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ルキスの剣  作者: 夜津
第二章 トルメルの子
61/131

58 武闘大会

 ココムの塔の地下ダンジョンで武闘大会が行われてるってのに、観客はどうやったらそれを観戦できるのか?


 その答えは俺の目の前にある。ここはココムの塔から少し離れた町の広場で、広場の中央にはめっちゃくちゃデカい『画面』が浮き上がってる。そこにリアルタイムで地下ダンジョンの様子が映し出されてるんだ。

これも光魔法と補助魔法を応用した連絡技術の一種なんだけど、…うーん、やっぱり魔法って便利だよな。離れた場所なのに、ちゃんと場所や対象を指定することで相手のことが『画面』越しに見えるってのは不思議だ。


 当然この広場も人がいっぱいで、今も激しく動き続ける画面の中の様子に人々は夢中だ。俺とミンミも広場の石の段差に座って、そのへんの屋台で売ってたお菓子を食べながらのんびりと観戦してる。

『画面』を作り出してるのは大会運営委員会とやらに所属してる魔法使いなんだってさ。大会の間、ずっとこの『映写魔法』を使ってないとダメなのは大変だけど、ミンミ曰く、このバイトは儲かるらしい。…お、俺に魔法が使えれば…なぁ…。


 この武闘大会に合わせて、たくさんの町の人たちがフリーマーケットを広場の端で開催したり、大道芸人たちも広場を盛り上げたり、食べ物を屋台で売ってくれたり、まさにお祭り騒ぎ!

今はもう昼も近く、第二グループが地下迷宮に潜っている。ちなみに第一グループは、ミンミの予想通り『オノールオルカ』とかいうギルドが優勝してたな。三人そろって目標の第30層に辿り着いたときは、もう耳が壊れそうな歓声だった。


 で、俺はミンミについて行って観戦することにしたんだけど、まぁミンミさんってばもう。第一グループの時はせっかく映し出されてる『画面』には目もくれず、広場中の屋台という屋台を歩き回ってた。

見ないのか聞いたら、『見たいけど、しっかり見るのは第三グループ!だからそれまでは、広場の屋台とか見てみようよ?』とのこと。確かに、ずっと画面にかじりついててもこの祭典を楽しめないよな。


 さすがにロロターナで、この盛り上がりようはシエゼ・ルキスの市場も負ける。屋台でお菓子を買えば屋台のオッサンが『今日は祭だからなぁ!』と肩をバンバン叩いてくるし、道行く楽隊の兄さんたちも機嫌がいいし。

地下迷宮で競ってるギルドの人たちだけじゃなく、町の人たちも一丸になってこのイベントを楽しんでる。確かに…、ここにいるだけで楽しくなってくるような気がするぜ。


 カンカン照りの日差しを避けて、ちょうど建物の影が伸びている広場の隅に腰を下ろす。少し離れた場所では、ウオオォッとある意味異常なまでに盛り上がってる町の人たちが画面を囲んでるのが見えた。


 「ステイト君、疲れてない?けっこう歩き回っちゃったね」

 「いや、俺は大丈夫だけどさ。…あの広場の中心で熱気に沸いてる人たち…暑くねぇのかな」


 キンキンに冷やした濡れタオルを配布してるお兄さんたちが広場中を駆け回ってるのを横目に、南国果実を丸かじりしながらミンミに答える。お、甘い!隣でミンミも、うーん、と肩をすくめながら笑った。


 「きっと自分たちが盛り上がってるから、周りの暑さなんて気にならないんだろうなー。それもまたすごいよね」


 と、ちょうど画面には6人の戦士たちが映った。ちょっと広めの部屋で鉢合わせたみたいだ。するとまた広場中から、フゥオオォーッと歓声が上がる。え、何?なんで盛り上がってんだ?鉢合わせただけだろ?

ミンミもその声に、あ、と画面を見つめて声を漏らした。


 「もしかして、戦うのかな?」 

 「え?どこが一番早く第30層に辿り着くか、なんだろ?何で他のギルドの参加者と戦うんだ?」

 「だからこそ、よ。ほら、ステイト君も一緒にダンジョン潜ったでしょ?とってもダンジョン内は広かったよね?今地下迷宮にいるのはたったの15人、しかも3人セットだからたったの5組があの広いギルドを移動してるの。

  これだけ広いんだからたまたま出くわすことなんてなかなかないのよ。だからルールとして、もし鉢合わせたらギルドとギルドが戦うことも許可されてるの」

 「すると…もし一人でも倒されたら、そのギルドは3人そろってゴールするのが難しくなるよな」

 「そうなの!倒されたら塔の入り口に戻されちゃう。だけど、また一人で潜って、あの広いギルドの中でまた同じギルドの仲間を探すなんてできないよね。実質、負けちゃったらそこで失格ってことなの」

 

 うわあー、そりゃラッキーなのかアンラッキーか…。もし勝てたらライバルを一つ蹴り落とせるけど、もし負けたらその時点でアウト、ってことだよな?


