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ルキスの剣  作者: 夜津
第三章 魔と北の国へ
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81 作戦会議


 カフェを出てから、改めて落ち着いて話すために場所を探してた俺たちなんだけど…その場所がどうも決まらなかった。

図書館には今更のこのこと戻れないし、いつまでもカフェにいるわけにもいかない。広場で話すには落ち着かないし、またさっきみたいにヤな感じの学生に絡まれても困る。

ザハーロの寮は部外者は立ち入り禁止だから俺が行けないし…というわけで。


 結局、今夜俺が泊まっていく宿で改めて話すことになりました。…まぁ、数日は帝都に留まらなきゃいけないなと思ってたからちょうどいいよな。俺みたいな異国人でも普通に客として扱ってくれるマトモで安い宿をとったから安心だ。

荷物や資料を取りに学園の寮まで一旦戻って行ったザハーロがこっちに再び来るまで、俺は適当に部屋に備え付けてあった本棚を漁る。むー、何か面白いものはねぇかな…?


 こっちは…ネーディヤの歴史探求雑誌か。不思議な遺跡の絵が描いてある。ちょっと読んでみるか…え!?遺跡にうじゃうじゃアンデッドモンスター出るの!?何それ恐っ…!そういや俺、まだそういう系の魔物とは戦ってねぇな…。

ちょっと怖いからパタッとすぐに閉じて別の雑誌を漁る。ふーむ、こっちはオモシロ魔法を紹介する魔法学雑誌か。俺には関係ない世界だけど…へぇー…なんかいろんな魔法が書いてあるな。

 髪の色を自由自在に変える魔法とか、ネコミミが生える魔法とか、犬と会話できるようになる魔法とか。…魔法って…自由だな…。


 それにしてもザハーロ、遅いなぁ。寮まで戻るだけだから待っててくれって言われたけど、…まさか寮であのいじめっ子学生が待ち伏せしてたりして、絡まれてたりしてるんじゃないだろうな?

ザハーロの言い方じゃかなり酷い奴みたいだし…、無事に戻ってきてくれたらいいけどさ…。


 俺が雑誌を閉じて本棚に戻したとき、部屋の扉がコンコンとノックされて開く。あ…、ザハーロだ。質素な手持ち鞄を握ったザハーロが扉を開けていた。良かった、無事だったみたいだ。って、いちいち心配するのも変か?

よぉ、と俺が手を上げるとザハーロは小さく頷いてソファに座る。ソファの前の机に何冊か本を並べながら、ぽつりとザハーロが呟いた。


 「…ったく、あの野郎…」

 「どうしたんだ?」

 「…いや。さっき寮に戻ったら…メシャルキンが僕の部屋の前で待ち伏せていたんだ。お前のことを聞かれた。あいつは誰だ、って……答えなかったが」


 やっぱり待ち伏せられてたのかよ…。俺は苦い気持ちになってザハーロをそっと見た。ザハーロは俺の視線に気づき、ゆるゆると首を横に振る。


 「気にしないでくれ。いつもなんだ。教授たちにも気に入られて、魔法の成績もトップ、そして人脈も広い…それがメシャルキンだ。あの性格の悪さがなければ僕だって素直にすごいやつだと感心するだろう。 

  けれど、何かと僕に付きまとう。僕の邪魔をする。僕にいつも見せつける。他の奴にはそんなことしないくせに、僕にばかり嫌がらせをする。入学して最初のテストに僕が勝ってからずっと8年間…。

  きっと自分の気に入らない奴が苦しむ姿を見るのが好きなんだろう。呆れたやつだ」


 ザハーロは諦めているように、小声でぼそっと言った。…こんなことも誰にも言えなかったんだろうと思うと、俺は胸の奥が少し痛くなった。俺ならムカつく野郎には絶対やり返すけど、ザハーロは俺じゃない。黙って耐えてたんだ。

まだ会ってそんなに時間も経ってないけど、ザハーロが長年抱えてきたんだろう悩みを俺に見せてくれたことが少しだけ嬉しかった。俺はフン、と鼻を鳴らして腕を組んでみせる。


