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ルキスの剣  作者: 夜津
第二章 トルメルの子
54/131

51 地下迷宮へ


 「ミンミ!後ろだ!」

 「大丈夫よ、ステイト君も前を見て!」


 ズガンッ、とミンミがクロスボウの矢を撃ちだすと俺の後ろにいた魔物が吹き飛ぶ。俺はそれを振り返らず、そのままミンミの背後にいた魔物に斬りかかった!

確かな手ごたえを感じた後、薄暗いダンジョンの中で淡い光を放ちながら魔物が消えていく。…ふぅー。


 辺りに魔物がいなくなったのを見て、俺とミンミは顔を見合わせた。そして、同時ににっこりする。よっしゃ!俺たち、なかなかいけるぜ!



 **


 俺とミンミは二人でココムの塔の地下迷宮に来ていた。もちろん、観光は後回し!まず、俺たち二人で行けるところまで行ってみようぜってことでダンジョンに潜り始めたんだ。

けどさ、ココムの塔自体はあくまで塔だし、そりゃ広いけどたいしたもんじゃない。…なのに、その塔の地下のこのダンジョンは各フロアも広いったらない!何がすぐに攻略できる、だ!


 ココムの塔は海からザパーンって突き抜けて空へと伸びてるけど、この海の中にあるはずのダンジョンは海の気配もしない。しっかりと建築物として成り立ってんだろうけど、塔の狭さからは想像つかない広さだ。


 つまりは真っ暗な洞窟みたいなかんじなんだけど、ちゃんと明かりが壁につけられてるし至る所に雑草やコケまで見えるから海の底へと降りて行ってるとは思えないな。


 俺たち以外にもちらほらと他の挑戦者が見える。俺とミンミがいるのは今は13層目。だいぶ潜ってるだろ?まぁ、…け、けっこう頑張ったからな。


 この地下迷宮はどうやら5層ごとに『番人』のゴーレムがいるみたいで、俺とミンミもここに来るまで二体倒してる。倒してる、というより 大人しくさせるってのが正しいのか?

ある程度ダメージを与えると、暴れまわってるゴーレムがピタッと動きを止めるんだ。その隙に、ゴーレムが行く手を阻んでた通路を通り抜けて次の層へつながる階段に行くってわけだ。

ちょうど俺とミンミがゴーレムに挑戦してた時は他の冒険者の人たちも助太刀してくれて、わりと楽に倒せた。ラッキーだったなー、アレ、倒してから一定時間経つと復活するらしいし。…ひえー…。


 だからここまで来るとだいぶ俺も慣れてきたぜ。もともと目とか耳はいいし、環境にも慣れた。突然現れる魔物にもすぐに対応できるようになったし!


 ミンミがポケットからビー玉みたいな道具を取り出して覗き込む。ミンミの細い指と指に挟まれてそのビー玉が黄色くきらっと光った。…って、それ…。


 「それ、なんだっけ?」

 「入り口でステイト君も買ったじゃないの!『ココムの証石』よ。この色は持ち主の体力を表してて、覗きこんだらほら、数字が浮かんでるでしょ?今いる層がどこなのか表示してくれるの」

 「あ、そういえば何か買ったな。…これか」


 ミンミが笑いながら言うのを聞いて、俺もポケットからそれを取り出す。そうそう、『ココムの証石』だ!このダンジョンに挑むのに必要不可欠な便利道具。体力と階層を示してくれるんだっけな。

でもあれ、おかしいぞ。俺の証石はちゃんと『13』って数字が浮かんでるんだけど、…む、無色透明だ。ミンミのは黄色いのに。


 「俺、体力ないのか?ピンピンしてんだけど」

 「…あれ?ほんとだ!おかしいな…どうしてだろ…。これ、塔の中ではちゃんと体力を示してくれるんだけど…。塔の外にいるときは無色透明のただのビー玉なんだけどね。

  体力が完全に有り余ってると緑、ちょっと疲れてると黄色、そろそろ危ないよーっていうのが赤色なの。体力ごとに色が変わるはずなんだけど…」

 

