44 南国への旅
馬車が走り始めて、かれこれ数時間。あまり天候のご機嫌がいいとは言えなくて、ちょっと雲が立ち込めてるのを俺は見上げた。
王都からコットリアへ直行してる観光客向けの馬車に乗り込んだはいいけど、あまりに退屈だ。ニコラ、馬車で資料読むと酔うぞ…。
南国コットリアへの旅計画を、俺はニコラと一緒に魔物討伐した日のうちに王やヨーウェンさんに話しておいた。急な話だけど、皆分かってくれて助かったぜ。
ジギスさんは資金援助や、何かあった時のための『証明書』を発行してくれた。証明書ってのは、何か有事の時に、俺とニコラが正式にシエゼ・ルキス王国の後ろ盾を受けているってことを証明してくれるやつな。
相変わらずジギスさんの傍で控えていたフェイさんに強く睨まれたんだけど、…なんで俺、あそこまで睨まれるんだろう…。ちょっと傷つく…。
けど、ヨーウェンさんに旅の本当の目的を言うことは結局できなかった。
魔族に追われてるから、とか、トルメルの道具を探すから…ってことはまだ打ち明けられないでいる。トルメルの件は一応口止めされてるから、俺がトルメルだと知る人はすごく少ない。多分ジギスさんもヨーウェンさんには伝えてないと思う。
ヨーウェンさんの薬草屋のバイトなのに、俺は長期の逃亡旅に出てたり、渓谷へ行ってみたり、と仕事を全くしてない。でも、ヨーウェンさんは俺を解雇したりはしなかった。
ただいつも、深く聞かずに送り出してくれるヨーウェンさんが、本当に心の底から俺は嬉しいんだ。
『すいません、ヨーウェンさん!帰ってきたばっかりなんですけど、俺…その、コットリアまで旅行してきます』
『うん、分かった。ちょっと長旅になりそうだね、怪我したり病気したりしないように気をつけてね』
そっけないほどあっさりした言葉が返ってきて、俺はちょっとびっくりした。いつもの優しい口調だったけど、こんなに最近うろうろしてる俺の事情も聞かないなんて…も、もしかして怒ってるのかなヨーウェンさん…。
と思って一瞬沈んだ俺に、ヨーウェンさんが手早く薬草セットを作って袋に入れて手渡してくれた。顔を上げると、不思議と安心させられる穏やかな微笑みがある。
『コットリアは海賊や山賊、盗賊もこの国より多いと聞くから。喧嘩っ早くて優しいスティ君だからね、すぐ怪我するんじゃないかって心配になるんだよ』
『お、俺…優しくなんかないです。本当にすいません、せっかく雇ってもらってるのに仕事全然できなくて、』
『いいんだよ、ううん、それよりもスティ君にやるべきことができたのが僕の何よりの幸せだ。…事情はよく知らないけれど、スティ君が話したくなった時に聞かせてくれればいいんだからね。
アリシアには新しい友達ができたから、しばらくそっちに夢中だろうなぁ。…ちょっと寂しいよ』
そう言いながらも笑ってくれるヨーウェンに、俺はちょっと迷った。事情、話すべきだろうか。けど話すことでヨーウェンさんに心配の種を増やしたくはない。俺はまた、ヨーウェンさんの気持ちに甘えることにしたんだ。
『…ありがとうございます、ヨーウェンさん。南国だけに自生してるような薬草、お土産に持って帰ってきます』
『本当に?嬉しいなぁ、楽しみにしておくね。けれど、僕は君が無事に笑って帰ってきてくれるだけでもいいんだ。ケガして帰ってきて、アリシアを心配させたら僕も怒るかもしれないよ?』
おどけたようにフフ、と笑うヨーウェンさんの底知れない恐ろしさが垣間見えた気がして、本気で俺は『無事に帰ってこよう絶対だ良い子のお約束だ!!』と心の中で叫んでたんだけどな。
アリシアはさっそくエルピスと遊びに出かけてて、そのときは一緒にいなかった。うーん、俺もヨーウェンさんの寂しさが分かる気がする…。けど、ヨーウェンさんを寂しくさせる要因の一つが俺だってことも申し訳ない…。
今朝、行ってくる挨拶をしに行った最後に、俺が薬草屋を出るときにヨーウェンさんがにっこりしてくれた。
『頑張ってね。いってらっしゃい、スティ君』
『…はい!いってきます!』
アリシアはまだ寝てたから会えずじまいだったけど、きっと俺が帰ってくる頃にぷんすか怒ってくれるだろうな。ごめんよアリシア。俺、今度こそ何かお土産買ってくるから…!
