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ルキスの剣  作者: 夜津
第一章 聖剣の喪失
13/131

12 空に架かる虹


 ひらり。


 俺の体は軽く、相手が懸命に繰り出す連続技も当てさせない。

相手が次にどう動くかが今まで以上に簡単に考えられる。こうきて、ああきて、そうやって。


 それから、こうするんだろ?


 相手が最後の一突きと力いっぱいに伸ばしてきた木のナイフに、俺は自分のナイフをガツンと叩きつけた。

コーン、と小気味いい音が静まり返った道場に響き、わずかに沈黙が降りる。道場の床には、相手のナイフがぽつーんと落ちていた。


 そして、はぁあ、と俺よりも少し年上に見える相手のにーさんが頭をかいてため息をついた。

 

 「ああ、あんたの勝ちだ。なんでそんなに速く動けるんだ?」

 「避けるのは俺の十八番だから」


 ふふふ、これで8人抜きだな!なかなか俺もやれるんじゃねーのっ!?調子乗っていいんじゃねーの!?

にーさんは落ちた木のナイフを拾い、すごすごと道場の壁の方へ歩いて行った。

壁際にはすでに意気消沈のにーさんやらおっさんやら。皆、俺がさっきまでに試合をして負かした相手である。


 

 キトビさんに連れられ、剣の道場で何人かに試合をしてもらうことになった俺はけっこう張り切っていた。

老若男女、といいつつも男のほうが圧倒的に多いけど、色んな人が俺の相手になってくれると申し出てくれた。


 まぁね。俺も見てくれだけだったら細いしあまり身長高くないしちょっとぼろいし、そのくせ目だけやる気に満ち溢れてるからね。

いきがってる剣術初心者少年に見えただろう。でも舐められちゃ困るぜ。ナイフの扱いだけなら物心つく前から叩きこまれてるっての!


 しかも逃げる・避けるは俺の十八番。正々堂々と勝負に出る試合じゃ力負けするけど、生き抜くには俺には必要な技だ。

本当は『盗む』も十八番だけど、良い子のためにもしばらく封印だ。てか、実際の戦いでは『盗む』スキルはあまり使えないし。

 