 つまりミンミはちょっと疲れてるってことだな。あちゃ、無理させちまったか…。けどそんなそぶりも見せず、ミンミは俺の手の証石を覗き込んでからひょいっとそれを取った。

すると、ミンミが持った瞬間にそれが無色透明から黄色に変わる。鮮やかな色の変化だ!うーん、とミンミが首をかしげる。


 「なんでだろうー…壊れてるんじゃないみたいね。…ひとまず、ステイト君の体力が表示されないのは不思議だけど…、無理しないようにしてね?」

 「あ、ああ。けど、変だよな」


 ちゃんと階層は表示されてるんだけど…。…ま、悩んでても仕方ないか。自分の体力なんて、自分で分かる!それに、俺なんかよりもミンミだ。俺はミンミをじっと見ながら言った。


 「それよりミンミ、その証石が黄色ってことはミンミもちょっと疲れてるんだよな」

 「あ、そうだね。けど大丈夫!ちょっとさっきは魔物が連続で出てきちゃったから…私は平気だよ!それに回復ポイントを見つければいいし…さ、ばんばん進もう!」

 「けど、回復ポイントなんてなかなか見つからねぇし…痛いところ見せてみろよ」


 ミンミの言ってる回復ポイントってのは、ダンジョンのどっかにたまにある文字通り体力回復ポイントだ。なんか、光り輝く水が溢れてるミニ噴水があるらしいんだけど、まだ俺はお目にかかれてない。

とーこーろーでー?俺が前回の精神的にツラい渓谷行きをしてまで手に入れた力はー?…そう!『エスイル』!主に回復とかができる技だ!全く使う機会がなかったけど、今なら使えるかもしれない。


 ミンミがちょっとためらいがちに右腕を上げた。がりがりの俺もびっくりするほど白くて細い腕に、ちょっと痣とか傷が見える。な、何が平気なんだ!

俺が驚いて顔を上げると、ミンミは慌てたように笑った。


 「い、いや、あのね!いつもこんな感じだから驚かなくてもいいの!見た目よりは全然痛くないし、」

 「ミンミ、ちょっとごめんな」


 そっとミンミの腕に触れる。普段の俺なら『う、うわー女の子の手だあああうわああっ』とか変に照れてたかもしれねぇんだけど、今回はちょっと違った。ただ何も考えず、自然に腕に触れていた。


 「癒せ、エスイル!」


 ―――ポゥッ


 薄暗い迷宮内に、小さな明かりがともるみたいに。淡い光が俺の手から溢れて、ミンミの腕に綺麗に吸い込まれて……次に光が収まると、その傷は全部治っていた。で、できた!


 「ほら、行こうぜ!怪我したら言えよな」

 「…す、すごい!本当に治癒術が使えるんだ、ステイト君!」

 「といっても、最近やっと使えるようになったからまだ失敗とかもするけどな。治しきれなかったら、悪い」

 「ううん!ありがとう!」


 ま、眩しい!ミンミの笑顔が眩しい…!そ、そんな感謝されるほどじゃねーのに!むしろ失敗しなくて良かったー!これで失敗してたら恥ずかしいってレベルじゃねぇ!

見るとミンミの証石が少しだけ緑がかっていた。やっぱりどっちかというと黄色のままだけど、これで助けになれたなら…やっぱ、嬉しい。

 俺がじっと自分の手を見つめてると、少し前にふらふらっと歩いて行ったミンミが俺を振り返りながら奥を指さした。


 「あ、ステイト君!すぐそこ、階段がある!」

 「とか言って。またダミー階段で魔物部屋に突撃ー、とかならねーよな?」

 「ご、ごめんって言ったじゃないのー!」


 うん。さっき、この層に来る前に階段を見つけて意気揚々と降りたらダミー階段で。下りた途端に魔物がぎゅうぎゅう詰めになってる部屋に入っちまって、ちょっと苦戦したばっかりだからな。

俺があはは、と笑うとミンミが頬を膨らませながら先に走って行った。うお、置いてくなよ!…けど、ミンミはすごく楽しそうだ。特別戦うことが好きってわけじゃないみたいだけど、冒険自体が楽しそう。

