21 使用人
うっへー、暑い!天気が良すぎるのも困りものだな、もうちょっと風が吹いたらマシになるのに!
休憩や食事を挟みつつ、俺たちは草原の先へ続く道を歩いていた。あのワームの後に出くわす魔物はいっそ味気ないくらいだ。骨がない!
なんて言ったって、俺でも一撃でバシューン、って倒せるくらいのやつまで出てくるんだからな。ニコラにいたっては一睨みするだけで魔物が逃げていく。
シルは相変わらずにこにこーっとしてるもんだから魔物に奇襲されたりしてるけど、そのたびにまた目をギラッと光らせて一発打撃!
こいつの本質は多分、ニコラと同類だと俺は勝手に思っている…。表面草食系ってやつだな。
一方俺は、そんなふうにときどき向かってきた魔物になんとかしてあの氷漬けを発動できないもんかと四苦八苦していた。今のところ…できそうにない。
なんとなく分かってきた気もするのになぁ、何だろう?あの、体の内側からよく分からないものがグワッと込みあげるような、そんな感覚が足りないんだよなぁ…。
今も俺たち3人はさっさと早足で歩きながら砂の道をたどる。空からは刺すようなお日様の光…頭焼けそう。
俺はさっきカバンから出した木の実をかじりながら独り言をつぶやいた。
「あー、いつ着くんだろう。もうやだ、足勝手に歩いてくれねーかな」
「それだとどこかに勝手に行っちゃうよ?」
「いやいや、そこは俺の足だから。たぶん大丈夫」
「移動手段としてなら風魔法を学べば飛行もできると聞いたが。俺は闇魔法と治癒魔法しか学んでいないから無理だがな」
ニコラの言葉に、風魔法を操る少年魔族を思い出す。確かにシャハン、飛んでたよな。笛で呼び出して、魔法でぱーっと聖都まで運んでくれたらいいのに!
と思ったけど、俺だけ見事に置いてかれるのか…!もう変な力とかいらねーから、俺にも魔法の素質くれよ誰か!
あ、そうだった。シャハンのこと、話とかないと。思い出したついでに、俺はそのまま歩きながらシルとニコラにシャハンのことを話した。
シルがへぇ、と明るい表情で頷く。
「魔族にもいろんな人がいるんだね。砂漠に住んでるのかぁ」
「そいつ、旅するのは初めてなんだとさ。また聖都に着いたら紹介するよ」
「人間に好意的なのは助かるな」
ニコラが手持無沙汰に魔剣を片手でぶんぶん回しながら相槌を打つ。いや、その剣しまえよ物騒だな!どうりでさっきから遠目に魔物が見つめてくるのか!
魔物視点からだと、人間襲いたいけどナニアレ恐っ!みたいな感じか?助かるけど見ててこえーよ。
と、かつんと音がした。ん?何の音?シルとニコラが立ち止まり、足元を見る。つられて俺も見て、何かあることに気づいた。
「なんだこれ、針?」
拾い上げようとしてしゃがみ込むと、はっ、と息をのむ音がしてシルが俺の手をパシッと掴んだ。えっ?
「ど、どうしたんだよ?」
「これ、毒針かもしれない。触っちゃだめだよ」
シルの言葉に、俺は地面に転がる小さな針を二度見した。こ、これが毒針?どっかから魔物がとばしてきたとか?けど、さっきカツンっていったよな…。
立ち上がってニコラを見ると、ニコラが魔剣から魔力を放出しながら辺りを警戒していた。
シルも杖をだして辺りを窺がう。ここらへんにはただひたすらに背の低い草原と、遠くに森が見えるだけ。大きな木とか岩もないから隠れる場所はないけど。
「魔物か?」
「いや。…誰かが俺たちを狙っているのかもしれない。その針は魔物の使うようなものじゃない」
ニコラが俺の問いに首を振りながら剣を構える。シルの表情がこわばったのが俺の視界に映った。あ、もしかして…とうとうシルの追っ手が現れたのか?
シルが口を開こうとするしたとき、ニコラが大声で叫んだ。
「出てきてもらおうか!無差別に攻撃するぞ!」
うわっ、声デカい!吼えるようなその警告に思わず俺の背が伸びる。と、森の方で何か動いたのが見えた。誰か、出てくる?
一気に緊張感が増し、俺もナイフをすっと片手に滑り込ませた。自然に俺たち3人は、背を合わせて全方向に注意を向ける。
すると。森の方を向いていた俺の視界に何か、一瞬きらめくものが見えた。なんだ、飛んできたのか!?考える間もなく、俺は片手のナイフを宙に振るう!
