く。

 しばらく時間置いたらゲーム内も静かになってんだろ。

 そう思い開いた晒しスレの様子は、いつもと違った。




 KKは雑魚

 弱すぎて話になんねーwww

 リスキル祭り開催中

 もう諦めちゃったのかな?おねむの時間でちゅか?^^

 ネームカラーと同じで顔真っ赤wwww顔面レッドドラゴンwwww




 PKKKKKギルドの者による煽りだ。

 何が正義だ。

 もはやPKKKKKにPKKの元々の思想などない。

 PKKK対PKKKKKという、二つの悪意がぶつかる構図となったのだ。


 もう許さん。

 売られた喧嘩は買わねばならない。

 元々俺は殺伐としたのが好きだったんだ。


 そこで俺は同士たちと協力して、国を作り上げた。


『PKKKKKキルキングダム建国のお知らせ』


 国名は『PKKKKKKK』

 粘着されていたからログインもままならなかったのでプレイヤーも新しく作り直した。

 名前はKKKにした。


 スカイプで話す時俺だけ声が若いから少年と呼ばれていた。

 俺はその呼ばれ方が嫌いじゃなかった。だからキッドKK。




 KKKを作ってから意欲的に、貪欲にキルを取るようになった。

 俺はPKが好きだったから。原点に戻ったのだ。

 腕も上がった。3人くらいなら赤ネームに囲まれても全員キルできる。

 そしてPKPは貯まっていった。

 PKKKKKに対してPKKKKKKKは戦争を起こした。

 勿論勝った。戦争中にPKKもPKKKKKも、KKKでPKした。




 そんなある日。

 白ネームをPKして遊んでいた時に、ふとPKPを見てみると。


『1,000,016 PKP』


 溜まっていた。KPになるのに必要なPKPが。

 ゲーム内で、プレイヤーから生まれた初めてのKP。

 それに自分がなれるというのだ。


 感動していた。成し遂げたという気持ちでいっぱいになっていた。

 もちろん即、キーパーになる権限を購入した。




 エンディングのようなものが画面に流れた。

 ネットゲームにもエンディングなんてあるんだな、と思った。


 考えてみれば、この画面に到達できたのは俺一人だ。

 俺一人のために作られた映像なのだ。


 感動で涙が止まらなかった。

 ポリゴンでガクガクのCGだったけど。

 俺にはどんな景色より美しく見えた。

 学校も、やめてよかった。

 俺はこれを見る為に、生きていたんだ。


 エンディングが終わる。


 ロードが挟まる。


 暗転が明けて、どこかの部屋に現れた。


 ここはどこだ?スタッフルーム的なところか?

 と思っていると、見知った顔が現れた。


「やあ。やっぱり君か」

「KPだったのかよ……」


 俺は画面の前でがっくり顔を落とし机を頭で打った。

 そこに居たのは、PKKKKK。

 PKKKKKギルドができた頃から俺を粘着して殺してきたやつだ。


「何でキーパーが粘着してきたんだよ」

「警察みたいなもんだよ。君みたいな最強プレイヤーがずっと暴れてたら」



『ゲームにならないだろ?』



 俺は衝撃を受けた。

 俺が思っていた事は、プレイヤー皆が思っていた事と同じだったのだ。

 俺が殺すだけで、持っていたアイテムは全部俺に奪われる。

 また一から素材集めだ。

 途中、また強いキャラに殺される。

 ゲームにならない。


「理不尽でない程度の介入によるバランス取りは必要だったんだ、まぁ途中から僕らの手に負えないほど上達しちゃったからどうしようもなかったんだけど」

「そうか……」

「でも君は成し遂げたんだ。この世界の、PKの流れを作ったのは君だ」


 そうだ。俺がPKKKを作らなければこんな展開にはならなかった。


「誇っていいと思う。KPのみんなも祝福しているよ」


 あたりを見回すと、拍手エモーションを連打してくれているKP達の姿。

 よく見知った開発スタッフの名前もあった。


 そして。


「そして、これからは君も僕らの仲間だ。DBOをよくしていく為に」

『協力してくれるかい?』


 そう言われるのだった。






 それからなんやかやあって俺は開発スタッフの一人となる。

 高校もやめちまったし、DBOは燃え尽きてしまった。

 だから社員の人に誘われた時、アルバイトとして働く事を了承したんだ。


 KPとしてログインしている時も、時々声をかけられる。


『戻ってこないんですか?』

『また一緒に戦いましょう』

『逃げんなよw』


 俺はもう一時代を作った、引退の時だ。

 ただ時々出てくる手に負えないプレイヤーを粛清するのは俺の仕事だ。


『MAGI killd by KPPKKKKKKKKKKK』


「んだよこのふざけた名前!」


『KURAUDO killd by KPPKKKKKKKKKKK』


「またキーパーかよ……」


『ONSENBABAA killd by KPPKKKKKKKKKKK』


「強すぎるだろ……」


 そう、俺はPKKKKKみたいにキーパーである事を隠したりしない。

 正々堂々名乗って、正々堂々仕事をする。

 技術開発にも携わり始めた。俺はまだまだDBOでやる事がある。


 そうそう、このクソ長い名前、PKKKKKに付けられたんだけどさ。

 履歴書送った時言われたんだわ。


「君はキーパーである、プレイヤーキラーキラーキラーキリングキングダムキルキングダムズキング、キッドコウダカズマサなんだろ?じゃあ……」


 KPPKKKKKKKKKKKだ、ってさ。

 正直長すぎるし、初見の相手だとなんて呼んだらいいかわかんねえ。

 次新たな名前を名乗る事があれば、その時はカッコつけてKKなんて名乗らずに、KOUDAとかKIIPAAって名乗ろうと思うんだ。



 読めないより読める方がいいもんな。

 CLOUDは読めない人居るだろうが、KURAUDOならみんな読めるだろ?

 そう思いながら、今回粛清するギルドの名前と構成員を確認する。


「KPPKKPPK、KPPPPPPP、PKKPKPPK……」


 視界に入るプレイヤー名を確認する。


「PKKKPPKPPP、PPPPPPPKPP、KKKKKKKKKK……」


 俺は本当に、適当に名前を名乗って適当に名づけるのはやめようと思った。




 -終わり-

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― 新着の感想 ―
[一言] テンポの良い文で読みやすかったです。 最後の方はKやPの羅列で、何がなんだか分からなくなりましたが、没頭させてもらいました。
[良い点] ゲーム内で負の連鎖が起こるとは、面白い発想だと思います。 虚無太郎さんらしい作品だと思いました。 (良い意味でですよ) [一言] これが短編で良かったと思います。 連載だったら……カオ…
2016/04/09 11:10 退会済み
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