 ミンミは特別強いわけじゃなくって、そりゃ魔法だってすごいけど俺がこれまで出会ってるビックリ超人達と比べれば『安心できるほど普通』だ。けど、誰より楽しそうに前へ進んでいく。


 「…かっこいいな、ミンミ」

 「ステイト君?何か言ったー?」

 「別に何も!じゃ、階段下りてみるか!」

 「うんっ!」


 俺の小さなつぶやきはミンミに届いてないみたいだ。どうしてだろ、俺はいつも無い物ねだりだ。馬鹿みたいに強いニコラ、優しいシル、楽しそうなミンミ…。なんだか全部が誇らしくって眩しい。これ、皆俺の知り合いなんだぜ、って。

俺も誰かに誇りに思われるような日が来るんだろうか?そんなの俺が知る由もないんだけど、どうせなら歴史の本に載るくらい誇らしげになりたいもんだな。ふふん。


 さぁ、いっちょ進んでみるか!早く行かないと、ミンミに置いて行かれちまう!



 **

 

 そこからサクサク進めばよかったんですけどね。その次の14層目でけっこう俺たちは手痛い歓迎を受けることになりましてね。まぁ魔物パラダイス。わぁステキー…なわけねぇだろ!

ダミーでもトラップでもなく、単に魔物の大量発生と出くわしちまった俺たちは…。そりゃもう必死で戦ったよ。近くに他の冒険者もいないし、二人きりでバキバキメキメキと!


 魔物が湧いてるなー、けど戦うのだるいなー、んじゃ避けてこっちの通路に進もうかー、を繰り返してるうちに、逆に俺たちは魔物を集めちまったらしい。なんてこったい。

その間に次の層への階段が見つかりゃ良かったのに、結構歩いたのにもかかわらず運悪くまだ階段も何も見つからない。ちょっとした小部屋に追い詰められた俺たちは、部屋の隅っこで作戦会議をしていた。


 「ミンミ、俺たちけっこうさっきまで倒したよな?」

 「う、うん。10体は確実に」

 「…なのに、まだお開きじゃないみたいで」

 「困ったね」


 ミンミも俺もけっこう傷を負ってる状態だ。ミンミの証石はオレンジ色になりつつあるし、俺もちょっと疲れてきた。さっきまで連続攻撃と激しい動きに加えてリウの連発撃ちが続いてるんだ、バテて当然かもしれねぇな。

同じくミンミも、クロスボウの一矢ずつを確実に魔物の急所に当てつつ、水と氷魔法の絶え間ない攻撃を繰り返してる。きっともう精神力が擦り切れてるはずだ。


 ガオォッと目の前の狼みたいな魔物が低い声でうなったとき、とっさに俺は全力で手を地面に叩きつけて叫んだ!


 「氷の壁を張れ!リウッ!」


 ―――メキメキメキッ!


 その瞬間、俺の想定以上の立派な氷の壁が俺たちと魔物の間に立ちふさがった!俺とミンミは小部屋の壁と氷の壁の間に閉じ込められた状態。魔物たちが複数で氷の壁を壊そうと、外からガツンガツン叩いてる…。

うぎゃー、なんで透明なんだよ氷!余計に恐怖心が煽られるだけじゃねーか!


 「ひえーっ!なんで壁なんて張っちまったんだろう俺のバカ!」

 「違うよ、ステイト君!時間を稼いでくれたじゃない!…けど、もう薬草も残り少ないね。もっと持ってきてたら良かった」

 「俺も…。それに、さっきからエスイルも不発続きだし…」


 この層に入ってからこの通り戦闘が増えて、その焦りからか俺の発動するエスイルは失敗続きだった。ちょっとしか回復しなかったり、何も起こらなかったり、逆にボカンと爆発したり!まだ制御できてないのが見え見えだ。

そんなわけで回復に期待できず…ってうわああっ!氷の壁にヒビ入りはじめた!

 こうなったら覚悟するしかねぇな…!俺はミンミをかばうように前に立ち、両手にナイフを構えた。ナイフを二本使うのは久しぶりだな…!


