8 神子の少女
「…ハッ!?」
俺はつまったような声を上げてベッドから飛び起きた。額からつぅっと汗が流れる。服も汗ばんで気持ちわりぃ。
慌てて見回すと、もう窓から朝日が差し込んでいた。ユハの朝だ。
なんか、どっと体が重い。ふぅーと息を大きく吐いてみると少し楽になった。
俺はちゃんと、ガルデとメネさんの家の二階の部屋にいる。真っ暗闇じゃない…そうだ、あの夢。
すっげぇ変だったけど、俺はあれがただの夢には思えない。夢で時間の流れを見るなんておかしいけど、あれは過去か未来のどっちかだと思う。
そだ、シル。あいつ大丈夫か?いつも俺より早起きだから、もう起きてるんじゃ…。
…寝てる。しかも、夜からまったく体勢が変わってない。むしろすげぇよ、俺なんか寝てる間に180°大回転するなんてザラなのに。
でももう日が昇り始めてるし、起きるだろ。そう思ってると、部屋がノックされた。
「おはよう、二人とも。よく眠れたかしらー」
メネさんだ。シルがその声に気づき、「うーん…」と寝起きの声を漏らす。
俺はベッドを降りて部屋の扉を開けた。廊下ではメネさんが微笑んで、俺の寝癖ピンピコピンの頭を撫でる。
「すごい寝癖よ。下に鏡があるから見てくる?」
「おはようございます…いつもこんな感じなんで、あはは」
く、くすぐったい。俺の頭に触れる人は少ないぞ。アリシアの「よしよしー!」→ナデナデと、ニコラの「虫ついてんぞ」→バコッ「悪い、見間違いだった」この2パターン。
お、おのれニコラ…!最近のペンダントのことで、ちょっといいやつじゃね?とか思ってたけどやっぱてめぇはバカニコラだ…思い出したら腹立って目が覚めた。
そんな俺に気づかない様子で、メネさんは部屋の奥を覗いた。
「シル君も起きた?」
「あ、はい。おはようございますー」
俺が部屋を振り返ると、シルがもそもそっと起き上がってメネさんに頭を下げていた。ね、寝癖ができてない…。いいなー、さらっさらの髪。
メネさんが、うん、と笑顔でうなずき言った。
「じゃ、朝ごはんにしましょうか。もう用意できてるからおりてらっしゃい」
朝ごはんはナッツパンとベリージュース。特に、このジュースに使われてるベリー果実はこの辺でしかとれない特産品らしい。
けっこう酸っぱいから朝の目ざましにはぴったりだな。
ナッツパンをかじりながら、俺はメネさんに聞いた。
「ガルデは仕事ですか?」
「ああ、早起きして神子の屋敷に行ってるわ。もう聞いてるかもしれないけど、最近ユハの精霊の様子がおかしくて…。
双子の神子の子がいるんだけど、その子たちがなんとか巧くやってくれてたらいいのだけど…。
もうすぐしたら帰ってくると思うから、ちょっとゆっくりしててちょうだいね」
そうなのか。シルと俺は同時に頷き、ひとまず朝ごはんを終えてガルデの帰りを待つことにした。
俺たちが朝ごはんを終え、ほんの数分後にガルデが帰ってきた。二階で荷物を整頓していたら、ガルデが俺たちの借りている部屋にのしのしと入ってきた。
「ガルデ。おはようー」
「おはようございます」
「おう、坊主ども。もう朝飯は食ったな?」
「うん」
ガルデはそのでっかい体をぼすっと部屋のソファに座らせ、難しい顔をして頭をかいた。…やっぱ、何かあったのか?
「俺ぁ、さっき神子の屋敷に行ってきた。話していた精霊のことを聞くためにな。…だが、…」
「何かあったんですか…?」
言葉を濁し、黙り込むガルデにシルが表情を曇らせた。俺は一人で、どこか浮いて気持ちを持っていた。あの夢のことが気になる。
まさか、当たってたりするのか?
