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すのーでいず   作者: まる太
第三章
72/84

海に来たよ 8


「2、1」

 好きなもの、欲しいもの、あ!

「シュ、シュークリーム!」

 何とか終了までに言えたことにホッとする。

 頭に一瞬浮かんだ物だったけど、結構いい気がするよ!

「ふーんシュークリームね。なら雪が勝ったらシュークリームでいいか、皆はOKか?」

 氷兄が太一と冬耶を見渡す。

「問題ないですわ」

「うんうん、雪姉ちゃんが喜びそうだしね」

「となると残った俺達はどうするかだな」

 氷兄はそのまま考えだしたけど、此処で疑問が――

「ねぇ? 皆もシュークリームでいいんじゃない?」

 こんなに美味しい食べ物なんだから、不満の訳が無いよ。

「いや、俺は他のがいい!」

「僕もー!」

「ふっ、何を言ってるんやか」

 氷兄と冬耶の拒否はまだしも、太一からは判ってないなと馬鹿にされた。

 おかしい、普通こういうのって全員同じ罰じゃないのかな?

「それじゃ俺らが勝ったら……」

「却下!」

 僕はシックスセンスを最大限に働かせてここぞとばかりに言う氷兄の意見を即否定する。

「おい、まだ何も言ってないだろ?」 

「どうせ、変なことだから聞かなくていいよ」

「なんだその横暴な考えは、オレを何だと思っているんだよ!」

「変態?」

「えへへ」

 何故 喜ぶ! 氷兄は頬を掻いて照れている。

 変態が血迷っている間に、太一が手を挙げた。

「じゃ、先にオレが案を出しますわ。膝枕とかはどうやろう?」

「おお!」

「「へ?」」

 素直に喜んでる氷兄と違い、僕と冬耶は意味が判らないと首を傾げている。

「太一、それは中々良い案かもしれないな!」

「そう思うでしょ? 氷室兄ちゃん」

「ああ、おとこのロマンだ!」

「湯上り美少女の膝枕、一度は叶えたい夢やよね!」

 盛り上がる2人をよそに僕は頭が痛い。

 ……その漢って台詞が出ると嫌な記憶しかないからだ。

「太一兄ちゃん? それって雪姉ちゃんに勝った時ってことだよね? 他の人に負けた場合もそれなの?」

「うわ、それは盲点やったわ、どうするかな。冬耶は雪に勝ったら膝枕の案でええんか?」

 冬耶は僕を見て、手を顎に当てて悩む。

「うーん。良く判らないけど僕は兄ちゃん達が嬉しそうだからそれでもいいよ」

「そかそか、氷室兄ちゃんは問題ないのでしょ?」

「勿論だ!」氷兄が右手の親指を立てている。

「となると後残すのはオレ達のだけやね」

 太一が思案するのを遮るように氷兄が口を開く。

「そんなの適当でいいだろ? ・・にさえ勝てばいいんだからさ!」

「それもそうやね、まぁオレら3人が負けた時はシュークリームと同じぐらいの値段の物を奢るってことにしましょ」

「おう、それでいいぞ」

「うん、僕もいいよー」

 ……3人はトントン拍子に内容を決めていくけど……僕の意見は?

「ねー、ねー、僕は膝枕嫌だよ?」

「だから、さっきも言っただろ? 嫌だから罰ゲームになるんだって」

 氷兄が駄々っ子を見るような目で僕を見てくる。

「「うんうん(そやそや)」」

 残り2人も首を縦に振っていた。

 あれ? 僕が変なのかな?

