3 赤毛の少年
シルと俺は料理屋で麺料理を頼んだ。俺も王都に引きこもってたからあまり地理は詳しくないけど、ここの町は麺料理が名物らしいな。
…看板に書いてあっただけだけど。
にぎやかな木造の店内で、隅っこのテーブルを取った。俺とシルは向かい合って麺をすすりながら話をしている。
「ステイトは商人なの?」
「いいや、ほんとは違うけど。ちょっとわけありで旅してんだ」
何このパスタ。美味っ。旅に出ると美味いものばかりだな。いずれハズレ料理を引きそうだけど。
シルは見てくれも何もかも異国人だ。でもこの商業都市で異国人は珍しくない。けど、穏やかで優しい表情は女の子にモテそう。
ほんと赤毛眩しい。アリシアの金髪もきれいだけど、赤毛もいいな。…黒ぉ?ダメだ。ニコラが頭によぎるから。
「わけありって…聞いてもいいかな」
「んー、簡単な話。俺、今騎士団から追われてるんだ」
「…えっ?」
びっくりしたシルを見て、俺はデスヨネ、とぎこちなく微笑んでみる。辺りを見回しても騎士っぽいやつはいないし、小声で話しちまおうか。
「シエゼ・ルキス国の聖剣が誰かに盗まれたんだ。俺はその盗人の濡れ衣着せられて逃げてる、というか、西の聖セレネ国に向かってる。
なんでかわからないけど、俺が盗んだことにされてるみたいで。聖セレネの有力な占い師に、俺の無実を証明してもらおうってわけ」
「濡れ衣…大変だね。じゃあ一人で?」
「もち。ま、家族もいねぇし。家族同然の人には俺の無実を信じてもらえた。その人たちのためにも、無実を証明しなきゃな」
シルは本気で俺を心配しているようだった。こいつ、お人好しだなー。俺がここでウソピョンとか言っても笑って許してくれそう。嘘じゃないのが笑えない。
俺の話を聞いて、シルも何か考え事をしているようだった。
ちょっとの間、互いに黙って麺をすすってたけど、ふいにシルが真剣な表情で顔を上げた。
「ステイト。迷惑かもしれないけど、僕も聖セレネについて行っていいかな」
「はっ!?いや、お前、他に一緒にここに来た奴いるだろ」
唐突な申し出だな。でも、また何で。
俺の疑問のもとは、そもそもシルが何者かを知らないところにあるわけなんだけど。無理に聞けねぇし。
シルがまた小声になって、俺に静かに打ち明ける。
「僕の本名はシルヴェスタ・ネフィア・アルギーク。アルギークの今の王の長男なんだ」
「……!?ゲホッゴホッ」
「だ、大丈夫っ!?」
大丈夫!むせただけ!のどに麺が一本だけ入った!水!
ってか!やっぱ王子様じゃねーか!ほら見ろ、俺の勘は怖いぐらい当たるなオイ!…え?まじで?
