28 王都へ
荷物の準備はシルたちが全部やってくれた。エリネヴィステさんがアストックに頼んでおいてくれた薬も、俺は分けてもらえた。
エリネヴィステさんとアストックは聖セレネからの使者として、シルは俺の証人としてシエゼ・ルキスに来てくれる。ニコラも証人としても、騎士としても王都に戻る。
俺は身の潔白を証明して、また安心してぐうすか寝るために帰る!
準備は万端だ。
ぽかぽかと暖かい昼前、俺は神殿の前に広がる迷路のような庭を一人で走り回っていた。速さはまだ元通りにはなってないけど、それでも普通の人よりは速く動ける程度のはずだ。
しっかし広い庭だな!緑と花に溢れて、アストックの涙の世話が光り輝いてるぜ。
さて、そろそろ神殿に戻るか…。早めに昼飯食って、王都に戻らないといけないんだしな。
緑の壁に囲まれた中で、俺は空を見上げた。ふぅ、と息を小さくつき、また迷路を走り出す…!
―――ゴチンッ!
「あだっ!?」
「いってぇええっ!!」
な、何かにぶつかった!勢いよくぶつかった俺は、緑の壁にモサッとぶつかって芝生の地面に転がった。あ、頭が…い、いってぇ…!
どいつだよ俺以外にこんな庭で走り回るバカは!…あれ?そこに転がってんの…シルの弟じゃね?
シルと同じ赤い髪は、兄とは違って針のようにピンピン尖り、目も猫のようにつりあがっている。穏やかなシルとは全く違う、いつでも刺してきそうな荒々しさがびんびん伝わってくる。
俺も昔はあんな感じでコワかったのかなぁ、とか思いながら俺は体を起こした。シルの弟、ルカだっけ。ルカはまだ頭を抱えて蹲っている。
「…お、おい。ルカだよな?大丈夫か?」
「…てめっ!どんな石頭してんだ!!」
「えっ。石頭…初めて言われたぞ。痛かったのか、悪ぃ…って俺も痛かったからな!お前こそなんで飛び出してきたんだよこのクッソ広い庭で!」
「はああああ?俺は暇を持て余してただけだっつの!つか、お前誰だっけ」
「こ、こいつ……シルが紹介してくれてただろ。シルと一緒に旅してた。ステイト」
人のこと覚えてねぇのかよ!いや、この手のタイプは自分が興味を持った相手じゃないと覚えないタイプだな…。ルカが少し首をかしげて、目を逸らした。
「あぁ、騎士の隣にいたやつか。ステイト?言いづらいな。愛称とかねぇの?」
「スティ」
「女みたいだな。ステイシアとか?」
「…お前と思考回路がよーく似てる魔族知ってるわ俺…」
ヒュンッと頭の中にあの黄緑の髪の魔族少年の笑顔が通り過ぎていった。なんだよどいつもこいつも!ステイシアじゃねえっての!ス・テ・イ・ト!
俺もムカっときたから、つい大声で言い返す。
「てめぇこそルカなんて女っぽい名前じゃねーか!」
「るせぇ、れっきとした男の名前だ!やるかコラァ!」
「受けて立つぞコラァ!」
ギリギリギリ…。俺とルカの間に火花が飛ぶ。ルカは今にも剣を抜きそうな勢いだ。でも俺、今リハビリに専念だから武器持ってきてないんだよなー。
けど売られた喧嘩は買うぞコラァ!どっからでもかかってこいやぁああっ!…と思ったけど、俺が今、万が一でもボッコボコにされるのはちょっと困るな。
それに、多分シルが怒る。シルが怒ると色々まずい。…ルカ、お前には悪いけど、俺は自分に有利な流れへ持ってくぜ…!
そんな俺の内心も知らず、ルカがメラメラと火でも出せそうな視線で俺を睨みつけた。
「兄貴のダチだか知らねーけど、負ける気しねぇぜ!」
「ほざけガキンチョ!じゃあこうしようぜ、今から俺はこの迷路の庭を自分の勘で脱出する!俺の記憶力はたいしたもんじゃねーから出口までの道は忘れた!
