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ルキスの剣  作者: 夜津
第一章 聖剣の喪失
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9 精霊との戦闘

 …ぜぇ、はぁ…。

なんだよルマ…あいつ足速すぎだろ。あの動きづらそうな神子装束で…。もう盗賊かアスリート目指すほうがいいんじゃね?

いや、盗賊はダメだな。いいことないもん。俺…自分より逃げ足の速いやつに会ったのは初めてかも…。ぜぇ、はぁ。


 俺とルマの追いかけっこの果てに、ようやく『聖湖』へ俺たちはたどり着いた。あの道から一本道だから迷うことはない。

けど、もしかしたら水龍との死闘が待ってるかもしれねぇのに、何でその前に全力鬼ごっこやらないとダメなんだよ!

さすがに俺はほら、あれ。紳士だから。ちょーっとだけ手を抜いてルマを追いかけただけだったから、別に疲れてなんて…


 「あんたさっき息上がってたじゃない」


 うるせぇルマ!つぅか、なんでお前は息切れしてないんだよ!?なんか俺、元天才盗賊とか呼ばれてたのが恥ずかしくなってくるんだけど。

俺とルマがにらみ合っていると、後ろからうわぁっ、と歓声が聞こえた。


 「ここが聖湖なんだね。広くて涼しくて綺麗」

 

 追いついたシルが、目の前に広がる光景に目を輝かせていた。俺とルマも思わずつられて湖を見る。


 聖湖、ユハ湖。周りを岩壁に囲まれ、完全な突き当りになっている。一周回るのに数分かかりそうな馬鹿でかい湖は日の光に照らされ、さざ波がきらきら輝く。

んで、その湖の奥は滝壺になっていた。うわっ、すげぇ!


 めっちゃくちゃ上の崖から流れ落ちる大きな滝!どどどどどってすごい勢いで流れてるけど、ここ、湖だぞ?この調子で水が降ってきたら溢れないのか?

…と思ったけど、そっか。地面の下で別の湖や川につながってんだっけ。あぶね、これルマとシルに尋ねてたら笑われるところだった。


 ルマが湖のそばに歩み寄り、しゃがんで水に触れる。あれ、なんか険しい表情だ。


 「どこかおかしいのか?」

 「水位が上がってるの。それに、だいぶ冷たい。…湖の中心には石造りの祠があるんだけど、もう水没しちゃったみたいね」

 「…うーん、確かに祠みたいなものは見えないね」


 シルが湖を見渡す。俺も『祠』を探すけどそんなもの見当たらない。

水位が上がって、水が冷たくなってる…か…。やっぱり水龍の暴走が影響してるんだろう。


 滝を見上げると、ざぁざぁと音を立てて今も湖に水が流れ落ちてる。あそこで武者修行したら多分体が潰れるな。

でも、あの滝の裏にある洞窟にルマの弟フゥと、水龍リェンがいるんだよな。…ああ、緊張してきた。


 ルマが立ち上がり、湖の縁に沿って歩きながら言う。

 

 「ひとまず、見えない壁があって入れないってのはあたしが解除の方法を調べたから大丈夫。

  問題は洞窟の中に入ってからどうするか、ね」


 ルマの後ろを俺とシルが並んで歩く。シルが杖を握りながらルマに確かめる。


 「フゥ君の安全を確かめるのが一番だよね。で、水龍の暴走は…。鎮静の玉、だっけ」

 「うん。リェンがどんな姿になってるか、あたしも分からない。普段は人型のお兄ちゃんなんだけど…。

  でももしそうじゃなかったら、本当に龍になってると思う。洞窟は広いから龍の姿でも窮屈じゃないはずよ」

 「鎮静の玉は精霊の『核』に近づけるんだよな?それ、どこにあるんだ?」

 「多分、だけど…。リェンが人型の時、いつも胸に青の大きな玉がある首飾りをしてて、大切にしてたからそれかも。

  でも龍の姿になってたらそれがどこにあるのか…。洞窟に入らないと分からないわ」


 ルマの小さな背中がしゃきっと伸びたまま前へと進んでいく。…こいつ、マセガキだしうるさくて生意気だけど、しっかりしてんだな。

大切なもののために、悲しみばっかに暮れてないでちゃんと自分で何かをしようとする。…いいアネキだ。


   

