42 魔族の企み
ヨーウェンさんのところでおやつを楽しんだ後、俺は正午の鐘が鳴るのを聞きながらエルピスを連れて騎士団宿舎へ向かった。
すっかりご機嫌なエルピスは、宿舎入口で待っていたジャッテにぴょーんと飛びつき、これ以上ないっていう笑顔を見せる。うーん、あれだけならいいんだけどなぁ。
「ただ無邪気じゃないってのは可愛くねぇよ…」
「ステイトお兄ちゃん?何か言った?ねぇ?」
「おっと、何も申してなどおりませぬエルピスサマ。…ジャッテ、ほんとに世話していけるのか…こんなワガママ娘、じゃない、ガキンチョなんて」
「大丈夫大丈夫!やんちゃなぐらいが一番可愛いもんだと思うんだよなぁ」
「俺には理解できねーよ」
にこにこしてエルピスの頭を撫でるジャッテは、本当にエルピスの兄貴みたいに見える。…これでもう、エルピスはきっと寂しい思いをしないはずだ。少なくとも、渓谷に一人ぼっちにされるよりは。
そう思うと、多少はあのワガママも大目に見てやらねぇとな、って俺も思えてくる。
「そいじゃ、俺は自分の家に戻るぜ。エルピスを頼んだ!」
「任せてくれ!またいつでも遊びに来てくれよぉ!」
ばいばーい!と元気に手を振るエルピスに片手を挙げ、俺は騎士団宿舎を後にする。ふぅー、これで一段落だな。午後からはゆっくり休んで、明日に調べ物をしに行こう。
王都の道をてくてく歩いていると、きゃあーっ!と声がした!なんだよ物騒だな、何事だ!?
慌てて声が聞こえたほうへ走ると、そこは市場!昼のセールでたくさん人が集まってる中、ぽっかりと開けた場所がある。そこには一匹の魔物がいた!げげっ、前回のスライム事件を思い出すぞ…!
ったく、王都に魔物がこんなに出るなんて聞いてないっつーの!人垣を分けて進むと、スライムじゃなくてビリビリと電気を発する犬ぐらいの大きさのチョウチョっぽい魔物!
「こんな魔物までいるのかよ!」
隠しナイフを取り出し、俺は魔物に飛びかかる!もう前みたいなヘマはしない!…それに今回は観客が多いぞ!
『ステイトだー!』『元盗賊が魔物に向かって行った!』『何々、ちょっとあんた退いてよ!見えない!』『やっちまえクソガキー!』
「うるせぇ、見世物じゃねーんだからな!」
王都民うるせぇーっ!思い切り振りかぶって斬りつけた刃は、ひらりと魔物にかわされる。けどすぐに追撃!間をおかずに俺はそのナイフを捻った!ぐしゅ、と魔物の翅が布を裂くように傷つく!
―――グギィイイッ!
『うおおおぉっ、盛り上がってきた!』『なんだぁ、トロトロしてんじゃねぇぞー!』『ステイト調子出てねーぞぉぉっ!』
ほんとうるさいぞ王都民共!お前ら逃げろよ、魔物との戦いを観戦すんな!仮にも市場のど真ん中だぞ!俺が町の人を振り返った時、チョウチョのような魔物の触角が伸びて鞭のように俺を叩いた!いって!
―――ビリビリビリッ!
「いってててて!なんだこれ!」
触角に電気でも仕込んでやがったのか!俺が効かないのは魔法だから、魔物がもともと帯びてる電気とかは防げない!叩かれた場所から電気が走り、思わず動きを止めたとき。魔物が突進してきた!
けど当たらせねぇよ!すぐに回復し、すんでのところで俺は跳躍した!ひゅん、と地面が遠くなり、魔物が一瞬混乱する。そのまま落下する体で勢いをつけて…!
