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ルキスの剣  作者: 夜津
第四章 世界の行方
95/131

87 和

 その藍色が酷く懐かしくて、俺は思わず笑ってしまった。


 ニコラが一瞬怪訝な顔をしたけど、俺が笑ったのを見てまたニコラも笑う。俺が次の言葉を探してる間に、そっとニコラが俺の体を離して後ろに引いた。


 「話したいことは山ほどある。が、今は休んでくれ。…俺がこいつの相手をする」

 「けど、そいつは…」

 「分かっている。……シルヴェスタ、ステイトを頼んだ」


 ニコラはもう俺を振り返らない。大剣を構えなおし、まだ呆然としているアルバートと対峙する。…でも、そいつとケリをつけなきゃいけないのはお前じゃなくて、俺なのに…。

……って、さっきニコラ何て言った?…シル?


 それってどういうこと、と思った瞬間今度は後ろから手が伸びてきた!そのまま手が俺の両耳をギギギーッと引っ張る!いってててて!


 「い、痛いって!」

 「遊びに来てくれるってステイト言ったよね?僕、待ってたんだよ?」

 「あだだだだ!」


 透き通るような声は、前に聞いた時よりもまた大人びた気がする。け、けどお怒りだ…!両耳を引っ張る手が離されたのと同時に振り返ると、後ろには……シル!

うっわすっごい久しぶりな気がする!けど何でシルがここに、というかニコラも!やっぱ夢じゃねーのか、と目をごしごししてるとシルから笑い声が上がった。


 「…全く!やっぱりステイトって憎めないや。…久しぶりだね、ステイト」

 「……シルだーっ!お、俺もいろいろあって全然連絡できなくて本当ごめんな…!」

 

 さらさらの赤い髪、その髪と同じ色の目、俺よりもちょっと背が高くて癒し系な王子様…!いよいよ現実だと受け止めた俺に、シルが懐かしいほわほわした笑顔で返してくれる。


 「僕も事情、聞いたんだ。…本当に、色々あったみたいだね」

 「あ、あぁ…。…けど、こんなところでまた会えるなんて。…一体何が…」

 「その話は後。ひとまずここはニコラさんに任せておこう?」


 入ってきた入り口パネルの傍までシルが俺を引っ張って行く。わ、分からないことばかりだ…。どうしてシルとニコラがここに?そうだ、アルバートの野郎も…。

慌ててニコラたちの方を向くと、ニコラがアルバートの折れたサーベルを部屋の隅に蹴っ飛ばすところだった。カツン、と虚しい音がした後、ニコラが剣の構えを解かないままアルバートを睨む。

アルバートも状況が整理できたのか、飛び退ってニコラと距離を置く。ほぅ、としゃがれた声が聞こえた。


 「…クソガキ、てめぇにこんな知り合いができていたとはな」

 

 …ゾッとするほど冷たい視線だ。アルバートは目の前にいるニコラじゃなくて俺を見ている。けど、ニコラがスッと横に動いて俺とアルバートの間に立った。…やっぱりあいつの背中は、でかいんだな。


 「数年前、王都を騒がせた盗賊団一味。そのカシラはお前だな、アルバート・イグジー」

 「…その鎧、王都の能無し騎士だな。だが…何故ここにいる?」

 「お前が聖剣盗難の犯人だということは既に分かっている。…聖剣を取り戻しに来て何が悪い」


 ジャキ、とニコラの魔剣が音を立てるとまた闇の靄を吐き出し始めた。並の人間じゃ振り回すのも大変な大きさの剣は、今はもうしっかりニコラの手に馴染んでいるようだ。

ちょっと見ない間に、こんなに頼もしく見えるようになるなんて。俺も弱気になったもんだな…、それとも一度離れてみないと分からないようなことだったんだろうか。


 きっともうアルバートのことは、エリネヴィステさんの占いやアストックの発明した便利道具によって突き止められてるんだろう。もしかしたら、ニコラとシルはジギスさんやエリネヴィステさんの指示で、ここに送り込まれたのかもしれない。

