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ルキスの剣  作者: 夜津
第三章 魔と北の国へ
79/131

74 脱走計画・実行

 夜の『駆風の棟』は静まり返り、まるで誰もここにいないみたいだ。

俺は少し前をまったりのんびり歩くセヴァダに、足音を殺してついて行くだけ。


 …さて、俺の魔王城脱走計画がいよいよ始まったわけですが! 

 まず中庭と棟を繋ぐ『壁』を抜け、そこで俺はセヴァダからもらった薬を飲んでおくことにした。あ、あれな。俺の姿が見えなくなる『透明薬』、それと俺の体質をトルメルに戻してくれる青い薬!

もし道中誰かに出くわすとすれば、シェンユゥやシャムロック三兄弟、あとノーリ。こいつらの可能性が高いけど、基本的にノーリは自分の部屋に引きこもってるから会わないことを祈ろう…。


 けど、襲撃を受けた直後だから…いつもは早寝のシャムロック三兄弟が起きてても不思議じゃないし、ノーリだって棟内を魔物と一緒に見回ってるかもしれねぇ。

あとシェンユゥだ。…そう、シェンユゥ。いつも夜遅くまで起きて仕事して、朝も早起きでやっぱりちゃんと仕事するシェンユゥが…この不測の事態に何もしないとはさすがに俺も思わない。

城の本部から警備の兵士が来ていてもおかしくない。…うん、内心俺はヒヤヒヤなんだけど!ちょっとでも足音や声を立てればバレるだろうし、気配も極力消さないと!


 まぁ、誰にも会わずに事が進めば一番いいよね…というわけで。そこはあれだ、カミサマにお願いだ。


 と腹を括って来たのに。俺はもう、あっさりと自分の部屋までたどり着いちまった。…で、出だしだからな!まだ序盤だしな!うん!

事が上手く進みすぎると逆に警戒するだろ?けど、廊下のどこにも兵士らしき魔族はいないし、俺の監視係たちにも会わなかった。俺の部屋も何も変わりなく、荒らされた様子もない。


 セヴァダには部屋の近くの廊下で待ってもらって見張りをしてもらう。…俺たちの会話はない。けど、セヴァダと軽く打ち合わせはしておいたから話さずともその手順通りにできるってわけだ。

もちろんセヴァダにも薬の効果で俺の姿は見えていない。じゃあセヴァダが俺を置いてけぼりにしちまうんじゃないかと思うかもしれないけど、セヴァダは俺がここに『いる』ことを知ってる。

知っているなら、空間内の魔力の動きや気配を察知できるから俺の姿が見えなくてもどこにいるかはだいたい分かるんだとさ。

 だからもし廊下や部屋でばったり他の魔族やシェンユゥたちに会っちまったら、俺がそこに『いる』ことを気取られた時点でゲームオーバー…ってわけで。


 そこは元・盗賊だからな!舐めてもらっちゃ困るぜ…!…と、誰もいない俺の部屋をこそこそ歩き回りながらニヤッとする。目指す場所は一つ、俺のベッドの裏。そこの小さな隙間に拾った鍵を隠したんだ。

この鍵がきっと、屋上に隠された魔法陣を導いてくれる。ハッキリとした根拠はないけど、それを信じよう。…ダメでも鍵をちょっといじって無理やり開錠させますけどね!


 部屋に誰もいないことを確認してから、音をたてないように気をつけてベッドの裏の隙間に手を伸ばす。お…いけるか……、あ、あった!ズルッと隙間から小さな鍵を引き抜くと、鍵の姿がシュン、と薄くなる。

そう、この透明薬なんだけど。自分の姿は自分から見ると半透明に見える上に、自分が持っている・装備していると認識している物も一緒に透明になるんだ。…どういう仕組みの薬なのかは聞いたんだけど…俺に理解できるわけがなかった。

だから服だけ宙に浮いてるとか、持ってる鞄が浮いてるとか、そんな事故は起きないってわけだ。いや、素っ裸で移動とか絶対ないから!