 「ミンミ、援護頼む!」

 「わ、分かった!」


 ミンミが返事した瞬間!バキィンッと氷が砕け散った!…のと、同時に俺は動いていた。


 目の前の3体の狼のような魔物が揃いも揃って俺に鋭い爪を向けてるのを確認してから、俺はその下へ沈むように入りこむ。腹をそのままガッツリ切り裂き、一閃で3体撃破する!

けどまだまだその奥に魔物がジャカジャカと群れてるのが見える。俺が体勢を整えるそのわずかな間、ミンミのはっきりした声が響いた!


 「ミチェーリ!」


 ミンミの声に続いて、ビュオオオッと激しく風が吹き荒れる…いや、違う!これ…吹雪だ!雪が凄い勢いで吹き付けて魔物をじりじりと後退させてるんだ…!このチャンス、逃すわけにはいかねぇ!


 「覚悟しやがれ!」

 

 俺には何の影響もない吹雪の中、ただひたすらに俺はナイフを振るい続けた!といっても、そのほとんどがすべて右、左と一体につき二回の攻撃をしてるだけ。それでも吹雪で弱った魔物たちはあっさりと消えていく!


 やがて吹雪が収まる頃、この部屋にわんさか集まってた魔物がすべて消え去っていた。どうだ、俺たちの実力!…とかっこつけたいんだけど、ちょっと息上がってるんだよな…。はぁ…。

肩で息をしながらミンミを振り返る。ミンミも辛そうなのは同じで、苦しそうに笑ってから膝をついた。スカートが揺れたとき、その足に酷い傷を負ってるのが見えて俺ははっとした。


 「ミンミ!?」

 「ごめんね、ちょっと疲れちゃって。遠距離攻撃型の魔物がいたみたいで、さっきちょっと食らっちゃったの」

 

 そんな!気づかなかった…!ガチャ、とクロスボウを握りしめながら、ミンミはもう片手で証石を取り出す。…あ、赤くなってる…!


 「あはは、そんな顔しないで、ステイト君。私、死ぬわけじゃないんだから!ただもうそろそろ、入り口に引き戻されちゃいそうで悔しいの」

 「待ってろ、すぐに治すから…!」

 「いいの、ほら、もう石が光りだしたでしょ?これは強制送還の合図なの。うーん、14層かぁ、あとちょっとで自己最高記録を更新なんだけど…でも、よく頑張ったと思うの!

  むしろ、ステイト君がいなかったらここまで来られなかったし…。頼もしいんだね、ステイト君!」

 

 にこっと笑って、俺が海を見たときと同じようにピースサインを作るミンミ。けど、すっごく悔しそうで…ああくそ!どうして守れなかったんだ俺は…!


 「俺なんか全然…だってミンミをもっと下の層まで連れてくつもりだったのに…!」

 「また挑戦しようよ!もう少しコットリアにいるんでしょ?ね、行こう!…あ、そろそろ戻されちゃう。私、塔の入り口で待ってるから!気にしないで、行ける層まで行ってみて!」

 「ミンミ…ッ!」

 「じゃあ、頑張って!守ってくれてありがとう!」


 ヒュワンッと音が鳴った。その途端、ミンミは笑ったまま、その姿を消した。びっくりして呆然となって、俺はそこに立ち尽くした。…分かってる、ミンミが死んじまったわけじゃないのに、また入り口で会えるのに。

なんでこんなに悔しくて、なんでこんなに寂しいんだろう。さっきまで一生懸命に戦って、笑いながら進んできたこのダンジョンがやたら広く感じた。


 「…心細いなんて、思えるようになったんだな」


 情けない独り言だ。けど、ミンミのおかげでここまで来れた。さっきの窮地も乗り越えた。だったら俺は、もっと進むしかない!


 俺はまた足を動かし始めた。さっきよりも足早に。歩きながら何度も『エスイル』を試みたけど、相変わらずダメだ。ぷすっと不発するだけ。…まだまだ俺の心も乱れてるってことだな。

薄暗く人も見当たらないダンジョンの中を、俺はひたすらに階段を探して歩き続けた。



 **


 ―――ガキョンッ!