「…思えば、エルピスにアリシアを取られた気がしなくもないような」
「何を今更」
俺の思い出したようなつぶやきに、資料をしまいこんだニコラが答える。う、うるせーな。ニコラに肘鉄をかまそうとしたとき、ふと俺は思い出した。そういえば。
「あのさ。突然なんだけど、お前がエッケプレで引き当てたあの魔剣。あれって返さなくてもいいのか?」
「ああ、調べたんだが…持ち主の国が今、政治やら何やらでごたついているらしい。それが落ち着くまで俺が持っておくことにした」
「…あのさ、俺が言うのもなんだけど…それ、…いいのか…?」
「今まで行方をくらましていたものだ、バレなければ問題ない!」
うわー。仮にも騎士がこんなこと言って許されんのか…?そんなキリッとした表情でそんなこと言われても…。さらに詳細説明を始めたニコラの言葉をへいへいと聞き流してると、ちょうど馬車から行く先に小さな町が見え始めた。
『次はジェニ村で止まります、村内の食堂でお昼休憩としますー』
馬車の運転手兼旅のガイドであるオッサンが、馬を操りながら言うのが聞こえてきた。ふーん、ジェニ村って言うのか。のどかな草原と森の傍にある建物の連なりを見ながら、更に馬車に揺られた。
**
昼休憩を終えた後、また馬車は俺たちを乗せて一本道を突き進む。この馬車は観光用に使われてる直行便だから、俺とニコラも一般の観光客と一緒に馬車に乗り込んでる。聞けば、けっこう高い馬車らしい。
俺とニコラ以外にも馬車で暇そうにしてる客は多いらしく、最初は仲睦まじく話していた老夫婦もすっかり寝てしまってる。これがあと数日続くのか…退屈ってレベルじゃないな。
「なぁニコラ、この馬車って観光用だから騎士とかが管理してるんじゃないんだろ?」
「そうだ。旅行会社が管理している」
「でも道中、魔物が出たらどうするんだ?用心棒でも乗せてるのか?」
暇つぶしにニコラに聞いてると、ニコラが答える前にすぐ俺の前の席から声が聞こえた。
「おう、そうだぜ!旅行会社がギルドを雇って、ギルドの人間が護衛についてんだ。俺が、その用心棒なんだわ」
へっ?突然誰だよ。くるっと前の席に座っていた男の人が、ぐっと座席から身を乗り出して俺たちの方を向いた。うわ、この人頬にでっかい傷跡が!
思わず俺がそう思ってしまったのも無理ないはず。男の人にはクッキリとした頬の傷があった。ニコラ程体格は良くないけど、少なくとも戦士としては十分な体格。ギラギラした、ネコみたいに吊り上った目が印象的だ。
短く刈り上げた金髪に、両耳のピアス。肌は浅黒い。一見すると、チャラそうだけどなんだかコワーイ雰囲気の、…見た目30代くらいか?
