MMOと言えば 2
土曜お昼の桐木駅周辺は、この地域の中核ステーションだけあって沢山の人で賑わっていた。
カップルや親子連れのはしゃぐ姿、着飾った衣装に身を包んだ女の子達が華やいだ声をだし、男達はその女の子達をナンパしようと視線を送っている。
近くにある噴水は、冷たそうな水を噴出し、真夏の気温を幾分和らげる清涼剤のようであった。
そんな中、僕と太一はオフ会の開催されるファミレスに向かって歩を進めている。
今回のオフ会は、ファミレスで軽く食事をしてから、カラオケでもしようという内容だからだ。
「なぁ、雪さぁ、いい加減オレの提案を受け入れてくれてもええやろ?」
「又その話? いやだよ、何で僕があんなぶりっ娘キャラのフリしないといけないの。無理! 不可能! 太一が頑張りなよ」
横に並んでいる太一(Tシャツにジーンズという涼しそうな格好をしている)の本日何度目かと忘れるぐらいのオネダリを僕はきっぱり否定する。
NOと言える僕なのだ。
「なんでやねん、雪がにゃん姫のフリして、オレがトールを演じれば完璧やろが、雪の見た目は絶世の美少女なんだから誰も文句言わへんて」
今日僕の着てる服は、紺のフリルがついたスカートに、ピンクと白のボーダーのTシャツという姿であり、足元は皮製のサンダルを履いていた。
言いたくはないが、にゃん姫に似合う可愛い系の少女に違いない。
「仮にだよ、太一のフリは出来たとしても、僕のトールはダンディな大人が扱ってるイメージなんだから、太一の案は成り立たないでしょ」
このオフ会に参加すると決めた時点で僕の正体については諦めてるんだから、太一もいい加減悟りを開いて欲しいものだね。
「いやいや、トールのキャラがダンディって言ってるのは雪だけやろ? オレに任せとけば絶対バレることはあらへん。雪の天然が難しいぐらいやからな」
凄く……貶されてる気がする。本当にそれが頼む立場かと思うよ。
「はぁ……大人しく諦めなよ。折角なんだし普通に楽しめばいいじゃない」
僕は溜息交じりに告げる。
「嫌や! 以前言ってた通りバレてはあかんのや。ネカマとは夢を実現する存在であり、それが男子高校生なんて許されへんねん! オレと雪との仲やろ? お前はそんなに冷たい奴なんか?」
むぅ……
「全て自業自得な気がするよ?」
あの皆なら笑って許してくれると思うんだけどね。
「だから、オレがお願いしてるんやないか、頼むって、そや、シュークリーム1個でどうや?」
太一は両手を合わせてお願いと何度も頭を下げている。
僕はその言葉にピクッっとつい反応してしまった。
まだまだ修行が足りないね。
シュークリームは人を惑わす魔性のお菓子だよ。
だけど……
「僕はそんなに安い人間じゃないよ!」
「たく……しゃーないなぁ、2個! これでどうや! もってけ泥棒」
ピクッ、ピクッ、なんて恐ろしい攻撃を繰り返すかな――
「い、いや、それぐらいでにゃん姫のフリは無理だね!」
なんとか耐え切った。
「うわ、強欲な……ならば3個でどうよ! 今ならおまけでもう3個付けてやるねん!」
「え、いいの? だったら……」
遂、条件反射で頷いてしまった。それも笑顔付きで……
「いや、今の無し!」
「ふふふ、もう遅いねん、一度頷いたからにはちゃんと演じてもらうからな」
はぅ、慌てて否定したのに、やっぱり駄目らしい。
太一はしてやったりの笑顔だ。
シュークリームが6個あれば、誰だって思わず頷くよね。
氷兄に貰ったのがなくなってたのがいけないんだ!
不満気な僕を他所に機嫌の良くなった太一は今の作戦を解説しだした。
太一が言うには、最初から6個と言ったら、相手は迷ってしまう。
しかし、1個から徐々に3個にして、いきなり倍にすれば、凄い得したように錯覚するということだ。
案の定僕はそれに騙されたのだから効果は推して知るべし。
太一、悪知恵が発達しすぎなんだよ!