 滝のそばに着くと、その音が激しくなった。どどどど、とあまりにもうるさいからちょっとだけ離れて作戦会議をする。

とんでくる水飛沫が冷たくて、少し気持ちいい。


 「洞窟は入ってちょっと進んだらすぐに祭壇があるわ。そこにフゥとリェンがいるはず」

 「了解ー。フゥを助けられるならまず助けて、次に水龍をどうするか、だな」

 「誰かに鎮静の玉を任せて、あとは囮になろう。でも危険だから、ルマちゃんは下がっておいたほうが…」


 シルの気遣いの言葉にルマは力強く首を振った。

 

 「何もしないのは嫌よ。何のためにあたしがここまで来たの」

 「じゃあ、フゥ君を助けられたらフゥ君の傍にいてあげてね。でもそれより先に戦闘になったら…」

 「ルマの安全確保が第一だな。せっかくフゥを助けられても、ルマが倒れてたら意味ないだろ。

  じゃあ、俺とシルが、直接水龍の『核』に鎮静の玉を近づけるのと囮になるのとどっちか選べばいいのか」


 俺とシルは顔を見合わせた。けど、多分俺とシルは同じ事考えてる。シルもそう思ってるのか、やんわりと口元に笑みを見せた。


 「僕が囮になるよ。できるだけ攻撃を食らわないように、水龍の動きを小さくとどめておく。

  その間にステイトが『核』を見つけて、鎮静の玉を近づける。僕よりステイトのほうが素早いし、観察力はあるよね」

 「この場においてはあまり自信満々にはなれねーけどな。とりあえず任せとけ。シルも気をつけろよ、囮のほうがしんどいと思う」


 俺の言葉にシルもルマも納得したのか、こくんと頷いた。鎮静の玉は後でルマから預かることにして、いよいよ洞窟に突入だ。


 うわぁ、精霊相手か。攻撃されるだろうなー。無意識に俺はニコラからもらったペンダントを握りしめていた。…もし…ここにいるのが俺じゃなくてニコラなら?

きっと魔法防御の策もよーくご存じだろう。好戦的だし、不謹慎にも『精霊と戦えるなんて貴重だな』とか言ってそう。うげぇ。

まだ見ぬでかい龍と、それに果敢に立ち向かう黒髪の百戦錬磨の騎士を俺は想像した。ぎゃー、絵になる。ボロな俺とは大違いだ。

 

 でもいずれ、このペンダントも突き返すって約束したんだ。俺だって、こんなとこで立ち止まってられるかっての。それに、今回は撃破じゃなくて鎮静が目的。

俺は俺に任せられたことを、最後まで責任もってやるのみだ…!


 シルを見ると、赤い目にしっかりと光が宿っている。戦う前に見せる、集中の証。火の魔法を得意とするシルには、水の精霊との戦闘はつらい戦いになるだろう。

けどもう俺はシルを見くびったりしないぞ。安心して囮を任せられるし、きっとシルも俺を信頼して囮を志願してくれたんだ。


 ルマはただ滝の向こう側を見つめていた。心は決まっているんだろう。弟を助け出すまでルマは絶対に帰らないはずだ。

それから、ユハの町の皆さん、ガルデやメネさんのためにも、俺たちが何とかしなきゃな…!


 「行くわよ。準備はいい?」

 「あったりめーだっ!」

 「僕もいつでも大丈夫」


 三人で顔を見合わせて、強く頷く。さぁて、行くか!


 「じゃあ洞窟へ!あたしの後についてきて!」


 ルマがそう言って、片手を上げた。その手には、最初に俺に突き付けてきたあの短刀がある。ルマが天に短刀を掲げ、何かを小声でつぶやいた。

途端、ぴたっと滝の音が止んだ。…滝の水が、止まってる!しかも、いつの間にか湖に、俺たちのいる場所から滝の裏の洞窟へ続く半透明な足場が浮き出ていた!


 迷いない様子でルマはその足場を歩いていく。それにシルと俺がついて行った。止まった滝をのれんのようにくぐる。あれ?濡れると思ったのに濡れてない。

ルマの使った何かの呪文が滝を止めてるんだ。俺たちは洞窟の入り口に驚くほどあっさりとたどり着くことができた。


 最後尾の俺が洞窟に足を踏み入れた途端、また後ろから水の流れ落ちる轟音が聞こえた。うお!滝復活か!びっくりしたーっ…。


 ルマが数歩進み、立ち止まる。俺たちを振り返り、言った。

 

 「ここに見えない壁があるの。リェンが張った結界ね。今からそれを解くわ。これを解いたらリェンに私たちがここまで来てるって分かるはず。

  …覚悟はいいわね?解くわよ!」


 俺たちの返事を待たずに、またルマが聞き取りづらい何かを言った。すると、今度は短刀が光りだした!それをルマが、目の前の空間に『刺し』た!