ギラッと目を光らせながら男の人が言う。
「おっ、そっちのにーさんは強そうだな。俺より強いんじゃねーのか?ハッハ!けどアンタ、あんまり強そうじゃねーなァ」
「よ、余計なお世話だ!」
値踏みするような吊り上った眼に、思わず言い返す。なんだこの人?隣でニコラが軽く笑ってから、愛想よく聞いた。
「見たところ、コットリア出身ですね?」
「敬語なんて堅苦しい!そうだ、俺はコットリアのギルド、『エルマノス』のラグリマっつーもんだ。ラグリマ・フーゴ。老け顔だって言われんだがよ、…何歳に見えるんだ?俺」
ラグリマっていうのか。うーん、年齢かぁ。やっぱ30代前半くらいか?よし。俺はシュバッと手を挙げて元気よく返事した。
「31!」
「ふーむ。そっちのにーさん、どう思う?」
「…20代後半」
「なぁるほどなァ。…俺、今年で24なんだわ」
えっ。俺とニコラが顔を見合わせると、ラグリマの吊り上った青い目がちょっとだけしょぼんとしていた。…いや、確かに老け顔だ!あれか?日に焼けて浅黒い肌とか、傷とかが年を老けて見させてるんじゃ…!
「え、えっと!いやぁ、ダンディでワイルドでかっこいいと思うぜ俺は!な、なぁそうだよなニコラ!」
「あ?あ、まぁ…、そう思う」
おいもっと何か言えねーのかバカニコラ!けど、黙り込んで下を見ていたラグリマがちらっと振り返って、ぼそっと言った。うん?
「…本当に…そう思うか…?ダンディで…ワイルド…」
「あ、ああそりゃもうすっごく!肌とか日焼けしてるし、そこそこ筋肉ついてるし!いやー、モヤシどころかカイワレダイコンの俺には羨ましい限りで!」
「そ、そうだな、頬の傷もミステリアスで野性的で、雄々しく感じさせるというか」
俺とニコラの必死のフォローに、前の席でラグリマがしーんと黙り込む。おお、沈黙が痛い…。…そして、数秒後。
「だよなァーっ!いやぁ、やっぱ俺、かっこいいんだわな!ダンディでワイルド、野性的だがミステリアスで雄々しい!いよっ、俺様!」
「…俺はこの短い人生の中でここまで単純なやつを見たことがない」
「奇遇だな、俺もだ」
ハッハァー!と一人で悦に浸る24歳を見ながら、俺とニコラは小声で言い交していた。ニコラで21歳、俺で約17歳。なのに、あまり歳が近いようには見えない。けど黙っとこう、俺の少ない優しさだ…!
ギラリッと青い目が輝いて、にっこりとラグリマが笑った。
「いやァ、にーさん達気に入ったぜ!アンタらはシエゼ・ルキスからだな?」
「あぁ。俺、ステイト!コットリアのココムの塔に行きたいんだ」
「おっ、ココムの塔か!いいねぇ、あそこはいつ行っても綺麗な場所だ!一番オススメの観光スポットだぜ!」
おぉー、やっぱりココムの塔は現地人にとっても人気の場所なんだな!今回の旅はあまり魔物とビシバシやりあう必要もなさそうだ…!とにんまりした俺に、ラグリマが楽しそうに続けた。
「ココムの塔は登れば観光名所。だが、地下深くまではダンジョンが続いているんだわ。海から突き出てやがるのに不思議なもんだよなァ」
「…ダン、ジョン?」
「あァ、まだ誰も最下層には辿り着けてねぇっつー、戦士と言う戦士が挑戦する冒険スポット!魔物も湧く、塔の地下と思えない広さの地下迷宮、そりゃァ宝モンもいっぱいってわけだ!」
お、宝…だと…!ガタンッと思わず座席を立ち上がってヒシッと俺はラグリマの手を握った!
「お宝、あるんだな!?」
「都合いいほどザクザクだ!更に不思議なことに、力尽きると勝手に塔の入り口に送還されるんだ、だから心置きなく暴れまわれるっつーこと!俺も挑戦したなァ、先月入って第5層でやられた」
「…ちなみに、第何層が最高記録だ?」
「記録に残ってる中なら…第47層か」
…これは、ラグリマはあまり強くないってことでいいんだろうか。けど、いいこと聞いたぞ!お宝!南国のお宝が見えてきた…!ぐるんっとニコラを振り返ると、涼しい顔でふんっと鼻で笑われた。むかっ。
「お前一人ならせいぜい第一層で限界だな?」
「うるせー!俺は魔物が湧こうが天地がひっくり返ろうが、お宝のある場所に行くったら行くんだ!それに、そのダンジョンとやらに探し物があるかもしれねーだろ!つかてめぇ、知ってたのか!」
「当たり前だ。『武の祭典』はそのダンジョンで何層まで潜れるかが争われているんだからな」
知ってたんかい!けど、ニコラのその言葉にラグリマが目を輝かせた!
