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【万U引力の法則】
秋の入口にさしかかった夏の終わり。
穏やかな木漏れ日の中に僕らは座っていた。
アールグレイの香りを楽しみながら読むシェリーの詩集。
彼女は隣でワーズワースを開いている。
「もう!」
長い髪を掃いながら不意に彼女が癇癪。
「どうしたんだい?」
本を読む手を止めて尋ねる僕。
「風に舞った枯れ葉が私の髪に纏わり付くのよ」
恨めしげに見上げた枝からまた数枚の落ち葉がひらり。
僕は彼女の髪から一枚の葉を取り詩集の栞にして彼女に言った。
「キミの引力が葉を呼ぶんだね」
「私に引力があるの?」
目を丸くして聞き返す。
「あるさ。質量を持つ全ての物質には引力があるんだよ」
いつか読んだNewtonに書いてあった。
「でも、私は木の葉に引き寄せられないわよ」
「それはね、木の葉の質量が小さいから引力も小さいせいさ」
ふ~ん。
そんな雰囲気の表情。
「だから最終的にみんなこの大地に居るのさ。大きな地球に引き寄せられているんだ」
僕がそう言葉を続けると突然彼女が頭を僕の肩に乗せた。
僕が不思議そうな顔をすると
「貴方の存在が地球より大きいの」
クスクスと悪戯っぽく笑いながらそう言った。