 ここで相手してくれた皆は、ちゃんと型にはまった正統な剣術が多いから、多少相手すれば癖も見抜ける。

俺の今までの本業は盗賊。相手の癖を見抜き、隙あらば叩く、の戦法。道場で訓練する皆さんにはイレギュラーな相手だったと思う。


 実際俺も戦いやすかった。リェンから貰った羽飾りのおかげで身体能力も上がってるし、あのVS水龍で緊張感も身に着いてた。

王都を出た頃よりは多少、装備品の効果を差し引いても俺は強くなってるはずだ。ふふん、努力してみるもんだな。


 さてさて。そんなわけで俺のVSユハの武闘道場の皆さん、は既に俺の8連勝にある。でもなぁ…。

なんか納得いかないのはなんでだろう。決して相手になってくれた皆が弱いとかじゃなくて、何か足りないというか…。


 そのとき、ふと前に闘技場でニコラと戦ったことを思い出した。そういえば、あのときは戦いづらく思ったんだよな。

あれは相手のガチガチに固めたフル防御、それから相手の大振りな攻撃。つまり、守備力の高いパワータイプが俺の苦手な相手ってわけか。


 けどここにいるのは軽装備で速さと技術を重視した、どっちかというと俺の戦い方にも近いタイプの戦士な皆さん。

俺が倒してやると意気込んでいるニコラは、悔しいことにパワータイプな上に恐ろしい速さと技術を兼ね備えたラスボス…。


 あいつ、弱みとかないのか?やっぱり盗みの技術を上げて、あいつが日々持っていると噂の手帳を盗んで動揺を誘うほうが…


とかいらないことを考えながら休憩してたら、壁際で見ていたガルデが俺に声をかけてきた。


 「なぁ、『技』とかは剣技にはないのか?俺はどっちかっつーと魔法使い寄りだから技を重視するんだが」

 「ちゃんと流派に則った剣術なら『技』に名前が付けられてるけど、俺は我流というか、なんというか…」

 「こう…特徴のある動きを技って呼ぶとかさ」

 「めんどいから考えたことねーよ」


 そんときそんときに合わせて、頭もフル回転させてんだからいちいち技とか考えてられねーよ。

そう思ってると、同じくガルデの隣で見ていたキトビさんが口を開いた。


 「お前の戦い方を見ていたが、8戦中5戦は武装解除で試合を終わらせていたな」

 「あ、はい。俺はこう…戦うために技術を磨いたんじゃなくて、実生活にかかっていたんで。

  堂々と相手を最後まで倒し切る、というよりは相手の攻撃力をなくすのを優先してたというか」


 ここで軽く『盗賊やってたんすよ!』とか言えたら話が楽だけど、怖いからやめとこ。

でもキトビさんは俺の話だけでだいたい俺が何をやってたのか見抜いたようだ。それ以上そのことには追求しなかった。

けど俺のほうに歩み寄りながら言う。


 「闘技には向かない実戦派、というわけだな。だが、便利と言えば便利だ。

  短剣は扱いやすく、小回りの利いた戦闘ができるのも長所。だが、真っ向から攻撃を防いだり、力技に持っていくのは至難の業だ。

  見たところ、防御力と攻撃力はたいして無いようだが…素早さと技術には目を見張るものがある。

  お前が戦いにおいて苦手とする相手は、とにかく防御力が高い相手だろう」

 「うっ」


 ひぇ~っ、お見通しでございましたか。笑顔がひきつる俺に、キトビさんが察したのか、続ける。


 「素早く、連続で相手を混乱させながら少しずつ削る戦いは、高い防御力の前では無力だ。

  だが、お前は見込みがある。自分の得意分野を磨けば、自分なりに新しい『技』が見つかると私は思う」

 「あ…はい!ありがとうございます!」


 意外にも優しいキトビさんの声に俺は顔をあげた。キトビさんは腕を組み、強く頷いてくれた。

こ、これは。合格点ってことでいいのか?


 「戦えば戦うほど新たな力や技術は身に着く。飽きるまで訓練していくがいい」

 「世話になります!」


 キトビさんの強い言葉は俺に力をくれた。よし!ちょっとずつでも、俺も前進しなくちゃな!

さて、次に相手してくれるのは誰だ?俺はまた、借りた木のナイフを持ち直して道場を見渡した。




 結局その後。俺はユハの剣技道場をほぼ攻略できた。ただ、一番強い弟子と言われてるおじさんと、キトビさんには敵わなかった。

特にキトビさんはやっぱり主と言われるだけある。最初に挨拶した時に攻撃されたときの数倍鋭く、攻撃をガンガン出されるのには参った…。

やっぱり俺もまだまだだな。


 休憩をはさみながら試合をしていると、すっかり夕方になっていた。外の空気を吸いに行っていたガルデが、そろそろかと言いながら帰ってくる。


 「もう向こうも授業が終わっているだろう。どうだ、今日はもうこのあたりで」

 「おーう!結構いい運動になったぜ。これで明日からも大丈夫だな!」


 あーっ、動いた動いた!程よく体もほぐれたし、何人もと戦ううちに少しずつコツもつかめてきた。やっぱり実戦訓練はいいな。

無謀だけど、今度シルにもお手合わせ願ってみよう。


 「じゃ、キトビ!俺はこいつ連れて『学校』へ行く。今日はありがとうな」

 「いや。ステイトと言ったな。またいつでも来るといい」

 「ありがとうございましたっ!道場の皆さんも、付き合ってくれてありがとうございましたー」


 すっかりバテて休んでる道場の皆さんも、俺に手をひらひらと振ってくれる。俺はキトビさんに一礼して、外に出たガルデの後を追った。




 学校に着くと、外でメネさんたちが待っていた。双子は何かを話し込んでいて、シルはちょっと向こうのほうでぶんぶんと杖を振っている。

俺とガルデが来たことに気づくと、メネさんが手を振ってくれた。


 「お帰りなさいー!お疲れ様」

 「おう!なかなかステイトも見どころのあるやつだ。そっちはどうだ?」


 むっ。ガルデ、俺は『なかなか』なんて枠には収まらねーぞ、もうちょっとこう格上げを…じゃなくて。

ガルデの問いに、メネさんがにっこりほほ笑む。


 「双子ちゃんはさすがってところね。シル君も、水は自分の苦手属性とは言え、物覚えが早くてびっくりしちゃったわ」


 メネさんが言い終わるのと同時に、ルマとフゥが俺の前に飛び出た。おっ。早速練習の成果か?


