表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルキスの剣  作者: 夜津
第二章 トルメルの子
35/131

32 ハニの日記

 結局あの後は帰って昼寝して、夜になったらまたヨーウェンさんたちに呼ばれて夕飯を食べに行った。

やっぱりヨーウェンさんの料理は最高だ。気合い入れて作ったんだ、と微笑むヨーウェンさんと、アリシアも手伝ったの!と主張する妹ちゃんに俺もにっこりしてしまった。

食べすぎじゃないかってぐらい食べて、またふらふらと自分の部屋に帰って寝る。


 んで、また朝早くから俺は城に突撃して、今度はもうめんどくさかったからジギスさんには会いに行かず書庫へ直行した。だって、早くあのトルメルの人の日記を読みたかったし…。


 司書さんには話が回ってたみたいで、すぐまたあの控室に案内される。俺はちょっと埃っぽい匂いのその部屋で、一人黙々と日記を読んでいた。

目で読む、というよりは、指で触れて頭の中に内容を浮かび上がらせるって感じだ。不思議極まりないんだけど、どうしてか俺にはすごく自然な動作に感じる。


 …けどさ。さすが日記。正直かなりどうでもいいこともいっぱいだ。当然、そんなどうでもいい日常的なことから、境界戦争当時の英雄たちのちょっとした裏話も満載なわけで。

やっぱり俺もちゃんと境界戦争について勉強してみようかな?


 たとえば、トルメルの若者、ハニが初めての大陸旅にびっくりしすぎて熱を出した、とか。のちに勇者として語り継がれたルキスと、焼き肉一枚を巡って大ゲンカしたとか。

一緒に旅をしていた魔法使いが魔法に失敗して、近くの薬瓶を爆発させた結果巻き込まれたハニが薬の影響で少しの間女の子になってしまった、とか。酷い時なら泥棒に装備全部盗まれた、とかまで…。…これ、笑えばいいんだよな?


 それでも、ときどきその日記の内容に苦悩が見えた。島に戻れないこと、日々魔物や魔族と戦闘が続くこと、仲間たちの怪我や別れ…。リアルにその情景が思い浮かぶ。

どうやらハニはかなり純粋で熱血な性格だったみたいだな。文章なのに、ハニのアップダウン激しい、ある意味豊かな心情まで伝わってきて俺も泣きそうになったり笑いそうになったりだ。


 けれど、日記の最後の方はハニもすっかり哀しげになっていた。


 『セシバル歴541年 28月 夕雪の日

 

  そろそろ境界戦争は終わるだろう。ルキスや俺たちは魔族の城へ乗り込み、明日には魔王を討つという予定になっている。死んだ仲間、怪我でもう復帰できない仲間も多く、胸が痛い。

  だけど俺は必ずルキスの、皆の力になるんだ。俺が持っている力で戦いを終わらせる。…だが、もう俺に帰る場所はない。昨日聞いたばかりの話だ…、もう俺の島は壊滅状態らしい。


  俺が島を出たせいで、島の守りが消えてしまい、魔族や醜い人間が乗り込んできて島民を殺したり、連れ去ったのだという。俺はもう島には戻れない。

  早くこの戦いを終わらせて、俺の持つトルメルの力を全て、俺の装備に注ぎ込もうと思う。それを世界各地に隠し、やがてトルメルの生き残りが現れたときに託そう。

  きっといるはずなんだ。逃げ延びた俺の同胞が…。

  俺の力をそいつに託す。そして、どうか生きてほしい。誇り高きトルメルの民として。』


 …ごめんな、ハニ。もう、俺しか残ってないんだ。あんたの誇り高きトルメルはどこにもいなくて、自覚すらできてない俺しか残ってないんだ。

ひしひしとハニの日記からはトルメルの島や民への愛情が伝わってくる。この続きは、ただ一言だけ。


 『俺は、必ず勝って旅に出る』


 そして、境界戦争は見事にルキスたちの勝利に終わったんだな。俺の持っている指輪は、もしかしたらこのハニのものなのかもしれない。ハニは自分の力を装備に注いで各地に隠して回ったんだから。