だから鬼ごっこだ。お前が鬼!俺が庭を脱出するまでにお前に捕まるか、一撃でも食らったら好きなだけボッコボコにしていいぜ。
俺は反撃しねぇよ、ただ防ぐのと逃げるだけだ。…まぁ、お前なんかの攻撃なんてこの俺が食らうわけないけど?」
いかにも好戦的なこいつは、俺が逃げるだけの鬼ごっこなんて望まないはず。だからちゃーんと挑発するのも忘れないぜ。当然ルカはぶちギレた。
「なめんじゃねーぞ!魔法もありだな?すぐにてめぇなんざボッコボコにしてやる!」
「まぁやってみろよ?…んじゃ、俺が逃げて5秒後に来いよ!よーいっ、ハイッ!」
ニヤァ。ルカは俺が魔法効かない体質ってことを知らない。魔法にも武術にも随分自信がおありみたいですが、俺の逃げ足に敵うとでも?
ルカに言うなり、俺は庭の迷路を走り出した!ぶっちゃけ勘!運しだい!
あいつは攻撃系みたいだから、速さだけなら俺のが勝るはずだ!
―――ヒュッ
…っ!?俺の頬を稲妻が走る。雷系かてめぇ!関係ねぇけど!ルカが後ろから俺を追いながら魔法を詠唱してるんだろう…!
縦続けに俺の体のそばを稲妻が走り抜けて俺を追い越す。後ろから盛大な舌打ちと悪態が聞こえてきた。
「なんで当たらねぇんだ!追跡も完全なはず!」
「てめぇのコントロールが悪いんだろぉ?当ててみろよ!」
まぁ俺の体質のせいなんだけどね!ごめんね!
その後もバリバリバリと派手に勢いを立てて、昼前の庭に稲妻の閃光が走り続けた。だーーっ!とルカが叫ぶ。
「くっそ、てめぇ変な装備持ってやがるだろ!魔法避けとか!」
「似たようなモンをな!つーか、俺は魔法使って逃げてるんじゃねーぞ?俺の足だぞ?あっ、そっかー。ルカくんは俺の足には敵わないんですねー!」
「きっさまぁぁぁ!絶対潰す!覚悟しやがれ!」
おっ、挑発大成功だな。チャキッと金属音が聞こえる。剣を構えたか!いいぜ来いよ!
すぐに風切り音が聞こえる。そして舌打ち。俺の足は気にせずひたすら道を選んで進む。
「てめ、どんだけ速いんだ!」
「認めるんだな俺の速さ!まぁそれだけしか特徴がないからな!これでも病み上がりなんだからお手柔らかに頼むぜっ」
よし、こっちの道を…左だ!あっ!やべっ、行き止まりじゃねーか!順調に進んでたっつーのに…!ルカの馬鹿にしたような笑い声がとんでくる。
「バーカ!行き止まり選んでやんの!」
「くっそー、俺もここまでか…なんてなっ!」
俺は振り返ってべーっと舌を出した。俺の身長より若干高い程度の、アストックが切りそろえた庭の木の壁を跳躍で飛び越える!
二階の屋根まで跳躍できる俺だぞ、こんなの跨ぐみたいなもんだ!
「俺、跳べるんだよねーっ…ってお前もかよ!」
「あれぐらい誰でも跳ぶだろうが!」
「ちっ。アストック、今度庭の木が伸びたら二階の屋根ぐらいの高さで切りそろえてくれよ…」
振り返ったらルカも跳んでた!剣持ってるくせに身軽だな!着地するなりまた勢いよく駆け出す!どうしても跳ぶとタイムロスするから、できるだけ跳ばないように走ろう。
走るだけなら俺の方が速いんだしな!おらおらっ、ついてこいナマイキくん!俺の加速にルカが叫ぶ。
「くっそ!こうなったら意地でもてめぇを叩く!」
「追いつけないのにかー?」
「…ふざけんなよ、…」
突然ルカが立ち止まった。驚いて俺も思わず止まりそうになったけど、あいつ何か考えてやがるな…!なおさら立ち止まれねぇだろ、ここは直線…速く、早く距離を稼いで、
―――バンッ!