 「もちろん、戦わないってことも選択肢だけど…あ、戦い始めた!」


 ミンミが画面を指さす、その先を見つめると…!うおおおっ!?ひ、火花が散ってる!?

画面の中の6人が、それぞれの武器を持ち出して戦い始めた!片方のギルドは三人とも剣士、それに対してもう片方のギルドは…、見たところ、重装備の防御型戦士、あとは素早そうな女剣士と回復術士か!

もちろん真っ先に、剣士三人組が相手ギルドの回復術士に向かっていく。それを見事にあの防御型戦士が防ぎ、もう一人の女剣士が応戦する!見事だな、どっちもチームワークに隙がない!


 どっちも退かない戦いに、広場の人たちは拳を作って宙に突き上げたり、隣の客と肩を組んでわぁわぁ叫んだり、もうすごいのなんのって!さすがに俺はそれにはついていけないけど、広場の隅から画面を見守る。


 回復術士の女の子は少し怯えてるようで、鎧の戦士が頑張って彼女の盾となる。戦士が退かないのを見ると、三人の剣士は残りのもう一人の女剣士に標的を変えたらしく、ジリ、と間合いを詰める。

うわわ、どうなるんだよ…!?あの女剣士も腕が立ちそうだけど、一人で三人の相手をするのは…っ!


 と、思った時。回復術士の女の子が杖を勢いよく掲げた!その瞬間、稲妻が杖から飛び出して、相手ギルドの剣士たちの一人をズババーンッとまさに貫くように射抜いた!思いもしなかった攻撃に剣士は対応できず、直撃して…。


 ―――ドサッ!


 『おおぉーっ、やりました!ギルド、オリーヴェル!回復術士のクラーラ、親友の女剣士コリンナの危機を救いましたーっ!ギルド、テタルティはここで失格ですーっ!!』


 ―――オオォオオーッ!!


 すさまじい歓声が広場に響く!け、けど、これは思わず俺も立ち上がって広場中央に浮く画面を見つめてしまった。だ、だって!あの場面でまさかあの女の子が攻撃を仕掛けるなんて…!

画面の中では、回復術士の女の子と、大人っぽい女剣士が嬉しそうに手を取り合っていた。その傍で、あの防御に徹していた戦士が盾を地面に下して、笑顔でガッツポーズをとる。…やばい、めちゃ燃える展開じゃねーか…!一発逆転、とか!


 ミンミも息を止めてたようにじっと画面を食い入るように見つめ、はぁーっと大きく息をついた。


 「す、すごかったーっ!あの剣士三人組、ギルド・テタルティはすっごく統率されてるチームワークと戦術性が話題のギルドなの!対してあのオリーヴェルってギルドはまだできたばかりの名のないギルドで…。

  それが名のあるギルドに勝っちゃうなんて!うーん、やっぱりこういうのがいいのよね!私もなんだか、オリーヴェルのファンになっちゃいそう!」

 

 なるほど…!そりゃすごいよな!画面を見つめると、喜ぶオリーヴェルの三人の横で、倒されたテタルティの剣士の一人は塔の入り口に強制送還され、残る二人も失格判定を受けて塔の入り口に強制送還されていった。

うわー、なんか見てたら…思わず応援したくなってきた。もちろんテタルティを応援してた人たちはがっかりしてるけど、切り替えて次の展開を見守っている。

 さっきの二つのギルドの衝突は25層。でもこの第二グループの先頭を行くギルドはもう、28層まで到達しているらしい。さっきのを見ちまったから、あのオリーヴェルってギルドを応援したいけど…もうトップは随分先だぞ?


 「やっぱり今先頭を行ってるギルドで決まりか…?」

 「それは分からないよ、ステイト君。もし運悪く、先頭を行ってるギルドがトラップや魔物の大量発生した部屋なんかに入っちゃったりしたら…」


 そこでミンミの言葉が途切れた。あちゃ、という表情でミンミが画面を見つめる。俺もミンミから画面に視線を移す…と。なんと、ミンミの言った通りになっていた!

切り替わった画面の中では、たくさんの魔物に囲まれる戦士3人組がいる。けっこう苦戦してるみたいで、すっかり囲まれて進むことも退くこともできないらしい。


 「うわー、前にミンミと一緒に潜ったことを思い出すぜ」

 「あのときは大変だったもんね…」


 そう。ミンミも苦笑いするあの思い出だ。魔物に囲まれる気分はどうだ?なんて聞かれることがあったら、俺は尋ねて来た奴の頭を100回蹴り飛ばさないと気が治まらないかもしれねぇってほどにはヤな感じ!

俺には魔物討伐クエストなんて、簡単なクエストしかこなせねーや。いや、本当に!


 画面の中では、3人の腕利きらしい男たちが、それぞれの武器を巧みに魔物に撃ちこんでいく。けどさすがは第28層…!魔物もけっこう手強い!あんな重そうな攻撃を食らっても、一発じゃ沈まないようだ。

俺だとあんな魔物一体相手するのに一日かかるかも、とさえ思う。うん、そんな機会はいらねーぞ!


