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すのーでいず   作者: まる太
第三章
81/84

MMOと言えば 3

 ファミレスを出て僕達は愛染さんお勧めのカラオケボックスに向かった。

 なんでもアニソンが大量に入っているそうで、正に僕の為のお店らしい。

 アニソン魂に火が点いちゃうよ! 

 向かう際にシャムさんが僕に張り付き、他の皆は羨ましそうな目で僕達を見ていた。

 身長差から僕の方がシャムさんの腕に抱きつくみたいな形である。

 やっぱり、シャムさんみたいな美人なお姉さんなら、一緒に居たいと憧れる気も判るよね。

 少し路地を入り、繁華街の穴場みたいな場所にそのカラオケボックスはあった。

 店の名前は、俺の歌を聴け、とても嫌なネーミングセンスだ。

 集合ビルの前にポツンとライトアップされた表看板だけがあるのも営業努力が足りないように感じる。

 と思ったが、慣れたような愛染さんの後に従い3Fのお店の中に入ると評価が一変した。

 店内には僕達の他にも待っている人達が居て賑わっているのだ。

 待機場所には、モニターが設置され常時アニメが流されている。

 漏れ聞こえる会話もアニメの内容が多く、此処はその顧客を狙い撃ちしたお店だと把握した。

 僕もこのお店の会員になるべきかもしれないね。


 

 ――待つ事15分程して僕達も部屋に案内される。

 5人で使うには丁度良い大きさの部屋で、テーブルを挟んだUの字型のクッションがあり、僕達はそこに腰を掛けよう――とした時だった。

「にゃん姫ちゃんは私の隣ね」

 シャムさんが僕を引きよせるように確保しようとした。

 これに声を上げたのが愛染さん。

「シャムさん、少しは俺らにもにゃん姫ちゃんを開放してよ、ずっと一緒なんだからさ」

「えー、男は男同士、女は女同士で座るのが一番じゃないのぉ」

 シャムさんは口を尖らせてそう言うけど、僕的には男性陣と一緒、更には太一との方が楽である。

 シャムさんのスキンシップは同性だけあって激しいのだ。

 ほら、僕も見た目だけは立派に女の子だからね!

 だけど、太一と一緒と言うのは我が侭だろうし――うーん。

「だったら、こういうのは? 公平にボクは一人用の椅子に座るので、皆で並んで座ればいいのでは?」

「「「「却下」」」」 

 こういう時だけは息ぴったりだ。

 そもそもなんで僕と近くになりたいのか謎だよ。

 シャムさんの隣の方が価値が高いだろうに。

 それに、カラオケはリラックスして楽しむものなのだから、本来誰も居ないほうがいい気もする。

 時間が勿体無いし、さっさと決めて歌い始めたほうが断然いいよ!

 すると、この空気をなんとかしようと太一が動く。

「ほな、ジャンケンで決めるのはどうでしょ?」

 普通はカラオケでそこまでしないけど、妥当な案だと僕も思う。

「うん、それでいいかも、ト、トールの意見に賛成!」

 自分の名前を改めて呼ぶのは緊張するよ!

「確かにその案なら、大丈夫そうですね」

 夢王さんも賛成し、ジャンケンによる席決めが決まった。

 まるで、バスの席決めみたいだね。



 そのジャンケンの結果――

「YES!」愛染さんが1抜けし、

「ふふん」夢王さんが2抜けした。

「なんで、そこでパーだすのよ!」

「アカン、オレの拳が負けるやなんて」

 シャムさんが頭を押さえて悔しがり、太一の悔しがる声がボックス内に響いた。

 以上により席順は、太一、夢王さん、僕、愛染さん、シャムさんのようにUの字に座ることになる。


  

「そいじゃ、最初はギルドマスターである、にゃん姫ちゃんの美声を聞かせてよ」

 落ちついてすぐ、愛染さんが僕にマイクとリモコンを渡してくれた。

「あ、はい、頑張ります!」

 僕の目は燃えていたに違いない。

 太一から、うわっ雪の歌は……みたいな視線を感じたけど黙殺し、リモコンでコード表からコードを入れていく。

 最初の曲だけあり、全員がモニターに注目していた。

 やがて瞬く間にモニターに文字が表示され曲が流れ始める。

 僕のやる気は絶好調。

 此処ですかさず太一がツッコミを入れてきた。

「なんで、ヴァンパイアプリンセスのテーマやねん!」

 僕は知りませんとばかりべーっと舌を出す。

 他の皆は先程のファミレスでエリカの経緯を知っているので笑っていた。

 だって、好きだからこそ演じたんだからね、曲には何の罪もないんだよ。  

 僕はマイクを構え、首を振りながらリズムを取って歌い出しを待つ――

 そして、前奏が終わり息を吸うと、

「ラララ~……………」感情を込めて歌いだした。

 観客もとい、皆の表情も揃った笑顔――

 だったが、僕が歌い進むにつれ徐々に困惑した表情になっていった。

 勿論僕は気にしない。

「…………流れる血のようにぃ――」

 ノリノリで僕は歌い終わると、余韻を楽しみながらマイクを口元から離して全員を見回した。

 皆からは一応程度の拍手が返ってくる。

 本当は拍手喝采を期待してたのだけど、まぁ出始めはこんなものだろう。

 皆照れ屋だよね! なんて思ってたのに――

「これだから、にゃん姫に歌わせると駄目やねん」

「ええと……まぁ、うん」 

「誰にも得手不得手はあるわよ……ね」

「最後まで歌うことに意味があるっていいますから、はい」

 皆から酷い言葉の暴力を味合わされた。

 ふん、芸術は最初誰にも理解されないもの――後で気付くんだよ! 