ガルデはふぅ、と大きく息をつき、重々しく口を開いた。
「それがな。今、町の皆には隠してるらしいんだが…かなりまずいことになっているようだ」
「…!」
「俺は先代の神子と仲が良かったから話を聞かせてもらえたんだが…。
あの水龍はとうとう自分の意識をなくし、暴走を始めたそうだ。まだユハの水源に影響を及ぼしていないのはいいが、もう抑えきれないらしい。
さらに悪いことに、神子の片割れが水龍に取り込まれ、祭壇のある聖湖の奥の洞窟から出てこれなくなったそうだ。
今のユハにこれ以上の暴走を止められる奴はいない。神子一族が必死に現状を食い止めているが、数日後に聖セレネから精霊術士がくるまで抑えられるかどうか…」
はぁ、と頭を抱えてガルデがため息をつく。…もしかして、さっきの洞窟の祭壇と、取り込まれた神子って…。
俺は恐る恐る、ガルデに聞いてみた。
「なぁ、もしかして…その取り込まれた片割れって、男の子のほうじゃないか?」
「その通りだ。もう誰かから話を聞いていたのか?」
ガルデが目を見開いて俺を見た。シルもびっくりして俺を見ている。話しといたほうがいいよな…。俺はあの夢の話をしておくことにした。
「信じられないかもしれねぇけど、俺、その場所を夢で見たんだ。男の子が祭壇みたいな場所の前で倒れてて、祭壇から青黒い光が出てた。
あと、神子の屋敷の小さな部屋で、女の子がうずくまってるのも…」
「…なんてことだ…。ステイト、お前の言うとおりの状況だ。何かの力がお前を夢で導いたのかもしれん」
「ステイト…大丈夫?」
シルが俺の顔を覗き込み、心配そうに見つめてきた。窓に反射して映った俺の顔は情けなくて、俺はそこから視線を逸らした。
重い沈黙が降りて、俺もどうしていいかわからなくなる。できるなら助けたいけど…俺にできることってあるのか?
そのとき、一階のほうからパリンと音が聞こえた。はっとガルデが顔色を変えて立ち上がり、すごい速さで部屋を飛び出していった。
俺とシルも顔を見合わせ、すぐ階段を駆け降りる。慌てて音のしたほうへ行くと、食事棚の前でメネさんが蹲っていた。
その足元には割れた皿。俺の立つ位置からはメネさんの背中しか見えなくて、表情は分からない。
「おいメネ!どうした!?」
「ご、ごめんなさい…。なんだか頭痛がひどくなって…おかしいの」
ガルデの声に振り返って笑みを見せたメネさんだけど、すごく顔色が悪い。朝食の時はこんなふうには見えなかった。
なんだ、何か起きたのか…?でも、ガルデがすぐに顔をしかめ、静かに言った。
「数日前から調子が悪かったんじゃねぇか?お前は水の魔法使いだ。このあたりの水の精霊に力が影響されているんだろう」
「…多分、そう。魔法を発動させてないのに、勝手に手から水がこぼれたりするの…」
メネさんは微笑んでいるけど、俺はそれを見てられなかった。
俺は魔力がないから魔法のことなんかちっともわからない。けど、人は皆魔力を持っててそれに守られてるのは知ってる。
当然、その魔力をつかさどる神や精霊が近くにいれば力は増すんだろう。でも、その精霊とかが暴走したら、きっと…。
ガルデがうつむいて震え、低い声で言った。
「メネ、安心しろ。俺が…力不足でも水龍を止めてやる。水龍を止めなきゃ、お前は…」
「…忘れないで、ガルデ。あなたも水の守護を強く受けている人間なのよ」
「構うものか。…悪いな、ステイト、シルヴェスタ。先に用ができた」
ガルデはメネさんを支えて寝室へ彼女を連れていこうとした。ガルデ、まさか一人で水龍を止めに行くつもりなのか!?
そんなの、ダメに決まってる。俺が、俺だって…
「僕が行きます。僕は火の守護を受けているので、水龍の影響は強く受けません」
「な、何を…」
「うるせぇガルデ。俺も行く。俺は自分の属性とか知らねぇけど、俺の今の魔力防御の高さ舐めんなよ」
し、シルに先越された!いや、関係ねぇ!つーかガルデ、てめぇの仕事は…!