 「見てなさい!あたしとフゥの連携技!」

 「必ず、びっくり、させます…!」


 パン、と二人が手を頭上で叩き合わせる。そしてその両手を天に突き出し、同時に叫んだ!


 「「シュアンズ・シュア!!」」


 その途端。突然視界が、上空が暗くなった!と思ったら、ルマとフゥの頭上はるか上に、ふざけてんのかってくらい巨大な水の渦が現れた!


 「ぎゃああああっ、なんだアレなんだアレ!?」

 「やったわフゥ、かなりビビってるわよ」

 「成功…!」


 ちょ、おい、うわ、コワァ!あんなのまともに食らったらどうなるんだよ!何この子たち!俺怖い!だんだん渦は収束して消えたけど…。

何アレ何アレ…魔法って…神子って…。

 

 やーい、とか言いながらつんつんとつついてくるルマ、遠慮がちだが俺の服の裾をていてい、と引っ張るフゥ。そして呆然と虚空を見つめる俺。

まじかよ。何?魔法ってあんなにすげーの?死んだ目でメネさんを見たら、メネさんが笑っていた。


 「スティ君、もちろんさっきのは物凄く上級、というか制限つきの技よ。この子たちが神子であり、双子であるからこそできる技。

  しかも、ものすごく力を使うから数日はさっきの技を使えなくなるの。超・必殺技って感じね」

 「え…そんなすっげぇ切り札、俺に見せるために…?」

 

 びっくりして双子を見たら、どやさって感じで二人が同時に胸を張る。あー、この!なんとも言えない気持ちが込みあがり、俺は二人の頭をガッシガシに撫でた。


 「このやろー!ビビらせやがって!」

 「あらっ、あんなのでビビるなんてちっさいのねー」

 「僕たち、まだまだ…新しいの、練習中…!」

 「か、勘弁してくれ!」


 こいつら恐ッ!しょ、将来が楽しみだぜ…。ところで、シル。お前さんはなんでそんな端っこでぶんぶん杖を振ってるのか。


 「シルー、大丈夫かー?」

 「え、あ、うん!ただ、まだ自信がなくて」

 

 くるっと俺を振り返って、えへへと苦笑するシル。もういいよ、さっきので物凄いインパクトだったから…。むしろ、失敗してくれるほうが俺には気が楽っていうか…。

シルがちょっと俺たちから距離を取ったまま深呼吸する。うわ、緊張してるなあの表情は。


 「い、いきますっ!…フリーズスフィア…ッあっ!」


 えっ!?なんか最後思いっきり『やっちゃったー!』って感じの声だったけど!?

でもガキュン、と音を立てて、シルの杖から氷の球が飛び出た。それが力なく地面にゴトンと落ちる。あ、攻撃の時はこれが剛速球で飛んでいくのか…。痛そう…。


 と思って見たけど、なんかこれ…うおお!?氷の球の中に、めらめらと燃える小さな火が!うわ!奇跡!綺麗!

こんなこともできんのかー、と俺が息をつくと、メネさんが慌てたような表情を見せた。


 「あらあらっ、また混じっちゃったのね」

 「す、すみません…つい…」

 「ほんとは狙ってもできないのよー、こんなこと。一つの魔法に二つ以上の属性を付加させるなんて」


 すぐに氷の球は、中で燃える火のせいで溶けてなくなった。けど…シル、お前…そんなに火が好きか…。

確かにおかしいよな、普通。火が氷で閉じ込められてるなんて。シルが申し訳なさそうに俺に頭をぺこぺこと下げる。


 「ごめんねステイト…僕もっと頑張るから」

 「いや、逆にさっきのが凄くてコメントつけづらい…」

 

 つか、お前らそろってバケモノレベルじゃねーか。ちょっと待って。俺あまり進歩してないんだけど。

双子たちはすっごい必殺技かましてくるし、シルはプロでもできない失敗の奇跡を起こすし!待ってくれよ俺の自信がしぼむ!