―――キンッ
「誰だてめぇ!」
さっき森から何か飛んできた!ナイフではじいたそれは、やっぱり針だったみたいだ。
ニコラが魔剣を天へ突き上げた、と剣の先から黒紫の雷が走る!音もなく閃光は森へ走り、潜む何かへまっすぐ向かって行った。
バシッと音がしたかと思うと、森から誰かが飛び出してきた。まっすぐこっちへ走ってくる!俺とシルを背にするようにニコラが前へ出た。
そして、走ってきた何者かと対峙する。
そいつはシルと同じくらいの背の、全身を黒いローブとフードに隠した『いかにも』な恰好だ。怪しっ!ぎら、と何かを振り上げ、ニコラへ刺そうとする。
あれは…何だ?短剣じゃない、けど短剣と同じくらいの大きさで、刃ではなくキリのように、細く尖った金属が木の柄から伸びている!
ニコラは落ち着いていた。相手の攻撃の道筋を完全に読んでいて、ひゅん、ひゅんとその暗器を振り下ろす向こうへと軽くよけている。
そして、剣を振るまでもなくニコラはそいつを蹴り上げた!うわっ、痛い音!俺がよくする蹴りとは違って、重い音が響いた。
―――ゴスッ
そしてそいつが崩れ落ちる。さらにニコラが、何かをぶつぶつとつぶやく。あ、魔法か。
「ブラインド!」
ぐわっ、と黒紫の光が倒れ伏す襲撃者に吸い込まれるように消えた。ピクリとも動かないそいつに、ニコラがぽりぽりと頭をかいた。
「…やりすぎたか?」
「お、おま…」
「ああ、さっきのは感覚を奪う魔法だ。万が一すぐに目を覚ましても、混乱して歩くこともままならないはずだ」
…うわぁ、ニコラってばめんどくさそうな表情してるのにどこか生き生きしちゃってるー…。てか、怖い技だな…感覚を奪うって!
シルがそっと襲撃者に駆け寄り、そのフードをぬがして息をのんだ。ハッと声を漏らしたシルを、俺とニコラは見つめた。
見えたのは鮮やかなオレンジ色の髪の青年。歳はニコラぐらいか?
「やっぱり、俺たちを追ってきたのか…?シルの追っ手?」
俺もかがんで襲撃者の青年を見た。気を失って倒れてるけど、この寝顔というか力の抜けた顔はどっちかというとシルに感じが似ていて、穏やかそうに見える。
シルが少し沈黙して、やがて震える声で返した。
「…僕の、使用人で…兄のような存在の、人だよ…。どうして、…どうして…テシアノ…」
…へ?どうして、シルの…使用人が?襲ってくんの?シルはその、テシアノっていうらしい青年を見つめたままつぶやいた。
「僕が城から逃げるときに手引きをしてくれたのもテシアノだったのに、どうして」
悲しそうなシルの表情に、俺は何も言えなくなった。まさか裏切り?シルを追って?だとしたら…なんか腹立つ。俺がよくそのツラ眺めてやる!
と、俺が手を伸ばしてテシアノのフードをもっと動かそうとしたとき。ちょっと手が滑って肌に触れた、と思った…瞬間、
―――ビキッ
「おぅっ!?」
「えっ?」
「ステイト、何をやらかした…?」
突然何かが割れるような音が!えっ!?さ、触っちゃっただけなんだけど!びっくりして飛び退いた俺を、シルがもっとびっくりしたような表情でばっと見た。
ニコラも呆れた顔で、またお前かみたいな感じで声かけてきた。けど俺何もしてないから!
そのとき、倒れているテシアノの方からうめき声が!シルがすぐそばで覗き込み、ニコラはまたいつでも攻撃できるように剣を構えた。一方俺はびびって飛び退いたままだ。
けど、何事もないようにゆっくりとテシアノが目をぱち、と開いた。エスニックなオレンジ色の短い髪がさらりと流れ、黒い瞳がシルの姿を捉える、途端。
「あああシルヴェスタ様ーーーっ!!よくぞ御無事で!!」
「えっ!?」
い、いきなりデカイ声出すなよびっくりする!
感激!といったように大声でテシアノが叫ぶ。目が落ちそうなぐらいに見開かれ、がばっとシルに抱きついた。シルが戸惑いながら、えーっと、と言葉を探す。
そして俺はニコラをじーっと見た。へー、感覚を奪う魔法?これが?視界バッチリみたいだけど?