背中に衝撃。その勢いに押されて俺は吹っ飛び、真正面から綺麗に庭の木の壁に体を埋め込んでしまった。なっ、なんだ?さっき、何が起きた?
しかも…木の枝に引っかかって壁から抜けられないし!うおっ、髪にも絡んでやがる!
ザワザワザワッと木の壁の中でもがいてると、突然外にぐいっと引っ張られて芝生の地面に叩きつけられた!いってぇ!
体中葉っぱだらけのまま体を起こし、目を開く。げっ、腕とかさっき切ったな。擦り傷って地味に痛いからイヤなんだよなぁ…って、そうじゃない!
さっきのは何だ?座りこむ俺を、上からつりあがった赤い目がニヤニヤと見下していた。…追いつかれたってのか!?
「確かにてめぇの身体能力の高さは認めるぜ。けど、魔法をハンデにすべきだったなぁ?さっきのも雷魔法の応用だからな。
俺の剣に雷魔法を付加させ、俺はそれに乗って…つまり、稲妻の速さでてめぇに追いつき、体当たりしたってわけだ。さぁ、どうしてくれようかぁ、スティさんよぉ?」
「うっげー、お前ほんとにシルの弟?完全に悪役じゃねぇか。でもそうか…魔法ってそんな使い道もあるんだな」
悔しいけど、いい勉強になった。魔剣じゃなくても魔力付加はできるってこと、忘れてたぜ。あぁ、くそー!どうやって誤魔化して逃げようかなー。
えっ?ちゃんと約束守ってボッコボコにされろって?冗談じゃねぇよ。こっちは破っていい約束!俺の身のために!ぶっちゃけこいつと俺の戦闘能力は比べ物にならねーぞ。
当然、俺の方が圧倒的に弱い!見たところ、シルと同等みたいだからな!無理!
「剣がいいかぁ?拳でもいいぜ?頭突きでもビンタでも選ばせてやるよ?」
「…へいへい。どうせ力技はお前の方が強いさ。痛いんだろうなぁ…覚悟決めるからちょっと目つぶってて待ってくれよ」
「ふーん?ま、いいぜ。3秒な」
パチッ。うはっ、こいつ良い奴!優しいところあるじゃん!教えてやろう、勝って兜の緒を締めよ、と!
俺は音もなく走り、音も立てず近くの壁を乗り越えて走り出した!THE☆逃亡!素直に待ってくれたお前が悪い!バーカ!
3秒後、ああああああ!と叫び声が聞こえた。
「てっめぇええ!絶対絶対ぜーってぇ許さねぇぞ!逃げるなんてこの卑怯者がぁあああっ!!」
「馬鹿野郎!俺は今日王都に帰るんだ、これ以上傷抱えて帰れるかぁぁああっ!すぐ治るけど痛いのヤダし!」
「てめぇの事情なんざ知るかぁぁあああっ!こっちだな、待ちやがれーーっ!!」
シル!お前の弟さん怖すぎ!狩人でも勧めてやったらどうだ?いや、こんだけうるさい狩人は敵を逃がすから…やっぱ根っからの剣闘士だな、ルカ!
俺は勘と足を一生懸命働かせて、なんとかして庭から抜け出すともう庭には目もくれず神殿へ駆け込んだ!次会った時は何されるか分かったもんじゃねぇ!
バターン、と勢いよく神殿に入り、タペストリーをくぐって地下室の俺が借りてた部屋に駆けこんだ!中にはシルとニコラが!
