10 屋敷での休息
俺さ、だいたい真っ黒暗転で倒れオチ多くないか?
よく思い出してみよう。VSニコラも暗転、睡眠から夢への暗転…寝てばっかだな。いいか、寝る子は育つんだぜ。
…と俺が余裕の反省をかましているのは当然、ちゃんと事態が収束したからだ。
俺は水龍を鎮めるために鎮静の玉を当てるというミッションをしっかりこなした…のはいいんだけど、その後攻撃を避けきれずにバターン。
んで意識を失ってたらしく。俺も今起きた。おはよう。そしてこの元気具合。
気が付いたら俺は、見慣れない広い部屋の真ん中で布団に横たわっていた。慌てて跳ね起きて、なんで俺がこんな小奇麗な部屋で寝かされてるのか考える。
けど、だんだんとあの洞窟での戦闘を思い出して事態を理解した。俺が倒れた後に、水龍はきっと元通りに戻ったんだと思う。
それからシルたちはユハに帰って、けが人は部屋で安静に!って感じで俺は寝かされてたんだろう。
でも不思議だな。あまり体に痛みが残ってない。水龍の巨大な尾に叩きつけられた後、吹っ飛ばされて壁に体を強打してるから今頃体が砕けててもしゃーないと思ったけど。
それでも、服をめくって体を確認すると、あちこちに痣や切り傷ができて見た目はすごく痛々しい。
ここはユハの町の旅館か病院か、はたまた神子の屋敷なのか?ぽけー、と部屋を俺は見渡した。
布団を20人分ぐらい敷き詰められそうなぐらいの広さ、床は柔らかな木の板。伝統工芸らしい竹で編んであるランプが布団から離れた場所にある。
他は、ちょっとした壺や置物があるぐらい。扉もドアノブがついているようなのじゃなくて、横にスライドさせる式の、ちょっと変わったものだ。
白色の薄い紙が貼られたスライド扉は、外からの光を柔らかく室内に案内してる。もう昼か?てか、今はあの戦闘の翌日か?
俺がもそもそっと布団から出ようとしたとき。ガラガラとその白い紙張りの扉が横に動いて開かれた。
「ステイト、起き……起きてる!」
「起きてるけど」
「ステイト…!」
シルだ。シルは片手に、水の入ったコップや薬草を乗せたお盆を持っていた。俺が布団からずるずると抜け出そうとしているのを見て、思い切り赤い目を見開く。
そして。ばたんとお盆を床に置き、…わっ!ちょ、シル!?突然俺は正面から抱きつかれていた。
「良かった…!ほんとに…良かった…!」
「シル…俺、元気だからさ!ほらほら、超元気だから!」
赤い髪の頭が俺の肩に乗る。あ、いい匂い。シルのさらさらの髪から、ほんわりと薬草の匂いがした。俺の体を離さないシルの背中を、俺は腕を回してぽふぽふと叩いてみた。
「なっ、ほら。まだ痣とかあるけど、痛みとか酷くは感じないし。シルも大丈夫だったかー?」
「僕は怪我なんてないよ…!ステイトが、ステイトがあんなにひどいけがをして…!」
「落ち着けよ。俺、死んでないだろ?俺昔から怪我の治りが早いから。安心しろって」
「もう、僕…ダメかと…リェンさんの治癒術も、まったく効かないから…!」
「…リェンさん?水龍の?…ほら、シル。まずは教えてくれよ。俺が寝てる間にどうなってたか。ちんぷんかんぷんだ」
ようやくシルがゆっくりと体を離す。うわわ、涙目。シルの赤い目が、もう赤い涙でも零すんじゃないかってぐらいユラユラ揺れてる。
笑い事じゃないぐらいに俺の体は酷かったみたいだ。ひとまず俺は盆の上の水をもらい、シルが話し出すのを待っていた。ちょっと腕がずきずきする。
シルがふぅ、と息をついてから、きれいな姿勢で俺の布団のそばに座って話し始める。
「…でも、ステイトが無事で良かった。昨日のことなんだよ。ステイト、傷だらけで意識を失って…。
戦闘の後でフゥ君を助け出して、ルマちゃんがフゥ君を、僕がステイトを担いで帰ろうとしたんだ。
そうしたら青白い光が祭壇のそばに集まって、長身の男の人が現れた。ルマちゃんが、リェンって呼んでたからその人が水龍だったんだね。
リェンさんも、鎮静の玉のおかげで意識を取り戻して力も安定したんだって。それで弱ってるフゥ君とステイトを治癒術で治してくれたんだけど…」
シルがそこで首をかしげた。ん?何かあったのか?俺はシルを覗き込む。
「治してくれたんだよな?」
「うん、フゥ君はすぐに回復して眠ってたよ。けどステイトの傷は何故か治らなくて。ニコラさんのペンダントは攻撃から身を守るけど、治癒術を跳ね返すはずはないでしょ?