「おおっ、にーさんも誇り高き戦士ってわけだな!にーさん、なんていうんだ?」
「ニコラ・シフィルハイド。シエゼ・ルキスの騎士だ」
「騎士か!こりゃァ面白いことになる予感がするぜ!」
ラグリマのにかっとした笑いに、俺とニコラが首をかしげた。ふっふーん、と得意げにラグリマが説明を始める。
「コットリアは選挙で大統領が選ばれて政治すんだけど、王家の血筋がいないこともない。けど、今は飾りみたいなもんで、騎士ってのはその王家の専属の護衛だ。
つまり実質コットリアの『騎士』はたいして強くない、権力にしがみつくクサい野郎どもばっかりってわけ。
逆に力を持つのが俺たち『ギルド』ってわけだ!国に何かあればギルドは国のために力を合わせるっつールールもある。代わりに、国は毎月ギルドランキングの上位のギルドに金や貴重品を贈ってくれるんだわ!」
ギルドってのは一般の人たちの『寄合』みたいなもんで、もちろんシエゼ・ルキスにもある。けど、一応公式の騎士が魔物討伐とかしてるから民間企業であるギルドはあまり盛んじゃないんだよなぁ。
けど、コットリアは違うみたいだな。さすが共和国、国民の力が国を動かしてるっつーわけか!
「でも、そのギルドランキングって何だ?」
「あァ、これは正規に国に登録してるギルドが、どれだけ人や国のためになる活動をしたかでランキング付されてんだわ。クエストって分かるか?」
「依頼?」
「そう!そのクエストには難易度別にポイントが付けられてて、依頼達成するとギルドにポイントが貯まる。そのポイントが一番貯まってるギルドがナンバー1ってわけだ!」
「おぉっ、なんかすげぇな!」
なるほど、それで難しかったり重要な任務をギルドに委託して、国も得するし困ってる人も得するってわけか!しかもそれを助けるギルドの人間も一般人ってわけで…すげぇな。得意げにラグリマが続ける。
「俺の『エルマノス』も国内ギルド5本指には入るぜ。依頼をこなすほどポイントは貯まる、だから人数と実力、規模を兼ね備えたギルドほどいいってことだ。
だが、それじゃあ人数がいればいるほど得!ってことになる。それはフェアじゃねぇから、一つのギルドには定員50人って決められてんだ。自由に見えるが、ギルドってわりとルールがあるんだわ」
「へー。ギルドが中心の国家ってわけだな。でも、なんで騎士であるニコラがダンジョンに挑むのが面白いんだ?」
さっきのラグリマは『面白いことになる』って言ってたよな?何故。ラグリマは肩をすくめて答える。
「さっきも言った通り、騎士ってのはほぼ飾りで、実質家柄がいいやつの集まりの腰抜けだ。コットリアの人間は、『騎士』っつー肩書がなんとも情けなく見えるんだぜ。馬鹿にしてると言ってもいい。
だから他国の騎士であれ、『騎士』がそんな武の祭典に挑んだら囃し立てられること間違いねぇんだわ」
騎士の在り方、ねぇ。ニコラがニヤッと笑ってラグリマに言い返した。
「そっちの騎士がヘタレだろうが俺には構わん。シエゼ・ルキスの騎士の力を見せてやろう」
「おぉっ!いいねぇニコラにーさんよぉ!ステイトだったか、お前も見習え!」
「お断りだ!こいつはシエゼ・ルキスの騎士の中でもズバ抜けて戦闘バカの脳筋なだけだっつの!それに俺は騎士じゃねーって!善良なる一般市民だ!」
―――ゴチンッ!