 だけどそこはさすが、屈強な戦士たちだ。見事に三人で力を合わせ、次々に魔物を撃破していく!体力こそ削られてるけど、彼らにとってはこんなものは足止めにしかならないんだろうな。…うおーっ、かっこいい!

思わず南国果実をじっくりと味わうことも忘れ、俺は画面を食い入るように見つめた。鮮やかな戦闘のお手並みは、質のいい人形劇でも見ているみたいで…。


 ――ズバババンッ!!


 『出ましたーっ!!剣士ビルの連続斬り!集まっていた魔物が、なんとすべて撃破されましたーーっ!!』


 オオオォオオッ!!


 「…俺、恐い」

 「私も戦うのは嫌かなぁ…」


 あーんなおっそろしい魔物を!たった三人で!全撃破!満身創痍ってほどじゃないけどそれなりに疲れを見せる戦士たちは、ハァーッとこっちにもため息が聞こえそうなほどに息をつき、しばし休憩をとるみたいだった。

確かに、息をつく間もない戦闘だったよな…!俺、あんな持久戦できねぇよ…!自分より大きい魔物がわんさかいる中を…うわー。ロロターナの戦士、ホンモノだな…っ!


 結局その後も俺とミンミは黙って画面を見つめ、あの3人の戦士がとうとう一着で30層に辿り着いたときには、二人で顔を見合わせちまった。…すげぇーっ!まだ心臓がバクバク言ってるぞ、俺!…ふおおぉーっ!

技を盗むとか、そんなことできっこない。あれは経験を積み重ねた動きで、今までに培われた経験値そのものだ!気づかない間に強く拳を握っていた自分に気づき、そっと力を抜いて手を広げた。


 「…圧倒的だな」

 「えぇ…。…私たち、まだまだなんだね…」


 こんなに賑やかで暑い空の下、俺とミンミは広場の隅っこでまた顔を見合わせた。ふと、ミンミが少し遠くを見ているように思えて、あれ、と俺は首をかしげる。


 「…ミンミ?」

 「…あ、えっと!考え事してたの。…私ね、両親が死んじゃったって言ってたよね。お父さんもお母さんも、元々は国に仕えていた戦士だったって聞いてて…。お父さんもお母さんも、こんなふうに強かったのかなって」


 なんてね、とミンミが笑ってみせる。けどそんな反応に俺は考える前にすぐ頷いていた。ぐ、とまた拳を作って、ミンミの綺麗な目をまっすぐに覗き込む。 


 「…そりゃ、そうに決まってるぜ。だってミンミは勇敢だし、魔法も強いし、しっかりしてるし!俺、まだミンミと知り合ってちょっとしか経たないけどさ…、頼れるなって思う」

 「そ、そうかな?そんなことないよ!ステイト君だって…」

 「俺はまだまだだ。気づけば誰かに守られてばかりでさ、自分の進歩なんてちょっとだけなんだからな。けどミンミは自分で前に進もうとしてる。きっと…ミンミの父さんたちも、すごい人だったに決まってる」


 ミンミが、ぱ、と表情を失った。ぽかんとして口を小さく開け、俺の顔をじーっと見つめる。相変わらず広場の中心は異様な熱気に包まれてるのに、俺たちのいる日陰には涼しくて気持ちのいい風が僅かに吹き込んできた。


 それからミンミの顔が、ちょっとずつ崩れてふいに下を向く。す、とミンミの細い手が俺の手を取り、その手を強く握る。ひんやりと冷たいミンミの手が、少しあったかくなった。

ミンミが下を向いたまま、あはは、と小さく笑った。


 「…ありがとう、ステイト君。私、追いかけていたいの…もう会えないお父さんたちを、ずっと。いつになったら追いつけるかも分からないけど、すっごく強くて優しい魔法使いになりたい」

 「…なれる!ミンミならロロターナで一番の魔法使いになれるぜ」

 「…うん!じゃあ、私…なるね!武闘大会に出られるようになったら、ずっと一番になる。ステイト君やシフィルハイドさんがシエゼ・ルキスにいても、私の噂がそっちへ流れていくぐらいにまでは強くなる!」

 

 ぱっと顔を上げてにっこりと微笑んだミンミの目じりには、僅かに光の反射が輝いていた。キラ、とするそれはミンミの強い意思を表していて、俺は素直に応援したい気持ちと同時に、自分への情けなさを感じずにはいられなかった。


 あーあ、ミンミ、かっこいいなぁ。俺も…大陸一のトレジャーハンターになるとかって宣言できればいいのに。


 思わずそれを言いそうになったとき、俺の視界の端に陽の光に照らされた両手の指輪が輝いた。一瞬だけ、それが枷だと感じてしまい、すぐにその考えを振り払う。これ以上考えると余計なことをしてしまいそうで、俺はまた広場を見つめた。


 ちょうどそのとき、広場にアナウンスがかかる。


 『皆さま、お昼ご飯の時間ですよー!ロロターナには本日、あちこちに屋台が出ております!大会観戦もいいですが、是非南国の味自慢に挑んでみてください!

