表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルキスの剣  作者: 夜津
第一章 聖剣の喪失
18/131

17 襲来する魔物


 ふわーっと俺は大あくびする。うーむ、ゆっくり昼まで寝てみたいもんだけど、体には早起き癖がついちまってるみたいだ。

やっと朝のお日様の光が、建物と建物の間を縫って窓にやってきてくれた…そんな時間。

 もうちょっと寝る時間あるじゃんかー…。


 体を起こして布団を取ると、シルが自分のベッドに腰掛けて真剣な表情で本を読んでいた。ときどき口元が動くけど、無言。無音。集中。

てかこれは俺が起きたことにも気づいてないだろうな。朝から読書か…熱心だな。


 俺がおはようと言おうとすると、突然シュワッと音を立ててシルの周りに小さな青い炎が浮いた。うわわ!


 「し、シル!」

 「…あっ、おはようステイト。これは大丈夫だよ、ちょっとだけ再現してみようと思ってたんだ」


 さ、再現?シルが少し申し訳なさそうに笑って言った。あ、もしかしてその本、魔法書か!朝から訓練…、さすが。

シルが俺に微笑み、ぴ、と人差し指を出す。


 「見てて。こんなのもできるんだよ」


 またシュワッと音がする。そしたら、さっきまでシルの近くで青くほんのりしながら浮いていた炎が虹色にぴかぴか点滅し始めた。

すげ、これどうやってんだ?びっくりして炎に目を奪われた俺に、シルが楽しそうに言った。


 「イルミネーション。戦闘ではあまり役に立たないけど、生活ではちょっと役に立つんだ」

 「このぴかぴか光る炎が?たとえば、どんなときに」 

 「泣いてる小さい子に見せてあげたら、びっくりして笑ってくれるでしょ?」


 な、な、なんだと…!お前は迷子センターか何かのお兄さんか!孤児院のお兄さんか!なんという…確かにガキンチョ喜びそうな…!

転んで泣いてる子も一発だな。俺なんて、前に王都で転んだガキ助けようとしたら『お兄ちゃん目つき悪い!』とか言われて逃げられた。泣きたい。


 それも結構前の話だ。今のフレンドリーステイトくんにかかればガキンチョだって…!と思ったけど隣にシルがいる限り、率先して俺に寄りつく子供はいないだろう…。


 俺だって王都の商人のおばちゃんにはモテてんだぞ、といらない方向に俺の思考が迷走し始めた頃。朝の静けさを濁すようにグーッと盛大な音が聞こえた。

そして沈黙。フォンッと音を立てて、シルが浮かべていた炎を消した。俺とシルはそこそこ真剣な顔で見つめあい、俺がぼそっと確認する。


 「…シル?」

 「…えっと、ステイトかな?」

 「…いや、そんなはずは。俺、寝る前にビスケットつまみ食いしたし…」

 「あの、ステイト。…よだれ、出ちゃってる」


 ファッ!?慌てて部屋に備え付けてある鏡を覗くと…ひえー。よだれ跡ついてる上に、てろーっとまたよだれが!ま、窓の外からいい匂いがするからか!それだ!


 「…って、俺か!そんなに食い気キャラじゃねーぞ俺!」

 「お腹空いちゃうってことは元気な証拠だよ。もうそろそろ朝ご飯も貰えるかな?」


 シルが立ち上がって、広い部屋を歩く。そっとドアに手をかけて開き、あまり音をたてないように出て行った。すぐに帰ってきて、俺ににこっとする。


 「食堂、もう準備できてるんだって。くるみパンとこの町特産のエピクタの実を使ったサラダ、あとはバイキングだって」

 「…!行くぞシル!」

 「はーい!」


 俺、速攻ダッシュ!まだ寝てる人もいるだろうことを配慮して、盗賊時代な要領で音を殺して走って食堂へ!別に音を殺して歩くのクセになったりしてないからな。どこの暗殺者だ。


 食堂ののれんをくぐると、ぶわーっといい匂いが!ちらほらと朝ご飯を食べる人の姿も見られる。すぐに食べれる分だけ皿によそって適当に席に着いた。


 俺がとったのはクルミやレーズンが散りばめられたパン、それからこの地方特産の果実エピクタの実のオレンジ色が眩しいサラダ、あとちょっとの鶏肉と果実ジュース!