「お、おうじさま?」
「…そういうことになるんだ」
「ご、ごぶれいをいたしまし…」
「いや、そんなこと気にしないで。ただ、ステイトには言っておこうと思って」
あー、まじか。でもわからん。なんで次期第一王権者みたいな感じのシルが、こんな異国に?しかもさらに西へ行きたいってどういう…。
ちんぷんかんぷんに戸惑う俺に、シルはゆっくり説明してくれた。
「僕も追われてるんだ。今、アルギークの政治は王派と軍部派で争ってて、ちょっと最近それがひどくなってきてる。
数日前、僕と僕の兄弟は毒で暗殺されかけた。けど助かって、表向きに僕たちは暗殺されたことにして逃げろと言われたんだ。
両親は城にとどまって、僕と兄弟たちはちりぢりにこっそり逃げてる。しばらく安全な場所で暮らし、やがて生きて帰ってこられるように」
「…現王の子供が全員殺されたなら、次は必ず軍部に指揮権が渡る。…後継者が王家にいないから、ってことか」
おいおい。東の国ではそんなヤバいことになってるのに、こっちでは聖剣盗まれましたー、とか笑えねぇぞ。
それにしても、シル…。つらいだろう。両親は生かされているかも分からないし、兄弟も逃げ延びているかどうかわからない。
俺の身の上がほんとに軽く思えてきた。
「シル。大丈夫なのか、お前は」
「うん。ちりぢりに逃げた、とは言ってるんだけど、実際にはアルギーク王家と昔からつながりのある、聖セレネの大神官様に助けを求めるつもりなんだ。
もし僕や兄弟が逃げ切ったなら、聖セレネで再会できるはず。
ステイトが大神官様に会いたいなら、きっと僕でも力になれると思う」
「それはありがたいけど…!…でも俺と来たら道中大変だぞ?俺、あまり戦えないし、シエゼ・ルキスの騎士も俺を追ってるし。
聖剣が盗まれてから魔物が活発化してるし…」
「僕ももしかしたらアルギークから追っ手が来ているかもしれない。僕が生きていると分かったら、だけど。
でも僕は大丈夫だよ。これでもそれなりには戦いの心得があるから、ステイトを守るよ」
ま、守るって…!俺情けない…!でも見た感じ、こんな華奢な微笑み王子が戦えるとは思えないけど…、いや、戦わないといけない機会が来ないことを願おう。
結局、俺たちの行き先は同じだ。どっちも一人ぼっちの身。ここはやっぱし。
「じゃ、一緒に行こうぜ!俺もシルの力になれるように頑張るからさ」
「ありがとう、ステイト!じゃあ、改めてよろしくね」
共同戦線ってことで!赤毛の眩しい赤の王子が、俺に握手の手を差し出した。
俺は迷わずその手を握り、久しぶりに思いっきり笑んで見せた。
そういえば、年の近い男で友達ができたのはこれで初めてだ。
記念すべき、だな。王都に友達と呼べる人はいなかったし、アリシアたちも家族同然だ。
よしっ。俺ももしシルの敵が来たら絶対にこいつを『逃がして』やる!
…あ、ハイ。追っ手と『戦う』なんて…俺ハッタリしかできねぇし…テヘペロ…☆
俺たちはその後、できるだけ安い宿をとった。お金モッタイナイ。俺はヨーウェンさんに渡された最低限のお金しか持ってないし、シルも手持ちの金は少ない。
しばらくこの町に滞在して、バイトするなり、近くの森やどこかで物を集めて何かを作ったりして売るなりするしかない。
シルは自ら働いたことなんてないだろう、と思ってたらやっぱりなかった。ですよね。
俺は働いたことあるけど…。むー。どうすっかな。
お金は何としてでも稼がねば。
選択肢その一。町の依頼掲示板で依頼をこなし、謝礼金を受け取る。
これは近所の魔物討伐から人探し、何だったら買い物の手伝いなど幅広くある。
その二。何かの素材を集めて物を作って売る。
アクセサリーとか、なんだったら魔物の毛皮や爪なんかはそのままでも高く売れるし。
その三。店でバイト。確実だけど、短期間しかここにいない俺たちにはあまり向かないかもなぁ。