  さぁっ、そんな頃ですがいよいよ最終グループのダンジョン挑戦が始まります!皆さま、画面にもご注目くださいねーっ!』


 明るいアナウンス嬢の声が町中に響き、屋台のおっちゃんたちからもワァーッと声が上がる。広場にも食べ物を片手にしている人たちの姿が目立ち始め、そういやもう昼なのかと俺は周りを見渡した。

ミンミも日陰にまた座り直し、俺も適当に腰を下ろす。心なしか、観客が増えてるようにも見える。やっぱり最終グループが注目されてんだな。


 長い前置きもなく、画面にはすぐに地下ダンジョンの入り口の様子が映し出される。スタート位置はランダム!ギルドごとに転送魔法陣に乗り、同じ時刻に第一層目の別々の場所からスタートってわけだ。

い、いよいよか。ラグリマ、ちゃんとやってくれよ!ゼツイさんはきっと大丈夫だ、…問題はあの黒髪バカ騎士野郎!変なことやらかすんじゃねーぞ!


 ざわざわと盛り上がり始める観衆たちとは逆に、俺とミンミはすっかり黙り込んで緊張したまま画面を見つめる。アナウンス嬢がカウントダウンを始めた!う、うわ…来る…!


 『短気なロロターナの皆さま!いきますよ!それではスタートまで、5…4…3…2…1…、開始ーーーーッ!!』


 ウオオォォォオオオッ!!


 うるせーーーっ!!なんだってこんなにうるさい歓声をいちいちあげるんだロロターナの皆さまはーーっ!おかげで大盛り上がりだ!


 まず画面に映ったのは、あの大注目ギルド、ライデンシャフト!どうやらこの町で一番の実力を誇るトップギルドらしく、この広場の盛り上がりから見てもファンが一番多いのはこのギルドに違いない…!

迷うことなく薄暗いダンジョンを進み、戦うまでもない魔物たちの間を駆け抜けて素早く下層への道を探るその姿は、まさに王者の風格を醸し出している!


 次に映し出されたのは、綺麗な踊り子姿の女の人が、華麗に軽やかにダンジョンを走る姿!ギルド、ラファンダールだっけ?音声までは聞こえてこないけど、きっとあの衣装についている鈴が爽やかにダンジョン内に鳴り響いているんだろう。

やっぱり隣にいるミンミは、きゃーっと小さく声を上げてぶんぶんと手を振っていた。見よ、これがファンの姿だ!


 そしてぽんぽんとクヴァドラータの3人、ジャスペティアの3人が映る。その誰もが、戦うまでもない弱い魔物をまるで見えていないかのように無視して走り去る。魔物は健気にも襲い掛かるけど、軽くギルドの参加者たちはかわしていった。


 それからですよ。きますよ。ハイきた!エルマノス映りましたーっ!おおっ、3人とも走ってる…って、あれ?


 エルマノスの3人、ラグリマたちは他のギルド参加者たちと同じように一生懸命にダンジョン内を走り回っている。落ちているアイテムにも宝箱にも目もくれず、風のようにすさまじい勢いで走る。だけど、何か違うぞ?

ミンミも何か違和感に気づいたのか、薄暗いダンジョン内を駆け回る3人の姿を見つめた。何が変なんだ……って、あ!分かった!


 「「魔物が襲ってこない!」」


 おっとハモっちまった!ミンミと同時に顔を見合わせ、二人して互いを指さしながら同じタイミングで声を合わせてしまった図は多分めちゃくちゃ微笑ましいものだと思う…けど恥ずかしいから!

ミンミは全く気にしていない様子で、画面をさっと指さした。あれは…ニコラの魔剣か!


 「分かった!シフィルハイドさんの剣だね!あの剣が吐き出してるモヤモヤがきっと…!」

 「あいつの剣は、正真正銘本物の『魔剣』なんだ。使用者の魔力を効率よく使い、さまざまな戦い方で助けられる特殊剣!ニコラの野郎、レベルの低い魔物はあの魔剣の発する魔力で寄せ付けないつもりだな」

 「だけど、それじゃシフィルハイドさんの持ってる魔力が消費されちゃうんじゃ…」

 「それは心配いらねーよ。……だってさ、」


 俺は画面を見つめた。画面の中でひたすらに走る三人は皆一生懸命な表情だけど、揃って楽しそうな顔をしている。ニコラの涼しげな藍色の目の中に、子供のそれのような光が見えて思わず俺は小さく笑む。


 「あいつ、強いから」


 颯爽と駆け抜ける三人はあっという間に階段を見つけ出し、段飛ばしで下層へ降りていく。しくじるんじゃねーぞ、ニコラの野郎…。ギルドメンバーとしては新人のてめえがギルドの足引っ張ったら、かっこ悪いにも程があるぞ。

けど、どうしてか俺は、わくわくする気持ちよりももっと別の気持ちを感じていた。三人の大きな背中、気合の入った表情、全く何も恐れないような足取りは…これは、安心感っていうのか?