でも一応ペンダントも外してまた治癒術をかけてもらったんだけど、やっぱり治らなかったんだ」
だから心配で心配で、とまた泣きそうな表情になるシルの頭を撫でながら、俺はそういえばと思い出した。
「前に俺が闘技場でニコラにぶっ飛ばされたとき、あいつが俺に治癒術かけてたんだよな?そのときも効かなかったんだっけか」
「そういえば、確かに…。…でも、治癒術の効かない体質なんて聞いたことないよ。
ひとまず、その後僕たちはリェンさんも一緒に、ユハに帰ってきたんだ。ここはルマちゃんとフゥ君の家…つまり神子一族のお屋敷だよ」
なるほどー。て、俺の傷の治り速いな。たった一日でこれだけ痛みがなくなってるなんてさ。…でも、治癒術が効かなかったって気になるなー。
確かに今まで、俺が治癒術のお世話になるようなことはしてこなかった。薬草、または放置で十分。治癒術耐性とかあんの?もしそうなら損だな。
「ルマとフゥ、あとリェンの様子は?」
「元気だよ。フゥ君も昨日の夜に意識が戻ったんだ。リェンさんは神子一族の人とずっと話をしてるみたい。
そうだ、メネさんとガルデさんも訪ねて来たよ。ステイトが怪我してるのは隠しちゃったけど…」
「それでいいって。こんな怪我したって分かったら、二人から一発ずつビンタくらいそうだしな」
無茶しないって約束だったしな。でも…シルとルマが怪我しなくて良かったー。俺は怪我とか慣れてるし。フゥも無事で何よりだ。
まだ少し痛む体をさすりながら、俺はもう少し事情を聴いてみることにした。
「じゃあ、もうこのあたりの水源が危ないとか、メネさんみたいに水の守護が強い人の力が暴走したりとかは…」
「うん、ないはずだよ。リェンさんが神子一族の人たちにいろいろ説明してたみたい。
ね、ステイト。本当にケガ、大丈夫?」
少しシルが俺のほうに体を乗り出し、そっと腕に触れた。着替えさせられている俺の清潔な白い服の袖から見える腕、そこに浮き上がる痣はちょっと痛々しい。
案の定シルは悲しそうに表情をゆがめていた。
「僕が代わってあげられたらいいのに」
「なーに言ってんだ。こんなキレイな王子様に怪我させるなんておっそろしい」
「綺麗じゃないよ、僕なんて…。いつも自分のことばかりで」
「そう言いながら、今お前は誰の心配してんだ?」
「…あ」
この優しいやつは、悲しそうな顔してこんなことを言う。逆に俺が心配になるくらいお人好しだな。俺は思わず笑って、シルにデコピンをかました。
「ほらっ。俺みたいな世界のハミダシ者にも優しくできるお前はいいやつだよ」
「…ステイト…!」
―――ガシッ
おう、またハグですか…。もうこの子ってばこんなに甘えん坊なんですかー。俺、弟でもできた気分だよ。
いっそ苦しいぐらいに抱きついてきたシルの頭をよーしよーしと言いながら撫でてると、開いてた扉の向こうの廊下から小さな影が飛び出してきた。
「あっ、あんた起きたのね!」
「ルマ。おはよ」
「おはよ、じゃないわよバカ!あんた、今何時だと思ってんの!?お昼まわってんのよ!」
お前は俺のカーチャンか、ルマ。目を吊り上げて、肩のあたりで二つに結っている水色の髪をふわっと揺らす。うは、強気モード健在じゃねーか。
ちょっとは労われっての!もっかい寝るぞ!