「くらえーっ!」
ザシュッと音が響き、確かな感覚が手を伝ってくる。ギュイイ、と魔物が悲鳴を上げて霧散し、ころんと地面にビー玉サイズのコアが転がった。うーん、小さいコアだ…。
着地してコアを拾い上げると、どどどっと町の人が押し掛ける!こいつら!
『さっすが我らがステイトだな!』『魔物なんてどうってことないわね!』『俺も体を鍛えるかな…!』『やったぞーっ!!』
すっかりエンターテイメント気分か!これはサーカスでも何でもないっつーのに!勝利だ勝利だと浮かれるオッサンたちにもみくちゃにされながら、俺は呆れた。この様子じゃもう王都に魔物が出ることに町の人は慣れてるみたいだな。
実際、さっきコアを買ってくれる店に行ったら買値が引き下げられてたし!ハンターや騎士、自警団、旅人、ギルドの戦士…、もう魔物を倒せる奴はごまんといるからな。
聖剣盗難騒動当初じゃ、コアも魔物も珍しいものだったけどすっかり今じゃ珍しくもないんだ。今や、魔物討伐で生計を立ててる奴が多いらしいし…。
町の人を適当に相手しながら輪を抜け、俺は再び家への道を歩き出す。魔物が珍しくない存在に…って、いいことじゃねーよな。魔物に傷つけられる人は増える一方だ。
「うん、良くない」
「アラ、何が良くないのかしら?」
「それは聖剣の加護がなくなった現状が……って!?お!?」
だ、誰だ!俺の独り言に乗っかってきたのは!慌てて声の聞こえたほうを振り向くと、暗くて細い路地で一人の美人がウインクして手招きしているのが見えた。
ウェーブした薄紫の長い髪、同じ色の瞳。耳にはゴツイ宝石のついた飾りがあるけど…その耳はぴんと尖っている。な、なんでこんなところにいやがる!?
「…ロザ!てめぇこんなとこで何を!」
「しぃーっ!アタシ、あまりこの町じゃ人目につきたくないのヨネ。ほら、こっちいらっしゃい、イイコト教えてあげるワ」
変態オネエ魔族ロザクオレ!こいつ、なんで王都に…!?聖セレネと違って魔族に寛容的じゃないこの国の王都で、魔族の姿なんか見られたら大騒ぎだぞ!
ロザはいつものように変に色っぽい仕草で唇を弧に描き、長い指を動かして俺を呼んでる。…行くべきか?ほっとくべきか?幸い、近くに人けはない…。俺は警戒しながら路地に近づいた。
路地の入口でストップする俺を、さらに奥の所で立ったまま見てにっこりとロザが微笑んだ。ふわっとキツい香水の匂いが漂ってる。くせっ。
「アナタに会いたくてわざわざ来たのヨ~、もっと歓迎してくれたっていいじゃないの!ほら、挨拶のキスでもサービスし・ちゃ・う・ワヨ!」
「挨拶のキックかまされたいのかてめぇ。何の用だよ!」
「だから、イイコト教えてあげたくって来たのヨ。耳貸してちょうだい?ほら、もっと近くにいらっしゃいヨ!」
「やなこった。…シルから、俺が魔族に探されてるって聞いた。お前が情報を流したんだろ!」
投げキッスしてくんな気持ち悪い!俺が一歩後ろに退き、思い切りロザを指さして叫ぶとその目が僅かに見開かれた。ぱし、とロザのまつ毛が揺れる。そして優雅に首をかしげた。
「アタシじゃないワ。アタシ、利益もないのに情報はあげないもの。…けど、アタシがアナタに伝えたかったことはそのことなのヨ!赤色ナイトくんから聞いてたのネ」
「なぁーにがイイコトだ。俺にとっちゃ厄介事だっつの!…ほんとにお前じゃねーのか?」
「ここでウソついてもアタシに得はないワヨ。…赤色ナイトくんより魔族側の事情は知ってるワ。ちょっとの情報料をもらえるなら、オテツダイしてあげてもいいと思って来たのヨ~」
