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すのーでいず   作者: まる太
第三章
83/84

遊びにおいでよ 1

 うっとおしい太陽が陰り幾分暑さが弱る夕方、僕は生暖かい風を感じながら一人並木駅の前で駅前時計を見ながら人を待っていた。

 夏休み中だけあって学生はあまり見かけないが、サラリーマンやOLの帰宅姿がチラホラ出始めていた。

 駅前商店街の外灯には明かりが灯って、賑やかな掛け声も漏れ聞こえている。

 その入り口には、美少女コンテスト開催の大きな垂れ幕があり、僕は……うん、見なかったことにした。

 僕は嫌なことを後回しにする素敵な性格だし、夏休みの宿題も残り数日で終わらせるタイプなのだ。

 氷兄にお願いすれば喜んで協力してくれるから、今迄困ったことも無い。

 ほら! 後回しが正解だよね! 

 うんうん、深いことを考えていても生きてはいけないのだ。

 そう僕が一人で頷いていると、

「はーい、彼女1人? その服可愛いね。一緒にこれからお兄さん達とお茶でもしないかな?」

「そそ、すぐそこに喫茶店もあるし、涼もうよ!」  

 厚苦しい感じの大学生ぐらいの2人組が声を掛けてきた。

 はぁ……又か、だから外に出たくないんだよね。

 僕は溜息が出そうになる。

 それに、近くの喫茶店といったら喫茶矢神に決まっている。

 僕は今岬おばさんには会いたくないのだ。

 毎日一回は電話が掛かってくるぐらい美少女コンテストの勧誘が凄いんだからね!

 僕は内心を顔に出すことなくニッコリと笑顔を形作る。

 2人はそれを見て見惚れたような表情をするが、そこは気にしない。

「もん○っら、さ○らーの、あ○べるてぃーに?」

 毎度のなんちゃって外国語、本日はイタリア、サッカー選手を試してみた。

 ……一瞬の間が空き、

「「へ?」」

 2人は僕の口から出た言葉に戸惑い、顔を引き攣らせる。

 僕の外見は白い髪と肌に碧眼である。

 日本人です! と言われる方が違和感があるのだ。

 戸惑う2人に止めを刺すように、

「まる○ぃーに、ばっ○ょ?」

 小首を傾げ、頬に人差し指を当てて困ったようなフリをした。

 2人は……

 この空気に耐えれなくなったみたいで、ソ、ソーリー等と言って逃げていく。

「ふっ……」苦笑が漏れ出た。

 これで逃げるぐらいなら最初から声なんて掛けなければいいんだよ。

 僕を見た瞬間、外見で判るんだからね。

 8割の撃退率を誇るこのシリーズは万能過ぎて最近はマンネリ化していた。

 それだけナンパされているという嫌な現実もあるけど、対処出来る方法があれば困らないのだ。

 それにも係わらず僕が外に出ると、皆が心配そうな声を出す。

 今日だって――

「雪の門限は17時までだろうが!」

 これでも僕は高校生なんだよ氷兄! それに早すぎる!

「雪姉ちゃんは騙されるから僕がついていくよ!」

 去年までランドセルを背負っていた冬耶には心配されたくないね!

「雪ちゃん。ママを心臓麻痺させるつもりなの!」

 母さんの毛の生えた心臓が止まる訳がない!

 ちなみにそれを思った瞬間睨まれた。

 まるでメデューサに睨まれたかのように石になるかと感じたのは、心の大事な処に封印して隠しておいたのは内緒だ。

 まだ死にたくないからね!

 本当、皆大げさ過ぎるんだよ、困ったものだね。

 そんなに信用出来ないのかな?

 そうこうしている間に10分程が過ぎ、その間も大量の嫌な視線を浴びながら僕は待っていた。

 先程の、なんちゃってシリーズの撃退が効いたようで今の処平和ではある。

 このままずっと続けばいい――

 なんて、思いながら手元にあるシュークリームの箱を眺めていると、

「ひゃ!」

 いきなり背後から両肩を押さえるように抱きしめられた。

「え、え、な、何?」

 急な展開に焦る僕。

 まさか、ナンパじゃなくて強姦!?