「いってー!何しやがるバカニコラこの野郎!」
「誰が脳筋だ?それにてめぇのどこが"善良なる"だクソガキ」
「ハッハ!アンタら、仲いいんだなァ!」
くっそー!殴ることねぇだろ!つか仲良くねぇから!誰がこんなアホ騎士のことなんか、…うおおおおっ!!?
―――ギギギキキキーッ!
突然馬車が急停止した!危うく舌噛みそうになっただろ!代わりに前の座席に頭ぶつけた!もう目の前に星が見える!
「きゃああーっ!?」「何事かね!?」「どうしたんザマス!?」
乗ってる人が口々に叫ぶのが聞こえる…俺には目の前にお星さまが…お、戻ってきた。視界が戻ってくると、ラグリマとニコラが馬車の外の様子を窺っているのが見えた。な、何事だ?
「おい、何かあったのか?」
「ここからじゃ見えん。魔物でも出たのか?」
「俺、ちょっと降りて見てくらァ。待ってな」
窓からラグリマが素早く飛び出す。追って窓の外を見ると、運転手とラグリマの話し声が聞こえた。
『おいおい、何かあったんスか?』
『む、向こう見てくださいよ!ほら、あの道の先の森…!』
『…うげげっ、一人じゃキツそうだなァ』
察するに、魔物が出たな。ちらっと視線を向けると、この道の先に続く森の方に魔物が大量発生してるのが見えた。うひゃー、なんじゃありゃ。魔物がより取り見取り!
「ニコラ、魔物だ」
「分かっている。だがこの地域にあの量の魔物、…いくら聖剣がなくなったとは言え、尋常じゃない。この地域にこんなに魔物が多いとは報告も受けていないが」
「けど、出てるもんは出てるんだ。行かなきゃ」
ナイフあるよな、よし。薬草もポケットに忍ばせとこう。ちょうどラグリマが馬車の外から声をかけてきた。
「乗客のみなさーん!魔物出たんでちょっと待っててくれないスかね!あと腕に自信がある人、もしいたら手伝ってほしいんだわ!」
せいぜい8人乗りくらいの馬車だけど、二人が立ち上がった。一人は若い女の人、もう一人はお爺さん。…大丈夫かな。二人とも武器と服装から見て、魔法使い系だな。
俺は荷物を整頓するニコラの腕を引っ張った。
「行くぜ、お前の大好きな戦闘タイムだってよ!」
「…あぁ。…意外だな、お前が『行かなきゃ』と言うのは」
「ああん?まぁ、面倒くさいし戦うのヤだけど、俺の力でも数匹なら倒せるだろ。助けになれるなら、行かなきゃな」
そりゃ俺だってできれば戦いたくはねーよ!お前と違ってな、バカニコラ!ニコラも颯爽と馬車から降りて魔剣を取り出した。戦えるのは俺、ニコラ、ラグリマ、あとお姉さんとお爺さんか。
お姉さんとお爺さんが集まってきて、軽く自己紹介をしてきた。
「私、レリアと申します。コットリアのギルドに所属している魔法使いです、お力になります!」
「わしはオイゲン。聖セレネの神官ですじゃ、サポートなら任せてくだされ」
「おお、ありがとうなァ!俺は旅の用心棒のラグリマ!槍術士。よろしく頼むわ」
「ニコラ。シエゼ・ルキスの騎士」
「ステイト!短剣が武器だから接近戦するぜ」
さて。5人集まったのはいいけど、あの量倒せるかなー。ラグリマが馬車の運転手に、どこか安全なところに下がってるように指示をしてる間、ニコラがレリアさんたちに作戦を伝えた。
「俺とステイト、ラグリマが前衛をします。レリア嬢とオイゲン殿は後方から支援を頼みます」
「分かりました!」
「しかしあの魔物の数じゃ。大丈夫ですかな?」
「俺とこのガキのことは心配しないでください、ただ…馬車に護衛がいなくなるのが心配ですね」
ニコラの敬語って俺にはちょっと違和感があるんだよなー。そんなことを考えてると、オイゲンさんがほっほと笑った。
「わしが結界を張っておきますじゃ。若い者には負けませんぞ、聖セレネの神官は屈強ですじゃ」
「感謝します。…聖セレネの大神官殿や補佐殿には世話になりました」
「エリネヴィステ様とアストック様ですな!我らの光ですじゃ、あのお方たちは。元気すぎてわしも孫でも見ている気分でのう」
エリネヴィステさん、アストック。どうやら元気にしてるみたいだな。会いに行きたいな、と思ってたとき、ラグリマが馬車の積み荷から槍を取り出して走ってきた。おぉ、長い槍!