謎の再会劇みたいになっちゃってる側を放置して、俺はニコラに微笑んだ。
「ブラインド!(笑)」
「…ぶっとばすぞクソガキ。ちげぇ、魔法は確かにかかった。だが、お前がさっきそこの使用人に触って解除されたんだ」
「…Oh」
「……だが、何だこれは?さっきとはずいぶん、態度が違うというか…」
あ、俺でしたか、ごめんちゃい。すげぇな、他人にかかってる状態魔法まで解除できるのか。解呪とかに使えそう。ニコラはさっき思い切り攻撃を仕掛けてきたテシアノに困惑しているようだ。
確かに、あんな殺気ギラギラで襲い掛かってきたのに、目を覚ましたらこれって…。
俺とニコラが、もう涙を流す勢いでシルとの再会を喜ぶテシアノを見つめるとようやく彼も気付いたようだ。あ、と間抜けた声をだし、シルから離れた。
「これは!私、シルヴェスタ様の使用人、テシアノ・コスタと申します!」
「あ、えっと。俺、ステイトです。シルと一緒に聖都へ行く途中で」
「ニコラ・シフィルハイド。シエゼ・ルキスで騎士を務めている」
ぺこっと頭を下げて丁寧に自己紹介するテシアノに、俺たちも少し面食らった。けど、慌てて名乗る。な、なんだよこの態度の豹変。
いやー、と笑顔で頭をかきながらテシアノが言った。
「私、シルヴェスタ様をアルギークから逃がした後、王に勅命を預かりまして。王子の逃亡がばれるのも時間の問題だから、私も後を追えと」
その言葉に、シルがまだ困ったような笑みを浮かべてテシアノに言う。
「けど、さっきテシアノ…僕らを襲ってきたんだよ?どうしちゃったのかと…」
うんうん。俺もこくこくと頷くと、突然テシアノの表情から色がなくなった。ばっ、と勢いよく振り返り、森の方や草原の果てをきょろきょろ見つめている。
そして顔を蒼白にしたまま、つぶやいた。
「や、やられた…。奴ら、いつのまに」
「え?」
いったい何のことだ…?俺たちが顔を見合わせて首をかしげた時、突然ずさーっとテシアノが土下座した!うわわ、何!?
「なんという失礼を…!気付かないうちに、私はどうやら王子の追っ手と出くわしていたようです…もしくは、城を出る前に怪しまれたか…。
私は道中、シルヴェスタ様を含めた王子兄弟を探しておりましたが、やっとシルヴェスタ様に会えました。
しかし、さっき私が襲い掛かったならば…私は、反王家派の呪術師に操られる呪いを受けていたのかもしれません。
私が探している人物、つまり王子たちに出会ったときに発動し、…襲い掛かるように…ああっ、この!私の不注意で…!」
えっ。呪術師なんかいるの!?うわー…ゴメン負ける気しねぇわ…。いや、それは俺限定。普通の人なら呪いは脅威だ。
シルも安心したみたいで、はぁーっと長い溜息をついた。
「よ、よかった…。もう、僕…テシアノまで敵になってしまったのかと…」
「すみません…!私は幼いころ城仕えをしてからずっと、王家の傍にあります…!あああ申し訳ない!
ええっと、ステイト様とニコラ様、本当に申し訳ないことを…!」
ひえっ、そんな呼び方とんでもない!俺はぶんぶんと首を振って慌てて答える。
「ステイトでいいんで!」
「俺も主に仕える身だ。ニコラでいい」
「す、すみません。それにしても…シルヴェスタ様が無事で何よりだ…!長い道のりを歩き回って良かった…!」
ああもう、泣きそうじゃんかテシアノ。シルが改めて、テシアノを俺とニコラに紹介した。
「えっと、僕からも改めて紹介しておくね。テシアノは僕がすごく小さいときから兄のように接してくれたんだ。もちろん、弟たちにもね。
ちょっとせっかちだけど、柔軟ですごくいい理解者なんだよ。ちなみに22歳」
お、おう…22…ニコラをちらっと見たら、ぼそっと「俺の方が年下か…」とかつぶやいてるし何なんだお前。
でも、とシルが安堵した笑顔を魅せる。
「本当に良かった、テシアノ。あまり魔法も戦闘も得意じゃなかったんだよね、魔物とか大丈夫だったの?」
「ええ!慣れない武器でなんとか!池の魚に食べられかけたり、魔物の巣につっこんだり、乗る馬車を間違えて危うく本国へ帰りかけたり…危ないところでした」
「…いつも通りのドジとせっかちで僕は安心です…」