ガルデがそんな魔法授業生徒たちを見て拍手を贈る。


 「いやー、俺が生徒だった時よりもお前らはだいぶ優秀だな!すげぇぞ!」

 「なかなかの逸材よ。ティニにも会わせてあげたかったわー」

 「ティニ?」


 メネさんがしみじみと言う聞きなれた言葉に、俺は思わず聞き返していた。ガルデが、ああ、と言う。


 「俺とメネの息子だ。18のな。あいつは勉強熱心でなぁ。今もどっかの町で転々としながら勉強しているらしい」

 「将来は王都で文官になりたいって言ってたから、またスティ君が王都へ戻るなら、いつか会えるかもしれないわね」


 どんな人なんだろ、ティニさん。俺も聖セレネへ行けたらまた王都に戻って暮らすつもりだし、会える日が来るかもな。


 「さて、今日はこの辺りで授業もおしまい!もうすっかり夕方ね。ルマちゃんたちもそろそろ帰らなきゃ」

 「はーい」「はい…!」


 おうちまで送るわ、とメネさんが双子に付き添う。ルマとフゥは俺とシルを振り返って、バイバイと手を振ろうとしたけどその手が上がったまま止まる。


 「どうしたー?」

 「え、えっと。あんたたち、その…もう、あたしたちの屋敷には戻らないのよね?」

 「ああ。荷物もガルデの家に置きっぱなしだし、今日はガルデの家で世話になるよ」

 

 ルマがそれを聞いて少しうつむいた。お?寂しがってくれてる?なんだよー、可愛げあるじゃんか。

フゥも不安そうな表情で聞いた。


 「いつ…行っちゃうの?」


 わ…寂しそう…思わず俺はシルを見た。シルも困ったように微笑んでいる。んー、いつ行くの、か…。


 「いつだろう。やっぱ、明日か?この町も名残惜しいけど、俺たちも急がなくちゃな」

 「うん…でも、もう少ししたらいつでも会いに来れるようになるからね」


 シルが双子を元気づけるように笑んだ。けど、シルは聖セレネに着いたらしばらく身動きできないだろ。大神官に保護してもらうんだし…。

そんな現実をつきつけて何になるんだ。俺はいつでも会いに来れるじゃんか。


 「俺がいつでも来てやるからさ!俺が次に来るときはもっとすごい技見せてくれよ?」


 俺が胸をそらしてドン、と胸を叩くとちょっと双子が安心したように顔を見合わせた。

 

 「約束よ!明日町を出る前には、必ずあたしたちの屋敷に寄りなさいよね!」

 「分かってるって!」

 「ぜ、絶対です…待ってます…!」

 「大丈夫だよ、僕たち必ず挨拶しに行くから」


 俺たちの言葉を聞いて、双子は一緒に『約束!』と叫んだ。そしてメネさんに連れられて、小走りに行ってしまった。

ちょうど双子たちが走っていく方向に沈みかけた橙の陽があって、すごくノスタルジックというか、言葉にしがたい情景になっている。


 「やべ。俺ちょっとさみしいかも」

 「あはは、僕もだよ。あんな元気なルマちゃんと、優しいフゥ君にさよならするなんて」


 ちら、とシルの横顔を見たら、なんだかすごく大人びていた。こいつ、多分子供とか好きなんだろうなぁ。長男なんだっけ。

面倒見もいいし…なおさら寂しく感じてるだろう。

 しんみりムードに入ってしまった俺たちの背中を、ガルデがドンと強くたたいた。


 「おら!お前らがそんなんでどうすんだ?俺は商人だからな、いろんな奴との出会いがある。その分別れもあるさ。

  だがそんな商人同士には共通の決まりがあるんだ。最後は笑って別れること!また会った時にまた笑えるようにな」


 にかっとガルデが笑って見せる。うっ、やばい。こんなに寂しくなるなんて俺も思わなかった!

