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序章 地球圏と宇宙

地球、それは誰もが知る惑星の名前である。

だが、はるか未来においてはある国々の属国としてしか知られていない。

なぜそのようなことになったのであろうか?

我々の物語を鑑賞いただく前にまずは、それを知ってほしい。


~~とある反逆者たちのインタビューより~~



西暦2125年、人類史上最悪と言われた核戦争が勃発した。

某大国を狙った核ミサイルが発端となり、核抑止のタガが外れた各国は自国防衛のために積極的自衛に踏み切った。

熱核攻撃は10日間に渡って続き、諸国家は壊滅的打撃を受けた。

経済・軍備・治安全てに壊滅的な打撃を受け、戦争終結後も各地で紛争や犯罪による人口淘汰が進んだのである。

その結果、地球全体の総人口も10億人まで減少し、人々は10年間、新しい国家と統治機構の設立に費やさなければならなかった。後に『失われた10年』とよばれるようになる期間である。


2135年、新たな国際統治機構が設立される。

その初代代表ダグラス・トラッカーは、次のような熱弁をふるった。


「悲しい戦争からようやく10年。各国の復興も順調に進み、私たちは戦争の爪痕を癒そうとしている。だが、地上の資源や土地には限りがあり、すでに人類全体を養うのにも限界が近づいている。その限りある土地をこれ以上傷つけないために、私は人類の発展意識を別の場所で振るうべきだと提案したい。」


具体的には、火星や木星などでの惑星開発を推進し、最終的には移住も視野に入れた技術開発を行うべきというものであった。

当時は、あまりに夢物語と言われる内容であったが、彼はそれを実現することを復興後の最大目標であると説き、世界共同の統治機構『地球圏開拓連合』を設立した。その本部は、あえて被害が甚大であったロシアと中国の中間に設置され、各国の意見調整や復興後の物資・情報の統制、外交交渉の中心地となっていくことになる。


2160年代に入ると宇宙空間での超高速航行技術(ワープ航法)が発見され、惑星間での移動が短期間で行われるようになる。結果、『地球圏開拓連合』の権限や規模は拡大の一途をたどり、それに伴って太陽系の惑星開発は急速に行われるようになった。

火星への移住人口が飛躍的に増大するようになったのもこのころである。

それと並行して、地球圏外への探索・移住計画も進められた。

2189年末、地球圏外探索船団『タルタニック』が少数の護衛船団を従えて出航した。当初、10年後には帰還することになっていたが、30年たっても戻ることがなかったため全員死亡と結論付けられた。


その後、300年に渡って『地球圏開拓連合』主導のもと地球外での発展・統治が続くことになるが、それに伴って宇宙空間での海賊行為を行う者が現れ、次第に増加していった。そのため、統治用の軍隊が設立され、犯罪の取り締まりを行うようになる。それでも、地球内での戦争・紛争は減少していたので平和と言っていい時間が流れていた。


2519年6月中頃、木星大気圏上に配備されていた監視衛星の一つが事態の急変を察知することになる。

当初は、小さな光点が宇宙空間に現れただけであった。だが、それが100を超え、1000以上に達した時、当時の観測班は顔を真っ青にして責任者に指示を仰ぐことになった。

その直後に、衛星が破壊されたためその責任者たちは彼ら以上にあわてた。

当初は、海賊が大規模な徒党を組んだのかとも考えられたが、それと前後して届いた通信により、事態が思わぬ方向に進んでいることが確認された。

その通信は300年前に送りだされた探査船団『タルタニック』の識別通信コードであり、以下のような内容の通信であったからである。


『我は、クライス第二帝国辺境派遣艦隊司令官レニーバ・ダラス中将である。貴国は、我が国の領土を不正に統治していることが確認された。貴国の領土は神聖不可侵である我が国の領土である。しかし、我が軍は無益な争いは好まない。故に72時間の猶予を与える。それまでに色よい回答がなかった場合は、我が帝国の威信と皇帝陛下の恩顧に報いるため貴国を討伐するものである。賢明なる回答を期待する。』


この通信は、『地球圏開拓連合』にとって寝耳に水であった。この時になって地球以外の有人惑星と星間国家が確認されたためである。だが、事態はそれを霞ませる程、緊急を要する内容に踏み込んでいた。

