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ルキスの剣  作者: 夜津
第一章 聖剣の喪失
30/131

29 謁見

 

 大きく開け放たれた城の扉をくぐれば、幅のある赤いじゅうたんがまっすぐに続いていた。

中央に敷かれた絨毯の道の両脇には柱がある。壁や天井には絵が描かれてて、…見えた玉座の後ろには馬鹿でかい見事なステンドグラスの窓!

謁見の間でもあり、玉座の間でもある。城で一番大切な場所だ。


 ステンドグラスの窓には一人の青年が剣を天に掲げている様子が描かれてる。あれが勇者ルキス…そして、盗まれた聖剣セインレムだ。


 俺の前にはエリネヴィステさんとアストックが凛として立ち、ニコラが目立たないように傍に控えている。俺とシルがその後ろに着いたとき、上から声が聞こえた。


 …えっ、上から!?


 『よーくぞ、いらっしゃったのうー!』


 な、何何何!?どっからだ?俺が慌ててきょろきょろしてると、目の前にシュタッと何か降ってきた!


 エリネヴィステさんの目の前に着地した彼は、その喋り言葉とは違って見た目はまだ青年。ニコラよりは年上だろうけど…。

肩より長い見事な金髪をポニーテールにした、顔に不思議な模様を入れてる切れ長の金目の青年だ。威厳なんてもんは感じない。なんだ、こいつ?


 男前、というよりは彫刻品のような綺麗さを感じさせる、けどどっか妖しい感じ。すっと高い鼻、にんまりと楽しそうに口元に浮かべる笑み。

そしてゴッテゴテの装飾品!せっかく高貴そうな服着てるのに台無しだ!誰だよこれ、王様のお供にしては派手すぎるし…!


 エリネヴィステさんが、青年が立ち上がるのを見つめた。


 「お久しぶりですわ、ジギスムント様」

 「エリネヴィステ殿!相変わらずの美人じゃのー。ご足労痛み入る」

 「いいえ、ちゃんと説明しないといけないことがありまして。今からで大丈夫ですの?時間も惜しいので早く済ませたいのですけれど」


 派手さはロザでも負けそうな青年はジギスムントというらしい。…ジギスムント?どっかで聞いた気がするんだけどなー…うーん、誰だっけ。


 ジギスムントさんが胸のゴテゴテの装飾品をジャラジャラ言わせながら涼しい顔で答えた。


 「もちろんじゃ!城の者には皆伝えておる。大神官殿と大事な話があるから邪魔するな、とな。それじゃ、立ったままもしんどいしのう、儂は硬いことが苦手じゃ。

  会議の部屋を空けとるのでそちらへ行こうかと思うておる。自己紹介その他諸々はそのときにの。ついてまいれ」


 俺たちを一瞥し、颯爽とした足取りでジギスムントさんが廊下へ歩いて行く。な、なんだ…?俺はニコラをちょっと小突いて聞いた。

  

 「あの人だれ?」

 「なっ、おま、…そこまでバカだとは思わなかったぞ…。お前も見たことはあるだろう!3年前に王位に就いた…」

 「えっ!?」


 お、王!?あんな若いド派手青年が!?


 俺が狼狽えてると、振り返ることなく楽しそうな青年の声が飛んできた!


 「そうじゃ!儂はそちを知っておるが、そちが儂を知らぬとは哀しいのう。儂こそがシエゼ・ルキスの第167代目の王、ジギスムント・シエゼ・ヴィンじゃ!」


 …!!?


 おっ、おい!俺は訴えるぜ、あんな装飾品ジャラジャラ伊達男が、お、お、俺の国の王だと!?えっ、3年前に王位に就いた!?知らんがな!そんとき俺まだ盗賊生活まっしぐら!

まだテキトーに爺さんっぽい王様が治めてるんだとばかり…!エリネヴィステさんといい、最近の権力者は若いな…!

 てか、俺を知ってるって…あっ、盗賊時代の黒歴史をご存じってわけか…ですよね、俺ったら城に忍び込んだんですものね。


 俺は先を歩く王の背を見つめた。…うーん、王って感じじゃないんだよな。どっちかというと下町の芸人みたいだ。身長も高いし、目立つ顔立ちだし…実は影武者じゃねーの?