 ――――キンッ!


 金属同士がぶつかるような高い音が洞窟にこだました。瞬間、バキバキッと何かの割れるような音がして…うわっ!?


 突然洞窟の奥から、とんでもない冷たさが流れ出した。寒…!シルとルマが顔をしかめたのが俺の視界の端に映る。俺も同じような表情だ。


 洞窟の中は真っ暗。ルマがまっすぐ奥の闇へ走り出し、俺たちもすぐに後を追う。すると、俺たちが進んでいくたびに洞窟の両サイドの壁の明かりが灯されていく!

だんだん洞窟が明るくなり、進みやすくなる。ザッザッと俺たちが少し湿った洞窟の岩場を走る音が響いている。


 祭壇はまだなのか?そう思った時。


 目の前で青黒い光が、まるで稲妻が鞭になったようにしなやかに飛び出して洞窟の奥全てを照らし出した!パシン、と音が響く。


 「…、フゥ!」


 ルマの叫び声がこだまする。ルマの視線を追うまででもない。目の前に見えた光景に、俺とシルは息をのんだ。


 岩壁の突き当りの奥に、夢で見た光景そのままの祭壇があった。その祭壇のそばに、あの夢に出てきた男の子が倒れてる…!

あれがフゥだ!ぐったりして、服ももう傷だらけだ。でも、そのフゥの体の周りを青黒い雷のような光が取り巻いている。

 

 「今助けるから!」


 ルマが祭壇へ駆け出す。おい、待てよ水龍は!?まだ近づくのは危ないだろ!

俺が静止の声を上げようとしたときには遅かった。


 ―――バチッ

 「きゃあああっ!?」


 ルマの目の前に閃光が落ち、その勢いにルマが吹き飛ばされた!すると、俺よりもルマの近くにいたシルがすぐに反応して、吹き飛ばされたルマを受け止める。


 「まだ近づくのは危ないよ。ルマちゃん、鎮静の玉をステイトへ。行こう、ステイト。あのフゥ君の傍の光が水龍だ!」

 「…おう!ルマ、玉よこせ!お前はフゥのために、元気なままおとなしくしてろよ!」


 シルが杖を構え、ルマを安全な場所に移動させてからフゥのほうへ突っ込んでいく!俺もすぐに、戸惑うルマから玉をひったくって後を追った。


 シルと俺がフゥに近づくと、ゴゴゴ、と地響きのような音がした。水龍が姿を具現化するのが、このキンッキンの寒さの冷気から分かった。

フゥの体からあの光が離れ、宙に集まる。

 

 「…シル、けっこうでかそうだなコイツ」

 「…倒すなんて恐れ多いこと、絶対できないよね」


 俺たちの軽口も、場を和らげるどころか緊張感が増すだけだった。もうとにかく寒い!薄着してくるんじゃなかった!さらに目の前の光がだんだん姿を作り上げていく。

そして、とうとう…。洞窟いっぱいにその体を広げる、蛇のように長い大きな『龍』が現れた!


 「こいつが水龍か!目、血走ってんぞ」

 「やっぱり暴走してるんだ…!ステイト、その鎮静の玉、ずっと触れてると意識がなくなっちゃうからチャンスの時にだけ取り出せるようにしまっておいて」

 「あ、そうだったな。了解。…しっかし、これから『核』を探すなんて…なぁ」


 俺はシルの言葉に、玉を懐にしまいこんだ。けど視線は龍からそらすことができない。


 なんだよコイツ、デカすぎだ!本当に、洞窟フルサイズに龍が浮いている。体中が青の鱗で覆われ、目が異様に赤く爛々と光ってる。

バシン、と龍の尾が洞窟の岩壁を叩いて俺たちを威嚇してきた。


 「びびらせてくれるじゃねーか…!」

 「ステイト、あの尾!大きな青い玉がついてる!」

 

 冷や汗を流す俺に、シルが叫んだ。指さす方向を見ると…あ!確かに龍の尾に、俺の顔ぐらいありそうな大きさの青い玉がついていた。

それを見たのか、後方に下がっていたルマの声が聞こえてきた。


 「きっと、あの玉が『核』よ!さっき渡した鎮静の玉をあの尾の玉にちょっとでも当てることができれば…!」

 「投げて当ててもいいのか!?」

 「いいけど簡単に当たるとは思えないわ!できるだけ確実な方法でした方がいいわよ!」


 じゃあ、やっぱ近づかないとだめか…!あまりの龍の大きさに圧倒されそうだ。でけぇ。龍の体の長さははっきりとはわからねぇけど、太さは太い木の幹ぐらいはありそうだ。

あんなの、ちょっと間違えて胴に巻きつかれたら終わりだ!ひねりつぶされる…!