じゃあ最初からアルバートのことは頭にあったはずだ。情報が僅かでも残ってたなら、アルバートが俺のいた盗賊団の頭だったこともバレてるだろう。


 聖剣盗難の犯人だってことならただじゃ済まない。…ニコラはアルバートをどうするつもりなんだろう…。


 「騎士よ、残念だったな。既に聖剣はその力のほとんどを使い果たし、魔の力に対抗して塔へと姿を変えた。これを元に戻す術は我ら魔族にも不明だ。…が、破壊することはできる」

 「塔ごとぶっ壊して聖剣を消し去るつもりか」

 「…聖剣には核がある。その核を壊すことができればそれでいい。しかしその核はこの塔の恐らく最上部にある。…まだ最上部への辿り着き方が分からない今、貴様らは邪魔だ」

 「なるほど、な。早いもん勝ちってわけだな」


 見た感じ、ニコラは緊張している様子もない。いつも通り、剣を構えているだけ。アルバートもサーベルを破壊されたとはいえ、魔族なんだから強力な魔法を隠し持ってるはずだ。二人とも、冷静に向き合っている。

ちら、と隣のシルを見ると、シルもニコラたちがどうなるかを見守ってる。けどシルの手にも武器である杖が握られていたから、いざというときは戦闘に加わるつもりなんだ…。


 俺の短剣には、さっきついた傷がいくつもある。地面に突き刺した短剣はすっかり刃こぼれして使い物にならない。…それに今、俺はまだアルバートからの恐怖を振り払えないでいる。こんな状態ではリウもラエアも不安定で使えないよな…。


 いざというときにはいつも誰かに任せちまう。覚悟を決めても、最後には誰かに守られちまう。…あの大きな背に、俺の事情を全部押し付けてしまう。

目の前の睨み合いから俺はそっと視線を外した。誰もが戦う覚悟を持ってるのに。誰もが信念を持ってるのに俺だけ場違いだ。…結局アルバートを前にしたら、足も手も震えて…。


 情けない、って言葉がずしんと胸に落ちた直後、それを吹き飛ばすほどの力強い声が聞こえた。


 「だが勘違いするな。聖剣を取り戻すのはもちろんだが、俺にはもう一つ使命がある」

 「…ほぅ?」


 思わずその声に顔を上げると、ニコラの姿が一瞬ブレた。…いや、ニコラが動いた!大剣を横なぎに、アルバートに攻撃を始める!


 「放っておくとすぐにどっかへ消えやがるバカガキを迎えに来た!てめぇには随分、俺たちのバカガキが世話になったみたいだからな!」

 

 アルバートは冷静に魔剣の一撃を避ける。それこそが狙いだ、と魔剣から闇の魔力を帯びた衝撃波が放たれる!目にも留まらない追撃を、アルバートは自分の魔法を展開させることで防御する。…手馴れてやがる…!

黄緑色の光を放つ魔法陣がニコラの衝撃波をかき消す。あの魔法陣の色…、アルバートは…風属性の魔族なのか?アルバートは防いだ次の瞬間、その魔法陣をニコラに押し戻すように再び展開させた!カウンターか!


 まずい、直撃する…、なんて思った俺はまだ未熟だ。ニコラは剣舞でも踊ってるような身のこなしで軽くカウンター魔法を避け、また大剣をアルバートに叩きつけようと地を蹴った!

いつも思うけど、ニコラには弱点がない。パワータイプで重い攻撃と堅い防御ができるのに加え、持ち前の魔法の才!おまけに日々鍛えてるから動きにキレがあって素早い。避けるも叩くも守るも自由自在だ。

 アルバートもニコラを並の騎士ではないと認識したのか、魔法攻撃を次々と忙しく展開させる。数々の魔法陣が目まぐるしく現れては消え、ショーでも見ている気分になる。


 けれど、避け続けられることはない。ゴッと鈍い音が聞こえた瞬間、アルバートに深く大剣がめりこんでいた。…打撃!アルバートが壁へ吹き飛ばされる!それで終わるアルバートじゃない。吹き飛ばされながら…魔法陣を繰り出した!