「あっ、ステイト。そろそろお昼ご飯だよ…って、どうしたの?」
「棚に隠れる。いいか、お前の狂暴な弟様が俺の行方を探してても、存じ上げないと答えてくれ」
「…また何かやらかしたな、お前」
「売られた喧嘩買ったら負けたから逃げてる」
あらら、とシルが笑いニコラは額に手を当ててため息をついた。俺は部屋に備え付けのデカい服の棚に入ってやりすごす!俺が入って少しの沈黙が降りた。
と、バタバタバタと激しい足音が…!そして、威勢のいいというか空気を切り裂くような声が聞こえた。
「兄貴、それと騎士!スティ見かけてねーか!?」
「えっと…僕たちは見てないけど…ニコラさん、どこ行ったか聞いてます?」
「リハビリするとか言いながら午前に庭に飛び出して、それっきりだな」
「くっそー、確かにこっちに逃げたと思ったのに!どこ行きやがった!」
バタバタバタバタ…。…。行ったか…?も、もうちょっと待っとこう。案の定、俺の予想は当たる。また忙しい足音が戻ってきた。
「もし見かけたら、俺が探してるって言っとけ!あいつ、絶対ボコってやる!」
「う、うん…」
バタバタバタバタ…。…。もういいよな?誰かが俺の服棚をノックした。それを聞いて、俺はそーっと服棚を開く。あきれ顔のニコラとご対面した。後ろでシルが困ったように微笑んでる。
「お前な。今度はどうなっても知らないからな。だいたい、昼飯の時に顔合わせるだろうが」
「い、いや…あの調子だとしばらく俺を探してくれてるかなーって。その間にちゃちゃっと飯を」
「けど、ルカもまた戻ってくるかもしれないからね。あっ、そうだ。ルカには僕が用を頼んでおこうか」
「用?」
「エリネヴィステ様が言ってたんだ。テシアノと僕のもう一人の弟、フェリーチェが今聖都に向かってるんだって。そのお迎えにルカを使おうかなって。
多分僕たちが王都へ行く頃に到着すると思うから…。多分ルカがまたステイトを見かけたら、それこそ容赦しないと思うし…あはは」
ひえー。兄貴からのお墨付きの狂暴弟君じゃねーか!早速ルカを追いかけに行ったシルを見送りながら、俺はニコラの冷たい視線にさらされていた。
「病み上がりで何を喧嘩もらってんだ」
「し、仕方ないだろ。イラッってきたんだし」
「…はぁ。さっさと飯、食いに行け。もう俺たちは食べた。あとはお前がさっさと済ませて、すぐ王都だ」
「もたもたしてるとまたルカとご対面だな…よし、食べてくる」
まさかあんなにルカが強いとは思わなくって…!俺は慌てて飯が置いてある台所へ走る。誰もいないそこで、流し込むように昼飯を食べてまた部屋に戻る!その間わずか10分!
けどその間にシルは戻ってきてたし、ニコラも荷物をまとめて床に置いていた。
「食べるの早いね…!ルカには言っておいたよ。えっと、もうすぐエリネヴィステ様とアストックさんが来るから…ステイト、あの薬…飲んでおいてね」
「うっ…し、仕方ない…」
俺が荷物をあさって丸薬を取り出し、息を止めて飲み込んだとき。アストックが丸めた地図を片手に、エリネヴィステさんと入ってきた。
「準備できとるんやな?あ、コレ地図な。聖剣の行方が出るやつ!また騎士団とかそっちの王様とかの分は要請があれば量産して送るで」
「ありがとう、アストック!あと、薬…たしかにハッカ飴の味だ」
「やろ?俺の涙の研究成果や…また足りなくなったら聖都に来てや。すぐ作って渡すで」
アストックが、ぐっと親指を立てて口元をニヤッとさせる。それをみて俺も真似して、ぐっと親指を立てた。うふふ、とエリネヴィステさんが笑いながら言う。
「じゃあ、さっそく行きましょうか?ステイトったら、ルカに追われてるみたいですものね」
「し、知ってたんですか…」
「見てたんですの。…あらっ、忘れものかしら?ルカが神殿の入り口まで帰ってきてますわ」
「エリネヴィステさん早く!どうぞ!」
俺、必死!マジかよなんで帰ってくるんだよルカあのガキンチョ!俺の必死の形相にアストックとエリネヴィステさんが笑い、すぐにエリネヴィステさんが持っていた杖を地面にカツンとつけた。
お、おお!?薄暗い地下室の床に、ぼわっと光る大きな陣が!俺たちの足場をすっかり陣が囲み、さらに強く光りだす。
「さぁ、行きますわよ…王都、シューティヒア!」
エリネヴィステさんが杖を天に掲げたとき!廊下にルカの姿が!