 

 鍵をポケットに突っこんで、俺は改めて部屋を見回す。ベッド、ソファ、テーブル、クローゼット。小奇麗で、王都にある俺の部屋より快適かも。長い間ってわけじゃないけど、世話になった部屋。

できればまたお世話にならないように、と苦笑して俺が部屋を出ようとした、…そのとき。


 「トルメルーッ!」


 ヒョッ!!?何か声聞こえた!?え、どこどこどこ!?

突然聞こえたその声に俺は動きを止め、目だけで素早く辺りを見回す。と、部屋のクローゼットがバタンと開いて…中から何か出てきた!って、あれは…!


 「あれ!?さっき気配がした気が…」「兄貴ってばうっかりだな!」「お兄ちゃん、誰もいないよー?」


 シャムロック三兄弟!俺はピタッと、もう瞬き一つしない勢いでクローゼットの方を凝視!クローゼットに隠れていたらしいシャムロック三兄弟のそっくりな三つの顔が、今はそれぞれ違う表情をしていた。


 「むむむ…確かに、確かに俺はさっき…トルメルの気配というか…あ、来た!って感じがしたのだ!信じろ弟たち!」

 「けど、いないぜー?なぁ、ミィ」「うん。それにほら、黒頭巾が言ってたよ、トルメルはまだ禁忌の地下室に閉じ込められてるって」


 どうやら俺が地下室に閉じ込められてたってことは周りに知れ渡ってるみたいだな。…ノーリが気付いたのか。いや、それより…まずいぞまずいぞー。これはショウが俺に気づきかけてる状況で合ってるか?

この魔界に連れてこられた時も、こいつらはクローゼットから出て来たよな…。それを思い出すとちょっと笑っちまいそうになるけど、こらえろ俺!今動いたら絶対に感づかれる!


 くそ、廊下のセヴァダが気付いてくれたらこいつらの注意を逸らせるかもしれねぇのに…多分セヴァダは気付いてない。ここをなんとか乗り切らねぇと…!


 部屋の真ん中で三兄弟による会議が始まるのを、俺は黙って見守る。


 「確かにそう聞いたのだ、けれどあのトルメル…絶対に大人しく閉じ込められてるわけがないのだ」

 「あぁー」「なるほど」

 「トルメルのことだから…この事態に紛れてこっそり城を脱走する、なんて考えてるに違いないのだ!」

 「おぉー」「あるかも」

 「だったら一度はこの部屋に忘れ物がないか、確認に来るはずなのだ!あと腹が減れば食堂に行く、そこはあのコックが押さえてるから問題ない!」 

 「ふむふむ」「だからぼくちん達、ここに隠れて見張ってたんだね」


 やべぇ。行動が完全に読まれてた。アッハハ、この俺だぞ?そんなー、大胆不敵な脱走計画をするわけ…て、今してるんだった。おっと。…もしここでギンとミィがショウに納得しちまえば、俺に感づきやすくなる!

ちら、と見ると廊下への扉は開かれてる。そっと移動して、廊下に逃げるか。廊下へ出ればセヴァダがいるから、上手くやって三兄弟の注意を逸らしてくれるだろう。

そうだよ、何立ち止まってんだ!鍵はもう取ったんだ、さっさと廊下へ出ればいい話じゃねぇか…!


 と、できる限り音を殺して気配を消して去ろうと思ってたら。


 ―――カツッ


 あ。つまずいた。………音、鳴っちまった。


 俺ってばうっかり過ぎる…っ!部屋に落ちてた小石に躓いて思わず蹴り飛ばしちまった!小石は小さく飛び、壁に当たって跳ね返り……ぽて、と落ちる。俺の視線と三兄弟の視線が一点に集まるのがよーく分かって…。

シャムロック三兄弟が顔を見合わせる。三人一緒に、ごく、と緊張した表情で唾を飲むのが見えた。……そして、ショウが叫んだ!