とりあえずこの三つのどれをできそうか、俺とシルは宿の部屋で話し合ってみた。
「俺は別に何でもやるけど、魔物討伐は俺にはちょっときついかも」
「僕は店で働いた経験がないからちょっと心配だなぁ」
「依頼掲示板でも見に行くか?どこの町にも大抵あるぞ。みんなの依頼をこなせば礼がもらえるやつ」
「そうだね。簡単なものだったらできるかもしれない」
結局、まずは依頼掲示板を当てにすることにした。
ここから聖セレネ国まではまだ一週間ぐらいはかかる。途中にこんな感じで町もあるから、次の町へ行くための資金さえ調えていればいい。
次の町はさらに西、湖と川に恵まれた湖畔の町ユハを目指すことになる。歩いて二日。
そこに行くまでの金だな。あと必要なものも揃えなきゃ。
頃はまだ夕方というには早い。さっそく俺たちはこの町の依頼掲示板を覗きに行くことにした。
シルの赤毛が視界で揺れる。俺のヅラの黒毛は人ごみに埋もれがちだ。騎士がいないかをさりげなく確認しながら町の中央広場へ行くと、でかい掲示板があった。
俺たちと同じように、お金を稼ぎたい人たちが集まっている。その中に騎士らしき姿がないことにほっとし、俺たちは掲示板に近づいた。
「お、いろいろあるな」
「これすごいよ、ステイト。魔物討伐、5体で8万G貰えるんだって」
「やっぱ魔物増えてるのか。8万っつったら…俺たちが今欲しいのは最低3万だから、目標の2倍以上だな。
でも…魔物だろ?」
「5体だよ」
こいつ、おとなしそうな顔してるくせにハイリスクなやつ好きなのか。ガンガン勧めてくるけど、正直戦うの恐い。前に戦った馬を思い出してヒヤッとした。
もうちょっと簡単なのはねーのかよ…。
「森の花畑にいる木の魔物討伐とかはどうかな?1体だけど、1万Gだよ」
「討伐好きだなお前。でもリスク高いんじゃねーか?」
「大丈夫だよ。僕、火の魔法使えるし」
さらっとシルが言った。ぴ、と人差し指を伸ばすとそこからぽぅっと小さく赤い火が躍り出て消えた。
「まじかよ。すげーなシル…!でも燃やしすぎて火事になったらどうすんだ」
「その火を操るんだから問題ないよ。それに、ダメそうなら逃げよう」
にこっと人のいい微笑み。あー、こんなお人好し少年を魔物なんかと戦わせたくねー。てか、案外シルが弱くてあっさり退散ってこともある。
まぁ、かけてみるか。せっかく森に行くなら、討伐以外でも森でできる依頼を探しとこう。
依頼にもいろいろあって、この日までにやり終えてほしいっていう期限もある。依頼を受けるときは気を付けねーと。
森の中に自生している薬草集め、木の実集めとかの依頼を他に受けておく。魔物討伐ができなくても、こっちをやればいい。
ちなみに、俺たちが取った依頼はすべて期限なし。焦らず、明日にでも行けばいい。
「じゃ、こんなもんだな。明日の朝から行くか」
「うん。初戦だね、頑張ろうか!」
赤の王子、超笑顔。すごく楽しそうだ。やっぱり王族とかだったら、自由に過ごしたりできないのかな。
俺もちょっとわくわくしてきた。でも俺、たいして戦えねーけど…。シル、頑張ってくれ…!
さて、宿に帰るか、と思って振り返った時。
「…っ!やべ、シル、遠回りして宿に帰るぞ」
「騎士かい?」
「ああ。俺の一番苦手なアンチキショーだ」
「あんちきしょ…?えっと、逃げなきゃね。誰かな」
その辺の人ごみに紛れつつ、俺は視界の端に移ったでかい黒髪男から距離を取る。ニコラだ。
首をかしげているシルが分かるように、ちょっとだけニコラを指さす。
「あの露天商の近くに、軽そうな鎧着た黒髪の背高いやついるだろ、アレ」
「…あ、分かった。まだ気付いてないみたいだね。行こうか」
やべー。ちょっときょろきょろしてるぞ、あいつ。足早に遠回りの道を俺とシルは進んでいった。
この数日だけだ。見つからないようにやりすごさねーとな…!