「あああスティ、てめっ!逃げるのか!」
「わりぃな、今回は逃げるぜ!またな!」
「このーっ!覚えてろ、絶対に許さねぇんだからな!!」
俺は余裕たっぷりに笑いながら言ったけど、内心は間に合って良かったあああああと叫んでいた。ルカの叫び声と同時に光が一層強く輝き、部屋全体を埋め尽くした!
そして、視界が真っ白になる。光で埋められた中で奇妙な感覚が体を突き抜けた、…な、なんだこの感覚…!?世界が白くなる…!……
―――「…着きましたわ。シエゼ・ルキス王国の王都、シューティヒア。ここは城の前。シエゼ・ルキス城…ですわね」
突然、ガクッと体の力が抜けるような感覚に襲われた!それでも、実際には体はちゃんと立っている。一瞬の浮遊感があった…。俺はエリネヴィステさんの言葉に、ゆっくりと目を開く。
目の前に広がるのは、長い階段。その先に、大きな門が見える。門番の騎士の甲冑は、俺がよーく見慣れすぎて泣きたくなるくらいの…シエゼ・ルキス騎士団の鎧!
俺たちがいる広場は城前の広場。大して広くないけど、人々の憩いの場…あああっ、王都だ!
「本当に王都だーっ!」
「ああ…部下にどう顔を合わせればいいんだ」
「ここが、シエゼ・ルキスの王都…」
俺はぴょーんと歓喜で跳びあがる。ニコラは嬉しそうな、けどめんどくさそうな複雑な笑み。シルは大きく目を開いて辺りを見回している。ざわざわと絶えない人の話し声も、この市場からの匂いも。
建物も、風景も、みんな…俺の町!王都、シューティヒア!
「私も来るのは久しぶりですわねー」
「俺は初めてやなー」
お前らは観光か。エリネヴィステさんとアストックも楽しそうに辺りを見回す。けどさ、その…目立ってんぞ。片方は真っ白なドレスローブをまとう、地面につきそうなほど長い白い髪の女の人。
もう片方はモサモサ銀髪で目が隠れてる胡散臭そうな男。おまけに、広場にポッと出てきたんだったら町の人もビビるだろ…。
すぐに若い騎士が簡易鎧をカチャカチャ言わせながら走ってきた。むっ、あれは下級騎士だな。町の平和を守る、一番最下層の騎士だ。
生真面目にも俺たちに、しっかり敬礼して大きな声で尋ねる。
「お見かけしない方々が突然現れたとのことで駆けつけました!身分証明をお願いします!」
あら。俺たちは皆、顔を突き合わせてまだ若そうな騎士のにーちゃんに一斉に向き直る。
「ステイト!薬屋ヨーウェン・アンダーソンさんのバイト!王都出身!」
「シルヴェスタ・ネフィア・アルギークです。聖セレネに身を寄せてるアルギーク現王の第一王子です」
「エリネヴィステと申しますわ。聖セレネ聖都エリネヴィステより、王様に謁見したく参りましたの」
「アストックやで。エリネの補佐神官。今回は護衛も兼ねてるんやけどな」
あ…騎士のにーちゃんポカーンとしてる。そうだよな。俺は王都にいる人間なら誰もが知ってる噂の元盗賊だし、シルとかエリネヴィステさんは普通ならありえない高貴な身分を名乗ったし。
アストックはまぁ、まだ分かるけど…。むすー、っと黙って仁王立ちしているニコラに、若い騎士が視線を向けてヒィー!と叫んだ!