 先程までの余裕は何処へやら、

「た、た――うううー(すけて)」

 悲鳴を上げようとするも、口は手で塞がれてしまい篭もった声だけが出る。 

 拙いよ!

 そう感じてジタバタ暴れ出そうとした瞬間――

「ご、ごめーん、雪ちゃん私、私よ、落ち着いて」 

 背後から慌てた女性の声がした。

 それに伴ない化粧品独特の匂いがほんわり漂っていることに気付く。

 ふぇ? 男性じゃなくてホッとしたのもあるけど、口元を拘束されているせいで背後を向けない。

 不安も少なからず残っているが、少し脳が働きだす。

 『私』って自分のことを呼ぶ女性で、僕の名前を知っている。

 ならば知り合いに間違いないだろう。

 良かったよ!

 冷静になれば、背中越しに女性特有の膨らみの感触もする。

 ならば――ってまさか?

 丁度良いタイミングで、僕の口元の拘束が解かれた。

 僕が大人しくなったことで安心したのだろう。

「シャムさんなの?」

「勿論そうよぉ、お待たせ!」

 振り向きながら尋ねると、そこには満面の笑顔のシャムさんがいた。

 何故か、体の拘束はそのままだけど…… 

「シャムさん苦しいから離してよ!」

「えー、雪ちゃんの体、柔らかくて良い匂いがするからこのままがいいわぁ」

 拘束を解かない理由がとんでもなかったよ!

「むぅ、暑いよ!」

 僕は暑がりだからね。

 決して、胸が背中に当ってて恥かしい訳じゃないよ。

 僕にも同じものがついてるし、うん。

 触ると柔らかいんだよ。

 ほら、此処にって!

「ひゃ、シャムさん何してるの!」

 シャムさんの手が僕の胸を軽く掴んでいる。

「ちょっと雪ちゃんの胸のサイズの確認をね」

「そ、そんなの知らなくていいよ!」

「うーん、そう? 仕方無いわねぇ――」

 僕の文句にシャムさんも渋々という感じで手を離してくれた。

 今度は本格的に拘束も解かれる。

 その隙に僕は逃げるように数歩前進してから振り向き、シャムさんの正面を向く。

 背後を取られているのは不安だからね。

 強姦と大差なかった気がするよ!

 シャムさんは、白のブラウスの胸元にリボンを付け、紺のタイトスカートにパンプスという仕事着のまま来たようだ。

「それはそうと雪ちゃん。翔お姉さんって呼んでくれる約束はどこいったのかな?」

「それは……シャムさんってイメージが強すぎて、どうしても名前が出てこないんですよねぇ」

「むぅ、2人だけの時は名前で呼ぶって約束したのに、雪ちゃんの裏切りもの」

 シャムさんは目を細くして恨めしそうに睨んでくる。

 彼氏にでもすると甘えているみたいで可愛いポーズかもしれない。

 勿論僕には関係ないけどね!

 でも、それぐらいはお安い御用だよ。

「判りましたって――翔お姉さん、これでいいんですよね?」

 僕がそう言うとシャムさん改め、翔お姉さんはすぐに機嫌を直し、僕に抱きつこうとしてきた。

 僕は素早く、体を捻って避ける。

 気分は「オーレ!」と叫ぶマタドールだ。

 翔姉さんは、想定された位置に僕が居ないことで、つんのめりそうになっていた。

 我ながら華麗なステップだね!