 「ほんっとヤな奴だな、アラム?だっけ。やり返してもいいと思うぜ?」

 「知力だけなら勝てるかもしれないが、魔法じゃ正直全く敵わない。僕は体力もないが、あいつは学校でも5本指に入る運動神経の良さだ。…顔も悪くないし、僕以外には人当たりもいいから人気もある。

  それに僕の称号は3位のミェーチ…それに対してあいつは2位のシリブロー。僕の学園は、1位から順に好き放題ができるからな…。1位の奴は本当にいい奴だと思うが、その次のメシャルキンは最悪だ。僕は逆らうこともできない」


 カバンからノートを何冊か取り出しながらザハーロは吐き捨てるように続けた。


 「…そんなに僕のことが気に入らないんだろうか。僕は全く関わらないようにしてきたのに」

 「うーん…あれじゃねーか?ちょっかいかけたのに反応もなく無視されたのがつまらなくて、とか」

 「ずっとだぞ。ある時は夜中に部屋に忍び込まれて、朝まで寝顔観察されて…。ある時は食事に変な薬を仕込まれてその日は丸一日記憶がない。イベントの魔法決闘大会ではかならず僕を対戦相手に指名してコテンパンにする。

  それで次はこれだ。…その…僕が…やっと話せる相手に会えたのに……、あいつはそれがまた気に入らないらしい。さっきもずっとしつこく聞かれた」

 「…素直に恐いな、アラム・メシャルキンとかいう学生さんは…」


 どんだけかまってちゃんなんだよ。けど、どうも俺は引っかかった。普通、嫌いな奴ならそこまでちょっかいかけないと思うんだけど。ほら、好意の反対は無関心って言うじゃん?

もしかしてそのアラムって、唯一自分の思い通りにならないイレギュラーな存在のザハーロに興味を持ってるだけなんじゃねぇかな…とはさすがに言えないから俺は首を横に振る。

 ザハーロはちょっと落ち着いたのか、弱弱しくなっていた口調をまた凛として堂々としたものに戻していた。


 「本当に、な。…だが、いつもとは様子が違っていたな。取り巻きも連れずに、真剣な顔で聞かれた。アイツは誰だ、何者だ、君とはどんな関係なんだ、とか…」

 「ほっとけよ。なんか、カノジョに浮気を疑うカレシみたいなこと言うんだな、アラムって」

 「…バカなこと言うな、バカステイト。鳥肌が立った」

 「バカって言うな」


 心底ぞっとしたのか、俺のビミョーな例え話にザハーロは思い切り顔をしかめた。とりあえず、ザハーロにとってアラム・メシャルキンはとても厄介な存在だと…それだけは覚えとこう。


 ザハーロが机の上に並べた本やノート、地図を眺める。地図はネーディヤ国内のもので、この帝都ヴィーシニャを示す印の北には確かに『ドゥラーク氷雪大地』の文字がある。それも、大陸の北沿岸部近くはは西から東までずーっと氷雪大地!

あと、帝都からまっすぐ北へ行ってちょっと東寄りの…つまり北の最果てには赤で×マークがつけられてる。手書きの文字は『氷の城ザミグラッツ』…ここがザミグラッツか!やっぱり遠そうだな…。


 地図を睨んで一人厳しい顔をしてると、ザハーロが自分のノートを何冊かめくりながら俺に声をかけてきた。


 「それで。氷の城へ本気で行くつもりなのか?」

 「当たり前だろ。ドラゴンの件はもう、今から考えることなんて何もないし。ドラゴンの機嫌が悪けりゃおしまいで、機嫌がいいなら普通に助かるかも。それか交渉ができるかもな。ドラゴンって人語を理解するどころか喋れるし…。

  問題は氷の城なんだよなぁ…。俺が知ってる情報では、氷の城の中には罠がたくさん仕掛けられてるらしいんだよ」


 俺の持ってる情報って言ってももうずーっと昔の情報だから信頼できるもんじゃねぇ。…そう、ハニの日記のこと!渓谷で見つけたハニの日記の続き、というかメモかな?あれに書いてあったことといえば…。


 『【ヤーヴァス】は北の大地の果てにある、氷の城ザミグラッツにある。ルキスたちとの冒険の中で、俺が城の罠を踏みまくった思い出の場所だ。すごく寒くて風邪引いたのも思い出だ』


 罠を踏みまくるのが思い出ってツラ…俺は同じ轍は踏まないからな…!というか天才盗賊とまで言われた俺が罠祭りにハマるほど間抜けなことはないだろ!