「あ、あ、あなたは…我が騎士団の第3小隊隊長…ニコラ・シフィルハイド殿…!」
「俺も有名になったもんだな」
ニコラがぽりぽりと頭をかきながら言う。片手でポケットを探り、騎士団の身分証明カードを出しながら続けた。ちょっと、なんか騎士のにーちゃん可哀そうになってきた。
「俺がこの人たちの身分を保証する。城の方に行っても構わないか?」
「も、も、もちろんですっ!!」
うおー、気合の入った敬礼!騎士のにーちゃんに、ニコラはにっこりして同じように敬礼を返す…ほんとに外面だけはいいなコイツ!
石のように固まっている若い騎士の傍を通って、俺たち一行はニコラを先頭に進んだ。長い階段にエリネヴィステさんがため息をついてるのをアストックが茶化してるのが聞こえる。
そして、バキッと痛い音が…。アストック、あんた一体何個頭にタンコブ作れば気が済むんだ…?
やがて城の入り口の門まで来た。さっきの若い騎士とは違い、全身がっしりと鎧を着こんでいる騎士がいる。王都警備隊の中でも上級の奴らだな。
ピシッ、と体を伸ばして敬礼するのを俺は呑気に後ろから眺めている。あの鎧、重そうだなー。
「ニコラ・シフィルハイド殿とお見受けします!そして、そちらは…聖セレネの大神官様ですね!お話は聞いております!」
「王がお待ちです!皆様、お入りください!」
あれっ。やけにスムーズじゃねーか。首をかしげた俺に、エリネヴィステさんが振り返って微笑んだ。
「魔法で緊急伝令は飛ばしておいたんですのよ。さっきの騎士様は町の警備だから、伝わってなかったんだと思いますわ」
「な、なるほど。…俺も入っていいんだよな?」
バキッ。今度はニコラのゲンコツが俺の頭に落とされた!
「お前が来なくてどうするんだバカ。大神官殿、お先にお入りください」
「いってー…」
「では、お先に失礼しますわ。アストック、着いてきてくださいまし」
ギィ、と開かれた城の扉をエリネヴィステさんがアストックを従えて入っていく。それを見ながら俺は、頭をさする。
「…いってぇな、もう。…けど、いよいよだな。シル、ありがとうな…ここまで着いてきてくれて」
「ううん、僕もちゃんと見届けないとね!さぁ、行こう。王様が待ってるよ」
ニコラが先に入って行く。シルが俺ににこっと微笑み、俺が動くのを待った。
…これが、シルとの旅の終わり。ひとまず、だけど。また機会なんていつでもあるし、今度はちゃんと自分たちの意思で旅立てるんだ。
そう思えば気も軽くなるだろ?それに、…ルカにも殴られに行かないとダメだしな…。
「おう!じゃ、突撃だっ!」
「うんっ!」
シルの髪がふわっと揺れる。この赤い髪に目を惹かれたのが最初だったな。スリから助けたんだっけ?俺もお人好しなことするなー。おかげで会えたんだけど。
目の前の城の扉の向こうで、ニコラが立ち止まって待っている。早くしろ、とでも言いたげだ。
分かってるって!すぐ行くから!
もう俺とシルは何も言わなかった。ただ、前を見て城の中へ足を踏み入れる。
これからがめんどくさい正念場だよな。王様がどんな人か知らないけど、理解あるやつなら嬉しい。
けど俺はもう動かない事実と聖剣の行方のカギを、間違えないように伝えなきゃ。
もうちょっとで見えてくる安息に希望と少しの寂しさを感じる。それ以上に、これから先やらないといけないことを思えば、ちょっとだけ頭が痛いんだけどさ。