「ってか、昼まわってんのか。あまり腹減ってないし分からなかった…。ルマ、お前の弟君、無事でよかったな」
俺の肩に頭をうずめたまま動かないシルの頭を撫でながら、ルマに言う。廊下で突っ立ったままのルマが、俺の言葉に少し表情を柔らかくした。
「まぁ、ね。フゥはもうすっかり元気よ。リェンも正気に戻ってくれたし、ひとまずこれで一件落着ね。
あんたも、その…ケガ、大丈夫なの?」
「んー?ちょーっとだけ痛いけど、ほぼ回復してるぜ。傷の治り、速いから」
「…なら、いいけど。…じゃあ、あたし、あんたが起きたことをフゥやお父様たちに伝えてくるわ。待ってて」
目をそらしたままのルマがすたこらと去って行った。うーん、今からルマのお父さんとかに会うのか…。ちゃんと話せるかな俺。
「シルー、大丈夫かー?」
「うん…。次は絶対、僕が守るから…」
「いらない責任は背負わなくていいんだぞー。俺がヘマしただけだし、シルはよくやってくれたからさ、な」
赤毛がふるっと震えた。ゆーっくりとその体が離れて、また涙目のシルが俺を見つめる。
「泣き虫めっ」
本日のデコピン2回目をかまそうと俺が笑って片手を上げると、シルがその腕を掴んでぎゅっと握った。熱いなお前の手。
冗談を言おうと顔を見たら、すっごく真剣な顔された。思わず俺の背筋が伸びる。
「僕、強くなる。もっと強くなるから」
「…じゃ、俺も負けないように強くなるよ」
そう言い返したら、ようやくシルが笑った。うん、やっぱお前は笑ってないとな。シルがいなくて誰が癒しを担当するんだ。俺じゃ無理だぞ!
シルが置きっぱなしにしていた盆から薬草を取り出し、一緒に持ってきてたすり鉢でそれをこすり、塗り薬を作る。
うおー、薬草の匂い。何回嗅いでも、この匂いはヨーウェンさんたちを思い出さずにはいられない。元気かなー。
布団から出て、シルに腕や足、背中に薬草を塗ってもらっていると何人かの足音が廊下から聞こえた。
現れたのは、ルマ、ルマと手をつないでる弟フゥ、そして見慣れない長身の青い髪の、不思議な衣装の男の人、そしてガルデと同じくらいの歳に見える男の人。
ルマが俺に紹介してくれた。
「この青い髪のお兄ちゃんがリェン。こちらはお父様よ。ほら、フゥも挨拶して」
ルマがしっかり仕切ってる…!リェンは神々しささえ感じるような、穏やかさと荘厳さを湛えた微笑みを浮かべ、ルマのお父さんが頭を下げる。
そして、ルマの隣の小さな男の子フゥが、そっとルマから手を放して俺の前に歩み出た。
「ちは。俺、ステイト」
「…こんにちは、…フゥ、です。…助けてくれて、…ありがとう」
肩の上でサクッと切ってある、ルマと同じ水色の髪が、ぺこっと頭を下げたときに揺れた。か細い声だけど、ちゃんと聞こえる。
「けがはないか?早く助けに行けなくてごめんな」
「大丈夫、です…ステイトさんも、僕の…ために…ケガ、ごめんなさい…」
しょんぼり、とフゥの顔が曇る。勝気で釣り目のルマとは違い、おとなしくて引っ込み思案、そして垂れ目が印象的。双子でも似てないんだな。
そのしょんぼり具合が可哀そうで、思わず俺はぽんぽんと肩をたたいていた。
「明るくしてないと幸せになれないんだぜー。フゥが笑ってくれたら俺のケガもすぐ治るから、なっ」
「は、はい…!」
うわー、かわええ…どっかの姉とは大違いの笑顔だ…ゲフッ!ルマ!何故殴る!