宿にて。もう夕飯も終え、俺たちは明日に備えて物をそろえている。
俺は簡素なカバンに、傷薬や薬草を詰め込んだ。できるだけ身軽に動けるように、ナイフは一本だけしか持っていかない。
ナイフももうちょっといいやつに新調したいけど、金が足りねーんだよなぁ。ふぅー。
そういや、俺がヅラをはずすとシルはちょっと驚いてた。変装してたんだ、というと、黒も似合ってるけど茶もいいねと微笑まれた。
一方、着の身着のままに見えたシルは、町のロッカーに荷物を預けていた。俺がヨーウェンさんに持たせてもらったのと似たような中身だ。
ただ一つ、赤い宝石のはまったペンダントを取り出してそれを自分の首にかけてた。ほんと、赤いものばかりだな。
「そのペンダント、綺麗だな」
「これは火の精霊石がはまったもので、火の魔法を使うときに助けになるんだ。でもごつごつしてるし、ちょっと重いから普段は外してた」
「かっけぇなぁ…。俺はナイフ一本しか戦いの助けにならねーや」
「ナイフで切り抜けてくるなんてすごいよ。僕の武器は杖。打撃武器になるんだ」
シルが壁に立てかけている、白銀のシンプルな杖。足の長さくらいはあるそれは、シルの本来の戦い方である打撃攻撃で重宝するらしい。
「僕がステイトを守れるぐらい力があるかどうかは、明日の魔物と戦うときに見ててくれ」
「勇敢だな、王子様」
「あはは、やめてよ。ほんとは臆病なだけなんだから」
俺の冷やかしに笑って返すシル。こいつといたら落ち着く、と俺は思っていた。ヨーウェンさんたちと同じだ。
スリ師をビビらすのがきっかけだったとはいえ、いい出会いをしたなぁと思う。
また、ヨーウェンさんのところに帰れる日が来たら胸を張って友達だって紹介したい。
「じゃ、明日も早く起きねぇとな。寝るか」
「うん。おやすみ、ステイト」
それぞれのベッドにもぐりこみ、数分立たないうちにすぐシルのベッドから寝息が聞こえてきた。寝るの早っ!
それか、慣れない異国で一人ぼっちは大変だったんだろう。俺なんかが、こいつの役に立てたらいいけど。
いずれにしても聖セレネ国に着くまでだ。俺は俺にできることをやらなくちゃな。よしっ、寝よう!
翌朝。リーゲン村の時と同じく、まだ太陽が昇るか昇らないかという時間に俺たちは宿を飛び出した。
「朝の空気は気持ちいいよなぁ」
「そうだね。この時間に本を読むのが好きだったな」
森に近い門をさがし、てくてくと石畳の上を歩いていく。朝市に備えて町を歩く人もそこそこいた。
俺は当然、また黒髪のヅラをかぶっている。シルは同じ格好だけど。
目の前に関所が見えてきた。関所といってもほんとに森方面なら無言で出入りが許可されてる。まぁ、森に行くなんて素材集めぐらいだしな。
まだ朝だし、そんなに騎士もいないだろ。そう思っていた俺に、神様は盛大ないたずらを仕掛けていた。
「おはよう少年ども。早いな」
「おはようございます、騎士さん」
関所の壁にもたれかかっている騎士に、シルがにっこり微笑んで頭を軽く下げる。それから顔を上げ、騎士を一瞬だけ「あれ?」というように見つめた。
俺もつられて騎士を見る。そして思わず口から心臓が飛び出そうになった。
「…!」
目の前にはダンベル片手の、薄着に背の高い騎士。朝のストレッチに軽く汗が流れ、顔に黒髪が張り付いている。気のよさそうな感じはまさにノリのいいあんちゃん。
俺の宿敵、ニコラ・シフィルハイド様じゃねーかっ!!なんでこんなとこでストレッチやってんだよ、当番の騎士はどうしたコラァ!
…とは言えない。よく考えろ。俺は今、変装をしている。コイツ相手に自信はないが、さっさと立ち去れば怪しまれまい。
こんな思考が僅か一瞬、流れ星でも通ったかのように俺の頭に流れた。が、次の瞬間には俺は笑顔でニコラに手を振っていた。
そしてシルが察したようだ。さりげなくあいさつを交わし、足早に関所の門をくぐろうとする。
だが、ほんとに雑談という感じでニコラが声をかけてきた。
「朝から森に修行か?」
「そんなとこです。騎士さんもお疲れ様です」
すたすた。よっしゃ、さすがシル!人の扱いには慣れてる!だが、おしゃべり大好きニコラはまだ話を続けた。
「森には魔物もいるぞ、お前らあんまり強くなさそうだけど大丈夫か?」
「大丈夫です!いってきまーす」
「おう。俺もまた森に行くから、困ったことが起きたらいつでも声をかけてくれ」
…来なくていいわお節介騎士が!!