シルも似たような感じで、俺の鶏肉の代わりに焼き魚、あとジュースじゃなくて紅茶。ほわっと紅茶の匂いが向かい側に座る俺の席まで香ってくる。


 「いただきますっ!」「いただきます」


 うわーっ、美味い!パンはもちろん、エピクタの実も!酸っぱいと思ったら割と甘い。けど、葉物のサラダとよく合ってる!ちょっと渋いジュースで俺は目を完ぺきに覚ました。


 「よっしゃ!今日も一日…あっ、今日は何するんだ?」


 気合い入れようと思ったけど、まだ今日の予定を考えてなかったな。ニコラと後で合流するってのはあるけど、それからどうしよう。

シルはパンを小さくかじりながら、んー、と考え込む。


 「そうだね…もう買い物とかしないなら、できるだけ早く聖都に向かった方がいいかもしれないね。

  もし馬車に乗れるなら、正午になる前ぐらいに馬車に乗れたとして聖都に着くのは…えっと」


 シルの言葉が止まるのと同時に、俺は懐から地図を取り出した。ちょっとよれてくしゃっとなってる。えっと、聖都への道は…。俺は地図を机の上に広げて指さした。


 「ここだな。だいたい馬車で4時間くらいか?まだ明るい夕方ぐらいには着けるだろ」

 「もう買い物とか装備とか大丈夫?お金はまだ余ってたよね」

 「ああ。じゃあ午前は荷物とかチェックしといて…」


 俺たちがさくさくと予定を立てながら話をしていると、ちょうどのれんをくぐってワイルドな感じの女の人が入ってきた。うわっ、ムッキムキ!

男みたいに短く茶髪を切ってる、背も高くてムッキムキのかっこいい系な女の人は、ちょっと疲れた表情でサラダを大盛りにしている。

 俺がその人をぼーっと見てると、ふいに目があった。


 女の人が俺と視線を合わせ、にかっと笑ってみせる。うわっ、かっこいいな!服装から見て、町の自警団みたいだ。赤のジャケットに簡易レザーアーマー、腰には帯刀してる。

シルもその人に気づいて、微笑んでぺこっと頭を下げた。俺も続いて頭を下げる。


 すると女の人は俺たちの座ってる席にまっすぐ姿勢よく歩いてきた。あれっ、近くに座るのか?


 と思ったら、シルの隣にきて、俺とシルにとんとんと机を指でつついて聞いた。


 「ここ、一緒していいかい?」

 「あ、どうぞ」

 「どうも!一人で食べるのは寂しくてね」


 低めの声で女の人は嬉しそうに言う。俺とシルは顔を見合わせ、また背が高い女の人を見上げた。ざっくり切られた茶髪が揺れる。

女の人がどかっと勢いよく座り、俺とシルにまたにっこりした。


 「あんたたち、旅人だね?あたしはこの町の自警団の一員さ」

 「こんちは。俺、ステイト。聖都まで旅してる」

 「僕はシルヴェスタです。ステイトと一緒に、聖都まで」

 「そっか、ステイトとシルヴェスタね。あたしはバネッサ。バネッサ・ガルニカ。もう朝から魔物狩りでくったくたなのさ」


 はあー、と大きくため息をつきながら女の人は名乗る。バネッサさん。なんつーか、似合ってる名前だな。俺はバネッサさんの腕をちらっと見る。うわっ、筋骨隆々。

俺が腕相撲したら多分これ…俺の腕折れるな。シルがにこっとバネッサさんに微笑む。


 「お疲れ様です。魔物狩りって…やっぱり増えてるんですね」

 「ああ、そうなんだよ。もう朝から夜まで魔物の襲来!自警団の皆も、聖都から派遣されてる戦士も皆バテてるよ。

  ここのとこ、なんか知らないけど魔物が増えてね。特に、こっから聖都までの道に多く湧くから馬車もろくに走れないし」


 えっ、馬車?聖都までって言ったよな?俺はすぐにバネッサさんに勢いよく聞いた。


 「まさか、聖都までの馬車、使えねーの!?」

 「悪いね…昨日から封鎖さ。魔物のやつ、馬車を狙うんだ。それで聖都からはもう魔物吹っ飛ばせるような強者しか来ないよ。 

  この町は見た通り、いろんな町の交差点だから物資には困らないけどね」

 「うーん…シル、予定変更だな。遠回りするか?」


 馬車ダメなのかよ!てか、そんなに魔物湧いてんの…?うげ。けど、こんなに強そうなバネッサさんのくたくたぷりを見てると、やっぱ魔物も手強そうだ。

やっぱりこれは早く聖剣を元に戻さねーと…。疲れ切った人間に魔族が攻撃開始、とかシャレにならないって!


