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すのーでいず   作者: まる太
第三章
82/84

MMOと言えば 3.5

「はぁ、疲れたわ、雪のフリなんて無理に決まってるやろが!」

 オレはそう愚痴ると、自室のベットの上に背負っていたナップサックを投げ捨てた。

「大体、無意識に発動するから天然やねん、それを演じるこっちの身にもなって欲しいわ――オフ会の半分しか楽しめなかったがな。本当あの天然は――って、はぁ……」

 文句の途中で、楽しそうにしていた白髪の幼馴染が、青い眼を細めて喜んでる姿が浮かび脱力する。

 あんな表情思い出したら、これ以上怒れなくなる。

 天性の人誑しなんやから、本当にズルイとしみじみ思った。

 見た目だけでも絶世の美少女やのに、無意識に出している構ってオーラ? みたいなもので、いつの間にか何かしたくなってしまうのや。

 それに掛かれば、男女構わずひとたまりも無いという、チート。

 と言ってもオレも雪に何かしてやるのは嫌ではないのやから、アレは得な性格やよな。



 時刻は19時になっており、もうそろそろオレもFSCCの為、PCを起動しないと駄目やろう。

 別れる時に言ってたように、皆、今日もインするに決まっているし、雪のことやからヒーラーのオレが居ないと、どこぞの知り合いから引っ張ってくる可能性が大やねん。

 何故かあの親父キャラなのに、雪は妙に顔が広い、FSCC最大の謎の一つやとオレは思う。

 まぁ、自惚れとは言わんが、その前に、「早くインしてよ!」と携帯で雪から可愛い催促が来るのが判っているし、この焦っている感じの雪をからかうのも結構楽しかったりする。

 とりあえずオレはお風呂に先に入ることにし、1Fにある風呂場に向かうことにした。

 シャワーを頭からかぶって汗を流し、疲れをとるように湯船に浸かってから出ると、小腹が空いてきた。

 台所で軽くツマミを見繕って準備すると、お気に入りの三○矢サイダーの500ペットも冷蔵庫から取り出して部屋に戻る。

 時刻は20時前、そろそろ頃合やろう。

 PCデスクに座り、

「うん、風呂上りのこれは格別やね!」

 三○矢サイダーを一口含むと、のぼせていた頭を炭酸がスッキリさせてくれた。

 軽く首を振って肩を解しながら、PCの電源をオンにする。   

 独特の起動音の後、おなじみの画面やロゴが浮かび、常駐ソフトSK○PEのウィンドウが立ち上がった。

 親しい友人に申請してチャットや会話が出来る、ネットゲーマー御用達のコミュニケーションツールで重宝している。 

 オンラインは、雪とシャムさん以外の杏仁豆腐のメンバーのみだった。

 シャムさんは判らないが、雪は夜ご飯の準備とかで忙しいやろうし、あの後すぐ作ったのではまだ掛かるかもしれないので納得する。

 そう考えていると、愛染さん、夢王さんがオレをチャットに招待してくれた。

 とりあえず、『にゃん姫:こんばんわぁ』挨拶をしておく、

『愛染:さっきぶり!』

『夢王:今日は楽しかったですね』

 二人からはすぐに返事が書き込まれる。

「さて、どうしたもんやろか」

 オレは此処で少し思案することにした。

 今の反応から見て、二人にはオレ達の入れ替わりが、まだバレてないのが判る。

 普通なら、「騙すなんて酷いぞ!」とか、「バレバレだったけどな!」みたいな言葉が最初に来ておかしくないのや。

 従ってバレていないのは確かやろう。

 帰ってくる時に、雪がどうしようと不安そうだったのを、オレがなんとかするから安心しときや、みたいなことを言った手前オレが処理しないとあかんのや。

 多少はオレに感謝して欲しいもんや――って、あの鈍感天然娘に期待するだけ無駄やった……頑張るんやオレ、敵は手強いのやからな。


 