 「くっそ、やっぱ一人でやるにゃ重すぎるか」


 目の前のゴーレムはガッションガッションと音をたてながら、その巨体をゆっくりと動かして俺に近づいてくる。さっきから何度も放たれる魔法攻撃をスルーしながら俺も攻撃してるけど、やっぱり硬い!歯が立たねえ!

やっと階段を見つけて15層まできたっつーのに、まさか番人のゴーレムに挑戦してる冒険者が一人も見当たらないなんて!タイミング悪く来ちまった!

 それでも立ち止まるわけにいかない俺は、単身でゴーレムに戦いを挑んでるわけなんだけど…全く勝ち目がない。


 今までは一緒に戦ってた冒険者の人とかミンミが、各ゴーレムの持つ相性に有利な魔法を撃ち込んで楽に勝てた。けど、今の俺にはナイフしかない。リウもあるんだけど、なかなかタイミングを掴めずにいる。

リウってのは攻撃対象に直接触れてないと発動出来ないのが原則だから…。かといって近づいても、すぐにその柱みたいに太い金属か岩かでできたゴーレムの腕がとんでくる。あれに当たれば即瀕死確定!ご勘弁!


 そんなわけで、待てど暮らせど加勢してくれる冒険者は通りがからないし、俺の体力が減っていくだけ。つか、俺ほとんど逃げてるだけ!ナイフじゃ効かない、リウも撃たせてくれない!酷い!


 こいつは一旦退くしかないな。ゴーレムの目が届く範囲から一度離れよう…と、俺は隠れてた物陰から走り出す。俺の姿を捕捉されるけど、放たれる魔法攻撃が俺に無効なのはすごく助かるぜ。ひゅーっ!

それでもドッシンドッシンと勢いのある音が近づいてくるのは心臓に悪い。俺の何倍あるんだって図体してやがるし…!…さ、あと少しで上のフロアに戻る階段が、


 ―――ドガンッ!!


 「うおおおーっ!?」


 突然腕が俺のすぐ隣に振り下ろされた!そ、そんな近くにいるはずが…って、もうそんな近くに来てるし!そうか、体がデカいからいくらノロマでも歩幅があるんだ!

まるで闘技場のような造りになってるこの階を改めて見回す。くっそー、どうしようもないな!いかにも『ボス用』って感じの造りだ!さっきの攻撃でできた大穴を見てひやっとするけど、叩き潰されちゃどうしようもない!


 つかこれはいくら強制送還システムがあっても死ぬだろ、と思ってた時。再び腕が振り下ろされ、その圧に俺は吹っ飛ばされた!


 勢いよく体が壁に叩きつけられたと分かったのは、激しい痛みが体に巡ってからだ。ズキッと体中が痛む。この…、左手が感覚ないんだけど!おまけに頭もなんか生暖かいし…って、え?

ゆるゆると右手を頭になすりつけると、…うげげ。血、出てんじゃん。どっか切ったな。…つーか、これはそろそろ俺も強制送還対象だろ!?明らかに!なんで戻れないんだよ…!


 どしんどしんとゴーレムがゆっくり近づいてくるのを、俺は立ち上がりながら見据えた。そのとき、ズキッと傷んだ頭が何かを思い出させる。…そうだ、この塔は…。


 まだゴーレムは遠い。俺は物陰に隠れて、鞄から急いでココムの塔のパンフレットを引っ張り出した。…そう、俺が考える通りなら…もしかして…!


 「あった!」


 ココムの塔地下迷宮のシステム!魔物の召喚、強制送還システム、回復システム、そのすべてが『古代魔法』で動いてる!そう書いてある…のをなんで俺は確認しなかったんだ!

古代魔法も魔法だ!俺に効くわけないだろうがあああっ!つまり俺は、どんなに傷ついても回復スポットで回復できない上に強制送還されることもないのか…!