「ガルデさんはメネさんの様子を見てあげてください。神子の屋敷さえ教えてもらえば、僕が」
「僕『たち』がだ、シル。置いてくな」
また先越された!ええい、関係ねぇっつってんだろ俺!シルの赤い目が俺を見て、強くうなずいた。なんか、あの穏やかな目が少し力強くなってた。
やっぱシルは優しくて頼もしいよ。誰かのために一生懸命になれて、心を動かしてあげる『いい』やつ。
立派な熱血王子様じゃねーか。俺、もし誰かに仕えることになったらシルに仕えようかな。…やめた。ガラじゃねーや。
ガルデは呆然としていた。けど、その腕に支えられているメネさんが首を横に振った。
「本当なら、もちろん止めるわ。だけど…無理をしないと誓ってくれるなら…。だって、あなたたちを止められる気がしないのよ」
「…!メネ……。…くそ…っ。…すまねぇ、坊主どもに任せちまうなんてよ…。神子の屋敷までの地図は貸してやる。
俺もメネが落ち着いたら絶対すぐに行く。くれぐれも、何の装備もなしに気持ちだけで水龍に突っ込んでいくんじゃねーぞ!
危ないと思ったら引き返せ!分かったな、俺はお前たちを殺すためにこのきれいな街に連れてきたんじゃないんだからな!」
「…当たり前だ!メネさん、しっかり休んでください!またミソ煮込み魚、食わしてくださいよ!今日中にカタつけてくるんで!」
「僕たちなら大丈夫ですから。平和なユハの町をゆっくり観光案内してくださいね」
俺は机の上に広げてあったユハの町の地図をひったくるように取って握りしめた。シルは武器を取りに二階に戻り、俺は家を飛び出す。
視界の端でメネさんが小さく泣いてるのが見えた。…あー、もう!さっさと水龍ぶっとばしてやる!
家の前に飛び出すと、朝の太陽が昇り切って朝露の残る草原と町を照らしていた。地図を広げ、すぐに神子の屋敷の位置を確認する。
いっちょ行くか!シル、さっさと降りて来…
―――スタッ
…うわっちょお!!?突然目の前に赤い何かがすごい速さで舞い降りてきた!何!?どっから!?
「…ステイト、どうしたの?」
「えっえっ!?あ、あれ!?お前、いや、二階にいたんじゃ…」
「玄関まで降りるの面倒で…慌てて二階から…」
えへへ…とばつが悪そうに頭をかき、「礼儀がなってなかったよね」と言うシルがいた。
に、ニンジャ!?これが噂に聞くニンジャか!?シル、お前…急ぐあまり二階の窓からご登場か!?そんなの俺ぐらいしかしないと思ってた…。
いや、俺でも躊躇うけど。足大丈夫か?着地の衝撃痛いぞ、あれ転げまわるし下手すりゃ死ぬし、いや、普通死ぬし!
ま、まぁそれはいいか。ひとまず、神子の屋敷へ走ろう。できるだけ早く、この状況をなんとかしなくちゃな…!
ユハの町の中心から大分離れたある一角に、人よりも少し高いくらいの壁に覆われた敷地が見えた。木の門があって、そこに二人の衛兵みたいな人がいる。
ここが神子の屋敷か。すっげぇ広いけど、壁に囲まれててよく見えない。でも十分広いこと、そして屋敷が馬鹿でかいことが分かる。
ちらっと見えるのは屋敷の建物。独特の黒い屋根、木と土の塗り壁、そして敷地内にあるのか、川の音。
門から離れた場所、道の端で俺とシルは辺りを窺がった。
「どうする?ちゃんと神子一族の人に話を聞くべきだよね」
「勝手に行ったらまずいだろ。…それに、神子のことが気になるし…もう一人、女の子の神子がいるはずだ」
「あ、そっか。できればその子に会いたいね」
「しっかし…俺たちみたいな見慣れない少年が、神子様に会いたいですなんて言って会わせてもらえんのか…?
町の人にも隠してるらしいし、ガルデの名前を出すべきか…。それか、こっそり入っちゃう?」
「ダメだよステイト。ちゃんと今回は正面から行かなきゃ」
やっぱダメですよねー。ね。見つかって『不審者だー!!』とかなったら後で困るし。どんな顔してガルデとメネさんに会えばいいんだよ。
さぁて、慣れない礼儀と、礼儀の塊シルを大いに使うか…と思って俺が気合い入れにこぶしと掌をパンッと合わせたとき。
「ふ、不審者ーっ!」
「ファッ!?」
―――ドガァッ!!