ニコラが物言いたげな顔で俺を睨んできたが、これはびっくりだろ…。シルもちょっと驚いてるみたいだし。




 連れて行かれた部屋は、たいして広くはない『普通の』部屋。城だからって何も、どこもかしこも豪華絢爛というわけじゃない。

この部屋も窓があってボードが置いてあって、ひたすら机と椅子が並ぶ殺風景な部屋。ちょこんと部屋の隅に観葉植物が置いてあるのが、せめてものインテリアだな。


 まさに、文字通り、どこからどう見ても会議室。机は部屋の中心に、円卓として置かれている。


 「適当に座ってくだされ。硬いことはなしじゃ、なんなら儂のこともジギスと呼んでくれれば良いのじゃぞ」


 一つの椅子に、どっこらしょと言いながら王が座る。お、おっさんくさ…。綺麗な見た目も台無しだな、…最近そういうの多くないか…?


 エリネヴィステさんとアストックは王の向かい側に、エリネヴィステさんの隣にシルが座る。あと3つ椅子余ってんな。誰も王の隣には座りたがらないみたいだ…。

確かに、いくら王が硬いことは言いっこなしだ、と言ったってなぁ。まだ信じられないけど、ある意味大陸で一番の権力者なんだし…実感湧かない。


 俺も王から遠くに座ろう、と思ったらニコラがすっと先に座りやがった!こ、こいつ!お前の仕える主なんだから隣に行けよ!


 こいつら何気に椅子取りゲームでもしてやがったのか?どっちみち俺が王の隣に座るのかよ!ニコラは後でぶちのめす!

ぎりぎりぎり、と俺が座りあぐねてニコラを睨みつけてると、王がバシバシと空いてる隣の椅子を叩く。


 「なんじゃ、儂の周りになぜ近づかぬ。ほれ、そち!ここへ座ればよいじゃろう」

 「うぐっ…わ、分かりました」


 結果。俺は王様のお隣になりました。ついでにニコラともお隣になりました。向かい側のアストックがすんげぇニヤニヤしてるんだけど!こいつ!

もう怖い怖い。王様って、俺が聖剣盗んだ犯人だと思ってんだろ!?な、なにされるか…!


 と思ったら。切れ長の目を細めて王が俺に笑った。


 「ステイト、じゃったのう?2年前に王都を騒がせた天才盗賊少年。そして、今は聖剣盗難の疑いをもたれておるんじゃな」

 「は、はい。けど俺じゃなくて…!」

 「それを今から聞くところじゃ。が、全員自己紹介を聞こうかのう。そちやシフィルハイドのことは知っておるが、自分で言うのも一興じゃ」


 …なんか、俺の一大決心も肩透かしを食らった気分だ。あまりに気楽な雰囲気っつーか。

まずは儂からじゃの、と王が言うのを俺は黙って聞いていた。


 「先ほども申したが、儂がシエゼ・ルキスの現在の王、ジギスムントじゃ。特技は掃除と料理、苦手なことは公務、特に書類を書くことじゃのー」

 「…」

 「なんじゃ、もっとリアクションせぬか」


 聖セレネ組は黙ってにっこりしてるし、ニコラは反応に困ってるし、俺もどうすればいいか。とりあえず愛想笑い浮かべてると、王が俺の脇腹をつついてきた。


 「ひょあっ!?」

 「ほれ、そちの番じゃぞ。そち、面白い反応するのう。ほれほれ」 

 「ひょえっ、ちょ、や、やめっ、ふ、ふっ、ふざけんなぁあああっ!!」

  

 あああやっちまったぁああああ!!と俺が思ったのも遅く。俺は脇腹をくすぐってくる王の腕を引っ掴んでブォンッと上に投げていた!

ぎゃあああ俺終わった!絶対に王が悪いけど俺終わった!ごめんなシル、もう俺おまえに会いに行けないかも…。


 勢いで立ち上がってしまった俺に、王がぽかん、とした。エリネヴィステさんは超笑顔。アストックは顔を背けて笑いをこらえている。シルがあたふたして、ニコラは顔の前に手を当ててうつむいていた。

時間が止まる。王が『衛兵!』と叫ぶのも時間の問題だな…と俺が思ったとき。


 「ふっ、ふはっはっはっは!やっぱり面白い奴じゃの!」


 …あれっ!?お咎めなし!?

今度は俺がぽかんとする番だった。王の笑い声が部屋に響き、その金の切れ長の目の端に涙が見える。…って、え?何がそんなに面白いんだ…?