「あらっ、ごめんなさーい。虫がいたの」
「…お、お前な…どっかのバカ騎士思い出すようなことするなよ…」
一瞬頭の中を笑顔のニコラが掠めていって寒気がした。うげっ、思い出さない思い出さない。
ルマがフゥの手をまたつないで、改めてシルと俺を見た。
「お父様とリェンから、あなたたちに話があるって。あたしたちはもう少しやらないといけないことがあるから、また後で会いましょ」
「え、えっと…ありがと、ございました…!」
そして、双子が同時に笑顔を見せて、一緒に手を振ってまた廊下に消えていった。仲いいんだなー、ちゃんと二人を会わせてあげられて良かった、とほっとする。
シルも俺と同じことを思ったのか、ふぅ、と安堵の息を漏らしていた。
それから、床にリェンと双子のお父さんが座り、自己紹介をしてもらった。
「私はリェンと申します。このあたりの水の精霊で、水龍と呼ばれています。この度は失礼をしました」
「私は前・神子のシュイ。双子の父です。子供たちがお世話になりました、助けていただいて感謝しています」
二人が頭を下げる。わわっ、俺そんな頭下げられるような者じゃございませんよ!?慌てる俺にシルが笑って背中をさする。
「ステイト、落ち着いて」
「え、あ、うん。え、えっと。突然町のことに首突っ込んじゃってすいませんでした。俺はステイトっていいます。
聖セレネまで旅してて、その途中にこの町のことを聞いて、つい」
「僕はシルヴェスタといいます。同じく、聖セレネへ向かっています」
俺たちが自己紹介すると、シュイさんが短いひげをなでながら頷いた。
「本当に助かりました。私たちの力では水龍の力を止めることもできず、聖セレネからの使者も間に合いそうになく…。
途方に暮れていたところでした。町を代表して、感謝と、危険にさらしてしまったお詫びを申し上げます」
「い、いえ。でもフゥも無事に帰ってきて、水龍の暴走を止められて良かったです」
あー、緊張する。俺の言葉の足りない言葉を、ちゃんとシュイさんとリェンが聞いてくれる。リェンが次に口を開いた。
「私のほうからも、お詫びと感謝を。意識がなくなってしまったとは言え、申し訳ないことを…」
「き、気にしないでください!あ、でも聞きたいことが」
「はい、なんでもどうぞ」
「その…どうして暴走してしまったとか、心当たりはありますか?」
そういや、なんで暴走に至ったか、リェンは知っているんだろうか。聖剣にかかわってるとしたら、ぜひ聞いておかないと。
リェンはまじめな顔で考え込み、少し間をおいて答えた。
「数日前、急に人と魔族のバランスが崩れることが起きました。今までは変化こそあれど、このように急激に変わることはありませんでした。
力の強い精霊ほど影響を受けやすいようで…私はこの大陸の中では、水の精霊の中でも力が強いようです。
バランスを崩すもととなったものが、数日前この付近に接近していることは分かりました。それを感じたときから、どうも中てられてしまったようです」
青く長い髪が、風もないのにゆらゆらとなびいている。青い目は憂いを映し、それでも俺とシルをまっすぐ見て説明してくれた。
さっき、リェンが『バランスを崩すもととなったものが近くにいた』って言ったよな。…まさか。
「つまり、聖剣を持って行った誰かがこの近くを通って行ったってことか!」
俺はシルを振り返った。俺の背中に薬を塗っていたシルは、その手を止めて俺に小さく頷く。
すると、俺の言葉にシュイさんとリェンが顔を見合わせた。驚いた表情で、シュイさんが俺に向き直る。
「あなたたちは、聖剣のことをご存知でしたか」
「え、あ、まあ。その…聖剣のことについて、聖セレネで事情を聴くつもりだったんです」