目的地のファミレスはすぐ見つかり、入り口付近には3人連れが留まっていた。
待ち合わせ時間は午後1時、この時間帯にその付近で人を待っていそうな集団は、オフ会のメンバーぐらいだろう。
この暑い盛り、普通の知り合いなら中で涼みながら待つからね。
僕と太一は楽しそうに会話している3人の方に近付いていく。
その3人は僕達を見ると、目を見開き驚愕している。
主に僕が見られている気もするが……気のせいだろう。
太一が間の抜けた顔をしているに決まっているからね!
「ま、まさか、トールさんとにゃん姫ちゃん?」
到着して間もなく声を出したのは、スレンダーな小麦色の肌をしたデニムに黄色のTシャツという姿の女性だった。
ショートカットの髪に整った顔、大きな目が少し猫のように斜めに上がっていて、活発的な雰囲気を感じさせられる美形なお姉さんだ。
「あ、はいっト――」
僕が笑顔を作って挨拶しようとした瞬間――
グイッと太一に腰の辺りを突付かれた。
危なかった!
「に、にゃん姫です。はじめまして」
僕は内心で太一に感謝しながら慌てて頭を下げた。
「トールです。杏仁豆腐の方々ですよね?」
一方、太一は何事も無かったかのように平静に僕のフリをした。
図太いね……
僕達の発言を聞いてすぐ、その女性は目を輝かせた。
「うわぁ、本当にそうなんだ。私はシャムよ――それにしてもにゃん姫ちゃん可愛いわぁ! 想像通りよ!」
「ひゃ!」
シャムさんは急に僕に抱きつくと頭を撫で撫でしだした。
身長差の為、自然と顔がシャムさんの胸の辺りに挟まれ、苦しさと女性特有の膨らみに包まれ僕の頬が赤くなってくる。
「うん、抱きやすくて、いい匂い!」
「た、助けて、太一!」
はしゃぎながら拘束しているシャムさんの胸の中、僕は必死に助けを求める。
太一は……
「おお、羨ましい光景やなぁ、オレも混ぜて欲しいわ」
鼻のを下を伸ばしていた。
……役立たず! 僕はガクリと肩から力が抜けていった。
その後、シャムさんから開放されるのは、5分程も経った頃だった。
「シャムさんやりすぎですよ。気持ちは判らないではないですがね」
眼鏡を掛けた落ち着いた雰囲気、白い半袖シャツにベージュのチノパンを履いた男性が苦笑いを浮べている。
「あら、夢王さんはそう言うけど、このにゃん姫ちゃんを見て抱きつかないのは人生の損失よ?」
シャムさんは男性、今の会話で判った夢王さんの方を向き胸を張っていた。
ゲームの時のイメージそのまんまでどこかホッとするものがある。
「まぁまぁ、シャムさん、時間は一杯あるんだし……それにトールさんもイメージが違うと思うだんけど、どうよ?」
最後に残っていた、茶色に染めた髪を幾分長くしており、遊びなれた大学生のイメージそのままの男性が楽しそうに切れ長の目を太一に向けた。
やはり暑いのかTシャツにハーフパンツという軽めの洋服を着ている。
愛染さんに違いない。
愛染さんの台詞と同時に、シャムさん、夢王さんの視線が太一に向く。
それを受け、一瞬太一は身構えてしまうが、愛想笑いを浮べて誤魔化した。、
自信満々に僕のフリを出来ると宣言したのだから、今こそその根拠を披露して欲しいものだね。
「ふふふ、之でも35歳やねん!」
「「「それはない」」」
ニヤリと勿体ぶったように告げた太一、全員は首を振って即否定する。
僕は責めるような視線を太一に向けた。
幾らなんでも酷すぎるよね。
大人の魅力だってあれ程言ってたのに、あんまりだよ。
「ぷ、くくくく、トールさんってやっぱり天然よね。にゃん姫ちゃんの幼馴染ってことだから本当は高校生なんでしょ? 前からそんな気してたのよ、私」
シャムさんが目に涙を浮べて笑いだした。
「確かに、背伸びして大人のフリをしているのが微笑ましかったですね」
「そうそう、一目で判るってば……実物見たら納得ってなもんだ」
夢王さん、愛染さんも揃って頷く。
「いやぁ、やっぱり判ってたんやね。うーん、オレもそうかなと思ってたんですわ」
太一は頭を掻いて照れている。
残された僕は……
誰もダンディと思ってなかったなんて……といじけそうになっていた。
そんな僕の態度にいち早く気付いたシャムさんが首を傾げる。
「あれ、にゃん姫ちゃんどうしたの?」
「な、なんでもないですぅ!」
悲しい僕はそう言うのが精一杯だった。
「ほな、全員揃ったことですし、さっさと中にいきましょか?」
「遅れてきたのはトールくん達でしょ!」
「「そうそう」」
太一のさも当然との振る舞いにシャムさんが文句を言い、夢王さんが愛染さんが相槌を打った。
「「「あはははは」」」
笑い声が響いた。
皆楽しそうだね。
一人暗い僕はシャムさんに背中を押されて店内に入れられて行く。
くすん、オフ会結構楽しみにしてたのに、このやるせない気持ちは何!