 俺の遠回りの提案にシルがうーんと首をかしげる。バネッサさんがサラダをもりもり口に入れながら助言してくれた。


 「あんたたちが急ぎじゃないなら遠回りを進めるよ。迂回すりゃ馬車も使えるしね。けど、一番短い迂回ルートで二日かかるよ」

 「ふ、二日…微妙だな」

 「けど魔物の湧く道も、魔物倒しながら歩いて行ったら一日かかると思うし。悪いときに来ちまったね」


 すごく美味しそうにみずみずしいサラダを頬張るその姿はいっそ清々しい。俺よりも美味そうに食べてんじゃね?バネッサさんが同情するように肩をすくめた。

けどシルはむー、と唸りながら迷ってる。あ…もしかしてシル、魔物と戦ってもいいとか言い出すんじゃ…。


 俺の考えは見事に的中する。シルは意を決したように俺に真面目な顔で言った。


 「歩いて行こう?僕たち、多少は強くなれたと思うんだ。それにニコラさんもついてきてくれるんだし。早く聖都に着かないとダメだよね」

 「…シル、そう言いながらお前…単に魔物と戦いたいだけじゃないのか?」


 俺の半開きの目に、シルはてへっ、とでも聞こえてきそうな感じでちょっとだけ舌を出して微笑んだ。うわっ、まじか!俺はひくひくする目を閉じてにーっこりと苦い笑顔を作る。


 「シルヴェスタくん考えてみたまえ。俺たちで魔物のうじゃうじゃ湧く道をてくてくなんて、ちょっと無謀じゃないかね?」

 「でも、コア手に入るんだよ。聖都で売ってもいい資金になると思」

 「よし行こう」


 ハイ即決!2秒後くらいに乗せられたと気付いた。ハッ!シル、お前どんどん俺の扱い方に慣れてきてないか…!?恐ろしい子!案の定、バネッサさんが呆れたように笑った。


 「ステイト、あんた金の亡者なのかい」

 「否定はしないけど…さっきはのせられた…!」

 「あんたら、おもしろいね。でも、見た感じ強そうには見えないけど。大丈夫なのかい」

 

 そのセリフを聞くのも何回目か。確かに筋骨隆々逞しくてムッキムキのバネッサさんからしたら俺たちなんてモヤシとカイワレ大根だ。

そう思われても仕方ないっちゃ仕方ないけど。


 「ま、俺はあんまり自信ないけど…こいつ見た目以上に強くて戦闘バカだから。あともう一匹ゴリラがいる」

 「ご、ゴリラ…」

 「あっ、あの、ゴリラって言うよりは虎や狼みたいな方なんですよ」


 俺の言葉にバネッサさんが若干引きつった笑顔を見せ、慌ててシルがフォローに入る。別にあいつゴリラでいいだろ。ピッタシじゃねーか。顔だけ狼か虎だな。

でも正直、バネッサさんもニコラ並みに体鍛えてるように見えるからな。どれぐらい鍛えてんだろ…?


 そのとき、7時を告げる鐘が鳴り響いた。開け放たれた窓から、あの深みのあるゴォーンが聞こえてくる。けどそれとは別に、遠くからカランカランと高い鐘の音が聞こえてくる。


 「ん?何の音?なんか、カランカラン聞こえる」

 「ありゃっ、ほんとだね!ああ、もう…また行かなきゃなんないのかい」


 俺の言葉に慌てたように、バネッサさんが一気にサラダをかきこんで水を飲みほした。ガタン、と慌てて立ち上がる。シルが首をかしげた。


 「もしかして、出動要請の鐘ですか?」

 「ああ、似たようなもんさ。最近この町に、聖都への方向にある平原から魔物が定期的に押し寄せるんだ。

  それで、一波きたら自警団や暇な戦士がそれを一掃してる。そのお知らせの鐘だよ。

  そういや、魔物を呼んでるんじゃないかって疑われて捕まった魔族がいたね。人違いだって叫びながらエラいさんに連れてかれてたけどどうなったんだか」


 うわー、大変だな。毎日この鐘が鳴ったら戦いに行くのか…。って、あれ?後半の捕まった魔族の話ってもしかしてシャハンのことか?