しらばっくれんな、って言いたいところだけど本当にロザの仕業じゃないみたいだ。じゃあ、誰が俺の情報を?他に思いつく俺の知り合いの魔族はいねぇぞ。
けど今はそれより、ロザが言ったことだ。わざわざ魔族のロザが、魔族を歓迎しないこの王都に来てまで俺に伝えたいこと、か…。聞いてみる価値はあるかもしれねぇな。
「…俺、腹減ってんだよ。情報料は俺が作る昼食、密談の場所は俺の部屋ってことでどうだ?」
「アラッ!アナタのお部屋に行っていいのかしら?ウフフッ、いいワ!けどいいのかしら、アタシを部屋に連れ込むなんて…キャー!アブない雰囲気!」
「ここで俺にぶっとばされるのと、おとなしく飯食うのとどっちがいいんだ?ああん?」
「ヤダ、目が恐いワヨ!冗談じゃないの!」
長身のロザが髪をふぁさっと掻き上げながらウッフッフと笑う。ほんとぶっ飛ばしとこうかなコイツ。…いやいや待て待て、コッテリと情報を搾り取ってからぶっ飛ばそう…。
路地の外を見て、街中に人がいないのを確認する。俺の借りてる部屋があるのはすぐ近くの場所だ。俺が魔族…いや、どう見ても怪しい奴を連れ込んでるところはできるだけ見られたくない!さっさと移動しよう。
「いいか、黙ってさっさと着いて来いよ!お前みたいな変な奴連れて歩いてるところ、俺だって見られたくないんだからな!」
「ヒドイ~!けど、アタシも面倒事はあまり好きじゃないワ。案内よろしくネ~」
ひらひらとロザが手を振り、俺は肩をすくめながら頷いた。あぁもう、せっかく長旅が終わって休みたいところなのに…!次から次へと何か起きやがって!俺はイライラする気持ちを晴らすように全速力で町の通りを走り始めた!
タタタタッと軽く地を蹴りあっという間に建物の前まで来る。うまいこと誰にも見られてねーぞ!…つか、速く走りすぎたか?ロザを置いて来ちまったかも。それでもいいか。
「ふぅ、ただいま俺の家!」
「キャー、来ちゃったワ、アタシってば!ヤダ、照れる~」
「…ちゃんと着いてきてたのか…」
鍵を開けて扉を開き、すがすがしく言い放った俺の後ろでロザが歓声を上げていた。…こいつ…ほんと腹立つ…!ロザは自分の家のようにずかずか上り込んで棚とかをバンバン開けまくる。やめろてめぇ!
「ヤァダ、服が少ないじゃないの!アクセサリーも!アナタ何にお金使ってんのヨ~」
「食費と食費と食費だ!あと家賃!」
「もっと娯楽に使えばいいじゃないの…本もろくにないじゃない。アナタ、思ったよりキツキツの生活なのネ」
「失礼だな!」
ロザの言うとおりだけど!俺はけっこうキツキツだぞ生活に関しては!お宝大好きお金大好きだけど、それが俺の手元に居座り続けることはなかなかない。だから俺は永遠にお宝を追及してるわけで…!
って、そんなこと関係ない。部屋を勝手に漁るロザをほったらかして、俺はさくっと料理を作る。ありあわせの食材しかねぇけど、シルやニコラの料理よりは食えるはずだ。
あいつらの料理ってどこまで進化するんだろう。兵器的な意味で。そんなことを思いながらテーブルの上に料理を並べ、ロザに声をかけた。
「座れよ。食わねーなら帰れ」
「冷たいのネー、当然食べるワヨ!アラ、玉ねぎのスープ?これはスモーク肉ねぇ、このスパイスけっこうイイ値段のじゃないの。食費にお金かけてるのは本当なのネ~」
「ふふん」
感心したようにロザがしげしげと料理を見ながら口に運ぶ。そのままロザが親指を立ててニッコリとした。ふっふん、俺の料理が美味いのは当然だからな!