リェンは精霊だから気付いててもおかしくないけど、シュイさんが知ってるってことは多分ここにももうシエゼ・ルキスの騎士が来て伝達してるんだな。
俺が追われてることはぜーったいに言っちゃいけないな。
てか、リェンがそこまで力の強い精霊なら、もう聖剣を盗んだ真犯人も知ってるんじゃ?ちょっと聞いてみよう。
「リェンは聖剣を持ち出したのが誰か、分かるんですか?」
「いいえ、そこまでは…。確かにそれは、聖セレネの大神官ほどの力がないと分からないのではないでしょうか…。
お役にたてず、申し訳ありません」
「いや、無茶なこと突然聞いてすみません」
申し訳なさそうに首を横に振る、涼やかなリェンに俺は首を横に振った。やっぱ、聖セレネに行かないとダメかー。
シュイさんがシルと俺に話す。
「二人は私の子供と精霊、この町の恩人です。いつでも困ったことがあれば助けになりますよ。
まず、お礼をさせてください。こんなものでは足りませんが…」
シュイさんはそう言って、廊下に出てすぐに戻ってきた。手には皮袋がある。けっこう大きいぞ?
「10万Gです。これからの旅の資金にお使いください。あと、リェンからも贈り物があるそうで」
じゅ、じゅ、10万だと!?多いだろ!ちょーっと洞窟に乗り込んだだけだぞ!お!?あ、シルがまた肩たたいてくれた。
あぶね、ちょーっと興奮するところだったぜ。じゅ、じゅうま…よぉし、落ち着け俺。
リェンが俺とシルをじーっと見る。ん?と俺たちが顔を見合わせてぽかんとしていると、リェンが小さくうなずいた。
「二人に合った贈り物をしようと思って、力を確認させていただきました。
シルヴェスタ、あなたは火の守護をもつ…高貴で優しい方ですね。これをどうぞ」
わー、またシルの素性見抜かれてるようなことを!ザルだな!…とは言えない。シルもちょっと表情を硬くしたけど、リェンの様子を見守る。
リェンが両手を合わせ、ふわっと開く。すると、リェンの手に赤い紐があった。そんなに長くないけど、すごくきっちりと編みこまれた紐だ。
よく見ると、小さなビーズがところどころに入っている。シルの目が少し見開かれた。
「火の精霊石を埋め込んだ、紐ですね」
「ええ。あなたの武器は杖のようなので、紐をくくっておくといいと思います。火の魔力を上げ、またすべての属性からの魔法攻撃を軽減します。
あなたはこれからも、たくさんの戦いをしていくでしょう。その優しさで誰かを守るために、力を正しく使ってください」
穏やかにリェンがシルに微笑んだ。シルはぽかんとリェンを見上げていたけど、すぐに力強くはい、と返事をした。
それから、俺か。リェンがもう一度俺をじーっと見て、一度首を傾げて止まる。…けど、なんだろう。その表情があまり良くない。
確信のない何かを言うか言わないべきか、って感じ。え、なに。俺、あまり良くないの?え、怖いじゃんか!なになになに!
「…ステイト。あなたは…その、…魔力を持たないのですね」
「えっ。えっ?あ、そうらしいですね。なんか、まったく魔力の才がないみたいで、あはは」
なんだよ、そんなことか。精霊でも遠慮してくれるんだなー、と俺がお気楽に笑うと、リェンは気にするようにシュイさんとシルを見た。
けど、シュイさんは落ち着いた様子で座ってるし、シルも真剣な表情で様子を見ている。それを見て、リェンはようやく続きを言った。
「…いえ、不思議なことなのです。人は必ず、なにかの『属性』の魔力を守護に生まれるのはご存じだと思います。
才能を器とすれば、たまる魔力は液体のようなもの。使えば減り、貯めれば増えるものです。与えられた器が大きいものを『守護属性』と呼ぶのですが…」
「は、はい」
「それが、…あなたには器が一つも『ない』状態なのです」
…ん?比喩が多くてよく分からねーぜ?うん?