 どうりで『ココムの証石』に俺の体力が表示されないわけだ。あれが俺に直接干渉して、俺の体力を魔法で調べるものだとするならそりゃ使えないに決まってる。階層が表示されるのは、その魔法が塔の地下迷宮に向けられてるからだ。


 「死ぬまで戦うか、今からまた地上に戻れってか!」


 そりゃねーよ!当然戻ります!命は惜しいしこんなところで倒れるわけにはいかねぇからな!その前に、落ち着け。まずは治癒だ、もう一回挑戦するんだ…!


 「癒せ、エスイル!」


 ―――ポォウッ


 き、きた!まずは頭の傷をふさがねーと!エスイルを発動させた右手を頭に当てると、だんだん痛みがひいていくのを感じた。あと、左手も…、と思ったところで、いきなり視界が暗くなった。お?影?…え?


 ―――ドシーンッ!


 め、め、め、目の前にいらっしゃるー!これは…死ぬかもしれん…。ひく、と思わず口元が笑ってしまった。や、やべぇ。大きさだけで、その上からの視線だけで圧倒だ。冗談じゃねぇ…!

それでも無機質で心も持たないゴーレムが俺の気持ちを考えてくれるはずもなく。無慈悲にも俺の前で、本当に目と鼻の先で腕を振りかぶり…。


 その直前、俺ははじかれたように立ち上がって残りの体力を全部使う勢いで走り出した!もうどこでもいい!とにかく今は回避だ!足が地面を蹴る、ゴーレムの腕が地面に激突する、そして。

激しい衝撃波が地面を波打たせて広がり、俺の体もまた吹っ飛んだ!もう壁にぶつかったら気絶で済むか分からねぇぞ!うわわわ壁が壁が壁が!このままじゃ顔からぶつかる…っ!!


 一瞬だった。体が飛んで、迫る壁に目を見開いた時。まるでそこに『壁なんてなかった』かのように俺の体は何にもぶつかることなく『壁をすり抜け』た。あれっ、と思う間もなく、真っ暗闇の空間に体が放り出される。

ひゅーんっと呆気なく放り出された真っ暗闇で唖然とする。突然の暗闇に、頭も体もついていけない。何が起きた?どこに投げ出された?いや、壁は…?


 そう思ったかと思えば、今度はふわっと体に浮遊感が!あれ?あれ!?もしかして、これは…っ!


 「お、お、落ちてるーっ!!?」


 落ちてるー?てるー?るー?-…って、声がこだましてる!うわああああっ、底が見えねぇ!俺、どこまで落ちるんだ!?


 「その前にここはどこなんだあーっ!!」


 どこなんだー!なんだー!だー!-……。





 **


 

 真っ暗闇をどこまでも落ちていく。落ちて落ちて落ちて、なんだか変な声が聞こえてくるようになった。ああ、これは地底に住む闇の魔獣に違いない…!落ちてくる俺を食べようと待ち構えてるんだな…!

でも俺はただじゃ食われねぇぞ!せめてもの足掻き!待ってろよ地底魔獣の野郎!俺の全ての力を持って、


 「氷漬けにしてやらぁああああーっ……あれ」


 がばちょ、と俺は起き上がって拳を天に突き上げていた。…あれ、ここどこ。地底魔獣は?…いねぇ。…夢?だってここ…普通の部屋じゃんか。


 俺が目を覚ましたのはベッドの上。それも豪華なものじゃなくて、質素なやつ。そして部屋を見渡すと、そこは本当に普通の狭い部屋。テーブル、棚、ベッド、明かり、それと大きな本棚。床に敷いてある絨毯に不思議な模様が織り込まれてる。

ちょうど俺の暮らしてる王都の部屋ぐらいの広さで、ただ違和感があるとすれば窓がないことだ。壁にはよく分からない文字や図形で埋められた紙がたくさん貼り付けられてる。まるで研究所だな。


 それにしても俺、ここで何してるんだろう。ゴーレムと戦ってて、逃げて、吹っ飛んで、壁突き抜けて真っ暗なところに出て…落ちたんだ。じゃあここは?天井もある…よな。

うーん。さっぱり分からん。俺が首を捻ってると、ふいに懐かしい匂いがしてきた。薬草を煎じる匂いだ!その匂いを感じると同時に、奥の扉が開いた。


 「おや、目を覚ましたのかい。全く、人の部屋に天井を突き破って落ちてくるなんざ、失礼極まりないね」

 

 うわー、イヤミな感じ!ツンとしたしわがれ声が扉の向こうから聞こえたと思うと、背が低くて痩せた婆さんが入ってきた。ち、ちっさい。アリシアぐらいの大きさなんじゃね…?