一人でそんなことを考えてたら表情がおかしくなってたのか、ザハーロが訝しげに見てくる。うわわわ気にすんなよ!なんでもないから!


 だが、とザハーロが首を傾げた。


 「情報は入っていないが、確実に氷雪大地にも氷の城にも魔物が湧いてるはずだ。ステイト、お前はトルメルだったな?いくら魔法が効かない体質だと言っても、それだけでは過酷な魔物との戦闘をやり過ごせないぞ」

 「見くびるなよ?俺はこれでも………た、大したことはしてねぇけど!けど魔物とは戦い慣れてるし!多少なら大丈夫だって!」

 「僕は得意魔法が植物だから、あまり強力な戦力にはなれないだろうしな…火魔法の扱いを勉強しておくべきだったな…」

 「…………ん?ちょい待って」


 任せとけ!ってドンと胸を叩いた俺に、あてにならないなと勝手に決めつけて唸るザハーロを俺は一瞬睨んだ。…けど、ちょい待ち?ストップをかけた俺を不思議そうにキツい灰の目が見つめた。


 「何か問題があるのか?」

 「…いや、……何でお前がついてくる前提なの?俺、ザハーロと一緒に行くなんて一言も…」

 「図書館で言ったことは嘘だったのか?僕を助けてくれるって言っていただろう」

 「言ったけどそんなつもりじゃなくてあくまで情報提供とかそういう面だと思ってたんだよ!」

 

 こ、こいつ当たり前のようにしれっと!俺は氷の城には一人で行くつもりなんだけど!?ザハーロに情報を教えてもらって、はいありがとう元気でなーって別れて、んで俺はいざ氷の城へ!って流れじゃないのかよ!?

けどザハーロは俺の返答なんてまーったく気にしてませんって感じでツンと顔を横に向けた。


 「まぁ、お前が何を言おうと僕もついて行く」

 「ちょい待て!お前学生だろ!?学校はどうすんだよ!?」

 「僕は最上級生だ。最上級生はその一年間を自由に研究するために使っていいことになっている。つまり僕の研究のためにも僕は氷の城に行かなければならない」

 「あのなぁ!お前体力ないんだろ、んでお金もないんだろ!?」

 「意思はある」


 んぐっ…この頑固学生!俺に巻き込まれて厄介事背負い込んでも知らねーぞ…!俺がなんとか説得しようと口を開いて立ち上がったとき、ザハーロはピシッと手を出して俺を制した。…、何だよ?

ザハーロはソファに座ってるから、立ち上がった俺を少し見上げる体勢になる。ギラッと光る灰色の目が、俺が出そうとしていた言葉を押さえつけて会話の主導権を掻っ攫ってく。


 「…この機会を逃すわけにいかないだろ。お前を見ていたら、本当になんとかなる気がしてきた」

 「……あー、もう分かった!分かったけど死んでも知らないからな!言っとくけど俺、メッチャ強いわけじゃないからな!あと魔族に追われてたりするから巻き込まれても文句言うなよ!」

 「魔族?何をやらかしたんだ?」

 「…魔王様に捕まってたんだけど逃げてきた。俺の体質上、俺を直接探知することはできないとは思うけど…ネーディヤには魔族が多いんだろ?だったらいつまた捕獲されるか分からないし…」

 「…恐ろしいな」


 ザハーロは俺の言葉に眉をピクッと動かすだけだったけど、それでも十分に驚いてるんだと思う。俺はぼやーっと頭の中にモザイクをかけながら魔王様を思い出す。うん…ほんと…また捕まったら今度こそゾイは容赦しないだろうし…。