俺はあの、黄緑の髪のおちゃらけ少年を思い出す。相棒が猫の、風の魔法使い。あいつのこと、シルたちに話すの忘れてたな。また話しとかないと。

 けど、この様子だとまだ逃げたことはバレてないみたいだ。急ぎのところ悪いけど、ついでに俺はバネッサさんに聞いてみた。


 「そいつ、どこにいるか分かる?」

 「いや。自警団とは別に、この町を政治的に仕切る小議会があってね。魔物と魔族を死ぬほど嫌う議員たちが、どっかに幽閉したと聞いたよ。

  なんでもその魔族、まだ子供みたいな風貌らしいけど。ほんとに魔物呼んでるなら迷惑な話さ」


 やっぱりシャハンのことだな。あいつ、ちゃんとシエゼ・ルキスに着いたんだろうか。てか、急ぎの用があるって言ってたけどなんだったんだろう。


 食堂を見回すと、他にも何人か武器を携えた人が慌てたように出て行った。あの人たちも自警団や戦士だったのかな。バネッサさんも皿を流しに運びながら、俺たちに手を振った。


 「それじゃーね!あんたら、無茶すんじゃないよ!」

 

 そのまま俺たちの返事を待たず、バネッサさんは走り去って行った。どどど、と木の床を蹴りながら食堂入口ののれんをくぐって出て行く。速いな!朝からほんと大変そう。

シルを見ると、もうすっかり朝ご飯を食べ終えていた。俺は残っていたサラダをしゃくしゃく噛みながら食堂の外に続く廊下を見る。


 「…それにしても、魔物が定期的に町に押し寄せるなんてたまらねーな。聖都も大丈夫なんだろうか」

 「聞いたことあるんだけど、季節によってそういう時期もあるみたいだよ。だから聖都は魔法使いや神官たちで力を合わせて、魔物除けの結界を張ってるんだって」

 「すげー!王都はでかい壁に囲まれてるからな…魔物が増えるとやっぱり困るよな」


 結界なんかあるのか!学術と魔法の都市ならではの防御だな。俺も朝ご飯を食べ終えて皿を片付け、またシルと部屋に戻る。



 さて。俺は昨日買っておいた服に着替えることにした。新しい服買うなんて…ほんといつぶりだろう。いつもヨーウェンさんからの給料は家賃と食事に消えてたし。

この着なれたぼろっちい服もひとまずサヨナラだな!

 シルは俺がソファの上に広げていた新しい服を見ている。


 「動きやすそうだね、新しい服」

 「ああ。前のやつより丈夫で、さらに軽くて動きやすい!つってもこれ、上に何も着なかったら肩も出てるし寒いけど」


 俺の服は動きやすさをとにかく重視した、王都の普通市民が着てそうなデザインのあまり目立たない服。足も短パン状態だし寒い地方向けじゃない。いいんだよ聖セレネは温暖だし。

だけど俺は腰ぐらいまである、羽織れるローブ持ってるし。ローブはちょっと古いけど、別にぼろくはない。さっさと着替えてまた装備を整えた。まぁ俺は防具ないけど。


 「ま、デザインも似てるしあまり変わらないな。けど、前よりはマシだ」

 

 よし。ナイフとかもちゃんと隠し持っとかないと。シルも支度できたようで、…あれ?もう杖握ってる。まだニコラとの合流にはだいぶ時間あるぞ?


 「武器なんか持って。どっか行くのか?」

 「バネッサさんの言ってた平原を見に。もしかしたら僕も手伝わせてもらえるかも」


 にっこり。


 …おう。…おう!?えっ!?行くのお前!何…お前まで朝の体操もとい魔物狩り!?


