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すのーでいず   作者: まる太
第一章
9/84

メイプルロード 1

 お昼は現地で食べる予定となり、午前中に僕と母さん、氷兄の三人は母さんの運転する車に揺られること約30分、最近郊外に出来たばかりの大型ショッピングモール、メイプルロードに来ていた。



 近くに楓の木の並木道があり、それをモチーフにしたのが名前の由来みたいだ。

 昨日母さんが出掛けたEAONよりも若者向けのお店が多く集まっているらしく、日曜日ということもあり多くの若者やカップルで賑わっていた。



 父さんと冬耶の二人も当然ついてくるものと思っていたのだが、先約の用があるとかで来ていない。

 母さんが言うには、本当は僕と二人だけでも充分なのだそうな。

 でも荷物持ちが必要になるから氷兄を連れてきたらしい。

 ちょっと氷兄の扱いが可哀想かもしれないけど、変態に同情はいらないだろう。

 僕自体、来たくも無いのに拉致されて来てるのだから、氷兄も少しは苦労を分かち合うべきだという八つ当たり気味な感情もあった。

 ちなみに今の僕の格好は、小さめのジーンズ(腰が緩くなり、かわりにお尻が窮屈になったけどなんとか履けた)に、チェックの長袖のシャツ、その上に薄手のバーカーを着てスニーカーを履いている。

 全体的に洋服が一回り大きくなってしまっているけど、胸を隠す点ではよさ気だからこの際プラスに働いていると思う。

 この僕の拘りに関して言えば、一発で女の子に見えると二人に言われたので、あまり意味が無いのかもしれない。

 でも少しでも男の子に見える可能性があるなら試したいのだからしょうがないじゃないか。



 母さんが先頭を歩き、その後ろを僕と氷兄が並んで歩いていく。

 途中、僕の外見が珍しいのか良く視線を受けたが、氷兄が睨み返して追い払ってくれているので幾分楽になっている。

 清らかな白髪に、青い目の少女なんて興味の沸く存在だろうから気持ちは判るのだが……やはりとってもうっとおしい。

 今では、氷兄が側に居て良かったと感謝してきていた。

 しばらくすると目的地に着いたようで、母さんが足を止める。

「まず此処から入りましょっか」母さんの示した店は、いかにも女の子受けしそうな雰囲気のピンクの原色を多様したお店だった。

 簡便して欲しいLV120という処だろう。ちなみにMAXは100である。



 僕はくるりと体を素早くUターンさせて逃げようとした。

 しかし、それは叶わなかった。

 母さんが高速移動してパーカーの頭の部分に手を入れて引っ張ったからだ。

「うぐぅ」

 つんのめりそうになるのを氷兄が慌てて抱きかかえるようにして支えてくれた。

「大丈夫か?」

「ありがと……?」じーっと氷兄を眺めると妙に嬉しそうだ。手つきがイヤラシイ気がする。

 じーーーーーーーーーー中々手を放す気配がない。

「もういつまで触ってんの!」どんと押すとやっと離れた。

「ちぇ、もぉおしまいか」残念そうにボヤいていることから見て、公然と僕を抱けてラッキーとか思っていたに違いない。

「はい、兄妹の情愛を深めるのはいいから、こっちにくるのよ」こうなった兆本人の母さんが僕のパーカーをひっぱり、後ろ向きのまま店に引き寄せていく。

「助けて氷兄!」さっきのことは忘れてあげるから、今迫り来る危機を回避してと目で訴える。

 氷兄は一言も答えず。相手は母さんだ諦めろと逆に目で諭された。

「はいはい、いきますよー♪」母さんのはしゃぐ声と、

「はぅぅうう――」僕の断末魔のような悲鳴が流れる中、氷兄は主の導きがありますようにと祈っていたとかいないとか……



 一軒目で、僕の目から光が消え、二軒目で心が死んだ。そして、三件目ついに脳が思考するのを止める。     

 もう今では母さんの着せ替え人形と化していた。

 いい歳こいて、「きゃー可愛いわぁ。うわ、これヤバ。私の忍耐力を試す試練なの!」とかはしゃいでる姿は一際浮いている。

 平常なら突っ込みを入れるところだろうが、その余りの酷い仕打ちに、ある意味強姦されて精神を破壊されたようなものであり、早く終わる事だけが望みになっていた。

 スリーサイズは判っているので、スカート、ワンピース、キャミソール等これでもかというぐらい試着室に持ち込み、機械のように母さんの選んだ服を着ていくだけ。

 僕の意見などガン無視されて、母さんの趣味で買っていく。

 下着の件を例に出され、女性の先輩の意見を聞いた方がいいわよという理不尽な理由で説得されたからだ。

 初めに持っていた羞恥心も心が壊れたのを気に何も感じなくなっていた。

 そんなもの持っていたら耐えれなかったのである。

 三件目が終わる頃にはお昼を少し過ぎていた。

 こんな長時間ずっと耐えてきた自分を誉めたいぐらいだ。


 

 そして今、フリル付きのシャツに、花柄プリントされたデニムスカート。

 リブオーバーのニーソックスにバレーシューズという格好で歩かされている。


 

 なんでこうなった!