見ていても恐くないし、絶対にあいつらなら大丈夫って気がしてくる。あのニコラのことでさえ、…あー…、なんつーか、ほら。…あいつ、あんなに頼もしい奴だったんだな、って。


 思えば最近はずっと近くにいたから、俺が改めてあいつの実力を遠目に見ることになるのは久しぶりかもしれない。聖セレネへの旅の途中で再会してからずっと、あいつは俺の傍にいたことになるから。

聖セレネで俺が薬の副作用に倒れたときも、王都に戻るときも、王都で巨大スライムに負けそうになった時も、渓谷行きを決めたときも。そして、この南国行きにもついてきて…。


 「…あいつ、けっこう暇人だよな」

 「え?」

 「あ、いや」


 ぽりぽりと頬を掻きながらつぶやいた言葉にミンミが首を傾げるけど、俺はすぐに首を横に振った。画面をまた見ると、もう別のギルドが画面の中で一生懸命に階段を探す姿しか映っていなかった。


 広場がさらに盛り上がっていく中、俺はバスケットの中の南国果実にまた手を伸ばしてシャリ、とかじる。みずみずしい甘い果汁が口の中に広がり、んーっと背が伸びる。やっぱりコットリアの果実、パンフに載るだけあるな…!

 

 しっかし、武闘大会ね。やっぱり俺、見てるのは楽しいけど参加したいとは思わないな…。あんなに重そうな装備を引きずってあんなに広いダンジョン内を常に全力で駆けまわるなんてできないし、争うのは好きじゃないし。

そりゃまともに闘技場みたいに一騎打ち、とかよりはこういう形式の大会の方がマシだ。むしろ、こういうことなら俺の得意分野だな!探すことについての勘はいいし、戦わずに済むならそれでいいわけだ。

 ただ、そこはさすがに武闘大会というか。俺がぼんやりしてる間に、既に第10層ぐらいまで到達していたトップのギルド、ライデンシャフトの三人はそろそろ魔物を相手にし始めたらしい。


 まぁ、やっぱり魔物とは戦いたくないな!うん!疲れるし、最近じゃコアも売値が安くなってきたし、敢えて戦いたいなんて思うニコラたちの気持ちが分からない。

まだ手練れの戦士たちには第10層ごときの魔物なんて味気ないらしく、大会が始まる前に話していたあの綺麗な剣士の…なんて人だっけ?ティグレさんだっけ?その人が一閃のうちに魔物を何体も切り捨てていく。

その鮮やかなお手並みに、広場で観戦しているお嬢さん方がうっとりとため息をつく。確かに『キラキラキラ…』とか効果音がつきそうなほどに美しく金髪を揺らして戦うティグレさんの姿は見とれてしまうものがあるんだよな…。


 けどちょっと物足りない。シルもすごく綺麗に洗練された美しい動きで戦うけど、シルやティグレさんのような美しい絵画のような戦い方は憧れるもののどこか俺には物足りなく感じてしまう。いや、シルたちもすごいんだぞ!?

シルの戦い方なんて、俺、戦うことをほったらかしてずっと見ておきたくなるぐらいだし!余裕そうに赤い瞳が輝いて、普段とは違う鋭い雰囲気のシルがニィッとわずかに笑いながら杖を振り回すところなんて…うん、やっぱり恐い。


 と、シルのことを思い出して一人で変な表情を作ってると、ミンミが小さく声を上げた。


 「あ!」

 「え?どうしたんだ?」

 「私の応援してるギルド、ラファンダールが魔物の群れが発生してる部屋に入っちゃったみたいー…きゃああっ、がんばってーっ!」

 「だからミンミさん、エルマノスの応援は?」


 ミンミが必死にぶんぶんと拳を振り回しながら声を上げる。俺、その隣で笑いながら頭をかく。ちら、と見ると画面の中では綺麗な女の人三人組が魚に足が生えたような魔物の群れに囲まれていた。うわー、なんだあの魔物!魚人?

魔物たちは鋭いかぎづめとトゲトゲのウロコを持っていて、あんなに綺麗な女の人が相手でも容赦なく襲い掛かる。きゃあ、と広場の観客たちが口を覆い……って、おおっ!?

 

 ―――ブワァンッ!!


 くるりっ、と美しく舞ってみせた女の人から炎が溢れだす!詠唱してなかったよな…、ただくるっと回って、それから炎がぶわーっと!炎は魔物たちを焼き尽くし、すぐに部屋は何もなかったように平穏を取り戻した…!


 『きましたーッ!!魔法使いギルド、ラファンダール!その美しい舞は魔法を発動し、情熱的に魔物の群れを焦がしてしまいましたっ!』


 ―――ワアアァァアアーッ!!