いいのかよ!若干シルも呆れたように見えるけど、日常茶飯事らしい。爽やかに目を閉じて、苦労に思いをはせるようにテシアノが語る。
つか、俺たちよりもなんか過酷な道を来たんじゃねーの、この人…。
「一番危なかったのは、あまりの空腹で森に迷い込み、気づいたら煌びやかであでやかな色形のキノコをうっかり食べそうになったことですね」
「危ないなぁ…」
「ええ、生で食べるところでした。焼いて食べました」
「…うん、いつも通りだね」
ツッコミが来い!シル、流しちゃダメ!そこは『結局食べたんかい!』だ、ああもうハラハラするなこの主従!ニコラが微笑ましく見ている…お前もツッコむ気、ねぇだろ…。
まだテシアノの話が続いた。シルもうんうん、と微笑んだまま頷いてるし…。
「食べた後、世界が赤色になって驚きました…」
「…あらら」
「王子の色だと…思うと幸せで」
「えっと」
やっとシルが止めた!もう俺、いつ割って入ろうかとヒヤヒヤだったぞ…!つか、この人もしかして、超過保護使用人…?俺が半開きの目でシルを見ると、察したのか頷いた。
「ずっと言ってるけど、テシアノ、無茶したらダメだよ。僕なら平気だから、テシアノはもっと自分を大事にしなきゃ」
「す、すみません…」
しゅーん、とテシアノがしょぼくれる。耳元のあたりだけ少し長めに揃えてある髪が犬の垂れ耳みたいだなー、と俺は思った。けど、シルがテシアノににっこりする。
「…だけど、会えて安心した。弟たちも、父上たちも心配だけど…遠くの場所で、もともと知ってた人に会えるってすごく安心するんだね」
…そっか、そうだよな。確かに、今のシルの笑顔は、なんだか俺が今まで見て来たものとは違うような気もした。うーん、そう思うと寂しいな。俺は途中からのぽっと出なんだし…。
平和に城で暮らしてたときの思い出は、シルにとってはすっごく大切なものなんだ。ちょっとだけ羨ましくなったけど、俺がヨーウェンさんたちに会いたくなるのと似ていると思う。
シルの言葉を聞いて喜んだのは、当然テシアノ。ぱぁっ、と顔が輝いて、また深々と頭を下げる。
「私も…シルヴェスタ様のご無事を確認できただけでこれ以上ない幸せです…!ステイト、ニコラ…ありがとう、王子を助けてくれて」
すっくとテシアノは立ち上がり、俺たちに嬉しそうな笑顔を見せた。シル、いい使用人に恵まれてるんだな。俺もいやいや、と笑って返す。
「俺、シルに助けられてばかりで。何も助けられなくて…」
「何言ってるの、ステイト。ユハのときも、ステイトがいなかったら何もできなかったんだよ」
あのときだってシルがいなかったら、俺も双子を助ける勇気はなかったかも。そんなに長い旅はしてないけど、シルと俺も仲良くやってこれたんだろうか、な。
テシアノがほほ笑んだまま、シルと俺に言った。
「いえ、シルヴェスタ様にお友達ができて良かった…。そういう面では、不自由をさせてしまいましたから…」
「本当にね。ステイトに会って、いろんなことを体験してから…僕、ますますもっと旅をしたくなった」
あはは、とシルが明るい表情でテシアノに言う。一方俺はちょっとだけ照れてシルを見てられなくなった。なんとなくニコラを見上げたら、穏やかな表情で成り行きを見守ってる。
俺がニコラの方を見たのに気付いて、ニコラは俺に首をかしげていた。いや、別に用はねーんだけど。てかお前、さっきから空気だぞ。
シルがテシアノに向き直って、真剣な表情で聞いた。
「だけど、この様子ならもう僕が、いや…兄弟皆逃げ出してるって反王家派にばれてるみたいだね」
「はい。私も…シルヴェスタ様に会えて嬉しいのですが、ルカ様やフェリーチェ様の行方を探さねばなりません…」
テシアノも申し訳なさそうに、うつむきながら答えた。ルカやフェリーチェってのは多分シルの弟たちだな。シルがその名を聞いて、心配そうに表情を曇らせる。
「ルカ、フェリ…大丈夫かな…。…テシアノ、僕は本当に大丈夫。聖都まであと少しだし、心強いステイトとニコラさんもいるから。
僕は絶対に先に聖都へ行って、大神官様にお話ししてみる。だから…僕からもお願い。ルカたちを…なんとか見つけ出して。
絶対に無茶はしてほしくないよ。もし弟たちが見つからなくても…テシアノは帰ってきてね。…聖都にいるから」