げっ、めっちゃくちゃデカい魔法陣だ…と思った瞬間!ギラッと黄緑の光をきらめかせ、鋭い風の刃が噴き出てくる!…ニコラもさすがに避けきれないと悟ったのか、咄嗟に防御の姿勢をとるけど…間に合わない!


 棘だらけの壁にアルバートが激突するのと、風の刃を受けてニコラがうめき声を上げるのは同時だった。


 「ニコラさん!」

 「シルヴェスタ、来るな!…そこで、ステイトと待ってろ」

 

 風の渦が鎮まると、ニコラはゆらりと立ち上がる。……騎士の鎧が傷だらけになってる。布の部分は裂け、頬からもツ、と赤色が流れ出る。…血が……、鎧と鎧の間から、地面に流れ出てる…。

あのニコラが傷を受けてる。血を流してる。…どんな戦いでも余裕を見せていた、ニコラが。……なのに、まだ立ち向かっていくなんて。


 アルバートも棘の壁から体を引きはがし、ニコラが来るのを睨んでる。そうだ、魔族は人間に比べて脆いんだっけ。アルバートもさっきのが効いたらしく、少しよろめいている。

ニコラがアルバートに大剣の切っ先を突きつけた。その刃の先は…アルバートの喉。


 「魔族を人間の国の法律で裁くことはない。ならば、俺は俺の基準でお前を裁く」


 ぎり、とアルバートが歯ぎしりするのが聞こえた。…やっぱりアルバートにこれ以上の余力はないらしい。ニコラは…アルバートを殺すんだろうか。…俺は、どうしたらいいんだろう。この場の成り行きを見守ることしかできないのか?

それとも、今こそ俺が立ち上がって、俺自身で…アルバートを…。


 けれど、アルバートが不敵に笑ったのを見て俺はハッとした。…まさか、アルバートの野郎…。


 「…ふん。元より俺は盗賊。戦闘は得意ではない。俺はいつも自分の利のために物事を天秤にかけている」

 「何だ、突然」

 「ここで俺が聖剣にしがみつく利益を感じなくなった」


 ジジ、と音がする。…ニコラが怪訝な顔をしたとき、そこにいたアルバートの姿がグニャリと歪んだ!やっぱり…!


 「ニコラ!アルバートは逃げるつもりだぞ!」

 「っ、貴様!」

 「騎士、てめぇの実力は認めてもいい。が、俺とお前は身を置く場所が違いすぎる」


 アルバートが言い終えた瞬間、パァンッと歪が光を放って消滅する。…転移魔法、あの野郎は使えたのか。…魔王の命令で聖剣を盗み、破壊するつもりだったんだろうけど想像以上にニコラの与えたダメージがデカかったんだ。

アルバートはいつでも自分のために生きている奴だ。なら、ここで命令だとか栄誉だとかそういったプライドにこだわる奴じゃない。…魔王の命令を放棄してでも、自分が逃げる方を選びやがった…。


 ち、とニコラの舌打ちが聞こえる。シルも武器を手にいつ飛び出そうか、って表情だったけどようやくため息を一つついていた。…けど俺は複雑だった。アルバートは俺を殺すつもりでいる。そいつは今、どこかへ消えちまった。

果たして俺にアルバートを殺す力と決意があったのかと言われればもう俺にも分からなくなってる。…またどこかで会うことになれば、俺はアルバートをどうすればいいんだろう。


 …いや、考えるのは後だ。


 ニコラの方へ歩いて行ったシルを追ってついていく。魔剣を『空間』へ転送したニコラは、ぼろぼろになった鎧を剥がしながらため息をついた。


 「魔族と戦うのは骨が折れるな。恐ろしい魔力の圧を感じた」

 「ニコラさん大丈夫ですか?今、薬草を…」

 