突然俺は強烈な背中への攻撃を受けた。だ、誰だ!?予想外の攻撃に俺は地面に伏す。木の門を見ると、…あれ?衛兵、何もなさそーにしてる…?
ぐるんと振り返ると、ぽかんとしたシルと、…あああぁ!
そこには、水色の髪を肩辺りで結った、強気そうな目をしている女の子がいた。って、この子!!
「お、お前!ユハの神子の!」
「声がデカいっ!!」
―――ヒュンッ
女の子が後ろ手に隠していた短刀を俺に振り回す。コワッ!何!?今の時代の女の子ってこんなにバイオレンス!?
でもさすがに刃物はおかしいだろ、と思った時。固まってたシルが鮮やかな動きで女の子の刃物を靴で蹴り落とし、踏んで押さえた。
「ねぇ、どんな事情があってかわからないけど、君みたいな女の子にこんな刃物は似合わないよ」
シルがそのままかがんで、女の子に目線を合わせて優しく微笑んだ。で、出た!王子様スマイル!案の定女の子、顔を赤くしたぞ!
「う、うるさいわね!家の前に知らないやつがいたら怒って当然でしょ!」
「なんで俺だけ攻撃されなきゃダメなんだよ」
ふんっと顔を背けてツーンとしてるのは、なんかムカッとくる。マセガキちゃんだな。でも…確かにこの子、夢の中で見た子だ。部屋でふさぎ込んでた…。
シルが俺と女の子の間に入ってきて、まぁまぁと制する。
「君、もしかしてユハの町の神子の子なの?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「…あんたたち、別の町から来たでしょ。見慣れないもの」
「うん。僕たちはフィリナから来て、聖セレネへ向かってるんだ。だけどここで水龍が暴走してるって聞いて、力になりたいと思って来たんだ」
優しく話すシルに、女の子が急にしおらしくなって黙った。じゃ、やっぱこの子が…。
女の子は少しの間黙っていた。けど、ちらっと屋敷の門前の衛兵を見てからまた俺たちに視線を戻し、静かに言った。
「…あたしはルマ。確かに、この町の神子。だけど…助けて。弟が、弟が…」
最後のほうは声が震えていた。気づいたら俺は、その子の頭を撫でてた。
「全部聞くから。んで、俺たちに全部任せてくれよ。な?」
その途端、女の子、ルマは声にならない泣き声を上げた。
ルマに連れられて、俺とシルは神子の屋敷の裏からまっすぐに続いている道を歩いていた。近くに人はいない。
砂の道のわきには川が流れ、ざぁざぁと音を立てて俺たちの進む方向へ平行に続いている。この先に、ユハの神聖な湖があるんだとか。
きっとあの夢で見た、滝壺のある岩場に囲まれたデカい湖だ。
歩きながら、ルマが沈んだ顔で俺たちに説明してくれた。
「あたしと弟のフゥは、一緒にずっと水龍のお兄ちゃん・リェンと遊んでたの。リェンはいつも優しくて、いろんなこと教えてくれた。
けど、数日前…。もうここに来ちゃダメだって言われたの。
フゥが午前、あたしが午後にいつもリェンと一緒にいたんだけど、ちょうどあたしとフゥが一緒にいるときにリェンがそう言って…。
リェンがなんでそんなこと言うのかわからなくて、ずっとそのあとも遊びに行った。
そしたら…リェンがだんだんあたしたちの言うこと聞いてくれなくなって…」
言葉に詰まるルマの頭を時々撫でながら、俺はその話を聞いて考えていた。
やっぱり俺にはどうも、あの聖剣が関わってるような気がして仕方ない。人と魔族のバランスが崩れておかしくなったんだ。
でも、もしそうならあちこちで暴走が起きてるんじゃ…。それ、かなりヤバいだろ…。
ルマが話を続けた。
「ある日、時間を過ぎてもフゥがリェンのいる洞窟から出てこなくなったの。あたしが洞窟に入ろうとしたら、見えない壁ができてて入れなくなって…。
でも、分かったの。…フゥが、危ないって。もう、リェンは遊んでくれたリェンじゃなくなっちゃったんだって…」
「…ルマ…」