「…当然です。私はまた…ご家族全員が揃われる日を望んでいるのですから。私のこともご心配なく!今度は毒キノコにも気を付けます」
最後の冗談にはシルも笑った。ニコラが進み出て、テシアノに頭を下げる。
「俺が責任を持って貴殿の主を聖都へ連れて行く。どうか、無理をしないでくれ」
「ありがとう、ニコラ。また貴方ともお話ししたい、私の国の騎士は石頭ばかりだから」
それを聞いて、ニコラも軽く笑ってテシアノと握手した。俺もすぐに、テシアノに胸を張って宣言する。
「俺も、シルをちゃんと連れてくから。いつか、アルギークに招待してくれよ」
「もちろん。シルヴェスタ様を…よろしく頼みます」
なんだ、テシアノいい人だ!ちょっと抜けてるから心配だけど。オレンジの髪が風に揺れ、テシアノはさっと頭を下げた。
「最初の非礼を心から詫びます。反省して、もう反王家派など私がぶっ潰しておきます!また聖都でお会いしましょう」
「うん、テシアノも気を付けてね」
「もしこっちでシルの追っ手見かけたら、俺がつぶしとくから!」
「俺も手伝おう。また近いうちに会えることを願っている」
それでは!とテシアノは深々と頭を下げて、またフードをかぶって森の方へ歩み去って行った。しばらく俺たちは立ち止まってそれを眺めていたけど、ときどき振り返って手を振るテシアノに笑った。
なんていうか、平和だな。最初は何事かと思ったけど!シルの弟たちも早く見つかればいいのに…。俺の身の潔白が証明されたら探すの手伝おうかな。
森の中にテシアノの姿が消えた頃、シルがふぅとため息をついた。
「…ごめんなさい。やっぱり僕、追われてるみたい」
「今まで来なかったのが不思議なくらいだぜ。大丈夫だ、シルの命を狙うやつはボッコボコにしてやる!」
「俺に任せておけ。下っ端軍人などには負けないつもりだ」
俺とニコラの自信満々の宣言に、シルがくすっと吹き出しながらありがとうと頭を下げた。テシアノを見てて分かったけど、やっぱりシルはアルギークの人から愛されてるんだろう。
それを政治だのなんだのと…やっぱりボッコボコの刑だ。最近俺のボッコボコリストはパンクしそうだけど、今だけそのボッコボコリスト第一級ターゲットのニコラとも協力してやる!
王子としてシルをアルギークに返すんじゃない。平和な暮らしを送っていた一人の少年であるシルを、ホームに戻してあげたいだけだ。
俺も、他人のために頑張ろうなんて思えるようになったのは成長かもしれない…と自分で考えていた。いいだろたまには自惚れたって!
なかなかそんな機会ないんだからな!
さぁ、とシルが聖都への道へ一歩踏み出した。
「それじゃ、行こう!僕も…許せない。僕の大切な人たちを操り人形にするような人たちなんて…。まずは聖都だね、大神官様に会えばもう大丈夫だから!
それまで…力を貸してください。お願いします」
「何言ってんだ、言われなくたってお節介してやる!」
「ああ。シルヴェスタも、頑張りすぎないようにな」
ニコラがシルの頭をぐしゃぐしゃっとなでる。シルは照れたようにはにかみ、俺はぐっとこぶしを作って気合い入れに天へ突きだした。
「よしっ!出発だなっ!」
「行こう、聖都エリネヴィステまでもう1日かからないよ!」
「魔物と追っ手は任せておけ」
けっこう、このトリオでもいけるんじゃね?なんかやる気出てきた!
俺は思わず、まだまだ先の長い道を走り出した。一刻も早く、シルを安全なところで安心させてやりたい。
待って、と叫びながらシルも俺に並走する。その少し後ろを、呆れたようなため息をつきながらニコラも走ってついてきた。
道をふさぐ魔物はもういない。あんなにたくさん魔物が湧くって言われてたのに、どどどっと走り抜ける俺たちに魔物は遠巻きに見つめたり逃げ出すだけだった。
へっへっへ!よく分かってんじゃねーか!今の俺ならあの氷漬けもできそうな気がするぞ!
これ見よがしにワームのでかいコアをちらつかせるだけで逃げていく魔物もいた。知性ないくせに本能はあるんだな、と謎のレポートを頭の中にとる。
結局俺たちは、ずっと夕方ぐらいまで小走りで進み続けた。疲れて休むころには日が暮れていき、空にはうっすらと星のじゅうたんが見え始めていた。