 どす、と一度腰を下ろしたニコラにシルがカバンを漁って薬草を探す。…そうだ、ニコラ…怪我したんだ。…本当は俺が戦って受けるべき傷だ。

気付くと俺はニコラの傍に走り寄って、その手を掴んでいた。ニコラが一瞬驚いたように俺を見る。俺は首を横に振りながら、そっと手に力を込めた。


 「…全て癒せ、エスイル!」


 暖かな力の波が俺の体の中から溢れてくる。手を伝ってニコラへ流れていく癒しの力は、すぐにニコラの体の傷を癒していった。…今まで使ってきたエスイルの力よりも、何倍も力が増してる。これが『星』を吸収した力なんだな。

全て力が流れ終えた後に手を離すと、ニコラが口元をゆるめて俺の頭に手を伸ばした。ぽす、と置かれた手がちょっと重い。


 「助かった、ステイト。シルヴェスタもすまないな」

 「……ん」

 「いえ、僕のことも気にしないでください」


 シン、と静まり返る部屋。アルバートが去ったこの部屋で、もう脅威は存在しない。それでも心の中に墨が一滴落とされたような気分で、どうにも気持ちは晴れなかった。

さて、とニコラが俺の頭から手を離して呟いた。ちら、とシルを見たその藍の目が俺をまっすぐ見つめる。


 「おおよそ察してはいるだろうが、俺とシルヴェスタは王と大神官、その他数か国の代表の話し合いによって命令を受けた。聖剣が塔化した今、様子を見て来い。できるなら聖剣を取り戻して来い、と」


 それは察してたけど…。まだピンとこない俺を見て、ニコラの言葉の後をシルが続けた。


 「最小限の人数でってことだったから、僕とニコラさんが行くことになったんだ。エリネヴィステ様に近くまで転送してもらって。…けどびっくりしたな…、まさか塔の前に竜がいるなんて」

 「っ!!ちょ、ちょい待てその竜って、深緑色の大きな翼を持ってて目がキュルッとしてる奴だよな!?まさか…倒しちゃったとか…」

 「それがね。僕たちを見たその竜が、『すてーとノ匂イガスル』って言ってて。もしかしてステイトの知り合いの竜なのかなと思って説明したら、アッサリ通してくれたんだ」

 「よ、良かったー…」


 あ、危ない…。こんないかにもな塔の前に竜がいたら、絶対に塔を守るボスみたいなふうに思うよな。戦闘狂のニコラとシルが嬉々として倒しちゃってたら…と思ったけど杞憂だったみたいだ。ウィルもさすがに二人を相手にすれば苦しいだろう…。

と、俺が胸をなでおろすのを見てニコラがフゥゥ、と大きくため息をついた。シルがほわーっとした笑顔を気まずげに顔に乗せながら、小さく肩をすくめる。な、何だ?


 ニコラが顔を上げる。俺、構える。シルは苦笑いを浮かべたまま、俺たちの状況を見守っていた。…に、ニコラが…口を開く。


 「ステイト。何があったのか、一つも残らず教えてもらおうか」

 「…一つも?」

 「残らず、だ」


 …こ、これはちょっと面倒なことになりそうだ。背中に冷や汗がタラーッと流れていく…!俺あまり説明するの得意じゃないんだけど!それに、魔王に捕まってて、なんて言ったらどんなこと言われるか…。

うまいことぼかしつつフェイク入れつつ…と思ったけど。ニコラが片手にパンッと拳をぶつけながら待っていた。あ、コレ誤魔化しちゃダメな奴だ。助け舟は、とシルを見てもふるふると首を振られる。


 「ダメだよステイト。僕だって気になってるんだから…。…ね?」

 「わ、…分かったけど…、…はぁ」


 説明しなきゃいけないのは分かってたけど、今までのことをいちいち思い出すのも骨が折れるよな…。大きくため息をついた俺は、渋々俺が攫われた日のことから説明を始めた。

 