 二人と他愛も無い話をしていると、シャムさんがインしてきた。

 オレは来たかと身構える。

 愛染さんがすぐにシャムさんを招待して、チャット窓にはシャムさんが加わった。

『シャム:こんばんわ、みんなのアイドルシャムよ!』

『愛染:愛ドール? 何その卑猥なの?』

『夢王:愛染さん、反応しないのが優しさですよ。きっと、シャム家でのことなんですから、暖かく見守ってあげませんと』   

『にゃん姫:こんばんわですよー』

 二人を他所にオレは普通に挨拶をする。

 ほら、時には人間、はっちゃけたい時もあるもんやよね。

 決して、余計なこと言って、薮蛇になりたくないからではないねん。

『シャム:二人共覚えておきなさい。この美貌を眼にした今よくそんなこと言えるわよ』

『愛染:自分で言ってるよこの人!』

『夢王:今日も暑かったので、頭が少しイカ○タのでしょう』

『シャム:……ふん、所詮は真の美を知らない人には判らないのね。にゃん姫ちゃんはどう思うかしら?』

 うわ、このタイミングで来るか。

 暫く静観する予定が、シャムさんに振られて仕方なくオレも書き込む。

『にゃん姫:うん、シャムさんは美人さんでしたよ!』

 誉めるが勝ちやね、弱い立場だ……

『愛染:くす、にゃん姫ちゃんに言われても説得力が』  

『シャム:どういう意味かしら? 愛染さん』 

 シャムさんが光の速さで書き込んだ。

 ブラインドタッチを通り越して、予測していたかのようなタイミングやね。

 女子にコノ手の話題は禁句やろ。

『愛染:にゃん姫ちゃんの可愛さを前にしては、う、俺にはこれ以上言えない、夢王さんパス!』   

『夢王:ちょ、ちょっと待って下さい。なんてところで僕に振るんですか!』

『シャム:ふーん、夢王さんどういう意味なのかしらね?(怒)』 

『夢王:………あの、その、にゃん姫ちゃんが可愛すぎるから、シャムさんでは太陽の下で使う海中電灯ぐらいなモノって意味かと――』    

『シャム:なっ!!』

『愛染:うは、夢王さんそれは酷すぎる。せめて太陽まで出したなら月ぐらい言ってあげないと駄目でしょ』

『夢王:愛染さんがいきなりコッチに回すからですよ! 根が正直だからつい出てしまったのです。僕は悪くありませんからね!』 

『シャム:…………』

『愛染:あーあシャムさん怒っちゃったよ! 夢王さんのせいだ』

『夢王:違いますね。愛染さんのせいですよ!』

『シャム:どっちもじゃ!』

『『すいません』』

 きっと、眼の前にいたら高速土下座をしてるんやろね。

『シャム:後でラニウム鋼1本ずつだから!』

『愛染:たっ高、横暴だ!』

『夢王:鬼ですよ! 僕は被害者です』

 ラニウム銅1本っていったら、一日分の狩りの値段と一緒や、2人の気持ちは良く判る。

 うーん、だけど皆いつも通り過ぎるなぁ、シャムさんも入れ替わりの件には触れてこないし、これはひょっとして自分の胸に秘めておいてくれるのやろか?

 それだと、楽だし一番なんやが、いや、雪が着てからその話題に触れる可能性もあるか――



 そして、暫くは平和に会話は続き、オレが油断し始めた頃だった。

 遂に1対1の対話用のチャットが表示された。

 相手は予想通りシャムさん。

『シャム:にゃん姫ちゃん静かね大丈夫?』

『にゃん姫:ええ、元気ですよー』

 内心はとてもピンチやけどな。

『シャム:それなら良かったわ。別れ際のことを気にしてるのだったら大丈夫よ。私だけしか気付いてないと思うし』

『にゃん姫:あははは……』

 笑うしかないがな。

 だけど、これではっきりしたシャムさん以外は判ってないということだ。

 ならばシャムさんを説得すれば何とかなる。

 やるなら今やろな――

『にゃん姫:疑問だったのですがどうして気付いたのですか?』

 少し時間を置いてから、シャムさんから返答がある。

『シャム:うーん、逢った時から違和感はあったのよ。同性だから判る部分ってあるのよね。それに、一番簡単なのはトールくん、いやトールちゃんの天然って憎めないでしょ。今日のにゃん姫ちゃんの仕草ってそのまんまトールちゃんなのよね。にゃん姫くんの仕草は演技臭くて、笑いそうになったわ』  

『にゃん姫:やっぱりそうですか、苦労して真似てたんですがね(苦笑)』 

『シャム:うふふ、ということで何で入れ替わりなんてしてたのかしら? これは責めるというより好奇心で聞きたいの。実際トールちゃんと、にゃん姫ちゃんが入れ替わっていてもそれほど意味が無い訳じゃない。いつも遊んでる訳だしね』  