ただ…それをどこに隠したのか。それについてはよく分からないな。


 そっと日記を閉じようとすると、小さく裏表紙の端に書いてあった。


 『この日記を、最愛の我が友ルキス・クランツに捧げる』


 勇者ルキスか。それで、この日記はこのシエゼ・ルキス城に安置されてるんだな。この二人の友情はきっと、二人が死ぬまで続いてたんだろうなぁ。俺はそのまま指で、古ぼけた表紙を撫でた。

ざらっとした感覚が指に伝わる。大丈夫だ、ハニの日記は俺の大きな助けになったよ。おかげで、本気でハニの装備を探しに行けそうだ。


 と、そのまま表紙を撫でていると、表紙のカバーがはがれた!うわっ、やべっ。慌てて戻そうとして、むき出しになった裏表紙に触れると突然頭の中にまた言葉が浮かんだ。


 『これを読んでくれた同胞へ。この文章は一度しか意思を伝えられないから、俺がこれを書き終えて何年たつのか知らないがこれは君にしか読まれていない文章だ。心して読んでくれ。

  この文はトルメルにしか分からないよう細工してある。もし君が生き延びたトルメルで、俺の隠した装備を在り処を知りたいのならまず、訪ねてほしい場所がある』


 えっ!?突然の隠し文字に俺はびっくりした。けど、これを読んだのは今まで誰一人いないってわけか。…ら、ラッキーだ…。そのまま表紙を俺は夢中で擦った。


 『グラーバス渓谷という場所の最奥に洞窟がある。そこに俺は手がかりを残そうと思う。寂れた荒地だが、もし求めるなら訪ねてくれ』


 グラーバス渓谷?どこだ?聞いたことねーけど。俺は一旦部屋を出て、世界地図の本をいくつか引っ張り出してきた。グラーバス渓谷…グラーバス渓谷…あった!

シエゼ・ルキス国内の南の方だ。観光の本も開いてみるか。


 『グラーバス渓谷 シエゼ・ルキス王国南部グラーバス地方

  雨が降らず、乾燥した荒地。赤い砂と岩壁、枯れ木が特徴的。広く、深い。かつては川が流れていたが今は枯れている。ならず者が多く、観光には向かない』


 なるほど。あまり面白味はない場所なのか。けど、国内だしひとまず行ってみるか。王都からの距離は…まぁ、そこそこ。王都から渓谷までは町二つがあるな。徒歩で三日、馬車で二日ってところか?

またニコラとかヨーウェンさんに相談してみることにして。俺は重要なことだけメモを取り、司書の人にハニの日記を返した。


 引っ張り出した本も元の場所に戻してから、俺は書庫を出る。うお、もう昼前じゃねーか。時間経つの早いな!午後からはニコラの見舞いに行くか、と考えながら廊下を歩いてると。

  

 「…だーかーら!儂にそんなことを言われても困るんじゃ!」

 「しかし、放っておけませんよ。とうとうドラゴンまで活動を始めた、だなんて…」

 「かと言って被害も報告されておらんし、そもそもそんな地域など誰も行かぬに決まっておろうが…」


 あれ。玉座の間で言い争ってる声が聞こえる。あれはジギスさんと…城の人かな?廊下からそっと窺っていると、突然背後からガチャと音がした。


 「怪しい奴!何をしている!」

 「ひょあぁぁああっ!って騎士かよ!なんだよビックリさせんじゃねぇ、変な声出ただろうがぁ!俺はステイト、王様にも許可もらって来てるんだ!」


 心臓バクバク言う!慌てて振り返ると、全身鎧装備の城警護の騎士が俺に槍を突きつけていた!ダメだな俺の勘も鈍ってる。騎士の気配すら感じなかったなんて!

俺が名乗ると騎士はおとなしく槍を収めた。そして機嫌悪そうに去っていく。俺のが機嫌悪いわ!