 まだ龍と俺たちは硬直状態だ。けど、このままじゃ埒があかねぇ!シルもそう思ったのか、杖を構えた。


 「ステイト、僕が龍の注意をひきつけるからできるだけ尾の近くに行って玉を当ててきて!ステイトの素早さが頼りだよ」

 「ああ、さっさと終わらせてくるぜ」


 行きますか!俺は足に力をこめて走り出す。俺の行く反対方向に、同時にシルが走り出した。シルの杖にはもう炎が宿っている。


 「フレイムスピア!」


 シルの詠唱が洞窟に響いた途端、寒さに負けない熱気が一瞬押し寄せて炎の槍が出現した!まっすぐシルの杖から龍へ飛んでいくけど、龍の体に当たって霧散するのが見えた。

 

 「ダメだ、やっぱり効いてない。けど注意をひきつけるには十分だ!」


 シルが次の魔法の詠唱に入る。俺は龍がシルに気を取られているうちに龍のわきまで回り込んだ。尾まであと少しだ!


 「…ステイト!上!」

 

 シルの叫び声に俺は反射で上を見上げ、思わず足を止めた。俺の頭上に青い光りの円陣が浮かんでいる!

 

 「なんだこの陣!魔法か!?」

 「ダメ!リェンの水魔法、ウォーターフォールよ!逃げて!」


 ルマの声が悲鳴のように聞こえてきた!そんなにやばいのかよ、と思った時、俺の頭にこの洞窟の入り口の滝が思い浮かんだ。水の流れにつぶされるのか!

最初から水龍は俺を警戒してたってのか…!すぐに足を動かす、けど頭上から轟音が聞こえてきた!


 「ステイトーッ!!」


 おいおい、やべぇって…!こんなの数歩逃げても逃げなくても変わらねぇよ!一気に陣から水が溢れだした!俺はもう目を見開くしかできなかった。

うわ、周りがゆっくり見える。シルが、ルマが俺に叫び声をあげてる。水がすっごい勢いで落ちてくるのに、俺は動けない。なんだよ、逆に水が美しく見えてきた。

そのときチャリ、と首元でペンダントの鎖が鳴った。いくらこのペンダントが有能でもこんなの防ぎきれるわけがない!…情けないけど、もうやばいか。来いよ…!

俺は最後まで目を開けていられず、ペンダントを握りしめて目をつぶった。ああ、ここで終わりか…!




 …ん?…ん?いくらなんでもゆっくりすぎねぇか?いつになったら水降ってくんだよ…?

いつまで待っても水が降ってこない。俺はぐい、と上をもう一度見上げた。


 「…あれ?水、どこいった?」

 

 ―――何もない。え?さっきの『ウォーターフォール』とやらはどこに?いづこへ?

 それかもしかして、俺もう死んじゃった?これ、噂の霊体…?


 「ス…、ステイト!どうやって魔法を…!?」

 「さっきのウォーターフォール…消えちゃったの…!?」


 シルとルマの声に俺ははっとした。死んでない!良かった!…って、えっ!?じゃああの滝の魔法、消えたのか!?

さすがにあんな大魔法、ペンダントも防ぎきれるようなレベルじゃなかったはずだろ…!?


 びっくりして焦ったのは俺とシルたちだけじゃなかった。暴走している水龍もおかしさを感じたのか、オオォォと咆哮を上げる。うわっ、コワッ!

洞窟にぐわんぐわんとその咆哮が反響する。


 「と、とりあえず…。よく分かんねぇけど、助かったってことだな!」


 混乱してるのは俺たちもだけど、多分向こうもだ!この隙を逃すわけにはいかねぇ!俺はまた走り出して、岩壁を蹴り上げる。

できるだけ速く、速く!宙に掲げられている尾の玉をめざし、俺は岩壁を走り抜けて思い切りジャンプした!

まだ龍は反応してない!