 「お化けなのだぁぁぁッ!逃げるのだギン、ミィ!この部屋にはお化けがいるのだーーーっ!!」

 「うわあああああああ怖い怖い怖いーーーっ!!」「お化け無理無理無理ーーーーっ!!」


 すんごい形相で三兄弟が部屋を飛び出した!え、あれ!?お化け!?なんか勘違いしてくれた!?呆然と立ち尽くし、取り残される俺の耳に廊下の方から会話が聞こえてくる。


 『うお!?シャムロック三兄弟!?この部屋にいたのか』

 『に、に、庭師!早くここから逃げるのだ!誰もいないはずの部屋で、こ、こ、小石が!!オバケなのだ!!』

 『え、ちょ、待てよお前ら………い、行っちまった…』


 その声が聞こえた直後、ひょこ、とセヴァダが部屋を覗く。動けないままぽかーんとしている俺に、セヴァダは苦く笑った。


 「…、なんつーか……、一難去った、か?」

 


 **


 この『駆風の棟』を抜け、城の本部へと移動する。運がいいのか、その後はノーリに遭遇することもなかった。食堂はやっぱり明かりが灯されていたから近寄ってない。きっとシェンユゥはまだ食堂で仕事してるだろうし…。

けど、これで終わったわけじゃない。むしろ、これからだ。今から魔族がうようよいる城本部に乗り込むんだし、またこっちの棟に戻ってくるからそのときにノーリ達と会うかもしれない。


 俺が現役盗賊ならもっと緊張感を持って淡々と作業できただろう。けど、な。これでも足洗って一般人生活をしてたんだ、そんなにすぐ感覚が戻ってくるわけじゃない。

『駆風の棟』から長い渡り廊下を歩いて行くと、交差点になっている箇所に出た。あ、立札がある。俺たちが来た道の立札には『駆風』って書いてあるな。

他の3つの道にはそれぞれ『夜咲』、『満砂』、そして『秋瓦』とある。…あ、この『秋瓦』って棟、セヴァダが前にシェンユゥにお使いに行かせた棟だったよな。


 俺が思い出すのと同時に、セヴァダが迷いなく角を曲がってその先へ進んでいく。途中で時々すれ違う魔族たちと挨拶を交わしたりはするけど、誰とも長くは話さずどんどん進んでいくのは俺にはありがたかった。

階段を上り、歩いて、また階段を上って、歩いて、ときどき階段を下りて、また歩いて。ややこしい道を行くと、やがてセヴァダが一つの扉の前で立ち止まった。…この部屋は?


 俺が見上げると、セヴァダは少し口元をニヤリとさせて扉を開き、中に入る。俺もその後に続くと…、あれ、普通の部屋だ。

そんなに広くもなく、狭くもない。机の上には本が何冊か積まれていて、椅子の上にも書類が重ねられている。ベッドは少しぐちゃっとなっていて、その上に大量の本がどさっと置いてあるから物置状態だ。

んで、棚!壁と言う壁が棚!大きな窓が机の後ろにある以外は、壁の全部が棚になっている。本がギッシリと並べられている棚もあれば、何かのビンがたくさん置いてある棚もある。引き出しもたくさんだ…。


 「ここが俺の部屋。あ、ステイトくん、ここなら喋って大丈夫だぜ。この部屋、監視魔法も全部遮断してるから」

 「…なるほど。庭師らしくない自室なんだな」


 ふぅ、と俺は息をついた。話すのが特に好きというわけでもないけど、声を出してはいけないとなると窮屈に感じちまうものだし!くぅーっと体を伸ばすと、セヴァダが机の上を整頓しながら笑った。


 「ここでいったん休憩ってことで。…この廊下をもうちょっと進んだ突き当りがクソ魔王の部屋だ。あいつは自分の部屋を兵士に守らせたりはしてないけど、監視魔法を幾重にかけてるから注意しないとな」

 「でも、俺は引っかからないだろ?」

 「そ。けど、俺は引っかかるからこの部屋で待機しとくぜ。部屋の鍵の解除から装備品の探索、全部ステイトくん一人でやることになるかな」

 「そんぐらい大丈夫大丈夫!セヴァダは…廊下だけちょっと見張っといてくれ」

 「あぁ、了解。誰かがそっちに行こうとしたら適当に話しかけて時間稼ぎしとくから」


 俺はちょっと足を休めようとソファの上を見て…やめました。ソファの上も物置じゃねーか…。確かに、セヴァダがいつもここにいるとは誰も思わないな。こんなに物置状態だと。