「それで?魔族が俺を追ってるってどういうことだよ?」
「あ、そうなのヨ~。アタシ、前にエッケプレで会ったじゃない?あの後、いろんな知り合いのところを歩いて回ってたの。そしたらまことしやかに噂が流れてたのヨ!
なんでも、茶髪の人間の少年が魔法効かないって体質で、これはおかしいってことになってるのヨ。トルメルの再来なんて言われてるみたいヨ」
「…ふぅん」
かちゃ、と木のスプーンに持ち替えながら俺もスープを飲む。うん、やっぱりいけてるな。…しっかし、トルメルねぇ。俺だって特定されるのも時間の問題か…。ロザはその綺麗な目を少し光らせた。
「トルメルについては知ってるのネ?じゃあ魔法の効かないアナタは…トルメル。それでいいのヨネ?」
「…ん。聖セレネの大神官のお墨付きだぜ」
「悔しいワ…アタシが真っ先にアナタの正体を暴くつもりだったのに!」
俺の肯定にロザは全く驚く様子はなかった。つまり、もう魔族側の認識としては『トルメルが今、この世にいる』ってことでいいんだな。俺は少し顔を険しくしてロザに聞いた。
「それで、ロザは俺をどうするんだ?」
「話が早いワ、せっかちさんネ!まず、背景を教えてあげるワ。魔族側は聖剣を手に入れて浮かれてるけど、トルメルの存在にちょっとビビってるワヨ。かの昔、境界戦争で魔族を追いこんだトルメルにネ」
「待った。魔族側が聖剣を手に入れただと?」
「そうヨ。聖剣盗難の犯人が魔族だと人間も知ってるんでしょ?聖剣の本来持つ『魔を退ける力』に苦心しながら、魔族は魔界に聖剣を届けようと必死。魔族の目的は聖剣を魔界に持ち込んで壊すことなのヨ」
アラッ、この玉ねぎもいけるじゃないのー!とか言いながら重大なこと言ってんじゃねぇ!思わず俺は言葉を失った。待て、俺は今、すっごく大事なことを聞いたぞ…!
「魔族の目的は、聖剣を壊すことだと!?どうして、」
「境界戦争で魔族を封印し、せまい魔界に追い込んで境界を作り出したのは聖剣の力なのヨ?そして、魔の力を無効化したトルメルも。魔族の目の上のたんこぶは聖剣とトルメルなの。
けど、トルメルは昔に魔族と欲のある人間が狩りつくしたのヨネ。だから実質、聖剣だけが恐いワケなの。前の魔王が境界戦争に敗れ、次の代の魔王は今もこんこんと眠りながら力をため続けてるワ。
それがそろそろいい具合になってきたから、いい加減平和ボケしてる人間から聖剣を奪って、今度は逆に魔族の天下に追い込もうと画策してるってワケなのヨ!」
ステキー!とロザが一人で手を組んで歓声を上げる。…おいおい。俺はなーんにもステキじゃないこと聞いちまったわけだが!?
「魔族による人間への報復と、世界征服!?」
「いい響きヨネ。聖剣は奪ったのだし、あとは聖剣が持つ聖なる力に対抗しながら魔界に持っていくだけなのヨ。魔界に行けば、力をため続けた魔族が一気に聖剣を壊す手筈!
そして世界を侵略ヨ。人間はどうなるのかしらネ?奴隷かしら、殺されるのかしら?それとも小さな世界に閉じ込められるのかしら?」
「ふっざけんな!聖剣はぜってー俺たちが取り返す!いいのかロザ、俺は聞いちまったからな!」
「いいのヨ、アタシは魔族のミカタでも人間のミカタでもなく、タノシイことが好きなだけ!それに…」
す、とロザの手が俺の方に伸びる。慌ててその手を払いのけようとしたら、それを見越したようにロザの手が動いて俺の手をかわす。ひた、とロザの掌が俺の頬を撫でた。
「聞いたところで人間はもうどうしようもないのだから、ネ?」
「…なんとかしてやるさ。ロザ、お前が楽しいことが好きなら楽しみにしとけよ。奇跡の逆転劇を見せてやる!」
「アラッ、素敵!応援しちゃうじゃないの~!本当にアナタってば、綺麗」
ぞわぁっ!ととと、鳥肌!バシッとロザの手を掴んで払いのけると、俺は荒っぽく立ち上がった!ああくそっ、重要なことをさらっと持ってきやがって!