けど俺が首をかしげた隣で、シルはすっごく驚いた顔で俺を見ていた。シュイさんも、リェンの言ってることが信じられないって表情でリェンに言う。
「そ、そんなことがあるのか?」
「私も…久しくそのような方とはお会いしていません。器がなければ魔力は貯まらない。そして、影響されない。
平たく言えば、ステイト、あなたは魔力を使うことができない代わりに、魔力を受け入れない珍しい体質なのでしょう」
へ、へぇ。珍しいのか俺ー…じゃない!え!?まじで!?俺、そんなに才能ないの!!?ちょ、まじか。逆に傷つく。
じゃあ俺、これからも魔力とか使えないわけか!う、うわぁぁ憧れが崩れていく…!いつか俺もすっげぇ技使えるようになると思ってたのに!
ん?でも、それじゃ…治癒術が俺に効かないのとか、今までことごとく俺に魔法攻撃が効かなかったのはもしや。
「あ、あの。じゃあ俺に対して魔法攻撃したらどうなるんですか?」
「やってみましょうか」
そうリェンが言った途端。俺がそれを聞き直す隙もなく、目の前にあの青い光の陣が現れた!うわ!シルが反応して動く間もなく、陣から水が飛び出て…
あれ?やっぱ、消えた。
「…消えた、よな」
「消えた、ね」
シルがぽかーんとした表情で俺の言葉を繰り返した。リェンが落ち着いた声で言う。
「つまり、攻撃であれ回復であれ、直接ステイトを対象にしている魔法はすべて無かったことにされてしまうようです」
「…喜んでいいのか?」
「…魔物が増えている今、魔物からの魔法攻撃を受けずに済むのは喜ぶべきです」
わ、わーい…あまり納得できないけど…。でもリェンはどこか引っ掛かりを感じているような表情だ。
「…しかし、もうそんな一族は…」
「へ?」
「あ、いいえ。聖セレネを目指しているのなら、聖セレネで自分の体質について尋ねてみるのもいいと思います。
では、魔力についての贈り物ができないので、…これを」
またリェンは、シルに紐をあげたのと同じように、両手を合わせて開いた。…お、お?
現れたのは、親指くらいの大きさの羽飾りだった。これも紐に通されてるけど、手触りがよさそうな紐だ。
「とてもしなやかで軽く、身体能力の高い体のようなので、これを。この羽はさらに身体能力を向上させます。
さらに高く飛び、速く走ることができるでしょう。腕や足にくくってください。
あなたは二つの流れにあります。平穏と激動の選択を迫られても、あなたは動き続ける。
どうかあなたを捕らえようとするものから…あなたが逃れられるように」
「あ、ありがとうございます」
目を閉じて俺に言うリェンから、羽飾りの紐を受け取る。とりあえず、手首に巻いておくことにした。
でも、なんか不気味というか、不安になるようなお告げもらっちゃったなー。もしかして、俺…すごいことに巻き込まれようとしてるのか?
ま、何がどうなっても、そのときの俺がちゃんと俺の信じた道を選んでくれたらいいけどさ。
十万Gの入った皮袋をシュイさんから受け取り、とりあえず今日はこの屋敷で過ごすことをシュイさんに勧められた。
リェンはまたあの聖湖に戻るらしい。去り際に俺たちの旅の無事を願ってくれた。
シュイさんとリェンが出ていった部屋で、俺たちはこれからどうするかを話し合うことにした。
午後はまだ長い。俺はシルと、雑談交じりに暖かな昼を過ごす。
気になることがいっぱいできた、けど。
やることもはっきりしてきたしな。俺は痣と傷だらけの足をそっと撫でて、また明日やることをぼーっと考え始めた。