ここでゆっくり休憩して行ってもいいけど、…いや、よくない!うっかり朝になるまでもたついたらマズい。やっぱり、早く済ませちまうに限る。セヴァダを振り返ると、ひらひらと手を振っているのが見えた。


 「うんうん、善は急げ、ってね。大丈夫、廊下は俺がさりげなく見張っとくから行っといで」

 「さんきゅ。…じゃ、頼むぜ」


 床に転がる謎の液体が入ったビンに躓きながら、俺は慎重に廊下に出た。…よし、誰もいないな。この奥に、だっけ?いくら姿が見えてないって言っても気配は探られるから、気をつけていかねぇとな。

急ぎ足で、けど音は絶対に出ないように。廊下の薄闇に溶けるように。俺は軽く拳を握りしめて先を進んでいく。


 突き当りに辿り着くまで、思ったより廊下は長かった。けど誰にも会わなかったのは幸運だ…下手すりゃ兵士の一人でもいるんじゃないかと思ってたし。

ゾイの書斎らしき部屋の扉は他の部屋と変わらず、特に飾りが施してあるわけでもなくゴッツく大きいわけでもない。ただの部屋の扉だ。…まぁ、書斎だからな。プライベートルームとやらは魔王らしく派手なのかも。

 

 そっとドアノブに手をかけて回すと、案の定鍵がかけられてる。そりゃね。俺はポケットに忍ばせていたハリガネを鍵穴に差し込み、ちょいちょいといじる。ちょいちょい、…お、難解………、いけたか?

ハリガネを引き抜き、もう一度ドアノブを回すとガチャ、と扉が開く。へっへん!万国共通・俺の鍵開け術!あ、良い子は真似するなよ!


 早速お邪魔しますか。するりと扉の向こう側へ入り込んで素早く扉を閉める。カチ、と扉が閉まったのを確認して今度は内側から鍵をかけておく。恐らく魔法でこのドア付近を監視してるんだろうけど、俺には関係ないない。

余裕過ぎるからちょっと不気味にも感じてくるぜ。


 改めて部屋の中を見回すと、…うーん。やっぱりただの部屋だ。セヴァダの部屋と同じで、たいして広いわけでもないし壁も本棚や引き出し、クローゼット、…あ、絵が飾ってある。花瓶も。窓のカーテンは閉じられていなかった。

他にも黒の高級感あふれるソファ、ガラスのテーブル、赤の絨毯、黒塗りの机、何から何まで家具に静かな品がある。ちゃんと掃除されていて、塵一つ部屋にはない。さすがゾイ…ちゃんと管理ができてる。


 さて。『突撃☆隣のゾイの部屋』もあんまりもたもたしてられないから、俺の装備を探さねぇとな!まず…本棚から行くか?

けど本棚を見ても訳の分からないタイトルばかりだし、机の上にもそれらしきものはない。…ん?あれは?


 俺は机の上に何かの本、いや、ノートが開かれた状態で置いてあるのを見つけた。スススッと寄って見てみると…あ、手書き。これは…ゾイのノートか?残念ながら文字が俺の知ってる文字じゃないから読むことはできない。…ちっ!

でもそのノートの隣に世界地図がある。その一部に赤で大きく丸が付けられてる…。どこだっけ、この赤マルの場所。俺は直接触れないように気を付けながら、地図を覗き込んだ。


 ここがシエゼ・ルキス。んで北のデカいのがネーディヤ帝国で……その隣のこの斜線は…、…砂漠か!風魔法が得意な魔族、シャハンの出身地…バームス砂漠!けど砂漠に何があるんだ?あ、お宝?何?ゾイもトレジャーハンターなのか?