「雪ちゃんのいけず!」

 翔姉さんの文句が聞こえるけど、誰だって避けると思うんだ。


  

 翔姉さんは車で来てくれたらしく、僕は赤い軽自動車の助手席に座った。

 電車で行くと思っていたので、翔姉さんのお家まではらくちんになった。

 僕の家の最寄駅、並木駅からは二つ目の桜塚駅の近くに翔姉さんは住んでいて、一度家に寄って車を出してくれたそうだ。 

「はぁ、私も雪ちゃんみたいな妹欲しかったわぁ」

「急にどうしたんですか? 溜息なんてついて」

 発進してすぐの意味深な台詞に思わず聞いてしまう。

「いやね、うちにも妹がいるんだけど、雪ちゃんみたく可愛くないのよ」

「はぁ、そうなんですか……」

 僕のことは置いとくとしても、翔姉さんの妹なら美人だと思うのだけどね。

 ショートカットっで目は猫目がちだけど活力的な美形のお姉さんなのだから、身内なら似ているに違いないのだ。

「もう、本気で言ってるのよ。高校3年ともなると生意気なんだから」

「受験で大変なだけでは? うちにも高校3年の兄が居ますから判りますよ」

 といっても氷兄の心配はしていない、いつ勉強しているのか謎だけど頭が良いんだよね。

 その頭脳をもっと僕以外のことに使ってくれれば、平和なんだけど……

「あ! そのお兄さんって雪ちゃんに似てるの?」

 すると急に翔お姉さんは何か閃いたらしく、ポンと手を叩いた。

 丁度信号待ちだから良いものの、運転中は止めて欲しいね。

 車は再び加速しだして町並みが横にずれていく。

「いえ、ボクには似てないですね。兄は父親似ですから」

「むむぅ、残念……でも、雪ちゃんの身内ってことは美形よね?」

 シャムさんに言われて氷兄の顔を思い出す。

 うわ、ニヤケている日焼けした黒い顔が浮かび出て、一瞬で消し去りそうになった。

 ただ、世間一般的に見ても、サッカー部のエースで頭も良く爽やかな感じは女の子受けは良いだろう。

 現にうちの学校では氷室様と呼ばれる人気者だしね。

 むむ、嘘を言って身内を貶める訳にもいかないか……

「まぁ……ボクは関係ないですけど、カッコイイ方かと思いますよ」

「ふむふむ、ならば妹とくっついて貰えば、私は雪ちゃんの本当のお姉さんになれるわよね!」

 氷兄と翔姉さんの妹さんがくっつけば……

 うん、確かにそうなるね。

「それはそうですけど、本人達の気持ちもあるのではないですか?」     

「そこなのよね。お兄さんの方は脈がありそうかしら?」

 無いね、きっぱりと言い切れちゃう自分が嫌だ。

 だけど、この機会に僕離れしてくれる可能性もあるか……

「難しいところですけど……でもシャムさんの妹さんにその気があれば頑張って欲しいですね。ボクは応援しますよ!」

「本当に!」

 シャムさんは目を輝かせると、むふふと笑った。

 一瞬背中の辺りに寒気がしたのは何故だろう?

 雪女の僕なのに、不思議だね。

 クーラーが効き過ぎてるのだろうか……

 僕は半袖の白いブラウスから出ていた白い腕を摩った。



 翔お姉さんと会話しているうちに、あっという間に翔お姉さんの家に到着する。

 二階建ての一軒屋であり、庭にはガーデニングにより花が咲き誇る可愛らしい感じのお宅だった。

 翔お姉さんは僕を玄関の前で降ろすと、家の前にある駐車スペースに車をバックで止めていた。

 僕が手持ち無沙汰に玄関脇の表札を読むと、西条と書かれている。

 うん? 西条・・――ま、まさかね? 

 一瞬にして、良く知っている僕の学校の先輩の顔が頭に浮かんできた。

 


西条姉妹編スタートしました。


実はシャムさんは西条さんの姉だったのです。

反応が西条さんに似ているので、気付いた方がいたのなら鋭いですね!


そして、仕事で休みがないところに、親がヘルニアになって家事をしなくてはいけなくなりました。

おかげで執筆時間が……

更新が少し遅くなり迷惑をかけてしまいますが、今後ともよろしくお願い致します。

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