 ***


 「…魔王に捕まっていた、だと?」

 「おまけに…監禁!?」

 「今も追われている、と?」

 「飛竜と友達になって…雪原の竜に会って…!?」


 「…ハイ」


 なんだろう。ニコラさんめっちゃへこんでるんですけど。珍しく暗い顔で、魔王、魔王…と呟いてる。…俺があの時攫われたのは俺がうっかりしてたせいで、お前のせいじゃないってのに。

シルはシルで驚いたみたいだ。そりゃ俺でも驚く。聖セレネを目指して旅してたのとは違って、どうなるかもわからない偶然と偶然の大冒険を繰り広げてたんだからな…。


 説明し終えて疲れた俺はどてーん、と床に転がる。するとシルがうずうずした様子で俺の顔を覗き込んできた。


 「じゃあ塔の入り口にいたのはステイトの友達の竜で…。…おまけに氷の城へ大冒険かぁ…いいな…。僕なんてずっと元気でハチャメチャな弟たちのお世話だったのに…」

 「ルカだっけ。あともう一人の弟と…元気してんの?」

 「元気大爆発だよ。ルカなんて日に日に強くなるから僕でもヒヤヒヤしてるし。ステイトを倒すって意気込んでるんだ…。もう一人の弟フェリーチェも、強くなりたいって言って修行してるし…」


 冒険に出たい、って呟くシルは心からそう思ってるようだ。…確かに、シルとまた冒険したいな。いろんなところに行って…あ、そうだ。またシルを連れてロロターナに遊びに行くのも良さそうだ!

だったら尚更この聖剣問題と…ノイモントもなんとかしなきゃいけないわけなんだけど…。


 と、俺の顔を覗き込むのがもう一人増えた。生真面目真剣な表情のニコラさん。ばちーっと視線が数秒あった後、ニコラの言葉がぽつりと落ちる。


 「…何もされなかっただろうな?」

 「…な、何もって…どんな」

 「………はぁ」


 ニコラの呆れた表情とシルの微妙な笑顔が見えて狼狽えるのは俺だ。何もされなかったって…何もされてないよな?そりゃまぁ捕まってたけど、そういえばゾイって逃げようとした俺に罰を与えた以外には基本的に何もなかったよな。


 「むしろ…飯くれたり朝起こしてくれたり、寝れない時に寝かせてくれたり……あれ?ゾイってそんなに悪い奴じゃないのか?」

 「……」

 「ニコラさん目が死んでるよ…」


 …ど、どういうことかはよく分からないけど、とりあえず心配してくれたってことでいいのか…?呆れた様子で顔を見合わせる二人に俺はそっと手を合わせる。そうだよな、心配させたに決まってるよな。


 「…でも、ありがとな。まさかこんなところでまた会えるなんて俺も思ってなかったから、なんか嬉しいよ」

 「……それに尽きるな。…本当に、お前が無事でよかった」

 「僕も久しぶりにステイトに会えて良かった。…けど、エリネヴィステ様もステイトがここにいるとは言ってなかったのに…。…奇跡なのかな」


 つまり、俺達がここで会えたのは偶然だったのか。…いや、きっと偶然じゃないんだろう。ここに今、収束しようとしている。…聖剣が導いたのかもしれないな。

シルが赤い目を淡く輝かせて微笑む。ニコラも頭をガシガシと掻いた後、ため息をついて微笑んでみせた。…聖セレネを目指してた時以来のメンバーだ。やっぱ、懐かしい…!


 けど、いつまでもここでのんびりはしてられない。ニコラが立ち上がり、壊れた鎧をその辺に投げ捨てながら言った。


 「さっき、アルバート・イグジーはこの塔の最上部に聖剣の核があると言っていた。が、その上部へとたどり着く方法はまだ確認されてないようだな」

 「つまり、まだ僕たちで攻略しないといけないってことですね…」


 シルが杖を片手にくるんと回す。相変わらず優雅だよな、と見つめてるとシルが気付いてにこりと笑った。


 「ステイト、僕とニコラさんの心配はしなくていいからね!僕もルカの相手をしたり、ときどきニコラさんに戦ってもらったりしてたから。魔法もエリネヴィステ様やアストックさんに学んでおいたし。前の僕と同じだと思わないでね?」

 「え、また強くなってんのかよ…。…大丈夫だ、むしろ俺が足を引っ張りそうだなと思って、」


 アハハ、と笑った時。ふいにシルがニコラの方を見て目くばせした。…え、目くばせ?何が、と俺が目を見開いた…瞬間!