それにノーリやシャムロック三兄弟、さらにシェンユゥまで俺を探してるかもしれないんだ。ノーリは加減してくれても任務はこなすだろうし、三兄弟のチビたちは絶対に手加減してくれない。

 そして、シェンユゥ。…俺は結局、シェンユゥを騙すように逃げてきた。せっかく心を開いてくれたシェンユゥの前から逃げたんだ。…絶対に絶対にぜーったいに怒ってるぞ…。フライパンで殴られたって文句言えない。


 シェンユゥの戦闘能力の高さを思い出してぶるっと震えてるとザハーロが低い声で静かに言った。


 「確かに、この国では魔族に逆らってはいけない。魔族には絶対服従。あとは役人や兵士たちにも逆らえばすぐ殺される。…シエゼ・ルキスとは違うだろう?」

 「まぁ、な。シエゼ・ルキスじゃ魔族はあまり見かけなかったし、役人や騎士もヤな奴がいたら訴えることができるし。兵士つまり騎士に逆らって殺されるんなら、俺はもう何回も同じ奴に殺されてることになるな」

 「…騎士が嫌いなのか?」

 「ムカつく野郎がたまたま騎士だっただけだ。…アラム・メシャルキンよりはかなり良心的だけど」

 

 シエゼ・ルキスの騎士は緩みすぎなところもあるからな…。普通の下っ端騎士をからかっても笑って返されるし、頭の固い上級騎士には無視されるだけだし。ニコラも…逆らっても一発殴られるだけで済むし。

そう思えばやっぱりシエゼ・ルキスは平和だよな。この帝国みたいにいつも何かに追われるような顔をして過ごさなきゃいけないわけじゃないんだから。


 っと、そんなこと思い出してたら話がそれちまったな。本題に戻さなきゃ。   

俺は比較的わかりやすくまとめてあるノートを手に取りながらザハーロに視線を送った。


 「ま、それはおいといて。本当に行くならどうするんだよ?道とか分かんの?食料とかどうなるんだ?」

 「道は………正直、全くわからない。ドゥラーク氷雪大地に行くにはずっと北上すればいいが、そこからは未踏の地だ。当然、踏み均された道なんてものはない。

  魔法道具として、強い魔力がある方へ針が動く魔力探知コンパスなんてものもあるが、どれほど信頼していいかは分からないな。……が、それが冒険と言うものだろう?」

 

 少しザハーロが挑戦的な目で俺を見て、口の端をきゅっと上げてみせる。ほっほーう、言うじゃねぇか!道なき道を行くのが冒険…!俺も一緒にニヤッとなっちまう。


 「それに、食料は空間転送・保存魔法で別の空間に保存ができる。必要になればそこから取り出せばいい。…生活に必須の初級魔法だと思うが…」

 「だから俺はトルメルだから魔法なんて初級でも入門編でも何もできないんだって。…つか、物を転送できるなら人も別の場所に転送できないのか?」

 「物を送るのは比較的簡単だ。しかし『命』を運ぶとなれば状況は大きく変わる。人間が持ち得る魔力じゃ、人間一人も転送できないさ。…まぁ、聖セレネの大神官ほどの魔力があるなら別だが」


 おぉっ、エリネヴィステさんだ。確かに俺が聖セレネに着いてシエゼ・ルキスに戻らなきゃいけなかったときは転送魔法で送ってもらったんだった…、魔法の常識ってものを知ると改めて大神官は凄いってことが理解できるな。