「それで、俺が魔族に追われてることはどうしたんだよ!」
「さっきも話した通り、聖剣はもう魔族が手に入れたも同然と浮かれきってるのヨ。けど、魔族はトルメルのことも厄介に思ってるワ。どこぞでアナタを知った魔族が情報を広め、アナタを探してるのネ。
魔族の中には、魔物を操る者もいるワ。あなたの知り合いの魔族がアナタのことをチクったとは限らないのヨ?アナタの倒した魔物を通じて、アナタを知った魔族だっているでしょうし」
「つまり、誰が情報を広めたかは重要じゃないのか?」
「そう。そして、魔族はアナタのことがいよいよ重大に思えてきたのヨ」
ここでロザは昼飯を食べ終え、勝手にバスケットの中からパンを取り出してかじり始めた。ここはお前の家じゃないっての!って、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ!
「魔界から、アナタを探すためだけに組織されたチームが来てるって話も聞いたワヨ。見つけたら生け捕りなんですって。昔、魔族がトルメルを攫って実験を繰り広げたのは知ってるかしら?
魔族は研究熱心で自分の欲を我慢しないのヨ、知的好奇心を我慢できない魔族たちは現代に現れたトルメルを調べたくって調べたくってたまらないんですって!とんだ変態ネ」
「お前もな」
「ヤダ、アタシは実験体なんて無粋なこと認めないワ。あくまで行きつく先はアタシをどれだけ楽しませるか…オモチャになってくれるか、なのヨ」
「お前の方が変態だ!」
やっぱりロザの方が危険人物じゃねーか!一歩俺が後ずさるのを見て、ロザがウインクしながら唇を舐めた。うげげっ、ぞっとする!
「ま、アタシはあくまで個人的にアナタに興味があるだけヨ。ただ、一般的な魔族たちは、これから本格的にアナタを探し始めるってことネ」
「…俺は実験体にもてめぇのおもちゃにもなるつもりはねぇからな!邪魔する奴はぶっ飛ばす、俺は聖剣を取り返す、それで終わりだ!」
「ウフッ、勇敢ネ!それでこそヨ!ひとまず、アタシがアナタに伝えたかったことはこれでオシマイ。他に気になることはあるかしら?サービスするワヨ」
指を組んでニーッコリするロザに、俺はさっさと帰れと言いそうになって辞めた。気になること、そういえばあったぞ。
「前にエッケプレで俺たちが報酬に貰うはずだった『魔族のコイン』、あれ貰いそびれたんだけど」
「アラ、アナタにあげた服のポケットに忍ばせておいたワヨ。けど、アナタを捕獲するつもりの魔族に見せたって意味ないワヨ、きっと」
「まぁ持ってりゃ何かに使えるだろ。コイン貰っとくぜ」
ロザが立ち上がってくーっと伸びをする。身長高いな、ロザと言いニコラと言い。シルも俺より背高いんだし…悔しくなる。くっそー。俺だってもしかしたらこれから伸びるかもしれねーんだからな!