隣に小さくメモが書き込まれてるけど、やっぱり読めない。気になるなー…いやいやいや!俺は何しにこの部屋へ?そう!自分の装備を取り戻すためだ!こんなところで油売ってる場合じゃねーよ。


 机から離れて壁を見る。本棚、引出しの中、クローゼットを開けてみるけどやっぱりそれらしきものはない。くそ、あいつどこに俺の装備隠してんだよ…。ため息をつきながら顔を上げると、壁の絵が目に留まった。


 パッと見、綺麗な絵だ。青い海、白い砂浜、緑の草花。そこで一人、楽しそうにはしゃいで笑う少年の絵だ。俺と同じ茶の髪で、短く切られてる。活発そうな少年の顔が生き生きとした楽しそうな絵だ。

だけど耳はとがってない。目も髪と同じ茶の色。…人間の少年?なんでそんな絵がゾイの部屋に飾られてるんだ?あ、もしかしてコレ、すんごい名画とか!?…いや、そうも見えない。確かに綺麗な絵だけど、特別価値のある絵には見えないな。

盗賊時代に目が飛び出るような値の絵を盗んだことが何度かあるけど、それと比べると平凡な絵だ。……何か、思い入れでもあるんだろうか。

 ちょっとその絵の少年が俺に似てる気がしなくもない、と苦笑しながら俺は別の場所を探すことにした。


 といっても、もうめぼしいところはない。鏡台もなぁ…。…どこに隠せと?俺の荷物、やっぱり書斎じゃなくてプライベートルームに隠してるんじゃ?

そう思いながら、最後の希望をかけてまだ探してない鏡台に近寄る。もし隠すのなら…椅子とか?カッチリ四角いこのボックス型の椅子なんて怪しいかも、と指で椅子を撫でてみると。…お?この窪みは?

 椅子の窪みがちょうど、指を引っ掛けられるようになっている。ちょっとそこを触ってみると……これ、からくり箱か!


 からくり箱ってのは仕掛けがしてある箱で、うまく触れば開けることができる…つまり宝箱と同じ!宝箱は鍵を差し込めば開くけど、からくり箱はパズルボックスだから開ける奴の手腕が試されるってわけで。

けど相手が悪かったな…!俺は元・天才盗賊!これぐらいの箱が開けられないと思ったかバーカ!…そう思いながらもちょっと緊張して仕掛けを探る。…あ、これ結構レベル高いな。さすが。


 もちろん俺に開けられない箱はない!ちょっと時間食っちまったのは悔しいけど、なんとか箱が開いた。…あ、箱と言うか、鏡台の椅子なんだけどな。

嬉しいことに、入っていたのは俺の装備一式と服!服は…洗ってたたんである。着替えるのは後だ、それと…俺の荷物も!わぁ…もう鞄に何入れてたかも覚えてねぇ…。


 最後に、奥底に小さなケースが埋まっていた。掘り出して開けてみると…あああああ!俺の指輪とアンクレット…とペンダント!慌てて取り出してすぐに装備すると、…しっくりくるような、新鮮なような。外してる時間が長かったからかな…。

指輪は二つ。リウの指輪、ラエアの指輪。一つずつ指にはめると、体の中でまた力が巡り始めるのが分かった。アンクレットを足首につけると、エスイルの力が発動したのか少し体が癒されたような気がする。

最後に、派手じゃないペンダントを首にかける。自分に対する魔法攻撃をかなり軽減してくれるありがたーいペンダント…、俺の体質では不要の、けど一般の戦士からしたら喉から手が出るほど欲しいという一級品。

 

 ―――これは俺の約束と決意の証。必ずあいつにまた会いに行って、これを突き返す。


 …よっしゃ!やる気出てきた!俺は箱の中にあった荷物を全部抱え、椅子を元通りにしてからまた部屋をこっそりと出た。やっぱり廊下には誰もいないから、もしかしたら普段から人払いがされているのかもしれない、と考える。

セヴァダに部屋に戻ると、にかっと眩しい笑顔に迎えられた。


 「ちょっと遅かったんじゃ?…って、荷物が増えてるね」

 「おうよ、大成功!拍子抜けしちまうぐらい楽勝だった。ゾイの悔しがる顔が頭に浮かぶぜ」


 言いながら比較的綺麗な床の上に荷物を並べ、服を着替え直す。…うん、いつもの服だ!動きやすいし、内側のポケットの収納も多いし、何より落ち着く!布にくるまれていた短剣2本、あと小さなナイフなどの装備も確認しないとな。