婆さんはとんがり帽をかぶって、真っ黒なローブに身を包んでいる。その手にコップがあるけど、そこから薬草の匂いがする。いかにも魔法使いの婆さんって感じだな。

 ただ、目がやたらに力強いというか、ジロジロと俺を刺すように見つめてくる。ちょこちょこと俺の傍まで来て、ズイッとコップを俺に差し出してきた。


 「飲みな。あたしゃ、怪我でズタボロの男を部屋に置いとく趣味はないよ」

 「婆さん、誰だ?」

 「さっさと飲みな。いらないことは言うんじゃないよ」


 キッツーい性格みたいだ。むかっとするけど、今は婆さんに従っとこう。…きっと、俺を介抱してくれてるんだろうし……って、うわ!


 「なんだよこの薬湯!まずすぎ!」

 「つべこべぬかすんじゃないよ!普通薬湯ってのはこんなもんさ、これだから若い奴は嫌いだね」


 ヘッ、と婆さんが馬鹿にしたような目で俺を睨みながら鼻で笑った。感じ悪いにも程があるぞ!なんだよこの婆さんは!俺はすぐにコップから口を離して婆さんに怒鳴った!


 「俺だっていきなり壁を突き抜けて真っ暗なところに投げ出されて、落ちて気づいたらここなんだ!把握できてねーんだっての!」

 「…まぁ、普通はこんなとこにゃ辿り着けやしないからね。お前さんがどっか変なことはあたしも気づいてるさ。お前さん、この部屋の天井をぶち破って落ちてきたのさ。もう天井は直したがね」


 婆さんがテーブルの向こうの小さいソファに腰掛けて帽子を取った。さらに背がちっさく見えるぞ。それでも衰えない鋭い気配がざわり、と部屋を埋め尽くす。

なんつー捻くれてるヤな感じのバーさんだ、とは思うけど、突然の怪我人の来訪者をベッドで寝かせてやるくらいなんだから悪い人じゃないんだろうと確信してる自分がいる。


 婆さんはそれから何も言わずに、ただ俺を見つめてくる。…はいはい、自分から名乗るのが流儀だろってか。俺は顔をしかめながらもう一度薬湯のコップを手に取って言った。


 「俺はシエゼ・ルキスから来たステイトだ。…魔法を受け付けない体質を持ってる」

 「ほぉう。そりゃ、興味深いね」


 突然婆さんの目が光った。そうか、なるほどねぇ、とぶつぶつ小声で独り言呟いてるみたいだけど、なんだか不気味な感じだ。それから突然立ち上がり、火がついたように勢いよく本棚をあさる。

バンバンと数冊の本を取って開き、ジロジロと強い眼光を輝かせて本を見ているその姿はまさに『老魔女』。俺が眉を寄せてると、さらに強くなった眼光で婆さんが俺を見つめた。


 「トルメルとかいうやつかい?滅んだんじゃなかったのかね」 

 「俺が最後。末裔なんだよ。それより婆さん、俺は名乗ったぞ!次は婆さんが誰なのかを明かすべきじゃねーのか?」

 「それもそうだね」


 アッサリと婆さんが言ってにやりと笑う。な、なんだよこの風格は。ただの小さいイヤミなバーさんじゃないってのはひしひしと感じるけどさ…。

俺が黙り込んだのを見てから、婆さんが沈黙の下りる部屋に答えを出した。ご、ごくり…。


 「あたしゃバルバーラ。地上の奴らはあたしのことを、『塔守のババ』と呼ぶがね」

 「塔守の…?」


 塔守って、なんだ?ぽかんとした俺に、誇らしげに胸を張って婆さんが続けた。


 「そうさ。そして、後継者を探してる『古代魔法継承者』でもある」



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