 「占いで犯人がそちだと出たときも、これは何か面白いことになると思ったんじゃ!ふははっ、やはりの!ほれ、座るのじゃ。座らぬとまたくすぐるぞ」

 「はっ、はいっ」


 やややややったー、死なずに済んだー!王が変な人で良かったー!何故かご機嫌の王に、俺は座りながら言う。


 「…改めてステイトです。えっとー…薬屋でバイトしてました」

 「聞いておるぞ。ヨーウェンじゃな?儂も世話になっておる」


 し、知り合いなんだ。ヨーウェンさんの知人ってどうなってんだ…。


 「そちが王都からいなくなった日に、ヨーウェンが儂に会いに来た。彼は違う、と言い張ってな。やはり何かが起きようとしていると思ったんじゃ」

 「ヨーウェンさんは…今もちゃんと薬屋にいますか?」

 「うむ。儂はヨーウェンには頭が上がらぬからな。…ここだけの話じゃが、ヨーウェンは儂の学校の先輩でもあり、儂の腹違いの兄じゃからの」

 「良かったー………っ!?」


 …さっきなんとおっしゃった。おうさま。


 ヨーウェンさんが、腹違いの、兄?ちらっと隣を見たら、ニコラもびっくりしてるし…確かに、ヨーウェンさんに過去のことを聞いたことはないけど…!


 「ヨーウェンはずっとそちの心配をしておった。話し合いが終わったらすぐに会いに行けば良いぞ」

 「あ、…はい!」


 ヨーウェンさん…!後で詳しいこと聞かせてもらうからな…!なんだよ、そんなことひとっつも聞いたことなかったぞ!


 王が自己紹介の続きを、ニコラに視線で促す。ニコラが背筋を伸ばし、はっきりとした声で話した。


 「ニコラ・シフィルハイド。シフィルハイド家の次男です。 騎士団第3小隊隊長を務めております」

 「硬いのうシフィルハイド。そちのこともよく聞いておる。その若さで、卓越した戦闘能力と統率力を持つ有能な者だ、と騎士がいつも漏らしておるぞ」

 「…大げさです」

 「今回の任務もお疲れ様、じゃったな」


 労う王に、ニコラが目を閉じて頭を下げた。次に、エリネヴィステさんが頭を小さく下げる。


 「聖セレネ、聖都より参りました、エリネヴィステですわ。大神官を務めております」

 「元気そうで何よりじゃ。聖王殿は?」

 「ええ、またここに来たいとおっしゃられておりましたわ」


 にこやかなエリネヴィステさんの隣に視線が向けられる。アストックも恭しく頭を下げた。


 「大神官補佐のアストックいいます」

 「会うのは初めてじゃな。そち、魔族であろう?この国は魔族を滅多に見かけないので、新鮮じゃ」


 王が興味深そうに目を開く。アストックの口元の笑みがさらに大きく弧を描いた。って、王…アストックが魔族ってことに気づけるのか。耳は相変わらず髪に隠れてんのに。

最後にシルの方を王が見て、お、と呟く。


 「赤髪に赤い目。もしや、そちはアルギーク王家の?」

 「はい。第一王子シルヴェスタ・ネフィア・アルギークです。今日はステイトの友人として参りました」

 「ふむ、アルギークの。我が父が王であった頃は親交があったと聞くのう。よろしくの」


 どっちも穏やかな表情。これで一通りの挨拶は終わりだな。


 エリネヴィステさんが、アストックに持たせていたカバンから書類を取り出して王に渡す。


 「今回の件について、まとめておきましたの。一つは、この少年ステイトが聖剣盗難の犯人でないこと、そして聖剣の行方を追うことに成功したこと。

  まずはそれをご報告しますわ」

 「少年が、犯人でないと。それはそちが占ったのじゃな?」

 「はい。私の命を懸けても保証しますわ。そして、各地の魔力の乱れなどを参考に、リアルタイムで聖剣の位置を表示する地図の開発に成功いたしましたので納めますわ」


 さらにあの地図を王にエリネヴィステさんが渡した。ふむ、と地図を開いて見つめながら王が頷く。


 「犯人ははっきりと分かっておるのか?」

 「いえ。ですけれど、力の強い魔族であると私たちは睨んでおりますの。ここの占い師が聖剣盗難の犯人をステイトだと思い込んだのも、錯覚魔法がかけられている可能性がありますわ」

 「…確かに、あの日以来、城の占い師たちの占いはてんでダメなのじゃ。大神官殿のお墨付きがあるというなら、そちは無罪じゃな」


 …へっ。俺は唖然として王を見つめた。王が俺ににっこりと微笑む。

 

 「無罪じゃ!と!言っておる!儂たちの判断がそちを追い詰めたのは、心から詫びよう。儂がそちの願いをなんでも叶えてやるから、なんでも申せ」

 「え、えっと…本当に、その、俺…いいんですか?」

 「儂を殴ってもよいぞ?」


 あ、アッサリ!アッサリしすぎて喜びの念も湧かない!い、いいんだな?俺は晴れて自由の身なんだな!?やった!これでやっと安心して眠れるぜ…!