 「ちょっと体を動かそうと思って」

 「そんなちょっと散歩してくるかー、みたいに言うなよ!魔物だぞ!下手すりゃ教会行きなんだぞ!棺桶!」

 「あはは」


 あはは、じゃねぇ!いや、でもうずうずしてるのがよーく分かる。俺の絶望的な表情とは対照的に、シルってばこれからデートでもすんのかって感じ。

あれか…早速魔法とか試してみたいのか…。ぐぬぬ、ここまで熱心なのも困りものだな。あと疑いなく戦闘バカなのも。


 さて。いそいそと出て行こうとするシルに、俺はどう声をかけて何をしてやればいいのか。


 1、頑張れー、と適当に応援。俺は時間くるまで寝る。

 2、お前ばかりには任せておけないぜ!俺も行く!と勇敢について行く。

 3、こ、こんなところにいてられるか!俺は一人で散歩してくるぜ!と余計なフラグを建てる。


 …さあ、俺的には1番を選びたいところだ。3は却下、ネタ的においしいことになりそうな予感だけど俺には苦労しか付きまとわないってのは既に承知。

んでもなぁ。シルをほっといて、もし、万が一、仮に、ひょっとして、ないと思うけど、シルがピンチになったら?


 俺、聖都までシルを連れてくって約束したよな。ここで俺だけ平和にのうのうとできないよな。てか、シル、お前が休んでくれたらそれで済む話なんだけど。

ねぇ、シル、俺の心の声聞こえますか!ねぇ!ステイトくんは平和主義です!どうですか!


 そんな俺の心の声などさておき。シルが杖を片手にドアノブに手をかけたところで俺も観念して立ち上がった。


 「分かった!俺も行くよ。そん代わり、戦うのダメって言われたり危なくなったら即撤退!俺たちだけで戦うんじゃないんだからな」

 「うん、良かった!ステイトも来てくれるって思ってたから」


 こ、こ、こいつ確信犯!最近お前の笑顔にところどころ思索張り巡らせた跡形を窺えるようになったのは気のせいかな!気のせいだよね!ね!

もういいよ、乗せられてやる!俺は改めてナイフを服の裏にしまいこみ、先に出て行ったシルを追った。


 こうなったら、どうなっても知らないからな!




 地図を見ながら街中を走り、あの約束の風車広場を通り過ぎて俺たちは門まで来た。けど、門といっても形だけ。ご自由にお通りください状態。

こんなんなのに魔物出没して押し寄せてくるとか大変だな…。ガッシリした門とか作らないのかね。

 やっぱ、色んな方向から来る旅人を受け入れやすく!みたいなイメージにするためにも、解放感ある門がいいんだろうか。


 シルが門の向こうを指さした。


 「ほら、すぐそこの平原!結構たくさんの人が戦ってるよ!」


 言われるままに見て…うわわ!なんだアレ!人ぐらいありそうな、チョウチョみたいな魔物とか猪みたいなやつとか!けど、もうとにかくゴチャゴチャ!

色んな種類の魔物がそれはもうより取り見取り…。戦ってる人もまちまちで、何人かは自警団のジャケットを羽織ってるけど半分以上はフリーの戦士みたいだ。


 シルが杖を構えて門をくぐるのを追って行くと、もうそこらじゅう魔物パニック!けど皆、怒涛の勢いで魔物を叩きのめしてる。うわー、もう俺帰りたいよぅ…。

ちょうど門の近くの場所で2体の巨大チョウチョ魔物と対峙するバネッサさんがいた。


 魔物とにらみ合い、腰に差したままの刀の柄に手を添え、集中してる。と、瞬間!バネッサさんが刀を抜き放つ。その衝動波が目に見えた!なんだよあれ、すげぇ!

衝動波は実体化してる!それを魔物2体はまともに食らい、ぐらりとよろめく。その隙を逃さずバネッサさんが一気に間合いを詰め、刀一振りで魔物の羽を削いだ!


 すると魔物がギエェ、とまた耳をふさぎたくなるような断末魔を上げて消える。ゴトン、とまたビー玉サイズの黄緑色のコアが草原に転がった。


 ふぅ、と息をつくバネッサさんに俺たちは駆け寄った。


 「バネッサさん!」

 「あんたたち、来たのかい!?やめときな、結構こいつら強いよ」


 驚いた顔でバネッサさんが振り向く。と、そのとき!岩場に隠れていたデカいカマキリみたいな魔物が飛び出した!やべ!バネッサさんが反応する前に魔物が襲い掛かる!

魔物が大きい鎌を振り上げたとき。俺は反射のように飛び出し、市場で買ったばかりの頑丈なナイフを取り出した。


 ――キィン!