 ―――ギュンッ!


 「ッ、!?」


 シルが突然、軽く俺の方にステップを踏む!そのままシルの手にあった杖が俺の横腹目がけて振りぬかれた!反射でそれを避けた俺にシルが無表情で追撃をかます。どわわわわ、何だ何だ何だ!?

ヒュン、ヒュンッと振られるシルの杖はしなやかで素早い。何でいきなりシルが俺に攻撃を、なんて考えてるヒマもない!あんなの当たれば即倒れる!後ろへ、横へ、横へ、後ろへ…!


 俺がもっと頭が良ければこの時点で踏みとどまってシルの攻撃を受け止めていたかもしれない。けど、俺は実に単純だった。…俺が避けることで…アイツの間合いに誘い込まれてたってことに気づいたのはもう手遅れの時だった。


 シルの連撃が止まった、と思った直後、ビリリッと背中に感覚的な衝撃が走る!ヤベ、と思って振り返るとニコラが待ち構えていて…ウゲッ、魔剣!ニコラが俺に魔剣を振り下ろそうとしているところだった!

どうする、どうする!?下がればシルがいるだろ、このままだとニコラの魔剣がゴチーンだろ、ならば横に飛んで…て棘の壁か!上手いこと誘い込みやがって!うっわわわわ魔剣がッ!


 突然の2対1に俺が的確に動けるわけもなく。結局必死に必死に考えた俺が出した結論…それは!


 「許せニコラ!」

 「!?」


 ―――ドンッ!


 敢えてニコラの間合いに深く入り、…いや、それ以上に踏み込んで俺はニコラに抱きついた!……あの、これは戦術なんで…攻撃を避けるためには仕方なくだからで…!あぁぁ俺のプライドも安いもんだな…!

さぁ、どうなる!?俺はニコラに真正面から抱きついたまま息を止めた。…けど、待っても待っても攻撃は来ない。…あれ?セーフ?


 ……見上げると、ニコラが顔を赤くしたり青くしたりしていた。…なんだそのリアクション…。そっと首だけ振り返ると、シルが杖を持ったまま呆然として…プフッと噴き出す!まさか…お前ら!


 「何だよいきなり!死ぬかと思った!」

 「あははは!いや、僕達、もしステイトに会えたらどうする?って塔の入り口であの飛竜に会ってから話し合ってたんだ。突然攻撃を仕掛ければ実力が分かるんじゃないかって言ってたんだけど…まさかこんなことに」

 「やっぱりかハメやがって……って、ニコラも!その微妙なリアクション止めろよ気まずい!」


 慌ててニコラから離れると、ニコラはハッとしてから魔剣を気まずそうに空間に送り込んだ。ボソ、と珍しく歯切れ悪い様子でニコラが呟く。


 「敵にいきなり抱きつくバカがどこにいるんだ…俺でなければ死んでたぞ」

 「…お、お前だからいけるかなって思ったんだよ…戦術的に、だ!他意はないからな!」

 「……」

 「……」

 「あの、僕がいることも忘れないでね…?」


 …バカニコラ、俺がちょっと離れてる間におかしくなってないか…?気まずい。とっても気まずい…。シルの遠慮がちな声に俺とニコラもどう返していいか分からず、結局俺が歩き出すまで誰も動かなかった…。

……そ、そりゃ男に抱きついても何も嬉しかねーよ!?け、けど。……どうしてか、俺はニコラの顔をしばらく直視できなくなった。本当はもっと話したいこともあるってのに……シルとニコラの馬鹿!



 これからどんな顔してこの塔攻略すりゃいいんだよー……!

 

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