ニコラが俺の隣で、小さく息を吐くのが聞こえた。シルも、手元で小さく親指を立てて微笑んだ。


 「じゃ、じゃあ王様……俺から、一つ。願い事いいですか?」

 「なんでも聞くと言っておろう」

 「…トルメルについての資料を、…その、閲覧制限とかかけられているのも全部、俺に見せてください」


 城や町の図書館、博物館などには貴重な資料もあるけど、身分などによって閲覧制限をかけられている。トルメルについての資料も、そのほとんどが閲覧制限にかかってるらしい。

王は、ふむ、とまた呟く。


 「面白いものを見たがるのじゃな。うむ、良いぞ」

 「ありがとう…ございます」


 良かった。これで楽に調べ物ができるな。王が俺にウインクしてみせる。


 「またそれは後日、相談じゃな。じゃが、大神官殿。何か言いたげじゃの」

 「え、ええ。先ほどの報告の続きに…その少年の、さっきのことで」

 「む?」


 エリネヴィステさんが俺に視線を向けた。ちょっと寂しそうだけど、俺もなんとなくエリネヴィステさんが言おうとしていることが分かったから何も言わなかった。


 「ステイトは…トルメルの民の最後の一人なのです…。私から、個人的にもお願いしますわ。彼を…守ってあげてくださいまし」

 「…それで、トルメルの資料を見たいんじゃな?そちは…捨て子だと聞いておったが。なるほど、そういうことなんじゃな」


 エリネヴィステさんが白い髪を揺らして頭を下げる。俺も、王の言葉に頷いた。


 「よろしくお願いします」

 「…では、そちに儂の部下をやろう。いつでもそちを守れるよう、そちに従える者を」

 「そ、そんな。別に、俺はしばらく資料読んだりしてるだけで、…旅にも出たいですけど、まだすぐじゃないですし」

 「じゃから、いつでも頼りたいときに持っていくがよい。その役目を、シフィルハイド。そちに任せる」


 ニコラが突然の指名に顔を上げた。


 「お、おれ…いや、私が?」

 「そちとステイトが不服でないなら、じゃが。十分実力を持っていて、ステイトのことをよく知っているといえばそちしか思いつかぬのでな。

  じゃから今回も、ステイトの追跡をそちに任せたのじゃぞ。どうじゃ?」


 王が、にやっと笑った。ニコラも俺もぽかんとして、互いに顔を見合わせた。けど、俺はすぐにポカーン顔のニコラにニヤッとする。勝手にしろよ?

 ニコラがすぐに、にかっと笑った。俺には滅多に見せない爽やかな笑みだ。でもこれはいつもの外面を保つための笑みじゃない。…ニコラが笑ったんだ。


 「喜んでお引き受けします。…正直なところ、騎士を辞めてでもこいつについて行こうと思っておりました」

 「それじゃあ、儂はそちの身分も願いも守ってやれたというわけじゃな?感謝せい、礼は酒をおごってくれればよいぞ」

 「ありがとうございます…!」


 ニコラが頭を下げるのを微笑んで見つめながら、王が受け取った書類を手にひらひらとさせる。


 「まとめると、まず少年の無罪。聖剣の行方だけが分かった状態。少年が世界で最後のトルメルの民で、資料を見たがってる。こうじゃな?」 

 「ええ、感謝しますわ…ジギスムント様」

 「また言い忘れたことがあれば、手紙でも魔法通話でもなんでも、連絡を取ってもらえるとありがたいのう」


 エリネヴィステさんの言葉に、王がぺらぺらと書類を流し読みしながら答えて立ち上がった。


 「では、お開きにするかの?あまり聖セレネの大神官と補佐を拘束するわけにもいかんしの」

 「気持ちではもう少し王都を観て回りたいのですけれど…ひとまず今日は失礼しますわね」

 「オレもやな。また来ますよ、王様」

 