「あたしも少し悩んだ。けど、やっぱりじっとしてられない。あたしが、神子の片割れであるあたしが!絶対にリェンを戻してフゥを助けるって…決めたの!」
ルマが歩くのをやめて、俺とシルを半ば睨むように見上げた。その目の光が意志の強さを映し、俺は歯を食いしばった。
ルマの覚悟は尋常じゃない。あんな短刀を持ち出してまで、弟と精霊…きっとルマにとっては家族同然の、水龍を助けたいんだ。
俺がなんとかして言葉を紡ごうとしたとき、凛としたシルの声が川の音よりも強く響いた。
「僕が、僕たちが助けてあげよう。絶対に、リェンさんのこともフゥくんのことも」
「…うん!」
「…あたりめーだ」
俺はそう言いながら、…不安に揺れてた。気持ちとしては、もう何があってもこの問題を解決するつもりだ。
けど、どうやって?暴走した水龍をどうやって止めればいい?精霊と戦うなんて…正直、無茶だ。
突然俺は現実感に苛まれた。強い意志を感じるほどに、俺はだんだん不安になってくる。ああ、このっ…ちくしょう。
勝率はない。でも戦わないで勝てるのか?どうしたらいいんだ?俺が弱気になってる場合じゃねーのに…。
俺の様子を感じたのか、ルマとシルが俺を見つめていた。その目をまともに見れなくなって、俺は地面を向く。
すると、シルが俺の肩に手を伸ばし、ぽんと置いた。
「ねぇ、ステイト。不安なのは僕も一緒だよ。火は水より弱いからね。僕もまともに戦うなんて考えてないよ」
「…じゃあ、どうする?」
「それを知ってるのがルマちゃんだよ。ね?仲間外れはダメだよね」
…あ。そっか。ルマは神子だ。何の考えもなく、屋敷をわざわざお供もつけずに飛び出してきたんじゃないんだ。
ルマがふぅっと息を吐いて、俺に呆れたように言った。
「何?あんな大口叩いといてビビったわけ?あたしだって、ちゃんと調べてきたんだから。
難しい字を読んで、倉庫から道具引っ張り出して。もう一人の神子まで失うわけにはいかないー、なんて言う目付ぶっとばして来たのよ。
ひっそり抜け出して来てんだから、感謝しなさい」
そう言いながら、ルマが纏う服の長い裾をいじる。すると、そこから小さな玉を取り出した。てのひらに収まる、青の玉。
それを俺に突き付け、得意そうに言った。
「これ、鎮静の玉。暴走した精霊の『核』に近づけたら暴走が収まるんだって。でも長い間人が触れてたら、人が意識をなくしちゃうの。
それはあたしも同じ。直接触れられるのは長くて5分」
「じゃあ、それを」
「そういうこと」
ルマが勝気な表情を俺に向けた。なんだよ、俺が勝手に一人で不安になってただけか。やること分かってんならいいや、あー恥ずかしくなってきた。
一人で考え込んで熱くなって、結果一人の空回りとか…あああ考えない考えない!俺のやること、決まったんだから!
「よしっ!じゃあその水龍とフゥがいる洞窟だな!行くぞー!」
「突然元気になったわねガキンチョ」
「お前のほうがガキだっつの!俺は17!」
「あたし13だけど年とか気にしないし。あんたは?」
「シルって呼んで。僕は16」
「えっ」
思わず俺がぽかんとした。シル、えっ、年下だっけ?あれ?そんなの聞いてたっけ?えっ。
「何よ、あんたが一番年上じゃないの!ガキンチョじゃないってんならしっかりしなさいよ!」
―――ゲシッ
「いってぇ!オイこらルマ!俺は女子供でも容赦しねぇからな!俺ばっかりに暴力振るんじゃねー!!」
「ムカつくなら捕まえてみなさいよバカガキンチョ!」
うわっ、さっきまでのしおらしさはどこいったんだアイツ!あっかんべをして走り去るルマを追いかけようと俺が足に力を入れ、ダッシュをかける。
おおおぉぉらぁぁあああっ!まてマセガキ!俺を怒らせた罪は重いぞぉぉぉっ!!
「…あはは。よかった、いつものステイトだ」
つぶやいて笑ったシルの声は、猛牛のごとく走り去った俺には届かなかった。
ゆるいファンタジーと言いながらシリアス一直線…。
もう少しシリアス展開が続きます;;