帝国、艦隊、討伐という内容を聞いた時の代表は何の冗談だと考えたが現実はさらに深刻な状況になりつつあった。

当時の代表であるローマン・ローズヘルトは即座に会議を招集し、今後の方針検討を開始した。この頃の、連合内部は軍を主軸にした代弁政治派と軍縮主張派に分かれ争っていた。ローズベルトは典型的な軍主導賛成派所属の政治家で知られており、国内では彼の発言は軍を私的に動かせるほどであった。つまるところ、方針はすでに彼の中で決まっており、会議は建前として開かれたにすぎないのであった。


当時、軍に所属していた軍人にシディウス・ラーゼル中将という軍人がいる。

連合保有の常備軍内で7人しかいない実働指揮官の一人であり、実績・人望ともに認められつつあったが若い事が災いして軍部内での受けは悪く、不遇をかこってもいた。

この頃の彼は、政府と軍部に対して危機感を募らせていた。その理由はいくつかある。

敵の技術と規模の詳細が不明であるのに出兵前提の話し合いがもたれていること。兵士たちの士気が決して高くないこと。本作戦の最高司令官が今回の有事には向いていないこと、などの理由であった。


本作戦の司令官はバルダン・ルブコスキー大将。

軍部で急速に支持を集めている男である。30代の後半でありながら、ハンサムな顔持ちをしているために一般からの支持も高く元帥昇進が有力視されている。

その一方で、軍を指導する人間としては二流であるとシディウスは談じている。

軍や政治家からは勇猛かつ冷静な戦いができると言われているが、シディウスから言わせれば無謀で冷酷なだけであった。それを象徴する事件に『S37衛星砲撃事件』がある。


この事件は、宇宙空間での海賊討伐が発端で起きた事件だった。

当時、警備艦隊司令官の一人であったバルダン少将が宇宙海賊を追撃していた際、追いつめられた海賊側が民間居住衛星にたてこもったのである。そこは月周回軌道上で37基目の民間人居住衛星であったので『S37』と呼ばれていた。人口約5万人、周辺小惑星への資源採掘を主産業にしている工業衛星でもあった。

その衛星にたてこもった敵に対し、バルダンは砲撃するよう命じたのだ。

当時、彼の副官はバルダンのこの無情な命令を制止しようとしたが命令不服従でその副官も拘束し、衛星に対して無慈悲な蹂躙が行われた。

結果は見事に海賊を討伐したが、現地住民9,000人が死傷した。だが、軍部はこの命令はテロリストに屈しない事を原則とした正しい判断の末の結果であり、手法に問題はなかったと判断。バルダンは1週間の謹慎処分で軍務に復帰している。しかも、その直後に中将に昇進し、軍部御用達の指揮下になったのである。このような経緯から彼が軍部に絶大なコネがあることは間違いないが、表だった反論ができた者には軍刑務所行きが待っていたので周りはこぞって彼を支持するか、口を閉ざすかを選択するしかなかった。


そのような男が今回の艦隊総司令官である。既に結果は見えていた。


帝国からの最後通告から48時間後までに、各地に散っていた艦隊が集結・再編された。軍容は約10万隻、動員数約5,000万人にもなる陣容であった。

宇宙進出以来、初めての大規模編成であり、当時の最新鋭艦で構成されていた。


通告から66時間になろうとした頃、地球圏開拓連合はクライス第二帝国艦隊に対して宣戦布告、艦隊が派遣され地球外延部にして最後の防衛線とも呼ばれるアステロイドリング外周宙域にて放火を交えた。そして、見事に壊滅した。

被害艦艇数8万9千隻、残存艦艇約1万隻、残存した艦艇も小破などましな方であり、中破・大破寸前が全体の9割を占める無残なものであった。さらに、艦隊の指揮をとっていたバルダン大将を含め、出撃していた7中将の内5人が戦死するというおまけ付きであった。一方で、敵の被害はわずか1,500隻程で2万隻の艦隊に正面から蹂躙されたのである。


物量的に劣っていたクライス帝国艦隊であったが、決定的な違いは物量では無かったと後の軍研究者は語っている。

敵艦艇の砲撃射程が連合艦隊の2倍以上であったこと、連合艦隊の攻撃の大半が届かないか防御バリアに弾かれたこと、そして、敵の指揮官が有能かつ真摯的な司令官であったことがあげられる。

クライス第二帝国艦隊の司令官レニーバ・ダラス中将は帝国内では質実剛健、規律と礼儀を重んじる事で知られていた。年齢が45歳と軍では老害扱いされやすい年齢でありながら、貴族・平民双方から高く評価されていた。