俺はヒクヒクしながらさっさと門をくぐった。シルはもう苦笑だ。門をくぐって小道を歩き、森の入り口に差し掛かった時点で俺がフゥゥゥーッとため息をつく。
「あんのニコラ!あいつ何で門番やってんだよ、筋トレしながら!」
「ニコラさんって言うのか。騎士としては良さそうな人だね」
「そりゃそうだろうけど、今の俺には敵だ敵!俺が盗賊から足を洗ったのもあいつのオカゲなわけだけどよ…ぐぉーっ、あのツラ腹立つ!」
「因縁の、って感じなんだね」
俺の言葉にシルがあはは、と笑う。そういや、さっきニコラが、後で森に行くっつってたな。
「ニコラが森に入る前に、さっさと用を終わらそう。あいつ、俺の戦い方知ってるから戦うところ見られたら身バレするかも」
「疲れ作業は早く終わらそうか。花畑に居座ってる、歩く木の魔物ってことだったけど…。進んでいこうか」
そういや、今回討伐する魔物。
歩く木の魔物らしくて、人を見かけると襲ってくるらしい。薬草になる花の生えている花畑の近くで居座って、人を襲っているとのこと。
町の人に聞いたところ、この森の中に花畑はけっこういっぱいあるらしい。どの花畑にいるのかは分からねーけど、ひとまず歩いていくか。
道中、他の採集依頼で必要な木の実や薬草も回収していった。雑談をしながら朝の森を歩いていくと、どこからか花の匂いがしてきた。
近いのか?辺りを見回してみる。
さんさんと朝日が森の中に射し、ところどころを照らしている。王都の中では味わったことのない空気だ。まだ肌寒いくらいに涼しい。
こんなところで遊んだら楽しいだろうなぁ。実際、魔物が少ないときはきっとフィリナの町の子供たちは遊びに来てたんだろう。
いいな~。俺はガキの頃から薄暗い路地と汚い部屋、地下通路が遊び場だったし…。体に悪そうだな、うん。
逆に、少し前を歩いているシルは小奇麗な城で暮らしてたってんだから不思議だ。人はいろいろいるんだな。
そんなことを考えていると、小道の先は花畑になっていた。なるほど、近いな。
「おい、花畑」
「そうだね。魔物は…ここにはいないのかな」
慎重に辺りを見回していく。木の魔物なんだから、俺たちが近づくまで普通の木に同化しているかもしれない。
魔物に知性があるものは少ないって聞いてたけど、もし習慣で俺たちが近づくまで隠れてるなら怖いし。
ちょっとずつ進んでいく。すると突然シルが立ち止まった。俺を振り返って、小声でささやく。
「あそこの木だ。ほら、すぐ近くまで紫のツタが這ってきてる」
「うぉ、まじだ。これで獲物を捕まえるのか」
シルの数歩前の茂みに、何か紫色の太いツタが見えた。ロープみたいなそれはときどき蛇のようにうねってる。うわぁ。
その茂みの先に、よく見ると紫の斑点が幹に浮き出ている変な木があった。
「まず僕が出るよ。僕が危なそうだったら来てくれないかな。まずはステイトに、僕の腕前を見てほしいから」
「余裕だな、シル」
驚いて俺がシルを見つめると、シルはにっこりと屈託のない笑みで言った。
「この道中、シエゼ・ルキスに着くまでに同じ魔物を何回も倒してるからね」
そう言うが早いか、シルが握っていた杖を構えなおして茂みに突っ込んでいった。え、結構素早いじゃねぇか!
茂みからちょっとはみ出ていたツタが5本ほど伸びて、シルに襲い掛かる。おい、あれはやばいんじゃねーか?
「せやぁっ!」
おとなしそうなシルからは想像もつかない、気迫の声が上がる。その瞬間、シルの右腕に握られている白銀の杖がツタを一閃した!
メシャッと音を立ててツタがつぶれたり吹き飛んだりしていく。ギッと音がして、茂みの奥で魔物の本体が動き出した。すげぇ…!
でも、驚くのはここからだった。また本体から紫のツタが何本も飛び出てきてシルを捕まえようとする。そのたびに、まるでシルは踊ってるようにツタを叩き伏せていく。
バキッ、メシャ、ゴキンっ!