それに、と続きを語るザハーロは少し得意気で楽しそうだ。


 「魔族でも転送魔法が得意・苦手があるそうだ。魔力をたくさん持っていれば何でもできるというわけじゃない。魔法もたくさんのカテゴリーに分けられているからな。

  例えば、水泳は得意でも長距離走は苦手、球技が得意でも柔軟運動は苦手、というようなところか」

 「ふーん。じゃ、得意属性とかいうやつもそんな感じなのか?」

 「人間でも魔族でも、生まれつき神から与えられた『属性』がある。当然、自分の属性と同じ属性の魔法は使いやすいが、それに伴って苦手属性も出てくるというわけだ。

  だが、苦手属性は一概にコレとは言い切れない。同じ火属性の人間でも、水属性が苦手な者もいれば植物属性が苦手という者もいる」


 ふむふむ。火属性といえばシルだ。シルはあまり水属性は得意じゃないって言ってたよなぁ…つまりこのことなのか。ザハーロはふぅ、と息をつく。


 「僕は植物属性だが、火魔法はそんなに得意だとは言えない。だから、仮に氷雪大地に行けてもそこに生息する魔物には大してサポートができないかもしれない。奴ら、植物には強いだろうからな。

  そもそも植物魔法は攻撃にはあまり向かないんだ。状態異常を引き起こしたり、罠を作ったり、治癒魔法ほどではないが回復が望めたりするような…クセがある魔法が多い」

 「じゃ、俺がメインで戦うからザハーロは魔法で支援してくれ。俺は逆に近接戦闘スタイルだから、まず戦闘は俺に任せろ!」

 「頼む」


 ザハーロの表情が少し柔らかくなったのを見て俺はニコッと笑ってやった。うんうん、話し慣れてくるとだんだん棘のあるキツめの口調も気にならなくなってきたぜ。キツいんじゃなくて、ザハーロは単純に人付き合いが苦手なんだろうな。

俺も最初はどうなるかと思ってたけど、…案外こいつと旅してみるのも悪くないかも、という予感があった。

むしろ、ここは旅の先輩として、外にガンガン出て旅をする楽しさを教えてやりたいってぐらいだ!王都に引きこもってる学生生活なんて、俺にはやってられねぇや。


 さて、そんじゃまずは氷雪大地を目指せばいいのか。…で、問題の氷雪大地なんだけど。…あの図書館で読んだ絵本の内容をぼやぁっと思い出してみよう。

あれは魔法使いが登場して、吹雪の流れを風の魔法で変えて進んだってあったよな?


 俺の知り合いにも、風の魔法使いはいるわけで。しかも、いつでも呼んでくれ!と言われてるわけで。…ぜんっぜんお呼び出ししてなかったから今更助けを求めても断られるかもしれないけど、聞いてみる価値はある。

ちらっとザハーロを見ると、ザハーロは既にメモを取り出して、旅に必要なものをガサーッとリストアップする作業の真っ最中だった。けど俺の視線に気づいて顔を上げる。


 「何だ?」

 「いや、あのさ。氷雪大地の吹雪の件で、図書館にあったあの童話みたいに風の魔法で吹雪の流れを操れるかもしれない知り合いがいてさ」

 「…今まで国があそこへ送り込んだ調査隊の中に何人もの優秀な風の魔法使いがいたが、まったく歯が立たなかったらしいぞ?」

 「バームス砂漠出身の風の魔法使い、って自称する元気なはっちゃけ魔族の知り合いがいるんだよ。呼び出せるから呼び出してみようかなと思って」

 「魔族!?」


 ガタンッとザハーロが表情を凍らせて立ち上がるのを、俺は苦笑いで見つめる。そんな反応が来るとは思ってたけどね!ネーディヤ帝国の人間は魔族に頭が上がらないってことは、魔族を疎ましく思ってるのが普通じゃないかと思ったんだよな。

いやいやいや、と俺は手を振る。


 「ま、会ってみたら分かるからさ!そんなに悪い奴じゃないって!うるさいけど」

 「…しかし…」

 「なんなら今呼び出してみるか」


 これは説明するよりやってみる方が早そうだな。

 戸惑うザハーロを放置して荷物をがさがさと漁り、『風の魔法使いお呼び出しアイテム』を掘り出す。黒くて硬い木の笛を取り出し、部屋の窓をすぐに開けて思い切り俺は息を吹き込んだ!