次々に装備を元に戻していると、セヴァダが俺の様子をじーっと見ていることに気づいた。…なんだよ気恥ずかしいじゃねーか、と口をとがらせるとセヴァダが声を上げて笑った。


 「なんだか、『囚われのオヒメサマ』から『やんちゃなオトコノコ』って感じになったなーって」

 「どういう意味だよ…。俺はいつでも健全で元気で素敵な男の子ですー。おまえの師匠とは違ってな」

 「アネさんは男でも女でもなくアネさんなんだよ。あとあの人、一応このノイマーティアの貴族の中では二番目くらいに偉いんだからな」

 「…マジ?」


 セヴァダが『アネさん』と呼ぶのは、師匠であるらしいオネエ魔族・ロザクオレのことだ。ロザってまだ謎めいててよく分からないんだよな。…けど…エライの?あいつが?…そういや南国で会った貴族な魔族もビビってたよな?

俺の疑問符にセヴァダが胸を張って答える。


 「おうよ。アネさんの家柄はディルシオン家っていって、魔界で一番偉ーい貴族家なんだよ。一番権力を持つのがクソ魔王だとしたら、その次にアネさんの兄貴が偉くて、んで次にアネさんだな」

 「でぃ、ディルシオン…ごっつい名前…」

 「ロザクオレ・ソルマ・ディルシオン。覚えなくてもいいワヨ」


 俺のげんなりした声に答えたのは、セヴァダではなかった。ふいに聞こえた面白がるような声は、…噂をすれば、ってやつか!

 

 「ハーイ!こーっそりカワイイ弟子に会いに来たら…アラマ、茶髪ボウヤが脱走中」

 「ロザ!?どうしてここに!?」

 「だから、弟子に会いにきたのヨ」


 ふらっと入り口の扉から入ってきたのは、いつもと変わらないド派手な格好のロザ!黙ってれば綺麗な容姿なのに、中身が残念でド変態のオネエ魔族!俺が慌てて飛びあがる横で、セヴァダは呑気に笑っている。


 「アネさん、ほんといきなり来るのやめてくんねッスか?俺もビビるし」

 「なぁーにぃーヨー!つれないワネ、セヴ!あと中庭見て来たんだけれど、八区の青薔薇の管理、もっと気合い入れてやりなさいヨ」

 「げ。やっぱ虫がついたか…」


 穏やかな様子で会話を交わす二人は、本当に師弟関係らしい。いつもはミステリアスに、けどどこか胡散臭く微笑んでるロザもいつもよりしっかりしているように見えてなるほど師匠っぽい。セヴァダも舌を出して頭を掻いてる。

あー、これが師弟関係なのか、と俺は部屋の隅の方で立ち尽くしたまま眺めるだけ。二人の共通点を探すなら…あれだな。親しみやすいけど胡散臭いところだ。

 しばらくロザのアドバイスが続いていたけど、やがて俺の方にロザが向き直る。薄紫の髪をファサッと掻き上げながらロザがウインクする。


 「茶髪ボウヤくん、うちの世界のワイルドな魔王様はどうかしら?」

 「うーん。ワガママで俺様で暴力的。俺が悪さしたらすぐに凍らせてくるのやめてほしい」

 「それ、全面的にアナタが悪いんじゃないの…」


 ロザが肩をすくめる横で、セヴァダがハハ、と笑う。


 「けどアネさんに聞いてた通り、ステイトくん、なかなか面白かったッス」

 「でしょ~!?アタシが気に入ったんだからハズレはないワ!」

 「おいお前ら俺をおもちゃにすんな」

 「「おもしろいものこそ正義!!」」

 「……ダメだコイツら」


 声を合わせてくる師弟コンビに俺はうなだれた。…って、こんな漫才してる場合じゃねぇんだよ!急がないと!もう装備は取り返したから、また『駆風の棟』に戻って屋上に上がって!