 す、すげぇ…!あんな魔法の発動方法ってあるのかよ!これは…ファンがつくのも納得だ…!女の人たちはすぐにまた走り出し、次の下層への入口へと向かっていく。か弱い踊り子のイメージが完全に払拭された…!


 「す、凄すぎだろ!」

 「ね!あー、私もあんな風に素敵に魔法を使ってみたいーっ!」


 ミンミさん、目が輝いてますって!ミンミもかっこいいけどなぁ、魔法を使ってるところ…。いや、もうさ、俺にとっては魔法が使えることそれ自体がすごく羨ましくてかっこよくて憧れるんだけどな!

だからなおさらさっきのラファンダールの美女三人組が凄いと言えばそうなんだけどっ!トルメルの力、つまりリウとかエスイルとかは別物なんだし、所詮無い物ねだりですよーだ。


 それからもころころと画面は移り変わり、観客を退屈させなかった。

あのちょっとワルそうな感じの戦闘系ギルド、クヴァドラータは今は第15層で順位は最下位、だけどその戦闘には勢いがあってあまり相手にはしたくない雰囲気だ。

踊り子魔法使いギルド、ラファンダールも鮮やかに美しく先へと進み、今は3位の20層目。あの女の人たちが映るたびに、広場のオッサンたちのため息が聞こえてきて俺とミンミはその度に笑っていた。

ロイヤルギルド、ジャスペティアはあまり目立たないけど第18層の4位。正統派な攻略方法で、何気にアイテム回収してるのが俺の共感を呼んだ。え?アイテムは拾うものだろ!回収してなんぼだ!

んで、トップを走るライデンシャフトはなんと!もう第25層!最下位の第15層とはもう10層分も違いをつけている!末恐ろしいぜ…。んで、次に続くのがエルマノスで、第23層。


 もちろんここはちゃんとエルマノスにも注目しておきたい。ラグリマは槍使いだけど、今日は小回りが利いた戦闘ができるように短めの槍をわざわざ準備したみたいだ。ときどき魔物にちょっかいかけて反撃され慌てるところが目撃されてる。

ゼツイさんはすばやく索敵と道案内をこなし、メンバーを引っ張っていく。ニコラも最後尾を守りながら、襲い掛かろうとする魔物に睨みを利かせてしっかり仕事をしてるようだった。


 けど、ここでやっぱり見ておきたいのがトップのライデンシャフトだ。派手とか、何か特別なことをしてるわけじゃないのにスムーズに層を制覇していく彼らは何者なんだろう?それに、やっぱりファンが多い。映るとすぐに歓声が上がる。

純粋に強く、バランスが取れてるんだ。先頭を剣士、ティグレさんが任されてて、敵を素早く見事に打ち倒す。数に困ると後ろの二人、ムキムキの鎧のオッサンがもう一人の魔法使いのお兄さんを守りながら戦う。

魔法使いの兄さんも、何やら魔法使いの知的でおとなしそうなイメージとは違って好戦的な表情を浮かべ、次々に強力な魔法を打ち出していく。…強いんだ、やっぱり。敵にかけるタイムロスが少ない!


 ミンミも緊張した表情で画面を見つめた。ちょうど画面の中では、ライデンシャフトの三人が余裕綽々に笑みを浮かべながら涼しげに魔物の群れを片付けているところだった。うげ、あの量をあんなに軽々と…!


 「ライデンシャフト…すごいね、やっぱり。さすがロロターナで一番の実力派ギルド…、フーゴさんたちは追いつけるかなぁ」

 「戦闘力はエルマノスもライデンシャフトに遜色ないんだろ?何で差が…」

 「やっぱり…勘の良さかな?フーゴさんたちも戦闘にかけてる時間はすごく短いの。けど、進む道の方向を決めてるリラさんの勘がいいのかな…、もちろんこっちの案内係、ナギリさんも勘はいい方なんだけど」

 「なんつーか、ライデンシャフトって何につけてもティグレさんなんだな」

 「綺麗で強くて大人気、男にも女にもモテるロロターナの有名人なのよね。ロロターナにやってきた異国の力自慢な戦士たちも、戦闘でリラさんに勝てた人は少ないの」


 そ、そんなに完璧だと逆に欠点を見つけたくなるのが人間の性ってもんだぜ…って、そうじゃなくて。じゃあ、このままのペースで進めばライデンシャフトがさらーっと優勝か!?

かといってエルマノスに奥の手はないし、うかうかしてると追いつくどころか、後ろに並ぶギルドに追い抜かされる可能性もあるわけで。ここで負けたら後で出張中のおやっさんが怒るだろう…。うひょー、恐っ!


 そんなこと言ったって俺にできることはないので、高みの見物を決め込みます!ラグリマ、ゼツイさん、頑張ってください!ニコラ、お前は調子に乗らなくていいからな!