「そいじゃ、いっちょ行ってみっかァ!俺に続けーっ!」
「軽いノリだなー」
オイゲンさんが馬車に結界を張るのを見ながら、俺たち前衛組がまず森の近くまで走る。この辺りは見晴らしのいいなだらかな草原だから障害物がない分、実力勝負になる!
まずニコラが魔剣を天に構え、魔法の詠唱を始めた。それを見ながら、おぉっ、とラグリマが驚嘆の声を上げる。
「ニコラにーさん、魔法が使えるのか!しかもドデカい剣だな、特殊剣なのか?」
「アレは魔剣だってさ。さ、ラグリマ!あいつはほっといても大丈夫だから俺たちもやるぜ!」
「おうよ!」
俺たちが近づいてきたのを認識した魔物たちが、森の中から徐々に姿を現し始めた!種類、属性、大きさ…とにかくいろんな奴でいっぱいだ!すごい速さで吹っ飛んできたデカい蜂みたいな魔物をナイフで退けつつ、叫ぶ。
「俺のこともほっといてくれていいからな!」
「けど、弱そうじゃねーか。俺は弱いやつはほっとけねーんだわ」
「よ・わ・く・な・い!見てろよ!」
ラグリマの『弱い』発言は俺に火をつけるのに十分だった!確かに向こうでさっそく魔物狩りの鬼と化し始めたニコラ殿と比べられたらちょーっとぐらい弱いかもしれないけどな、俺だって…やるときゃやる!
ブンブンとうるさい蜂型魔物にイラァッときた俺は、両手にナイフを握って跳びあがった!相手も速さを武器にする魔物、でも俺が相手だったのが悪かったな!
「ブンブンうるせぇんだよっ!」
宙に浮かぶ魔物の翅をざっくり切り裂く!一度のナイフの軌跡は同時に3体の魔物を裂き、もう片手でさらに斬る!と、跳躍した着地地点にさらに魔物が!大型のカブトムシみたいな魔物を、俺は思い切り踏みつけた!
そのまま体を捻ってナイフを突き刺し、…いくぜ!
「凍てつけ!リウッ!」
―――ビキッ!
小気味いい音が響き、カブトムシ魔物が一気に氷漬けになる!よっしゃ大成功!最近では、あんまり強くない魔物なら一発で丸ごと氷漬けができるようになってんだぜ!どやさ!
さらにそのまま休まず、さっき攻撃した3体の魔物に向き直る。ダメージは与えたけど、まだ倒しきったわけじゃない。けど、とどめだ!
「どらぁっ!」
短い短剣を前に突き出しながら、まるで槍で突くような刺突攻撃を繰り出す!ギギィッと不快な音を挙げながら消えて、コアを落としていった魔物を見届けた。…よっしゃ!
「これで4体!」
「…おいおい!なんだァ、やるじゃねーかステイト!見直したぜ…そいじゃ、俺も負けてられねーなァ!」
おっ、どうやらラグリマにも火がついたみたいだな!ラグリマの武器は長さのある槍。それを生かして、俺じゃ届かない距離の魔物をサクッと貫いていく!
「なんだなんだァ?ひ弱な魔物だな、数はいても所詮スッカラカンじゃねーか!」
「余裕だな!結構短剣じゃ硬いんだけど!」
「そりゃあ、アンタの力が足りねーだけだ!」
すぐ傍で俺に飛びかかろうとしていた魔物を、ズドンと勢いよくラグリマが突き刺す!こ、こんな一突きで倒せるなんてよっぽどだぞ!ラグリマもそこそこ…強いってわけか!負けてられっかよ!