 けどさっきので玉座の間の二人が俺に気づいた。おーい!と声が聞こえる。


 「ステイト!来たなら挨拶に来いと言ったじゃろうが!」

 「あーはいはい、今から行くところだったんだって!」


 ちっ。めんどくさいからさっさと出るつもりだったのに。廊下から玉座の間に出ると、今日も変わらず派手な服のジギスムント王と、その隣に眼鏡とローブに帽子の、いかにも秘書って感じの人が。


 「少年、言葉を慎みなさい」

 「いいのじゃ、わしの友人じゃからな。ほれ、遠慮せずに来い。こっちのは騎士団の事務・雑用を任せておる第4隊の副隊長であり文官のフェイじゃ」

 

 うわっ。この文官さんは根っからの堅物だな。なんか俺の方を蔑むような目で見てくる。歳は30ぐらいか?…しかも副隊長とか。俺もちらっと見るだけで、すぐにジギスさんの方へ歩み寄った。

フェイさんが蔑んだ表情のまま頭をぎこちなく下げる。


 「フェイ・スージェンと申します」

 「…ステイトです。どうも」


 凍りつくような冷たい声の挨拶だな。俺のことは知ってるんだろう、だからこその軽蔑の眼差しなのかも。元盗賊の、『汚らわしい』ガキが王とつるむなんて、そりゃ嫌だよなー。

けど俺にはどこ吹く風だ。俺はジギスさんを見上げた。


 「さっきの話、何だったんだ?」 

 「ああ、聞こえておったのか。いや、シエゼ・ルキス国内にとうとうドラゴンが現れての。ドラゴンを知っておるか?」

 

 あ、さっきも聞こえてたな。ドラゴンはお伽噺に登場するような生き物で、知性もあり強大で、魔法にも優れている。動物でも魔物でもなく、かといって魔族なのかも不明。幻獣とも呼ばれる類だっけ?

でもあくまで伝説上でその存在が実際に見かけられたってことは最近は聞いてないな。…って、現れたのかよ!?


 「知ってるけど…えっ!?あの『ドラゴン』?火とか吐いたりするあの竜が?…出たのか?」

 「出たんじゃ。どうやら永い時を眠っておったようじゃが、聖剣がなくなったことに影響されて目を覚ましたんじゃろう。被害は出ておらんが、報告されたんじゃ」

 「うわ…。…でも、被害ないなら別に放っておいてもいいんじゃ?」

 「そうなんじゃよ。儂もそう思う。この国の南に広い渓谷があってな、とにかく荒れてるところじゃから誰も寄らんのじゃ。だからいいかと思ってのう」


 能天気に言うジギスさんを少し咎めるように文官のフェイさんが見ている。…ん?…渓谷?あらっ…嫌な予感が…。

俺は思わずにっこりとした作り笑顔でジギスさんに確かめた。


 「まさかそこ、グラーバス渓谷とか言うんじゃないだろうな?」

 「当たりじゃ。なんじゃ、よく知っておるのう」


 …。…はい、詰んだ。俺の期待が打ち砕かれた。おい。それはねえだろ。…俺、そこに行きたいって今から報告するところだったんですけど?ドラゴン様が出るだと?ああん?


 「あのさ、…俺、どうしてもグラーバス渓谷に行かないとダメなんだけどさ…」

 「そちも少年じゃのう!ドラゴンを見に行きたいなど!じゃが冗談はよすのじゃ、笑えぬぞ」

 

 ふはっはっは!と盛大に笑ってるところ悪いんですけど。笑えないのは俺なんです。ハイ。なんかスケールがデカくて俺は逆に冷静になっている。ドラゴンを見たいんじゃねーよ、むしろ見たくない。


 事情をちゃんと説明すべきか?でも、一応俺がトルメルであるということはできるだけ伏せるように言われているし。…チラッとフェイさんを見て、俺は話すのを躊躇った。

けどフェイさんは動いてくれる気配もないし、まぁ隊の副隊長なら別に言いふらしたりはしないか。俺はため息をついて、ジギスさんにハニの日記に書いてあったことを話した。


 案の定フェイさんは驚き、俺をまじまじと見つめてくる。ジギスさんは苦笑いして、それは困ったのう、と頭をかいた。ほんと困ってんだよ!ドラゴン出るのにどうやって行くんだよ!

