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【君の歌】
カーテンの隙間から差し込む陽光。
朝の訪れに気怠い体を起こす。
隣りに君の姿は無く、代わりに軽やかな歌声がキッチンから聞こえる。
やがて香ばしいトーストの香り。
僕は『おはよう』の言葉を携えて君の元へ。
君は振り向くと優しく微笑んで挨拶を返す。
そして再び口ずさむ歌。
懐かしさを感じる英詩のリズム。
『その歌は?』
僕はその言葉を掛けるのをやめて君の歌を聴く。
君は出来上がったサニーサイドをテーブルに並べる。
僕はそれに合わせてコーヒーをおとす。
サイフォンの中の水がクツクツと音をたてる。
紅茶が好きな君にはアールグレイを。
テーブルを照らす朝日の上に並べられた朝食。
僕達は席に着いて神様にお祈りを捧げた。
美味しそうに紅茶を飲んでくれる君に僕は問掛ける。
「さっきの歌は?」
君は小首を傾げて少し考えてから答えた。
「ママが好きだった歌なの。タイトルも知らずに覚えたわ」
そしてまた優しく微笑んだ。
いつか僕達の子供も君の歌を覚えるのかな?