 人の意識が無いのを良いことに酷すぎるだろこれ。

 母さんに噛み付いたら、「『ハイ、ワカリマシタ』と頷いてたわよ。その際、ちょっと目が濁っていて呂律が怪しかったけど何の問題もないし」としれっと言われた。

 問題ありすぎじゃないか……優しさはないのかと訴えたい。

 悔しいけど、自分で言ったことを盾にされたらこれ以上反論のしようが無かった。

 氷兄なんて、僕同様疲れた顔してたのに、この姿を見た瞬間から態度が一片。 

 興奮する感じでちょろちょろ廻りを動いて、「うわ」とか「うぉ」とか「いい!」みたいなことをブツブツ呟いてる始末。

 何も氷兄を楽しませる為にこの格好をしてる訳じゃないんだから、いい加減にしてほしい。 

 それにしても足元はスースーするし落ち着かない。

 どうして女の子はこんなもの履いてて平気なのか謎だ。

 大体、男がスカートってどういうこと? こんなの太一にでも見られたらもう生きてけないじゃないか…… 



 太一とは旅行を一緒に行く予定だった、幼馴染であり親友の矢神太一のことである。



 フードエリアに差し掛かるところで、

「さて、そろそろご飯の時間だけど二人はどうする?」母さんが尋ねてきた。

 その言い方に疑問が沸く。 

「なんで二人なの。マ……マも食べるでしょ?」

「うーん。食べたいのは山々なんだけど、思ったよりも雪ちゃんの服買うのに時間掛け過ぎちゃったのよね。だから自分のモノ見る時間が厳しいの。二人が食べてる間に行ってこようと思うのだけど……どうかな?」

 うわ、まだ買うんだ。

 チラリと氷兄を見ると同様にゲンナリした顔をしていた。

「それともご飯抜きで一緒にまわる?」

 僕と氷兄はめっそうもございませんとばかりに別行動の案に乗っかった。

「じゃーこれ食事代。15時に玄関ロビーの前で待ち合わせね。遅れちゃだめよー」

 僕に軍資金を渡して母さんはさっさと去っていった。

 本当にどういう体力してるのか驚かされるばかりだ。

 でもいつまで関心しても仕方ない、これからのことを話し合うことにする。

「氷兄どうしよう? 何か食べたいものある?」

「うーん。雪の食べたいものならなんでもいいぞ。軍資金もあることだしな」

 母さんのくれた軍資金は二人で3000円だった。

「そう言われると困るんだよねぇ。本当に食べたいのないの?」

「じゃー雪を食べたい!」

「却下!」真面目に聞いてるのにこれだから変態は困る。

「だってさぁ。こんな可愛い娘と一緒にいるんだぞ? 男ならそう思うだろうが!」

「はいはい、そうですね。誰か他の女の子にしてねそういうのは」

「雪が冷たい……」

 いちいち氷兄に付き合っていては話が進みそうにない為、自分で考えることにした。

 3000円あればランチタイムだし色んなものが食べれるだろう。

 でも、これ全部使うことは無いのじゃないか?

「ねぇ、フードコートで食べるってどう?」



 フードコートとは、フードエリアにあるメープルロード自体が経営しているお店で、焼きそばや、たこ焼き等の軽食をリーズナブルな価格で提供している場所のことだ。



「別に良いけど、母さんから幾ら貰ったんだ?」

「ええとね。3000円貰ったよ」

「だったらもっと高いところだって食えるし、折角だしちょっと贅沢しても良いのじゃないか?」

「うーん。僕も初めはそう思ったのだけど。ほら今からご飯を食べたとしても14時前ぐらいには食べ終わっちゃうじゃない。待ち合わせの時間まで結構余るし、浮かせたお金でどこかで遊ぼうかなと思うんだけどどう?」

「ああそういうことね。ふむふむ」

 氷兄が少し考える。

 そして、一瞬邪な笑みを浮べたと思ったら、

「よし、その案でいこう」あっさり認めてきた。

 今の間なんか気になるけど、とりあえず方針は決まった。

「じゃさっさと行こう。お腹すいたよ」

「ははは。俺も俺も」


予定では、この話は3部作になります。


※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。

評価、コメントも是非にです。

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