派手に鈍い音を立てていく。すげぇ、めっちゃくちゃ早い。バトンを持った踊り子みたいだ。くるくる回って、四方から襲うツタを見事に強打していく!
赤毛がなびいて、朝日に照らされて輝く。光の灯る目が赤く鋭く魔物を見据えている。そのたびにまた、バキッ、バキッと音がする。あっけない。
やがてツタが出てこなくなった。ギィィ、と本体が動く。ううわ、歩いてる…!根がうにょうにょと足のように…つか、足だなあれ。
でも幹は太い。俺が幹に抱きついても、腕を一周させられるかどうかって感じ。
でもシルにはあまり関係なかったようだ。木の魔物が枝らしき腕をシルに振り下ろす前に、ぶわぁっと赤の炎がシルの白銀の杖から溢れだした!なんだアレ!
ちょっと距離があるから聞こえないけど、シルが何かを呟いている。よく見たらシルのペンダントが赤色に輝いてるから、きっと魔法の詠唱だな。
炎を纏う杖を、自分に振り下ろされてきた太い枝腕にシルが殴りつけた!そのとき、シルが叫ぶ。
「フレアバースト!」
ゴオォォゥ!熱気が溢れるのがここにいても分かる!
杖の炎が大きくなり、噴き出して枝腕に燃え移った。さらに火は勢いをとどめず、さらに木の魔物の幹へと意思があるように燃え移っていく。
まるで火だるまだ!木の魔物からギイィィ、と軋む音が聞こえ、パチンパチンと燃える音がし始めた。
そして、とどめの追撃。大きく杖を振り上げ、派手にバキィンと幹に叩きつける!
その瞬間、メッキリと幹が折れた!バギュン、と聞いたこともない音がしたかと思うと、派手に燃えていた木が塵になって消え失せてしまった。
う、うわぁぁぁっ!すっげぇぇ!シルすげぇぇえ!ニコラにも勝てるんじゃねーかコレはっ!
一息ついたシルが、俺を振り返って片腕を上げて嬉しそうに目を細めてはにかんだ。赤毛が風にさらさらと揺れ、なんか絵みたいだ。
俺はシルに駆け寄り、思わず大声で叫んだ。
「シルっ、すっげぇぇ!かっこよかったーっ!めっちゃくちゃ戦えるじゃねーか!やべええええっ」
興奮の収まらない俺に、シルがちょっと恥ずかしそうに頭をかいて笑む。
「そんなことないよ。でもステイトの前だし、ちょっと張り切ってみたんだ。あはは」
ひょえええっ、かっけぇぇっ!俺が女なら惚れてた!炎の武闘・微笑み王子とはまさにシルヴェスタ様っ!
目をキラキラさせてるであろう俺に、シルが何かを差し出してきた。ん?これは?
緑の宝石みたいな、玉みたいな。ビー玉サイズのそれは?
俺が首をかしげたのを見て、シルが説明する。
「これは魔物のコアだよ。倒すと必ずとれるんだ。色は魔物の属性、大きさは魔物の強さ。売るといいお金になるんだ。
今回は、これを依頼主に渡せば依頼が終わり、なんだよね?」
「あ、そういうことか!確かに、魔物討伐の証明にはコアがいる、って書いてあったな。俺は魔物討伐なんてやったことないし知らなかった」
なるほどなー。コアか。覚えとこう。もし俺が自力で魔物を倒せるようになったら、倒しまくって売りさばいて、…うへへ。
おっと。善良な少年の前で俺は何をやましいことを考えてしまったのか。
「シルが倒したんだし、シルが持っていてくれよ。俺はこの花畑で採集の依頼に必要なものを採るから、ちょっと休んでてくれ」
「ありがとう。じゃ、待っとくね」
さぁて、シルが一仕事魅せてくれたんだし、俺もさっさと終わらそう。俺に見せ場はないけど。
それにしても、シルってすごいんだなぁ。マジで戦えるのかー、そっかー。
…あれ、俺ってばお荷物じゃね?…ぐぬぬ、俺も強くなってやる…っ!