恨めしげにロザを睨みつつ、俺は皿を片付けながら聞いた。
「それにしても、なんで俺にこんなに話してくれる気になったんだよ」
「アタシのお気に入りがアッサリと他の輩のモノになって欲しくないだけヨ。アナタはアタシのもの!」
「よぉし、話は分かった。テメェはまずここでぶっとばす必要がありそうだな!」
「暴力反対ヨ!けど、アナタがアタシのものになってくれるなら、アタシ本気を出してアナタを守ってあげるワヨ?」
すっとロザが俺の前に立ちふさがって足を曲げた。なんだよ、邪魔だぞ!文句を言おうとする俺の前でロザが俺に目線を合わせ、その美しい顔で微笑む。
「ね?アタシと来ない?」
薄紫の髪からは花の香りがする。クラクラしそうになるその匂いと、完成された芸術品みたいな美しさに一瞬俺の意識がひきこまれる。…悪いけど、俺はそこでうんとは言えないんだな。
俺はぱちぱちと瞬きしてから、ふんっと鼻を鳴らした。
「お断りだ、バーカ!俺はてめぇのものにもならないし、こう見えてもまだ忙しい身だからな!情報はありがたく貰っとくけど、その話は蹴るぜ」
「フフッ、やっぱり簡単にはオちてくれないのネ、残念!それにアナタにはもうナイトがいるんだものネ、悔しいワ~」
「ナイト?シルのことか?あいつなら今は、」
「ウフフッ、報われないのはアタシだけじゃないみたいで安心したワ。じゃ、アタシもそろそろお暇しようかしら。最後にアナタにとってはイイ情報をプレゼントしちゃう!
魔族が盗み出した聖剣は魔族に必死に抗ってるの。だから今聖剣を運んでる魔族は、まだ魔界に聖剣を連れ込むまでかなり時間がかかるはずヨ!希望が見えたかしら?」
それからロザは俺の反応と返事を待たずにぶわっと風を起こした。うわ、部屋が!カレンダーとか紙がバサバサ飛ぶ!ロザはそのまま渦巻く風の中で消えていった。…退場の仕方が派手だ!あの野郎!
「ったく!もっとおとなしく退室しろっつーの!」
ちっくしょー!最後まで迷惑なやつだな!慌てて流し台に皿を運んでから、俺は風にまき散らされた紙とか部屋の小物を集めて回る。けど、そのなかに見慣れないものが混ざってた。
「なんだこれ?…造花か」
ちょうど花瓶に飾れそうなサイズの、精巧にできたバラの造花。美しい赤だけど…俺、こんな物買ったことないぞ?いつの間に?
ふと窓辺の花瓶を見たら、俺の不在の間に活けてた花は枯れてた。ああ、おいたわしや…。これ、町の花屋のおばちゃんがくれたやつだったのに…。代わりにこの造花を飾っとくか…。
多分この造花は、ロザが残していったものなんだろうなぁと俺は薄々感づいていたけどな。俺の部屋に彩りがないのは俺に彩りがないからだ!失礼なオシャレ野郎め!飾っといてやるよ!
けど。
俺は造花を飾った花瓶を窓辺に戻しながら、二人分の皿を置いた流しを見つめた。ロザの突然の話はあまりに重大だけど、まだ俺の中で整理がつかない。けど、俺は魔族に本格的に狙われ始めるみたいだな。
別に俺は魔族に襲われたって返り討ちのボッコボコにしてやるから構わねーけど、俺の大切な人たちが…ヨーウェンさんやアリシア、町の皆がそのせいで迷惑を被るのはいい気分じゃない。
よし、俺は南国バカンスを決行するぞ!幸い、ロザの話では聖剣が完全に魔族の手に堕ちて破壊されちまうまで猶予はあるみたいだし…もちろん、コットリア共和国には遊びに行くわけじゃねえからな!
ただ、王都には俺の大事なものが集まりすぎてる。もし魔族が俺の居場所を突き止めて、王都を襲うなんてことをしたら寝覚めが悪いじゃすまねーぞ。
ふぅ。俺は目を閉じて息を吐く、そしてすぐに大きく吸う。目を開き、誰もいない部屋で俺は拳を握った!
「…おっし!待ってろ南国!お宝ども!」
俺の盛大な喝入れの叫びに、窓の外に見えた白い鳥が驚いた様子で飛び立っていった。