 ―――ヒューオッ


 …へ、変な音が出た。ワイバーンのウィルを呼び出せる『竜笛』は音すらしないけど、この笛もなかなか個性的っつーか…そんな音どうやったら出るんだよ、って感じの鳥の鳴き声のような音が笛から飛び出る。

宿の窓の外は屋根が続く住宅街。この部屋は3階、他の建物より高い位置にある。路地を歩く人たちに聞こえたかな、と思ったけど今は誰の姿も道にはなかった。

じゃあ本当にこのマヌケな笛の音は、この笛の持ち主だった奴に届くのか?風が音を連れて行くって言っても、この大陸がどれだけ広いのか分かってんのか?


 俺は窓枠にもたれたまま空をじーっと見る。すっかり薄暗く曇った空に何かが見えないか、と目を凝らす。…背後でザハーロのため息が聞こえたあたりで、俺も空から視線を下ろし……。


 ――――――……


 ん?何か、聞こえなかったか?気のせいか、風の唸りか…と空をもう一度見上げた時だった。


 「スーテーイーシーアーー……ちゃぁぁぁああんっ!!」

 「うおわっ!!?」


 ヒュゥーンッと風を切る音が聞こえたかと思うと!窓から何かがドヒューンッと突進して来て俺に激突!いきなりぶつかってこられて視界に星がバチッと輝いたのと、窓の外から突進してきた奴にぎゅーっと抱きつかれたのは同時!


 「ステイシアちゃーんっ!久しぶり!そして…やぁーっとおいらを呼んでくれたね!おいら嬉しくて張り切って飛んできちゃったよーっ!」

 「シャハン久しぶりだけど苦しいからやめろお願い首閉まってるそこダメやめてやめてやめて」

 「…あっ!ゴッメンゴメン」


 ババッと体が離され、俺は改めて息をついた。床にどしーんとしりもちをつく俺の前でテヘペロッ☆としているのは…そう!シャハン!黄緑のバサバサ短髪に一周だけ白い布を巻きつけ、この寒い地域でも相変わらずの薄着!

ピカピカの金の目がキョロキョロと宿の部屋を見回し、ザハーロを見た。おぉっ、と声を上げたシャハンに対し、ザハーロは部屋の入り口でいつでも逃げられるようにドアノブに手をかけていた。…警戒してるなー。

けど厳しい表情のザハーロを全く気にしてないのか、シャハンは変わらない明るい口調で言った。


 「んんっ!?少年発見!誰、誰?ステイシアちゃんのお友達?」

 「まぁ、そんな感じ。…ザハーロ、紹介する。こいつが風の魔法使いのシャハン。んでシャハン、こっちの学生はザハーロってんだ。ネーディヤ民だからちょっと魔族が苦手みたいなんだけど…」

 「あー、そうなんだ?うんうん、分かる分かる!ネーディヤって、魔族が人間の上でエラソーにしてるからねぇ…。ヤなイメージ持っちゃうのは分かるよっ!けどおいら、そんなの気にしないから!人間も大好き!」


 ばばっ!と万歳してみせたシャハンは別にザハーロの機嫌をとってるわけでもなく、ただ持ち前の賑やかテンションなだけ。いきなり呼び出したのに怒るどころか全く普通の態度に拍子抜けしたのは俺だった。

ザハーロは困ったように俺とシャハンを交互に見た。言いたいことはあるみたいだけど、どう口に出せばいいか迷っているらしい。…助け舟を出そうか、と思った時だった。


 「ミャッ!」

 「あ、ラフィーク!」


 黒猫のラフィークがシャハンの背中からびょっと飛び出してザハーロの元へとてとてと歩いて行く。俺たち3人は黙って黒猫の動きに注目。ラフィークは悠々とした足取りでザハーロの元へ行くと、すりすりしてまたミッと鳴いた。

俺とシャハンが顔を見合わせてると、ザハーロはそっとかがんでラフィークに恐る恐る触れた。ラフィークはじっとしてザハーロに撫でられてる。

……すると。俺は見ました。ザハーロが…あのザハーロが…あのキッツイ顔立ちや生真面目な態度からは想像もつかないにっこり笑顔…!そして小声でぽつり!