ダメだダメだ!俺がこんな風になってどうすんだ。俺はぐ、とやる気を見せるように拳を作った。


 「よし!明日は俺が、双子にプレゼントやるか!」

 「僕も何か作るよ。どうしようかな」

 「おうし、素材なら俺に任せろ。なんでも揃えてやるぜ」


 そういや俺は物をもらってばかりだ。ニコラからペンダント、鳥のミチテラシから指輪、それからリェンから羽飾り。

俺も誰かに贈り物をしないとな。よし、久しぶりに何か作ってみるか!


 何を作ろうかシルとガルデと話しながら、俺はガルデの家に再びお邪魔した。まだ夜まではけっこう時間もある。

帰ってきたメネさんとも相談しながら、俺とシル、ガルデとメネさんも手伝ってくれて結局あまり寝ずに一夜明かしたのだった。




 

 翌朝。あまり寝なかったのに俺とシルは晴れやかでいつもより元気だった。ガルデが俺たちの作りたいものの材料を集め、メネさんがアドバイスをしてくれた。

そんな俺たちの気持ちが詰まった贈り物は、ルマとフゥに喜んでもらえるだろうか。


 親切にも、ガルデは聖セレネ行きの馬車を俺とシルだけのために、貸切で予約してくれた。しかも、メネさんは薬草とか食料とか、持ち物も集めてくれていた。


 「お前らはこの町の恩人だ!それに、俺たちの家族みたいなもんだ」

 「そうよ。私の恩人なのよ、スティ君もシル君も。旅の持ち物も喜んで準備してあげるわ」


 そう言って、二人は同時にガッツポーズをしてくれた。うわわー、もう俺感動で泣いちまいたい。シルも何度も頭を下げてお礼を言っていた。


 「本当に、お世話になりました…!」

 「ガルデ、メネさん、ありがとう!絶対また遊びに来ます!」

 

 俺たちの言葉に二人は視線を合わせ、嬉しそうに頷いてくれた。さて、とガルデが言う。


 「じゃあ午前中に出発しろ。そうしたら夕方には聖セレネへ入国できる。予約した馬車は日が暮れる頃にエッケプレっつぅ町に着く。

  エッケプレは旅人の町って言われててな、いろんな奴が集まってるからおもしろいと思うぞ。

  酒場なんかで情報交換ができるのはいいんだが、お前らにはまだ酒場は早い。旅館の談話室とかでも話が聞けると思うぞー」

 「ありがとな。エッケプレ…お、ここか」


 あらかじめ持っていた地図で確認すると、エッケプレの町は聖セレネ国の隅っこだ。けど、…いよいよ聖セレネか!

俺たちが本当に目指してるのは、エッケプレよりもう少し西の聖都エリネヴィステ。けどその前にエッケプレだ!


 そういや、シルの追っ手はとうとう今まで現れなかった。けど、もうシルがアルギークを抜け出してだいぶ時間がたつ。そろそろ気づかれてるかも、だな。

もしかしたら聖都に着く前に襲撃されるかもしれないし、他にも魔物の脅威がある。まだ見かけてないけど、魔族も…。


 まぁ、魔族はそんなに早くどやどやと人間たちの世界には来ないだろ。とにかく魔物には注意しないとな。

それに、ユハで過ごしてから俺たちは少し強くなったと思う。さらに気を引き締めていかないと。


 「私たちも神子のお屋敷に着いていくわ。プレゼント、ちゃんと渡さないといけないわね」

  

 メネさんのウィンクに、俺たちはあははと笑った。よし、忘れ物はないな!行くか!


 俺とシルは、ガルデとメネさんについてきてもらって屋敷まで足を運んだ。心なしかゆっくり歩きたがる足を急がせて。



 

 「ルマ、フゥ!来たぞーっ!」

 

 すっかり顔パスの俺たちは、門番さんにすぐ扉を開けてもらった。大声で俺が言うと、シュタッと屋根から小柄な影が落ちてくる。


 「うわっ」

 「来たわね!まったく、待ちくたびれるとこだったわ」

 

 る、ルマ!お前、屋根の上からご登場とは…!水龍戦の前のシルみたいだな。今高いところから飛び降りて登場するの流行ってんの?やめとけ危ない!