なんて思ってた時が僕にもありました。
目の前には、フルーツクリームトルテ。
なんて素敵な光景でしょう!
テーブルの手前の席にシャムさんと僕が座り、対面には夢王さん、愛染さん、太一の順番に腰掛けている。
各々の前には軽めのジュースやコーヒーが並んでいた。
僕の前にだけトルテがあるのはシャムさんが頼んでくれたのだ!
「はーむぅ♪」
美味しいよぉ! ニコニコしながらクリーム一杯のトルテを口に含む。
舌の上に載った瞬間、溶けるクリーム、その後からはサクサクとした生地の感触がして幸せな気分になる。
「にゃん姫ちゃん可愛いわ♪」
シャムさんは幸せそうに目を細めて僕の頭を撫でている。
「にゃん姫、太るで……」
太一が何かほざいてるけど気にしてはいけないね。
僕の辞書に太るって文字は無いのだ。
じゃなかったらこんなに一杯甘いモノばかり食べてられないからね。
こればっかりはこの体質に産んでくれた両親に感謝だよ。
そんな中、愛染さんが僕を横目に太一に話し掛けた。
「なぁトールくん? にゃん姫ちゃんって学校でモテるだろ?」
太一は大きく首を縦に振る。
「ええそれはもう、学校のマスコットみたいなもんで、にゃん姫を嫌いな奴とか多分居ないと思いますわ」
「それは判りますよ。白く美しい髪に碧眼、まるで北欧に住んでいる妖精のように見えますからね――なんというか構いたくなるオーラみたいなのを持っているんですよ!」
夢王さんまでも反応した。
「北欧の妖精かぁ夢王さん上手いこというなぁ。オレはあれだな、前にアニメでやっていたヴァンパイアプリンセスの主人公エリカにソックリだと思ったな」
「ぷっ……くくくくくっ」
愛染さんの台詞に太一が急に噴出しだした。
それまで黙って聞いていた僕は太一を睨みつける。
シャムさんの手がまだ頭を撫でているので迫力に欠けているがそれどころじゃない。
「急にどうしたんだい、トールくん?」
愛染さんが驚いたような顔をする。
「あ、はい、すんまへん。ちょっと昔のことを思い出しただけですわ」
太一はまだ笑いが抜けないのか苦しそうにしてゴホゴホいいながらコーヒーを啜っている。
そのまま、永久に苦しんでいればいいと、僕は切にそう思う。
僕にとってエリカとはあの自己紹介の時の黒歴史そのモノだからね!
「あれ? にゃん姫ちゃんもどうしたのですか?」
いきなり機嫌の悪くなった僕に気付き、夢王さんが怪訝な目を向けてくる。
「あ、なんでもないですよ? あは、ははは」
笑って誤魔化そうと思うけど、きょどって違和感のある態度を取ってしまう。
「ぷ、ぷくくく、駄目、もう無理や、オレを笑わせ殺すきかい!」
太一が再び爆笑しだす。
コイツは僕に何の恨みがあるのかな!
「うーん、何なのかしらね?」
「さぁ?」
「僕にもさっぱり判りませんね」
シャムさんの呆れた声に、愛染さんと夢王さんの戸惑う様子が見て取れた。
作者に休日を……