『にゃん姫:まぁ、そう聞かれるとは思ってましたわ。オレも本来は入れ替わる必要は無いと思うんですわ』 

『シャム:ではどうして?』 

『にゃん姫:皆さんのことは信用はしているんやけど、信用してないと言えるところでしょうか、今日逢って全く無駄でしたけどね』

『シャム:ふむふむ』 

『にゃん姫:簡単言いますとトールを見てどう思いました?』

『シャム:むちゃくちゃ可愛いわ! ふわふわしてる感じでお持ち帰りしたいぐらいに!』

『にゃん姫:それは……』苦笑する。

『にゃん姫:つまりそういうことなんですわ。トールって無防備過ぎるんですわ。悪い人に騙されるなんてお手の者で、幼馴染のオレが気をつけておかないと何されるか判らないんですわ。特にネットの世界は危険やし、トールが女と判った時に多分本人には処理できんでしょう。なので、トールがにゃん姫だと思ってくれれば、男からの攻撃はオレに集まってくるので防げる思ったんですわ』

『シャム:なるほどね。確かにトールちゃん天然で危なっかしいものね。気持ちも判らないでは無いわね。普段もやっぱり今日みたいなの?』

『にゃん姫:ええそのまんまですわ。トールのお兄さんとかも心配? していつも側に居るぐらいですからね』

『シャム:あらあら、そうなんだ』

 一応シャムさんは納得してくれたみたいやけど、氷兄ちゃんの場合は、心配というより愛情の気もする。

 昔っから雪LOVEやったしなぁ。あの人は。

『にゃん姫:最初にキャラ作った時に、トールのキャラがマッチョのオッサンだったので、イザという時はオレのキャラと入れ替える感じで、にゃん姫のキャラを演じてたんですわ。リアルトールの見た目の雰囲気やと、にゃん姫のキャラって似合うでしょ?』

『シャム:確かに……にゃん姫くん苦労してるのね……』

『にゃん姫:めっちゃしてますわ。でも、なんか憎めないので困ります』

『シャム:まぁねぇ、あんな可愛い娘だったら側に居たいと思うだろうし、頼りにされたいものね。判ったわ、愛染さんと夢王さんの二人にはこのまま内緒にしといてあげる。でも私が直接トールちゃんと話すのはいいわよね?』

 こればかりはしゃーないわな。苦笑する。

『にゃん姫:ええかまいませんわ。同性ですし、好きなだけどうぞ――信用もしてますし』

『シャム:ありがと♪ だけど、そのうち2人にも教えてあげてよね』

『にゃん姫:ええ、その内機会を見てしますわ』  

『シャム:うんうん』

 ふぅ……とりあえずこの件は落ち着いたかな。

 シャムさん一人ぐらいは雪になんとかして貰うしかあらへん。

 愛染さんや夢王さんも悪い人では無かったし、バレても問題は無さそうやしな。

 もしオレにアプローチをしてきたら、2人の本性も判るってもんや。

 MMOをやって人間関係に疲れるとは思わなかったがな……



 そうこうしているうちに雪がオンラインになった。

 シャムさんがチャット欄に加える。

『トール:こんばんわですよ!』

『にゃん姫:遅いぞ!』

『愛染:ちゃお』

『夢王:さっきぶりです』

『シャム:待ってたよー』

 それと同時に雪から個別にメッセージが飛んで来たので、シャムさんとの会話の内容を教えてあげた。

 雪は『ありがと、太一は頼りになるよね!』と素直に喜んでくれたが、今回の入れ替えの深い意味までは理解してないやろう。

 だが、悩むのは雪に似合わんし、オレがアイツの笑顔を守ればええねん。

 昔から雪には癒されていたねん。

 それは男だとか女どか関係なく、雪本人が持っているものやろう。

『トール:太一、ほら、ぼさっとしてないでさっさとFSCCにINしてよ、にゃん姫待ちだよ!』 

 なんて考えて居るうちにオレが最後になってしまったようや。

 全く、お前を待ってたんやろが! とツッコム人は居ないのやろか?

 いないのやろね。うん、世間は不公平やな。


遅くなりました。

太一視点で、オフ会編は終了です。


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