だけど今の俺が持ってる有益な情報はこれだけ。どうしてもグラーバス渓谷に行かないとダメなんだ。


 フェイさんが王に、控えめな声で問うた。


 「…本当にこの元盗賊が、あのトルメルなのですか?」

 「聖都の大神官のお墨付きじゃよ。…変なことを考えるのはやめるのじゃ。儂はあくまで、ステイトには自由にやりたいことをさせたいと思っておる」


 視線が突然鋭くなったフェイさんをジギスさんが窘めた。どうせ、そんな珍しい存在なら情報を集めるために俺を実験にでも使ってやろうとか考えたんだろ。お断りだ。

ジギスさんは、しばらく考え込んでからゆっくりと口を開いた。


 「しかし、本気で行くのなら対策をとらねばならんのう。儂が騎士団の者に相談してみようかの。また明日、改めて来るのじゃ。それまでには話し合っておくぞ」

 「ありがとう、ジギスさん!それじゃ、俺そろそろ行く。頼むぜ!」


 なんだかんだ世話を焼いてくれるジギスさんには感謝だな。フェイさんが鋭い視線のまま俺を見ていたけど、俺は無視してジギスさんに手を振った。そのままさっさと正門から城を出る。

もう昼前だし、一旦昼飯を食べに戻るか。俺はまた、たったかと城下町へと走り出した。



 

 昼食後、俺は再びあの騎士団宿舎の前に来ていた。門番が俺を見て、すぐに中に引っこむ。すると、昨日ニコラを運んで行ったそばかすに片眼鏡のひょろい騎士、ジャッテが出てきた。


 「やぁ!きっと来るだろうと思ってなぁ。小隊長ならもう元気だけど、会いに行く?今は部屋でのんびりしてると思うけど」

 「おう、ちょっと用があって」


 ジャッテが頷いてそのまま俺を案内する。いくつかある棟の一つに入り、木の板の廊下を歩く。途中何人かの騎士とすれ違って、睨まれたりした。相変わらず俺、嫌われてるな。ふっふっふ。俺も騎士は好きじゃねーぞ。


 ジャッテが一つの部屋の前で立ち止まり、扉をノックする。


 「ジャッテ・ケインだ。お客さんだぁ、小隊長ー」

 「おーいバカニコラ!殴りに来たぞ!」


 すると、扉が開かれた。昨日とは違い、ちゃんと綺麗にした服を着て髪も表情もいつも通りのニコラが出てくる。俺がすぐに一発不意打ちで拳を向けると、パシッと音を響かせて防がれた。ちっ。


 「なんだ、元気じゃねーか」

 「おかげさまでな。どうした?」

 「次の目的が決まったけど、困ったことができてさ。それで話を」

 「ああ。部屋に入れ。ジャッテはどうするんだ?」


 ニコラがジャッテを見ると、ジャッテは首を横に振って笑った。


 「俺はあとちょっとしたら研修があるから。んじゃなぁ」


 そのままジャッテが去っていくのを見送ってから、俺はニコラに部屋へと案内された。広い部屋じゃないけど、生活する分にはちょうど良さそうな部屋だ。

木の柱と床、白塗りの壁に大きな窓。テーブルとソファ、事務机と椅子、そして棚。よくある部屋だが、意外だったのは窓のところに花瓶があったこと。こいつ、花とか置いてるのか。