 おっ、いい音するじゃん!もう片方の鎌を振り下ろそうとカマキリ魔物が身構えた。おっと、随分ゆっくりだな!俺はもう片手にいつものナイフを滑り込ませた。そして。


 「いい鎌じゃねーか!」


 俺は最初に防いだナイフを勢いよく押し当て、魔物のバランスを崩す。そして一気に切り込んだ。下から上へ、足部分の関節を、要所を切り落とす!

体ごと跳ぶようにいつものナイフで切り裂き、最後にそのままもう片方のナイフで魔物の眉間をつく!どうだ!


 ―――ギィイッ!


 よ、よっしゃ!なんだよ俺いけるじゃん!一人でできるもん!

すぐ近くにはもう魔物がいないことを確認して、バネッサさんを振り返る。すると、シルがにこやかに、バネッサさんは更に驚いたように口を開けたまま固まっていた。


 「どうだよ!」

 「な、なかなかやるじゃないか!あんたは素早いね、ステイト!」


 一気にバネッサさんが、破顔して俺の肩をガンッと叩く。こっちの方が魔物よりも痛ぇよ!


 「まだ魔物いるんだろ?俺たちも手伝う」

 「いいですよね?」

 

 ほぼ同時に迫った俺たちに、はいはいと今度は思い切り笑いながらバネッサさんが頷く。けどすぐに強く言い聞かせる。


 「けど、絶対に危なくなったら逃げなよ!あたしの近くで戦いな!」

 「了解!」

 「わかりました!」


 どん、とバネッサさんは強く自分の胸を叩く。俺たちは頷いて3人で魔物が湧いた方へ走った。お、俺だって貢献してみせるからな…!!



 

 「うらぁっ!」


 シルの前に立ちはだかる、気色悪くリズミカルにぐにぐにと動く馬鹿でかい植物の魔物に俺は横入りして切りかかった。刃渡りの浅いナイフでは深い傷をつけられない。

けど、あっという間にカッティング!バラバラに切り刻んでもなおビクビクと動き、消滅しないのはまた再生するからだ。


 「シル、頼むぜ!」

 「ありがとうステイト!いくよ、エクスプロージョン!」


 ―――ドォン!


 シルの声が背後から聞こえる。くるぞ、大爆発!俺の目の前が一気に炎と熱風の嵐となる。うひょー、壮観!あちこちにワラワラしてた植物魔物が焼き尽くされる。

ジュワッと音を出して、炎が収まるころには目の前の植物魔物たちが消え去っていた。


 そして俺は抜け目なく、素早く風のように…コアを拾う!当然だ!半分このために来たんだからな!戦うよりもコアの回収に俺は本気だぜ!どやぁ!

…と言う間もない。また空から下降してきたえげつない嘴をもつ鳥に似た魔物を、俺は逆に自分から跳んで迎え撃つ。


 鳥魔物は上空から俺を、真上から嘴で刺し殺すつもりだったようだ。ご愁傷様。俺、前の仕事柄上、気配を読むのは得意なんだぞ。少しずれた地点で高く跳ぶと、地面が離れていく。

そして魔物にも予測不可能だったみたいだ。二階建ての家の屋根ぐらいまで跳びあがる俺の跳躍に対応できず、そのまま地面に勢いよく突っ込む。そして落下する俺は逆に。


 「そぉい!」


 鳥魔物と同じ戦法で、上からナイフを突き刺した。ビィン、とナイフが唸りを上げる。サックリ一発で魔物が消えると、俺はちょっとだけ着地の衝撃に耐えた。

当然、高く跳べるとは言え着地が全く痛くないわけじゃねぇ…!むしろ余計に痛い!ジィン。


 すると、そんな俺にまた突進してくる猪型の魔物。けど、俺にたどり着く前に衝撃波が魔物を横から襲った。バネッサさん!

ズゥン、と吹き飛ばされて横たわる魔物に、シルがすぐ走る。そして杖を振り上げ、ズガガガン!といっそ気持ち良くなるくらい隙のない連続打撃攻撃を与える。


 そして一発!シルが大きく杖を振りかぶって、魔物から生えている光を発するツノを叩き折った。また断末魔が聞こえ、魔物が消える。俺はコアを拾いにまた走る。


 こんな具合でさっきからずっと戦ってる。俺とシルの息ピッタリ具合はもちろん、バネッサさんも女の人とは思えない力強さで魔物を切り倒していった。

ちょっとヒヤッとすることもあるけど俺は元気です。ってうわ!またきた!ええい、これでも足りぬか!