そのダラス中将は、連合艦隊に対して中央突破・背面展開という戦術を圧倒的多数の敵に対して実施し、帝国側の勝利を決定付けたのである。そんなダラスであったが、勝敗が決したタイミングで連合軍残存艦隊に対して、降伏勧告を出している。さらに負傷した敵兵に対しては適切な治療と帰還のための保障を戦闘後に行っている事が後の歴史に、少なからずの影響を与える事になる。


一方、艦隊が壊滅した地球圏開拓連合では首脳陣一同、血の気が失せた茶色い顔色になった。正確な損失は戦後調査で明らかとなるが、戦死者約4,500万人、負傷者約500万人に上る歴史的惨敗であった。しかも、敵の損害はほとんど皆無という情報も届いていたため議場は沈黙が支配する場となった。

そして、ここにいる者たちの大半の運命が既に尽きていた事を当人たちがだれよりも理解していた。


2519年6月末、地球圏開拓連合は事実上降伏することになる。戦後処理として戦を主導した扇動政治家たちが逮捕されクライス帝国に引き渡された。無論、その中に地球圏開拓連合の議長とそれに追随した連中が含まれた事は言うまでもなかった。


ただ、幸か不幸か地球は独立を保つ事ができた。理由は外的な要因である。

当時はまだ知らなかったが、宇宙では4つの国が分裂し互いに覇を競う星間戦争が100年以上に渡って繰り広げられており、地球の位置は各国にとって非常に厄介なところにあったのだ。


地球に対して最初に接触を図った『クライス第二帝国』。

後にもっとも多くの進駐軍を派遣した『イシュタリス帝国』。

外交的に意義を唱えた『カトラスタ王国』。

宇宙最大の国土と資源を保有している『バージスト帝国』。

今までこの4国家は、互いに牽制しながら勢力の増減を繰り返し続けていた。

地球の位置が見事にその4国家の中間地点であったことが独立を保つことになった要因である。

どの国も、地球を新たな中継侵攻拠点にできれば軍・物資の集積と補給は容易になる事が見込まれており、どの国も可能で有れば手に入れたいと考えていた。

だが、同時に相手には渡したくないという考えが共通認識でもあったために各国は地球圏の共同統治をおこなう事で合意し、イシュタリス・カトラスタ・クライス帝国の3国家が共同で監視・統治を行い属国化していくことを決定した。

だが、一方でバージスト帝国は地球圏の共同統治権を放棄した。代わりに、3国家に対して向こう10年間の不可侵条約を締結し、自国経済のブロック化を行っていくことになる。


それと前後して、残りの3国家は対バージストを目的とした同盟を結んだ。

これは部分的な軍事同盟であり、バージスト帝国の侵攻があった際は3国家共同の軍を起こすことを決定したものであった。この同盟は、秘密裏に結ばれ、後の歴史家達からは同盟締結を話し合った衛星の名前をとって『イオの密約』と呼ばれるようになった。


一方、独立は保った地球圏開拓連合であったが、かつての輝かしい未来に満ちた頃とは程遠かった。当時の政治家が残した日誌にこのような記述が残っている。


「独立は保てた。だが、力も意志も奪われ、さらに限りある資源さえも搾取されている現状でどのような希望的未来を見れるだろうか」


このような事を表だって言えない事が敗者故の性なのだろうか。

敗戦から8カ月後に、地球圏開拓連合は事実上解体された。それに代わって帝国諸国家公認として『地球圏中立領』という名称が付けられた。

他にも一方的な貿易の締結、自国防衛艦隊の解体決定、人民の発言自由の廃止などの条文が定められ、地球圏に住んでいた人々は敗残者としての日々をおくることになる。

だが、その状況が劇的に変わる時が訪れる。それは、2529年に起きた事件の際、2人の英雄が歴史上に出てきたためである。

一人は、シリウス・フェイザー、もう一人は、レクト・フューゼルと言った。


シリウス・フェイザーは、クライス第二帝国の第一皇子で次期帝国皇帝の地位に就くことが確定していた。

燃えるような赤髪と紫の瞳、彫刻のような顔立ちを持つ20歳の青年であった。

実権のないお飾りになる事を嫌い、実績重視の軍に入り、出世街道を突き進んでいた。

一方のレクト・フューゼルは気分やの天才軍人であった。

極めて多彩な知識と類い稀な直感を持ち合わせていたが、その一方で上官や同僚への歯に着せぬ発言が目立つため、各所をたらいまわしされて退屈な時間を過ごしていた。この性格も立場も天と地ほど違う二人の出会いがもたらす嵐はいかほどの物になるのだろうか。


それを知る者は神以外は居なかった。



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