 俺は遠慮もせずソファを占領した。おっ、なかなかの座り心地。ニコラは事務机の傍の椅子に腰かけて俺を見た。


 「それで、次は何するんだ?」

 「焦るなよ。それより、まずはお前の体調だ。もう大丈夫なのか?」

 「見ての通りだ。もう不調はない。今昨日の魔法を使っても倒れたりはしないぞ」

 「ふーん。それならいいけど。差し入れやるよ」


 丸いテーブルの上に、ここに来る途中に市場で買った焼き菓子の入った袋を置く。ナッツのクッキーとか、小さなカップケーキとか。…ちなみに安売りしてた。


 「悪いな。……だいぶ甘いな、この味はカトニエ氏の店か?」

 「惜しいな、今日はブライジェさんのとこの」


 どっちも町のお菓子屋さんな。俺、あそこのおばさんと仲いいからこっそり安売りしてもらったんだよなー。俺は無料でもらったワケアリ商品のクッキーをかじりながら用件を説明する。


 「それで、用なんだけどさ。ルキスと一緒に戦ってたトルメルの男の日記を読んでたら、そいつがトルメルの力を装備の道具に注いで各地に隠したって話なんだよ。

  でもそれがどこにあるかが分からない。その手がかりが、この国の南にあるグラーバス渓谷の洞窟にあるみたいなんだ」

 「グラーバス渓谷か。あの辺りは民家もないから、魔物討伐隊も近寄っていないぞ」

 「…まぁ、魔物は頑張れば倒せるだろ。けど、問題があって。最近、そのグラーバス渓谷でなんと!ドラゴンが目撃されたんだってさ!」


 俺は大げさなリアクションで言う。やっぱりニコラも驚いたみたいで、顔をしかめた。


 「ドラゴン?あの伝説上の?」

 「ああ。聖剣がなくなった影響で、昔から眠っていたのが目を覚ましたってことらしい。午前に城に行ったら王が報告を受けてた」

 「厄介だな。だが、そこにしか手がかりがないというなら行くしかないと思うが」


 俺は話しながら部屋を見つめる。すると、本棚の上にクマのぬいぐるみが飾ってあるのを見つけて思わず咳き込みそうになった。しかもリボンつき!ガラスケースに入ってる!

こいつまさか本当にクマのぬいぐるみ好きなのか…!?エッケプレの魔剣引き当てたくじ屋のときも、ぬいぐるみ欲しいとか言ってたし…!い、いや。つっこむな俺。冷静になれ、俺。


 ニコラはそんな俺には気づかず、考え込んでいる。さすがのバトル馬鹿のニコラも、相手がドラゴンなら迷うのか。そんなに強いのか。だろうな。強いだろうな…。うぅ…行きたくない。


 「でもさ、王が俺に対策を考えてくれるって言ってたからさ。どうなるか分からねぇけど…。ま、一応お前にも報告しとくぜ」

 「ああ。万が一、行くことになってもドラゴンとは接触しないことを考えるべきだな。戦うなんてありえない。…今の力ではな」

 「まぁ、ニコラがそう言うぐらいならよっぽどなんだな。伝説じゃ、大昔に町を滅ぼしたこともあるんだっけ?ドラゴンって」

 「国だ。一国を滅ぼした」

 「…俺個人なんて瞬殺ですね、分かります…」

 「そもそもこの世にドラゴンが姿を見せたのも初めてだ。城側が公にすれば大騒ぎになるだろうが、多分市民には公表しないだろうな。公表して広まれば、命知らずが見に行って本当に命を失くすだろうしな」 

 

 まぁ、そうか。どっちみち、普段は人が近づかない場所なんだし。グラーバス渓谷の近くの町で噂になる程度だろう…あくまでも、今は。ニコラが続ける。


 「お前が王に相談したなら、後は王のお考えのままに、だ」

 「そうだな。…ま、いいや。んじゃ、俺は帰るぜー。お前の見舞いと報告も終わったし」

 「ああ。出口まで送ろうか?」

 「別にいい。そいじゃ」


 俺はさっさと部屋を出た。部屋を出る直前にニコラを見たら、お菓子を食べる手を止めて何か考えに耽っている。ドラゴンのことかも。

俺もドラゴンなんかとは絶対にお会いしたくない。見つかったら最後、一巻の終わりなんだろう…。ドラゴンがどんなやつなのかは知らないけど。知性はあるという言い伝えを信じて、話し合いの余地があることを祈ろう。