とか思ってたらまた屋根から身軽に影が落ちてきた。フゥか。お前もおとなしそうな顔して…なかなかやんちゃじゃねーか。


 「来てくれた…!」


 きらきらと顔を輝かせるフゥ。ぎゃああもう弟君可愛いなこのやろー!対してオネーチャンのルマはつんとしてるし。まったく、個性的だなー。

すると玄関からシュイさんと、奥さんが現れた。


 「やぁ、来てくれたんですね。おや、ガルデとメネさんじゃないか」

 「ようー、シュイ。こいつら、今から聖セレネに発つんだ。それで、双子に挨拶してくってな」


 シュイさんと奥さんがガルデの言葉に嬉しそうににっこり笑った。奥さんが俺とシルに向き合い、微笑む。


 「本当にこの度はありがとうございました。ルマとフゥも昨日は寂しそうで」

 「お、お母様!」「だ、大丈夫だもん…!」


 慌ててルマとフゥが奥さんに抗議する。その様子が可笑しくて俺とシルは噴き出した。


 「あっはは!ま、俺たちも寂しいよな。だから、思い出作るかってことで、俺とシル、ガルデとメネさんにも手伝ってもらってプレゼント用意したんだ」

 「ステイトが一生懸命作ってくれたんだよ。僕は不器用だから、ほとんど手伝うだけで」

 「何言ってんだ、ちゃんと一緒に作っただろ。…ほら、ルマにはこっち、フゥはこっちだ」


 俺は鞄から小箱を取り出した。赤のリボンを巻いた小箱をルマに、青のリボンを巻いた小箱をフゥに渡す。


 「もう開けていいの?」

 「ああ。確かめといてくれ」

 「え、っと……うわっ…!綺麗…!」


 ルマとフゥが同時にリボンを解いて箱を開けた。よし、なかなか好印象みたいだな!ルマは無言で、でも目を大きく見開いてそれを見つめている。

フゥは顔を輝かせて箱から中身を持ち上げた。


 それは掌に収まるくらいの小さな飾り。ルマには青い石が埋め込まれた鍵の飾り。フゥにも、青い石が埋め込まれた、こっちは錠の飾り。

けど俺の渾身の作品!ルマに渡した鍵を、フゥに渡した錠に入れるとちゃんと錠が外れる。つまり、ちゃんと『鍵』として作用する!


 これ、作るの大変だったんだよな…。しかも、埋め込んだ石は水の精霊石。ガルデに頼み込んで、小さいものを分けてもらった。


 「鍵として使えるからな。二人とも失くすなよ、どっちかを失くしたらもう一個も使えなくなるんだからな。

  ルマはガンガン攻めてくるし積極的だから、新しく扉を開いてほしいと思って鍵にした。

  フゥはおとなしくて癒し系で、優しくものを繋ぎとめてほしいと思って錠にしたんだ。気に入ってもらえたか?」


 どやさ。


 俺のドヤ顔をルマとフゥが見つめ、ぷすっと笑った。それから二人が俺にどーんと抱きついてきた。おっと!

ぎゅっと俺の服に顔をうずめたままルマとフゥが言った。


 「あ、ありがと!絶対に失くすもんですか!」

 「ありがと、スティお兄ちゃん、シルお兄ちゃん…!」


 その後双子がシルにどーんと抱きついた。わー、シル嬉しそう。よしよしって二人の頭を撫でてる辺り、完全にお兄ちゃんだな。

まぁ良かった!気に入ってもらえたみたいだな。ご両親も嬉しそうだし、ガルデとメネさんも満足そうな表情だ。


 久しぶりに俺の細工の技が光ったな。もともと手先は器用だし物を作るのは好きだ。よし、今度も活用してみよう。

ガルデがばしっと俺の背を勢いよく叩く。


 「ステイト、お前も商人になって細工師になりゃいいのによ」

 「じゃあガルデ、もし俺が本気で細工師目指したらコネくれよ」


 そう言うとガルデが盛大に笑った。ふっふっふ、本気で目指してみようかな。諸国漫遊の細工師ステイトとかどーよ。でも待てよ、俺トレジャーハンターにもなりたいんだけど。


 シルから離れた双子が、ぎゅっと細工を大切そうに持ったままもう一度頭を下げた。


 「本当に、あ、ありがとっ!」

 「ありがと…!大切に、する…!」


 良かった良かった。ほんとに嬉しそうだ。これで喜んでもらえなかったらどうしようかと。

俺たちがほのぼのとしていると、「おーい!」と向こうから声が聞こえた。何だ?