 ちょうど、画面はエルマノスを映し出す。階段を足早に下りた先にはあの魚人魔物が待ち構えてる…けど、さっきまで見かけていた奴らよりどことなく強そうだ!かぎづめが大きいし、ウロコも毒々しい色…!俺、あんなのと戦いたくない…。

これはさすがに、ニコラの魔剣のオーラを使っても追い払えそうにない。なのにゼツイさんとラグリマは目もくれず魔物の脇を走り抜ける。あれ?追ってくるのに逃げるのか?


 と。画面に黒が映りこむ。ニヤッと人相悪く凛々しい表情が歪み、藍色の目が輝く。ニコラだ。ニコラは相変わらず、あの馬鹿でかくて重そうな魔の大剣を棒切れでも振り回してるように軽々と振るい、3体並ぶ魔物を一閃!二閃!三閃!

音までは伝わってこないけど、きっと魔物断末魔が響いただろうな…。三枚おろしの魔物がシュワッと消え失せ、ニコラはまたラグリマたちの後を何事もなかったような顔で追った。ラグリマたちはニコラに敵を任せてるのか…!


 ニコラの戦闘は正直、掟破りだ。体格はいいから攻撃力や体力があるのは分かる。だから重い鎧をゴテゴテ着こんだとしても戦える。けど、あいつの恐いところは、仮にそんな鎧を着てても何も感じてないように素早く動くことだ。

思い出してみよう、あの俺が屈辱的にも一撃でぶっ倒された闘技場でのことを!ガッションガッション音を立てて迫りくる鎧の野郎を!

 まして今日はあのときよりも随分軽装。そりゃ恐ろしい攻撃力を保ったまま、もっと素早く動けますよね。おまけに魔剣だ。ただでさえ魔法も得意で治癒魔法も使えるあいつに魔剣だ。鬼に金棒という表現がしっくりのぴったり!

 つまり、どんな面から見てもニコラの弱点はほぼない。魔法攻撃にも耐えうる特殊装備をあちこちに仕込んでるし、強い、堅い、速いの三拍子。…もう一度言おう、掟破りだ!


 ニコラのその力強い戦いに広場がさらにヒートアップするのは考えるまでもなかった。あちこちから、『あいつは誰だ!?』『なんだあのあんちゃんは!』『きゃー、かっこいいー!』『親衛隊マダー?』…って、うるさいわ!くそっ!

もういいよお前なんてロロターナに移住して一生ちやほやされてろバーカ!


 「ステイト君、シフィルハイドさんかっこよかったね!ね、ね、どうだった、ご感想はー?」

 「ミンミ、からかうなよな!何でミンミがにやにやしてるんだよっ!」

 「あはは!ううん、エルマノスもすっごいサポーターを手に入れちゃったなーって思ったの」


 それに間違いはないと思うけど。うん、お買い得だ。何故か嬉しそうににっこりしてるミンミに俺は首をかしげながら、小さく笑った。…俺、ニコラを倒すんだよな。俺に魔法は効かないのを差し引いても、戦闘技術に差があるのは明瞭だ。

うぐぐ…どうやったらあんな戦闘バカ野郎に勝てるんだよ。やっぱり罠にかけるしかないな。それが俺の戦い方だ!おーし、今度は落とし穴作戦で行くか…。


 あんな戦いっぷりを見せられたら、ますます俺が勝つイメージが見えにくくなるぜ。俺、どうやって勝つんだろう…。この短くて小さな短剣で、フル装備のニコラを倒せるか?リウやラエアを使えば或いは…いや、それじゃダメだ。

俺はニコラに勝ちたい。トルメルの特別な力じゃなくって、自分の持つ実力で。足で走って、手にナイフを持ち、あいつの堅い鎧につきたて、跳ね返されて…て、跳ね返されちゃダメだ!

ミンミを見ると、にこっと笑って小さく瞬きをする。俺はミンミの綺麗な青い目を見て、グッと拳を作った。


 「…ミンミ、俺、宣言しとく。ミンミが一番強い魔法使いになるなら、俺の目標は一つ!あの馬鹿騎士ニコラを倒すことだ!」

 「なるほどねー、ステイト君にとってのシフィルハイドさんは『憧れ』なのね。うん!じゃああとは目標達成まで修行だね!なかなか手ごわそうだけど?」  

 「うぐっ、み、見くびるなよ!いつかニコラを泣かしてみせるっ!土下座させてやるよ!」


 え?現実味は、って?あ、あ、あるに決まってんだろ!あー、楽しみだなぁあいつが悔しがるところ!参りましたステイト様、ぐらいは言わせてやるんだからな!


 その頃にはきっと、聖剣騒動もなんとかなって、皆が安心して過ごせて、シルも無事に国に帰って、全部が丸く収まってるだろ。明るい未来だけ想像しよう。じゃないとやる気がなくなるからな。


 俺とミンミが画面に向き直った時だった。オオオオォーッと大きなどよめきが起きるのと同時に、アナウンスが実況を伝える。


 『なんということでしょう!落とし穴ハプニングです!エルマノスのお調子者、ラグリマ・フーゴが落とし穴に落ちましたーッ!』


 「何やってんだラグリマ!」

 「フーゴさん…」


 パッと映し出された画面には、ボコッと開いた大穴!これは大人3人ぐらいが余裕に通り抜けられそうな穴だ…。…けど、底が見えないぞ?素早くゼツイさんとニコラが穴の傍まで駆け寄り…、…あ、穴に飛び込んだっ!