 まだ午後の日差しがぽかぽかしている時間で、別に昼寝をする気にもなれなかった。ヨーウェンさんはしばらく俺のバイトを休みにしてくれてるけど、逆に退屈だ。

町の依頼掲示板でも見に行くか。雑用をこなしてお小遣いでも貯めよう。俺は宿舎を出て町の中央広場へと向かった。さてさて、どんな依頼があるのかね?掲示板の利用は久しぶりだな。


 孤児院で小さい子供の世話、パン屋のバイト、貴族の犬の散歩、細工品の納品、薬の素材集め、魔物の討伐…うーん、いっぱいだな。俺の近くにも依頼掲示板を覗くやつが多い。皆唸りながら、いい条件のものを取っていく。


 俺はどうしようかな。…お、これなんていいかも。王都周辺の草原に最近出没する魔物を討伐する。この近辺はそんなに強い魔物は発生しないし、練習がてらに行ってもいいかも。

種類は問わないのでコア20個を納品、それに見合った代金を払ってくれるらしい。依頼人は…魔物討伐協会。おっ、これって前にシルとこなした依頼と同じ依頼人団体だな。


 あのときはシルが圧倒的な強さで魔物を討伐したんだっけ。すごかったなー。けど、今日はもうシルも誰も手伝ってくれないんだ。俺がちゃんと頑張らねぇとな。


 よし。それ行こう。俺は掲示板からその掲示を破り取り、そのまま王都の外へ飛び出した!いっちょ狩るぜー!待ってろ魔物ども!




 ―――ガキンッ!


 俺の短剣がツノのある巨大ネズミとぶつかる。頑丈な皮膚のネズミに向かって、俺はもう片手のナイフを突き刺して叫ぶ!


 「凍てつけ、リウッ!」


 バキバキッ!


 あの独特の感覚が体を駆け巡って、一気にナイフを持つ手から放出された!見事成功し、犬ほどの大きさがあるネズミ魔物を完全に氷漬けにしてバキッと割れる。そして、ビー玉くらいのコアが草原に転がった。

これで19体目!俺はリウの練習を兼ねて戦っているけど、落ち着いてやればできるもんだな。19匹中、15匹ぐらいは完全成功している。


 少しずつコツも掴めてきたし、やっぱり数をこなさないといけないんだな。俺は汗をぬぐって草原を見回した。ちょっと暑い。風もぬるいし。くーっと背伸びして、また俺は剣を構えた。

さっきから岩陰で俺を見てくる魔物がいる。人に近い形だが、どう見ても魔物。子供ぐらいの大きさの植物系だな。


 キィィイイ、と奇声を上げながら岩陰から飛び出してくる!うるせーっ!シュバッと太い蔓を伸ばして鞭のようにふりまわしてくるのを避けながら、俺は軽やかに魔物に近づく、そのままアッサリ蔓の鞭を切断!

ドヤッ。ギィィッと悲鳴を上げる魔物をざっくり両手の短剣で切り上げる!すぐに魔物が霧散し、コアがころころと転がった。よし!終わり!ちょうどいい暇つぶしにもなったな、あまり金にはならなさそうだけど…。



 俺はコアを袋に詰めて、ほくほくと町へ向かった。こうやって自主的に討伐で体力を上げるのもいいかもしれねぇな。俺だってシルやニコラに負けてられないんだし!

頑張っていれば、その内あの『リウ』もマスターできるはずだ。確実に上達はしてる!


 よし、頑張ろう。

 シルやニコラみたいに、戦いを楽しい!とは思えないままだけど、俺も戦っていかなきゃ。また一つ、改めて俺は決意した。



 …でもやっぱり魔物恐いーっ!改めて思うが戦わないのが一番いい!断言するぜ!ぶち壊しだけど本音だ!俺は少し欠けたナイフの刃に涙しそうになりながら、市場へと歩くのだった…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