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燦々たる陽光を受け、世界で最も綺麗と言われた海の水はその煌きを増していた。
海に囲まれた新海内市と、浜ノ江市を繋ぐ浜ノ江大橋。
全長四千三百五十三メートル、と世界最長を誇る橋の上を、怜は車に乗って走っていた。
車内には刹と凛、他に運転手がいる。
大宮家の専属らしい運転手とは、話したことはないまでもこうして何度も接触していた。
助手席に座る凛がなにかの書類を手に持ち、目を通している。
「六年前、ブラックマリンの名のブランドに肖り、金城重工は浜ノ江に本社を移した。その後、数年に渡り業績不振が続いていたが、二年前から業績は鰻上り。代表が金城健吾から、その息子、金城健人に変わったが、特になにか新しい改革を行なった様子はない。怜、なにかあるとは思わないか?」
返答せずに、怜は窓の外に視線をやった。
海から、人の住まう街並みへと景色が移り変わる。
浜ノ江市は、高層ビルが立ち並ぶ新海内市とは一線を画していた。
一戸建てが多く存在し、稀にあるビルが場違いに見える。
新海内市の中枢である中央区への参入を目論む東区と、浜ノ江市の立ち位置自体は同じだ。が、根本は違う。法外な手段を平然と取る企業の多い東区とは違い、浜ノ江市に本拠を構える企業は真っ当なところが多いらしい。
そのせいか、東区には大きく遅れを取っているようだった。
「で、なにをすればいいんですか?」
「……話が早いのはいいんだが。もう少しこう、興味を持て」
「興味って言われても。脈絡からして、どうせ黒なんでしょう」
「断定はできないがな。鵜ノ橋建設はわかるか?」
「ブラックマリン最大手のゼネコンですよね。たしか、BMSPのパトロンでもあったような」
「そうだ。その鵜ノ橋建設から垂れ込みが入っていてな。ある組織が、不当なルートで金城重工を支援しているそうだ」
「で、それを俺たちに処理させるってわけですか。管轄外の区域でもパトロンには逆らえない……なんだか世知辛いですね」
「まあ、そう言うな。大事な金づるでもあるんだからな。大方、調子の良い商売敵を早めに潰しておきたいんだろう」
「で、俺たちはなにをすればいいんですか? 金城の本社に入って証拠を掴んで来い、とかじゃないですよね?」
「わたしがそんな姑息な真似をするわけがないだろう」
「じゃあ、一体なにを――」
「これから金城健人と、その組織が密談するらしい」
「ああ、そうきたか……」
怜と刹にかかれば、大抵のことはなんでもできてしまう。
今回も別段、難しいわけではないだろう。
ただ、こうも予想を裏切る行動を取ることになろうとは思いもしなかった。
凛の行動力には毎度、脱帽させられる。
「既に裏は取った」
後部座席からでは凛の表情がはっきりとはわからない。
ただ、かすかにつり上がった口の端から、笑っていることだけは読み取れた。
「ぶっ潰すぞ」