しばらく戦い続けてると、少し離れたところで、魔物が固まっているところに突如火柱が立ち上がった!後方のレリアさんの魔法だ!
「おー、彼女やるなァ。どこのギルドのやつだろうな」
「知り合い?」
「いんや!ギルドの人間なんてのは山のようにいるから、知り合いが多い俺でも知らない奴の方が多いに決まってら」
雑談してるように見えるけど、ちゃーんと魔物倒してるからな!俺なんかもうすでに5回目のリウ使ってんだぞ!俺だけでもう10体は倒したはず。ラグリマも、一発一発が大振りだから確実に魔物をしとめてるし!
あまり力がない分、素早さと小回りの利く戦闘の俺。そして、技に隙が大きい分、一発一発がデカくて強いラグリマはタッグを組むなら相性がいいんだな。
それだとニコラも相性いいだろ、ってことになるけど。ニコラは素早いうえに大振りな技を出せるオールマイティーだから、俺がいてもいらない子扱いだ。しかも防御も硬いとくるし。ニコラの隙と言えば魔法詠唱だけだな。
ズドンズドンと大きな音を発しながらレリアさんが中級・上級の魔法で支援してくれる。ニコラがいる向こうじゃ魔物の断末魔が絶えない。恐い。そして、こっちも健闘してるはずだ!
なのに…。なのに!
「だぁーっ!なんでこんなに絶え間なく出てくるんだよ魔物のバカヤロー!」
「落ち着けって、ステイト!確実に減ってると思うぜ俺は!」
ドシュ、バシッ、ガキンッ、ビキッ、ドガッ、ザシュッ!さっきから踏んだり蹴ったりな音ばっか響いてるぞ!足元コアだらけ、踏んでこけそう!ちょっと地面に気を遣いながら、また俺は目の前の魔物を氷漬けにした!
「うるぁーっ!!俺の体力が少ないのを知っての狼藉かーっ!」
「落ち着けってば、なァ!」
ったく、いつになったら終わるんだコレ!いい加減飽きてきた!と、そのとき。何か気配を感じて、俺は森の奥に目を凝らした。
…なんだ?何か、見られてた気がするんだけど。気のせい、…じゃねーはず。盗賊生活で培われた俺の気配察知能力…要するに勘は、誰かに見られてたと俺に告げてる。
「おいおい、ぼさっとすんな!」
すぐ俺の横の魔物をラグリマが突き刺した!あ、あぶね、ぼーっとしてた!
「悪い悪い!すぐ借りは返すぜ!」
「倍返しにしろ倍返し!」
「うるせー!調子のんな!」
慌てて短剣を握り直す。…けど、なんだったんだろう…さっきの。って、今は気にしてる場合じゃねえか!くっそ、魔物パラダイスはもうこりごりだぜ!
**
木の上で、戦闘を観察していた彼はため息をついた。捕獲対象であるターゲットがこちらをじっと見つめたときは、見つかったかと焦っていたが。
幸いにも、彼の差し向けた魔物がターゲットの注意を引いたらしい。ふぅーっとクマでどんよりとした顔を安堵に染めた。
「…しかしさぁ、やだなー。俺がターゲットっぽいやつ、一番に見つけちゃったってわけだよ…魔界に帰りたい、めんどい」
ぼそっと独り言を言うと、近くの枝に止まっていた鳥が逃げていった。それを見つめながら、彼はまた深くため息をつく。
「けどなー。あの茶髪の少年、ソレっぽいんだよなー。捕まえて魔界に戻るって指示だっけ…」
彼が差し向けた魔物でターゲットを弱らせ、その間に攫うつもりだった。が、思ったよりも捕獲対象である少年が強そうなことに彼はまたゲッソリとため息をつく。
が、ゆっくりと枝の上に立ち上がる。ぐっと体を揺らし、一度だけ伸びをしてあくびをすると、彼は戦う少年を見つめた。
「…捕まえよう。トルメルは、俺たちの…敵」
その目には、鋭い光が赤く光っていた。