俺がそれを言おうと顔を上げると、セヴァダがうんうん、と頷く。


 「そうそう。アネさん、来てくれたところ悪いんスけど、この通りちょっと急ぎで」

 「アラー。けど、イケナイことしてるワネ。魔王様、帰ってきてこのことを知ったら…アナタの庭が消し炭ヨ。それか永久に氷の中」

 「アネさんが黙ってれば問題ないじゃないスか。そこはこのナイスな弟子とカワイイ茶髪ボウヤくんに免じて…」

 「免じても何も二人とも実行犯じゃないの。…あ、いいこと思いついちゃったワ!アタシの条件を呑んでくれるなら黙っててアゲル」


 にや、とロザが口元を手で押さえながら目じりを上げた。美しく化粧された顔が妖しく微笑み、俺は全身鳥肌!嫌な予感しかしねぇ!横でセヴァダも、えー、と声を上げる。


 「いやー、アネさんいつも面倒事押し付けてくるしなぁ…」

 「師匠に言うことじゃないワヨ。…条件はシンプル!アタシもボウヤについて行く。これでどうかしら?」

 「……ステイトくん、どう?」


 ロザが俺に流し目を送る。なんか、目から星でも落ちてきそうなキラキラ瞳がこっちを見てる!セヴァダはまたため息をついて、俺に肩をすくめて見せた。お、俺に決めろってか!


 「どうって言われても…そしたらロザがゾイに痛い目に遭わされるだけだろうに…」

 「アラ。アタシ、魔王様にも放浪中の身だと知られてるし、たまたまアナタが脱走した先で出会ったって言えば問題ないワヨ」

 「…けど、めんどくさいしなぁ…」

 「相変わらずヒドイッ!いいでしょ、アタシもそろそろ退屈なのヨー!んで、どうやって脱走するのかしら?」

 「おい俺はオッケーなんて一言も、」

 「じゃあ魔王様に言いつけちゃーう!聞いて魔王様ー、アナタの捕まえたトルメルのボウヤがー」

 「ああああ!分かった!分かったから!」


 こいつうっとおしい…!俺はロザが騒ぐのをなんとか鎮めてから盛大に息を吐いた。…ロザがついてくるのは…正直めんどくさい。これからはできるだけ行動が自由にできる方がいいし、…ロザは目立つし。

セヴァダが言った通り、こいつがそんなに偉い奴なら余計に、だ。戦力としては心強いけど、こいつは何事も面白がるところがあるだろ?…面白そうだから、と寝返られちゃ困る訳で…。


 …あ。


 俺は今、とっても悪いことを考えました。うん。…いや、でもさすがに…いやいやいや、…俺の未来のため………、…仕方ない!

顔を上げると、セヴァダが少し申し訳なさそうな顔をしている横でロザは目をキラキラさせてる。ダメだなこの師匠。ちょっとセヴァダに同情する。

俺は改めて、とロザに話しかけた。


 「…そこまで言うなら、俺の邪魔だけはしてくれるなよ。脱走経路だけど…」

 「え、ステイトくん本当にアネさん連れてくの?」

 「お前も消し炭または氷漬けにはなりたくないだろ、セヴァダ。それで、…あ、ごめんなセヴァダ。これ、実はお前にも話してない秘密の経路なんだ。ちょっとロザ…耳かしてくれ」

 「何何何~!?ヒミツの!?アラ、盛り上がってきたワネ~!」


 セヴァダが心から驚いてるのを見ながら、俺は手を合わせてロザを呼ぶ。ロザは髪をふわりと揺らしながら、薄紫の切れ長の目をまたキラキラ輝かせて俺に歩み寄る。…さて。

俺はすぅ、と息を吸った。背の高いロザが俺の小柄な身長に合わせ中腰になり、俺はロザの尖った耳の傍に口を………


 寄せずに、背中に回し蹴りを全力を持って決めた。


 「そぉいっ!」

 「え、ちょ、え!!?」

 

 ―――ドガッ!…バタッ


 ロザ、倒れる。……やっちまった。魔族は体力はない、という事実がありましたね?ええ。前もロザはシルの反撃にあって怪我してボロボロだったんだし。俺、全力の蹴り入れました。…入れました。決めました。

シーン、と沈黙が部屋に下りる。ロザの長い髪が埃だらけの床にファサーと広がり、俺は目じりと口元をひくひくさせながら半笑いでそれを見つめ、そんな俺をセヴァダがぽかーんと見ている。と思う。視線を感じる!