 振り返ると、屋敷の入り口の門のところで見たことある小柄なおじさんが立っていた。あ、あれは!

俺がその名前を思い出す前にガルデが手を振った。


 「バルクス!すまねぇな」

 「いや、いいんだ。ここにいたのか、そろそろ出発しねぇと夕方にエッケプレに着かねぇと思ってな」


 そうだ、バルクスさん!俺たちをフィリナからユハに連れてきてくれた馬車の運転手だ。そうか、ガルデはバルクスさんに頼んでくれたのか。

バルクスさんが帽子を取りながら俺とシルに言った。


 「俺もユハ出身なんだ。ユハの危機を救ってくれてありがとうな。お代はいいから、俺が責任もってエッケプレに連れてってやる」

 「ありがとうございます!」

 「助かります」


 俺は思わず両こぶしを握って目を輝かせた。シルは丁寧にぺこ、と頭を下げる。その様子を見て、シュイさんが言った。


 「ではそろそろお別れですね。お二人の旅に幸せを願って」

 「ええ。ほら、ルマ、フゥ。ちゃんと笑顔でね」


 双子のご両親が言うと、ルマとフゥはうん、とつぶやいてにっこり笑顔を作った。


 「あんたたちと過ごせて、その、楽しかったわ!ありがとねシルヴェスタ、それから、…ステイト」

 「助けてくれて、ありがと、ございました…!いつでも僕ら、待って、ますっ…!」


 それからまた、パンと二人が手を合わせる。すると、ふわっと霧が二人の手の傍にできて虹を映しだした!すげぇ!

と思った瞬間。ぶわっと突然空に大きな虹がかかった!ちょうど屋敷の裏側から伸びてるみたいだ!


 「うわー、すごいねっ」

 「お前らこんなこともできるのか!」


 俺とシルが空を見上げて言うと、ルマとフゥが思い当たったようにあ、と声を上げた。


 「違うわ、この大きな虹はリェンよ!あんたたちが出発するのに気づいたんだわ」

 「リェンだ…!」

 

 ま、まじでか!すげぇな精霊、そんなことも気づくのか!メネさんが両手を空へかざすと、ある方向へぶわっと虹が現れた!


 「私の虹はエッケプレの方角へ伸びてるわ。一時間もすれば消えちゃうけど、虹の向こうを目指してみてね」


 ろ、ロマンチックな!俺が乙女なら泣いて喜んでるぞ!悪いが男だ、でも目を輝かせて素直に喜んでます。うぅっひょおぉおおすっげぇぇえええっ!!

シルも明るい表情で虹の向こうを見つめていた。


 「さ、そろそろ行け。俺らとはいったんここでお別れだ」

 「いつでも待ってるわ」


 ガルデとメネさんがほほ笑む。シュイさんと奥さんが笑顔で手を振り、ルマとフゥは渡した飾りを見せつけるようにかざして笑っている。

よし、シル、行くぞ!シルも俺を見て、強く頷いた。


 「じゃ!また遊びに来るんで!世話になりましたー!」

 「とても楽しかったです!また僕も遊びに来ますから、お元気で!」


 俺たちは強く手を振って、門の向こうで待ってくれていたバルクスさんのもとへ向かった。門を出て一度だけ振り返る。

双子が一生懸命、小さな手で手を振ってくれているのを見て、思わず俺は胸がぐっとなった。


 けど、笑って別れるんだよな!俺もシルも感謝の笑顔で思い切り手を振ってまた歩き出した。


 「ユハの町はいいだろ?」

 

 バルクスさんが一度俺たちを振り返り、そう聞いた。俺とシルは黙って、深く強く頷いた。

またこの町に来たい!アリシアやヨーウェンさんも連れて、みんなで遊びに来たい。


 俺とシルはちょっとの寂しさと名残惜しさを抱え、それでも強く後押ししてくれた皆に感謝しながら馬車へと向かった。


 まだ太陽が昇ったばかりで、空には大きな虹がかかっていた。




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