 「おおぉぉらぁああっ!」


 届け!走りながら懐から出した鎮静の玉を手の先に、できるだけ腕を伸ばした。あとちょっと、だから動いてくれるなよ…!


 その瞬間。俺の四方八方を囲むように、空中にいくつもの青い光の陣が現れた!おい、またかよ!?つーか、これは…!


 「…死亡フラグ…!!」

 「冗談言ってる場合じゃないよっ!」

 「冗談じゃねーのはこっちだ!!」


 シルが龍の邪魔をしようと何度も炎をぶつけているのが視界の端に見えた。けど俺の宙に浮いた体は尾の玉に届かないまま、魔法陣に囲まれてる!


 「ダメーーーッ!!」


 ルマの甲高い叫び声が聞こえる。確かに、ここまで囲まれたら本気でやばいよな、死ぬよな。俺は他人ごとのように思えてきていた。

でも本当に一瞬だった。跳躍から落下に俺の体が変わった時、全ての魔法陣が輝いて勢いよく水が溢れだし…俺は今度は覚悟する暇もなく、




 ――――…あら?俺の体は何事もなく、ひゅーんと地面に落ちた。高いところの着地は慣れてるから、俺の意識がぼんやりしてても自然に反射で着地できる。

 …やっぱ、魔法が発動してないみたいだ。……いや、たたたた助かったーーーーっ!!うわっ!感動が今更来た!俺やっぱ生きてる!


 でも何でだ?さっきもその前も…水龍の魔法は発動しない。俺の魔法防御力、そんなに高いのか?…いや、んなわけもない。

もしかして暴走してるから、発動もあやふやになってるとかか!?もしそうなら、とんだハッタリじゃねーか!俺より巧いハッタリだ!


 と着地してからの一瞬で俺がこんなに考え事をしているとき。ズゴォッと水の流れる音が聞こえた。すぐにそっちを見ると、シルの目の前にさっきの青い陣が浮かんでいた!

シルは俺のほうを見て、俺が無事なのを確認するとすぐに地面を蹴り、高めの足場へ移動する。その瞬間に陣から水が溢れ、さっきまでシルがいた場所を押し流した。


 …あれ、やっぱ魔法発動するのか…。お、俺…ガチのマジでラッキーだったってことか!うおお神様!こんな悪ガキの俺にもお情けを!今度教会見かけたら祈っときます! 

とか考えて感動に打ち震えてたら、シルの声が聞こえた。


 「ステイト!ステイトが今鎮静の玉を持ってるから、もしかしたらステイトへの魔法攻撃が無効化されてるのかもしれない!

  直接攻撃に気を付けて早く暴走を止めて欲しいんだ!」

 「あ、そっか!俺、鎮静の玉預かってたな…!なるほど、じゃあ魔法以外の攻撃に注意すりゃいいんだな!」


 そういうことか!シルの推測は多分当たってる!あったまいいーっ!


 じゃ、俺の番ってわけだな!直接攻撃を避けるなんざ朝飯前!ただし、ニコラの攻撃は除く!


 「あいつに比べりゃ、暴走した精霊なんかカメより遅いっての!」


 俺はまた地面を蹴り、再び岩壁を走る。龍の後ろに回り込んで、さっきみたいに尾の玉めがけて跳躍!今度はいける!

最後のあがきのようにまた陣が俺の体の周りに現れる。今の俺にはきかねーよ!案の定陣がすぐ霧散した。


 あと少し、すぐ届く…!俺が痛くなるほど腕を伸ばし、近づく龍の尾の玉へ鎮静の玉を当てようとしたとき。


 ぐるん、とその尾が動いた。俺を尾で叩き飛ばすつもりか!上等!そっちから尾を近づけてくれるだけの話だろ…!


 「っらぁっ!!」


 

 顔面に、体に一瞬で尾が近づいた。俺は近づいてきた青の玉に思い切り鎮静の玉を、壊す勢いでぶつける。ガキン、と高い音がした!よっしゃ!そして、


 ―――ドガッ!


 「ステイト!!」


 シルとルマの俺を呼ぶ声。俺の体は思い切り龍の尾にたたきつけられ、あっけなく紙のように飛んでいた。

痛み?感じねーよ。ただ、体の器官という器官が突然痺れるような感覚に襲われていた。あれ、もしかしてこのままいくと俺は壁に叩きつけられて…?


 ―――ドッ…



 遅れて来た激痛と共に、俺の意識がまた真っ暗闇の幕に閉じられた。 





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