大丈夫なのか!?もし穴の底にトラップでもあったら…っ!それこそ3人まとめてアウトになるかもしれないのに!はらはらとしたアナウンスの緊張した声が広場に響いた。

 

 『続いて、残る二人のメンバーも穴に飛び込みましたーッ!その先はどこにつながるのか!?今、3人の行方を追っています!………ああぁっ!なんということでしょう!これは…っ!』


 ザワザワザワッと、観衆の笑い声が驚きの声に変わる。え、何だ?どうなったんだよ!?ミンミと二人で背伸びして、画面を見つめる。また切り替わった画面は、…うおおおっ!?この図は!


 聞いて驚け。…なんと!第25層までたどり着いていたラグリマたちは…、落とし穴を落ちて、見事に下の層に転がり落ちていた!落とし穴の中をラグリマは滑り台のように滑って来たらしく、お尻を押さえて跳ねまわっている…。情けない…。

そして、壁に開いた穴から鉢巻をなびかせてゼツイさんが身軽に登場!着地を決めてすぐに飛び退くと、直後にニコラが勢いよく穴から滑り出てきて華麗に着地!…遊園地じゃあるまいし…。


 まさかそんな層と層の移動方法があるなんて、と俺は肩をすくめた。ミンミも苦笑いを浮かべて、俺に何かを言おうと口を開き…ぴたっと止まる。つ、とミンミが静かに画面を指さす。他の観客も、水を打ったようになり、静まり返る。


 画面の中では。お尻を押さえて跳ねまわるラグリマが動きを止め、槍を握り直して緊張の表情を浮かべていた。ゼツイさんは厳しい表情で前方を睨み、ニコラは警戒した様子でさらに魔剣からの魔力を噴出させていた。

その目の前には……、3人の戦士たちがいた。女と見間違うほどの美しい長い金髪の剣士に、スキンヘッドの鎧のオッサン、そして好戦的にニヤッと歯を見せた魔法使い。


 震える声で、実況が広場中に響き渡った!


 『これはどんな運命の示し合せか!?エルマノス、なんと落とし穴の先は第28層…!第25層から一気にショートカットで移動してしまいました!しかしその先で偶然鉢合わせたのは、トップのライデンシャフトですーーーッ!!』

 

 ―――ドワアアアァァッ!!


 『おい、これはどういうことだ!?』『エルマノス、一気にトップに追いついたんだって!』『しかも、ライデンシャフトと鉢合わせかよ!』『まさか…ここにきて首位争いで戦うのか…!?』


 か、観客が驚くのも無理ない!事実、大会観戦に慣れてるはずのミンミでさえ、ぽかーんと表情を失って口を開けたまま画面を見つめている。俺はミンミに小声で聞いた。俺の視線はまだ、画面の中の動向を見守っている。


 「ミンミ、どういうことなんだ…これ」

 「…フーゴさんの幸運は、層のショートカット。だけどライデンシャフトに鉢合わせてしまったことは……。…ここで戦ったら、リスクが大きい…!」

 「けど、戦わないこともあるんだろ?じゃあ…」

 「うん。あと2層でゴールなのに、戦ったらどちらかはそれを無に帰されるわけだから…。だったら2位のがマシ。賢明なら両者は戦闘を避けるはずだけど…」


 そこでミンミが言いよどむ。眉を寄せ、黙って画面の中を見つめるのは他の観客も同じだった。あんなに激しくうるさく観戦してたのに、この静まりようは異常だ。…何が起きるか、注目されるのは当たり前だけど…!


 「…もし、よ。どちらかが賭けに出てしまったら?3位以下のギルドとは大差をつけてる。3位のラファンダールはまだ第22層。つまり、もうエルマノスとライデンシャフトのどちらかが優勝を決める流れなの」

 「…そこで、ライデンシャフトもエルマノスも1位にこだわってるとしたら。1位以外に興味がないなら…!」

 「2位も失格も同じなら、ここで勝負をつけにかかるはず!そうなれば記憶に残る試合になるだろうけど…正直、ライデンシャフトの方が強いかもしれない!フーゴさん、ナギリさん…どうか踏みとどまって!」


 そりゃ、見てる周りからすりゃ、失格なんかよりも2位の方がマシに決まってる!惜しかったなー、ってとこだ。ここで大博打に出て失格なんて…勿体なさすぎるだろ…!


 もう南国の照りつける日差しの暑さも感じられないほどに、この広場全体が集中していた。実況のアナウンスさえも、屋台の売り子たちも、皆が静まり返る。聞こえるのは風の音と波の音、そして近くの人間の息遣い。


 ……いったいこの大会、どうなるってんだ…!?



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