 「……どうすんの。アネさん、ほんと体力ないからこれで一週間は静まり返るぜ…」

 「好都合。もしこれで元気なら俺が氷漬けにして行くところだもん。……セヴァダ、この部屋にこいつ転がしといて。勝手に来て転んだことにしとこうぜ」

 「いや、アネさんが起きてクソ魔王に俺たちのことバラしたら…ステイトくんは逃げ延びてても俺が死ぬ」

 「…手紙置いとくわ」


 その辺の紙に、ロザ宛でメモを残す。内容。『黙ってくれてたら後でお礼する。蹴ってメンゴ』。これで万事解決……するかな?無理があるかと思いながらセヴァダに見せてみると、あー、と気の抜けた返事が投げられた。


 「…アネさん、ステイトくん大好きみたいだし…それでオッケーかな…」

 「…お、…おう…」


 そっとロザの手に紙切れを握らせ、俺たちはまた顔を見合わせた。…ここまで来たら引き返せない、とセヴァダの表情が語っていることに、さすがの俺も反省せざるを得なかった…。


 ごめんなロザ。俺が逃げ延びたら、また食事…おごってやるよ…!


 **


 

 はい、屋上です。え、すっ飛ばしすぎだって?いやいやいや!だってスムーズに行っちまったんだもん!ロザを放置して、廊下を戻って、誰にも会わなくて、おしまい!

そして、俺は今、一人。セヴァダとは途中で別れたんだ。屋上までついてくる必要はないからな。この『駆風の棟』に戻った時、俺は屋上をめざし、セヴァダは庭へと帰って行った。

目くばせもナシ、別れの挨拶もナシ。ただ、最後にセヴァダが俺の背中をバシッと叩いた。……それだけで十分だ。ありがとう…セヴァダ。またお前のハーブティーを飲める日が来たらいいんだけど。


 屋上でも俺の作業は素早い。自室で見つけた鍵はやっぱりこの屋上に隠されていたプレートに対応していて、カチリと鍵が回ると静かに魔法陣の光が屋上に浮かび上がった。

それに感動する暇もなく、すぐにごろりと開いた壁から出てきた棺桶みたいな箱を魔法陣の中心に置く。うげー、これに入るのやだなー…なんて言ってる場合じゃないよな。


 最後に装備がちゃんと揃ってるのを確かめてから、俺は棺桶の中に入った。棺桶のような箱は黒塗りだけど、上だけ透明になってるから寝転がって入った俺に見えるのは夜空だけ。…綺麗な星空だ。


 もたもたしてるヒマはない。ノーリやシェンユゥに会わなかったのは本当に幸運だ。もし会っちまったら…俺の決意は鈍ってただろう。さぁ、早く魔法陣を発動させないとな。


 棺桶のような箱の中ですぅ、と息を吸う。ふぅ、と吐く。…さぁ、いよいよ。バイバイ、魔王城。もう…来ることがないようにしたいな。


 「…リベレイション!」


 俺が唱えると、周りが明るく輝いたように見えた。魔法陣が輝いている!そして、…眩しく、より一層輝いた魔法陣は俺の視界を強い光で覆い隠す。転送だ。エリネヴィステさんに聖都から王都へ送ってもらったことを思い出すな。

あのときもシルの弟、ルカに追われてたんだっけ。思い出して苦笑いしていると、…光の隙間に何かが見えた。


 「……シェン、ユゥ?」

 「……!」


 眩しい光の中で、息を切らしたように肩を上下させ、何かを必死に叫ぶように口を動かす誰かが見えた。…あれは、シェンユゥ?深緑の髪が暗闇に紛れて揺れている。…最後で見つかるか。けどごめんな、シェンユゥ。


 「………また、会えたらいいな」

 「………!!」


 シェンユゥが手を伸ばすと同時に、魔法陣が強く輝いた。妙な浮遊感に襲われ、あ、転送が始まったんだと気が付く。『心苦しい』じゃ済まない気持ちが俺に深く押し寄せてくる。


 眩しい世界の中に、もうシェンユゥの姿は見えなかった。 

 

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