 きゅぴん!何か俺の中で思いついたぞ!別方向から突進してくる猪型魔物2号に、俺は両手のナイフを構えた。弱く俺の指輪が光ったのを、そのときは確認できなかった。


 「凍てつけ!リウ!」


 俺は興奮してて、さっき自分が何か叫んだことに気付かなかった。ただ、突然。ビシィッと凍りつくような音が聞こえて。はっとして見ると、俺の片手のナイフがガッシリと魔物に刺さってた。

けど驚くのはその次。魔物がガッチリと氷漬けになっていた!いつのまに!誰だサポートしてくれた奴!


 バァン、と音を立てて氷の塊が砕け散る。すると、魔物は氷と一緒に粉々になり、ゴテッとコアを落とした。慌ててキョロキョロすると、シルとバネッサさんがびっくりしたようにこっちを見ていた。

幸い近くに魔物はいなくなってる。あちこちから金属のぶつかる音や戦士たちの怒号が聞こえる中、シルが震えるような声で俺に言った。


 「さ、さっきの…!」

 「へっ!?あ、もしかしてシルが!?」

 「違うよ!さっきはステイトしかあの魔物を相手にしてなかった…けどさっき、ステイトが叫んだんだよ!」

 

 シル、珍しく興奮してる!赤い髪が風に揺られ、バサバサとなびく。


 「『凍てつけ、リウ』って!聞いたことないけど、きっとリウって氷魔法か何かだよ!ステイト、魔法が使えるようになったんだ!」

 



 …お、俺が?さっきの!?スーパー氷漬けを!!?マジで!?無意識に目覚めたってやつか、覚醒きた!ってことは俺、魔法使えるようになるの!?よっしゃぁああっ!

けど、別に俺の中で何か変わったって気もしない…。…なんだろう、このスッキリしない感じ。突然体質が変わるとか…あんの?


 シルはまるで自分のことのように、目をキラキラさせて喜んでくれてる。俺の体質を知らないバネッサさんは、純粋に氷の威力にびびってくれたんだろう。

うーん、悪いけどやっぱり納得できないな。俺はシルに、本当に俺の体質が変わったのか確かめてもらうことにした。


 「シル、ちょっと水鉄砲くらいな感じで俺に水魔法してくれる?いや、炎だと俺燃えちゃうから」

 「あ…でも、きっとびしょ濡れになっちゃうよ…?魔法が使えるようになったってことは、残念だけど魔力を受け付けるようになるってことだから…」 

 「大丈夫!熱いし!」


 不安そうに言うシルに、俺はガッハッハと大げさに笑った。けど内心、やっぱモヤモヤ。

シルはすぐに小声でつぶやき、詠唱を終えて俺に片手を向けた。


 「アクアショット!」

 

 ビュン!シルの片手に青い陣が浮かび、そこからほんとに水鉄砲くらいの勢いの水が飛び出す。あ、これはやっぱり俺、体質変わって……


 ………!?


 シルの作り出した水の銃弾は、俺の胸辺りに触れる直前に霧散した。シルがびっくりして自分の手と俺の胸辺りを何度も見る。黙って見ていたバネッサさんも、身を乗り出した。


 「ど、どういうことだよさっきから!体質が変わったとかって…しかもあんた、さっきの水魔法は…!?」

 「き、…消えた。僕、さっきは失敗しなかったよ」

 「…まさか、体質は変わってないのか?」


 バネッサさんもシルも困惑。けど、一番びっくりなのは俺だ!さっきのシルとバネッサさんの反応からして、氷漬けを発動したのは俺だった…ってのは間違いないらしいな。

けど、俺は相も変わらず魔法を受け付けてない。


 つまり…どういうことだ?俺は魔法を使ったんじゃない、ってことか?じゃあ、さっきの俺の技はなんだったんだ?



 俺たち3人は、まだ喧噪に包まれている朝の草原に立ち尽くした。俺は一人、困惑して顔を見合わせる二人を見つめるしかできなかった。


 …リウって…何なんだよ…!?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