 「か……可愛い…」


 ……!!?何そのギャップむしろあんたが可愛いわ!と俺が叫びそうになるのを抑えてる隣でシャハンがにかーっと笑う。


 「だろだろ!ラフィークはおいらの相棒だよぅ。賢くて頼りになるんだなー」

 「ミャゥ!」


 ラフィークがシャハンの声に元気よくお返事したところで、ザハーロはラフィークを撫でる手を止めてそっとシャハンを見た。警戒の色は表情からも見てとれるけどさっきほどじゃない。ラフィークが和ませてくれたのか?

ザハーロはまた気まずげに目を逸らしてラフィークを撫ではじめる。俺とシャハンはその様子を見て小さく笑った。ま、その内慣れてくるだろうし!


 と、そうだ。シャハンに状況を説明しなきゃな。俺はそっと手を合わせてシャハンに頭を下げた。


 「あのさ、シャハン。さっそくなんだけど…お願いがあるんだ。いや、無理にとは言わないんだけどさ…」

 「何々ー?おいら、ちょうど今、暇なところだったから!ステイシアちゃんの頼みなら聞くよっ!」


 びしっと敬礼ポーズでシャハンが頷き、俺はザミグラッツのこと、そして氷雪大地のことについて話した。氷雪大地の吹雪をシャハンの力でコントロールして、俺たちを前へ進めるようにしてもらいたいことも。

俺が状況説明をしているのを部屋の隅でザハーロも聞いていたようだ。話を聞き終えたシャハンは、にかっと歯を見せて笑う。


 「おっけー!お安い御用!砂漠にいたときもおいら、砂嵐を操って遊んでたから!吹雪なんてちょいちょいー、だよ!」

 「さっすが!だけど、そうなると俺とザハーロについてきてもらうことになるんだけど…」

 「冒険の旅だねっ!もちろん着いて行くよぅ。あ、もし厄介な魔物が出たりしたらおいらも戦うから!」

 

 よ、良かったー!もしここでシャハンに『忙しいからゴメンっ』って言われちまったらそれこそ奇跡を待つしかできないところだった…!シャハンは、ラフィークをかまいながらじっとしていたザハーロの元へ歩いて行く。

ザハーロは少し緊張してるみたいだった。シャハンの尖った耳を見て困惑しているザハーロに、にこにこーっと笑ってシャハンが手を差し伸べる。


 「改めて初めまして!おいら、シャハン!バームス砂漠出身の風の魔法使い!おいら、魔族も人間も大好きだから遠慮なく接してよぅ!えっと………ザハリスちゃん?」

 「…ザハーロ、…ザハーロ・サガーノフ。……えっと、」

 「ほらっ、握手しよー!これでザハリスちゃんとおいらはお友達!よろしくなっ!」


 遠慮がちに、差し伸べられた手を握るか迷っていたザハーロの手をシャハンがぱっと取ってブンブンブンとすんごい握手!ほんとシャハンってフレンドリーだな。気遣いと遠慮が全くない!

これに戸惑い慌てたのはやっぱりザハーロで…。すぐにザハーロが声を上げた。


 「ま、待て!」

 「なぁにー?」

 「…ざ、ザハリスじゃなくて…ザハーロだ!」

 「いいじゃんザハリスちゃんで!ステイシアちゃんも文句言わないし」

 「…ステイト、…」


 助けを求めるように見てきたザハーロに、俺は肩をすくめてみせる。…もうこれは仕方ないと思ってくれ、ザハーロ。


 「呼び方のことだろ?俺は慣れた」

 「はぁ!?」

 「わーい!おいら人間の友達できたの二人目ー!」

 「話を聞けーっ!」


 きゃっほーっとはしゃぐシャハン、まだ手を握られたまま慌ててるザハーロ、んでそんな二人の間からこそこそ抜け出してきた黒猫ラフィークが俺の隣に座って大欠伸。

落ち着きないな、と思いながら俺はラフィークの隣に座ってザハーロ達を眺める。


 …なんだかんだで、愉快な旅になりそうじゃね?そう思わないか、ラフィーク?


 俺がラフィークを見ると、ラフィークは黒の尻尾をふわりと揺らしてまた欠伸をしていた。


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