 決して僕が音痴じゃないんだからね!

 僕は 頬を膨らませていく。

 それを見たシャムさんが、

「ええと、にゃん姫ちゃんはマスコットだし、天然だから何をしてもいいのよ!」

 気を利かせてくれたのだろうけど、誉められた気がしない。

「シャムさんの意見も一理あるか……これだけ可愛ければなぁ」愛染さんも頷く。

 此処で夢王さんがボソっと呟いた。

「……でも、天然って、それではトールくんじゃないですか」

 その一言で、そういえばと皆の視線が太一に集まった。

 ……やばいかも?

 僕は内心冷や汗が出そうになる。

 太一と目が交差した瞬間、アホって睨まれた。

 僕は悪くないよ!

 皆の視線を受けた太一は、平然にヤレヤレと首を振ると、

「つまり、皆が言いたいのは音痴言うことやね? にゃん姫もいい加減自覚して欲しいわ」

 疲れた声をだしながら音痴を強調して天然の部分を隠そうとした。

「いやいや、違うからね」

「個性ですよ、個性!」

 愛染さんと夢王さんは慌てて僕を見てフォローしてくれるが、癒されない。

 表情にはっきりと苦笑いが浮かんでいるからだ。

 音痴じゃないよ! 芸術だからね。

 シャムさんだけは反応が無くジーッと僕を見ていたけど……最終的には、

「トール君酷いわよ」と言っていたので、なんとか太一のはぐらかしは成功したようだ。

 でもね。僕は太一の希望でにゃん姫を演じているのに、この内容は無いよね。

 そこの辺り太一は忘れてるんじゃないかな!



 カラオケは僕のおかげで緊張も取れたのだろう、和やかなムードで進んだ。

 太一が、昔懐かしい戦隊モノの歌で場を盛り上げ、シャムさんは魔女ッ子ヒロインものを童心に返ったように歌っていた。

 愛染さんは有名なロボットモノを豪快に熱唱し、夢王さんはバラードで場が加熱するのを安定させていた。

 僕は……うん、我が道を突き進んで楽しんだ。

 皆も僕の芸術に気付いたようで、歌い終わると、可愛い、笑顔が素敵、楽しそうな雰囲気が良い、みたいな言葉で誉めてくれたのである。

 歌の内容が誉められて無いような気もするけど、気のせいに違いない。

 某有名なアイドル集団だって、歌よりもその成長する姿に共感するというし、って僕は音痴って意味じゃないからね!

 これはあくまで一例なんだよ。

 最終的には延長を一時間して午後6時までカラオケを愉しんだ。

 途中で、ドリンクだけでは寂しいのでサイドメニュー(冷凍食品)を注文したのでお腹も空いてはいない。

 僕はファミレスでトルテを食べたから、カラオケでは遠慮してレアチーズケーキで我慢した。

 これもシャムさんが買ってくれた。

 シャムさんは自分で言ってた通り、大手の化粧品メーカーで働いているらしくて、学生の僕達と違って資金力が違う。

 とっても優しいお姉さんだよ。


 

 そうして、オフ会を満喫した僕達は、当初の予定通り駅前で解散となった。

 周りはネオンが光って、夕焼けと合わさりとても華やいでいた。

「では、本日は楽しかったです。又、皆で遊びましょうね」

 一応、太一のフリをしているので僕が最後の挨拶をした。

 ギルドマスターは大変だよ。僕は頑張ってるよね!

「楽しかったわ!」

「お疲れさま!」 

「又の機会に!」

「と言っても今晩もゲームの中で会うんやろうけどね」

 太一の一言に、それを言っちゃ駄目とばかりにあははと笑い声が沸き起こる。

 純廃人ギルドと言われる杏仁豆腐に休日なんて存在しないのだ。

 その後、笑いが去り終えるたを待って、一人一人と去って行く。

 勿論、僕と太一も帰ろうとしたのだが、シャムさんが近付いてきた。

 シャムさんは人の悪い顔をして僕達を見る。

「ねぇ、実はにゃん姫ちゃんがトール君で、トール君がにゃん姫ちゃんよね? 2人入れ替わってるでしょ」

「「え!?」」

 僕と太一が同時に目を丸くして言葉に詰まる。

「やっぱりね。うふふ又ね」

 シャムさんはそう言うと、僕達の反応を猫のような目を細めて楽しそうにしながら、自分の路線のある方向に去っていった。 


オフ会編は 後1回で終了です。

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