 残念そうに肩をすくめて、エリネヴィステさんとアストック言った。シルもそっと椅子を引いて立ち上がる。


 「僕も、もう行かなきゃ。ステイト、良かったね…本当に、良かった」

 「ああ。シル、本当にありがとうな。また遊びに行くからさ…そのとき、俺と戦ってくれよ」

 「あはは。本気出しちゃうよ、僕」

 「負けないように修行しとくぜ」


 シルが俺の方へ歩いてきて、そっと手を差し出した。


 にこっと首を傾けて笑うシルは、いつものシルだ。ちょっとの間だったけど毎日見たこの笑顔を、しばらく見れなくなるのはやっぱり寂しい。


 「またね、ステイト。約束、破ったら怒るからね」

 「ああ。シルこそ、俺のこと忘れてたりしたら怒るからな」

 「大丈夫だよ!…それじゃ、早く行くね。ずっといたくなっちゃうから…元気でね、ステイト。大好きだよ」


 俺もシルの細い手をぎゅっと掴んだ。痛くなるほど固い握手に、俺は思わず笑ってしまった。いてぇよ、シル!


 「俺もだ。…じゃあな!また手紙書くぜ。汚い字で悪いけど!」

 「ありがとう、ずっと待ってるね…!」


 手が、そっと離れる。シルはそのままエリネヴィステさんたちの方へ歩いて行く。部屋に残る俺たちを見つめ、頭を下げてから手を振った。


 「それじゃ!すっごく楽しかったよ!ありがとう!」

 「…シル!待ってろよ!」


 エリネヴィステさんとアストックも手を振ってくれた。そのままエリネヴィステさんはカツン、と杖を床に振り下ろす。するとまたあの光の陣が表れ、一気に3人の姿を光でかき消した!

慌てて目をつぶり、次に開くともうシルたちはいなくなっていた。…ほんとに帰っちゃったんだな。

 不思議と実感がわかないことばかりだ。なんか、明日も朝起きて部屋を見渡したら、シルがソファで座ってて本を読んでるような…そんな風景が浮かんでしまう。


 「…それじゃあ、まずは解散じゃな。ステイト、城の警備には伝えておくから、暇なときにいつでも城に来るのじゃ。そのときにトルメルの資料について教えよう。

  まずはそちが会いたい人に会いに行くのじゃ。…シフィルハイドの方は、特別任務続行という形にしておこうかの。身の振り方は騎士団長と話すとよい」


 俺とニコラは、同時に王の言葉に頭を下げた。ニコラはしっかり敬礼してたけど、俺はもう深々と頭を下げるしかできなかった。

だって、早く会いに行きたいから。…城下町の皆に、市場のおっさんやおばさん、俺をからかう皆に。そして、ヨーウェンさんとアリシアに。


 もっと早く帰ってくるつもりだったけど、ちょっと遅くなっちまったからな。アリシア、怒ってねぇかな…。


 「では、儂は少しシフィルハイドからの報告を聞くかのう。ステイト…何をしておる。さっさと行かぬか」

 「えっ…あ、はい!また明日にでも来ます!…ニコラ!」


 俺は会議室のドアまで駆け出し、途中でニコラを振り返った。ニコラが俺の呼びかけに、何だ、と返す。


 「今度!勝負したいから待っとけよ!」

 「…ああ。いつでも来い」


 きっとまだ、俺の力じゃニコラに勝てない…そんなことは分かってる。俺はルカにさえ勝てないんだから、ルカを簡単にあしらってたニコラに俺がやすやすと勝てる気もしない。

けど、…絶対倒すんだからな!何度でもやられてやろうじゃねーか!


 俺は振り返らず、会議室を飛び出した。廊下ですれ違うメイドさんや騎士にびっくりされながら、風のように城を走って飛び出した。


 長い階段を駆け下りる。眼下に広がる懐かしい、たいして離れていたわけじゃないのにすっごく懐かしい風景に見える俺の王都。もうここが俺の全てじゃないけど、やっぱり俺のホーム。


 俺はもう振り返らない。まっしぐらに。まっすぐに。俺の大切な場所へ、俺の『家族』に会いに行く。


 見慣れた小さな建物。通いなれた、俺の場所。窓を覗き込むことも忘れて、俺は勢いよくその木の扉を開ける。


 

 カラカラーン、と間抜けたベルが鳴り響いた。



―――第一章・完


第一章の最終話でした!ここまで読んでくださり、ありがとうございます…!

第二章は、トルメルの装備を探すことがメインになります。もしよければお付き合いください。閲覧ありがとうございました!

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