「そうなんだけどね。じゃーなんで僕が負けた時だけ食べ物じゃないの? 不公平だよ」

「雪良く考えろや?」

 今度は太一が思わせぶりな態度で僕を見る。

「もし、雪がオレらに勝ったとしてやな、オレらに膝枕して欲しいんか?」   

 むむ、そんなの決まってるよ。

「して欲しくないね」

「そやろ? ならばシュークリームはどうや? 好きやろ?」

「う、うん……それはそうだけど、あれ……」

 頭がこんがらがってきた。

 なんだろう? オカシイってことは判ってるんだけど――

「じゃ、雪も納得したみたいだな。さっさと始めようか!」

「ほいねん」

「了解だよ!」

「ちょ、ちょっと!」

 あれ、あれ……まだ考えが纏まらないのに。

「ほらっやるぞ」

「う、うん」

 結局、その勢いに負けて、僕は頷いてしまうのだった。

 氷兄と太一がお互いを見てしめしめとほくそ笑んでるのがどうも気になる。

 冬耶は何でもいいからさっさとやりたいだけみたいだ。

 しかし、こうなってしまったらもう後には引けない。 

 ならば勝てばいいんだよね。3人からシュークリームを貰えるとなるとかなり僕はお得な気がするし、脱衣じゃないんだから大分マシと思うことにするよ。 



 丁度、此処には2面のコートがあるので待ち時間要らずに遊ぶことが出来る。

 最初にグー、パージャンケンでチーム決めることになり、

「ぐー」

「ぐーだ」

「ぱー」

「ぱーや」

 僕と氷兄がぐー、冬耶と太一がぱーとなって、初めの対戦相手が決まった。

「それじゃ、雪こっちの台でやろうぜ」

「うん、了解」

 氷兄の合図に僕が左の卓球台に向かう。

「ほな、冬耶オレらはこっちやな」

「はーい」

 そして、太一と冬耶が右の卓球台に散った。

 自陣に立つと、小さなネットを挟んだ相手コートの先に居る氷兄がとても嬉しそうにしていた。

「やっぱり、俺と雪の相性は抜群だよな!」

「……気のせいじゃない」

 何かと思えば今一緒になっただけで喜べるのだから、ある意味才能だよね。

「相変わらずのツンデレか。いつ雪がデレるのか待ち遠しいものだ」

「僕以外の雪って人に期待するといいよ」

「照れてる雪も可愛いぞ、これだけツンツンしてるんだから壮大なデレなんだろう? 期待しちゃっていいんだよな?」

「はぁ……」

 疲れてくる。何を言っても聞いてないんだよねこの変態。

「ほら、僕達も始めようよ」

 氷兄が戯言を口にしてる間に、太一と冬耶はカンコンという音をさせて卓球を開始していた。

「そだな、膝枕の為に俺は勝つ!」

「はいはい、シュークリームは貰うよ」

 絶対に勝つんだからね! 

「ほら雪、サーブやるよ」

 氷兄は手に持っていたピンポン球を放って僕に渡してくれた。

「いいの?」

「おう、雪に負ける訳がないからな、はんでだはんで」

「言ったな。後で後悔しても知らないからね」

「ははは、無い無い」

 軽く睨む僕を、氷兄は手の平を左右に振って小馬鹿にするようにしている。

 その余裕綽々な態度がムカツク。


 

 僕達は昔のルール、21点マッチでゲームをスタートさせた。

 1セットしかしないので現在の11点マッチだとすぐ勝負が付いてしまうからだ。

「いくよ氷兄!」 

「おう、いつでもおいで雪ちゃん、そんなに見つめられたら照れちゃうぞ」

 ラケットを構えている氷兄を見ていたら、急に氷兄の頬が緩みだした。

 ……真剣勝負なのに、変態は! 

 思わずラケットを投げ飛ばしたくなるのを我慢する。

 借り物を粗末にしてはいけないよね……うん。 

 落ち着け自分、これも氷兄の心理攻撃かもしれない。

 ふぅと軽く深呼吸した。 

 今度こそ!



「あっ!」



 僕は驚いた顔を作りさり気なく太一達の方を向いた。

 そして、視線をそのままにラケットで球を打ち放つ。

 その球は自陣で1回コンという音を鳴らし、ネットを越して相手陣に飛んで行くのが横目で見えた。

 当然、氷兄も釣られ――

 え! 氷兄は待ってましたと振り向きもしていなかった。

「ふん、甘いな」

 そればかりか鼻で笑い、適当に打った為に甘くなった球を弾丸スマッシュで僕のコートに打ちこんできた。

 僕は余りの速さに動くことすら出来ずに球の軌跡を呆然と眺めただけだった。

「……なんで引っ掛からないの!」

「ふふふ、雪に騙されるような奴が居るわけが無いだろ?」

 頬をプクッと膨らませる僕に、氷兄はヤレヤレと両手の平を上にしながら首を左右に振っている。まるでアメリカンジョークのポーズみたいだ。

 すごい馬鹿にされた気がするよ!

 ならば仕方ない、僕を本気にさせたのがいけないよね!

 最初から本気を出せとか言う噂もあるけど気にしない。

 今のは『優しい』僕が、可哀想な氷兄の為に1点あげたことにした。

 決して、作戦が失敗したせいじゃないんだよ!

 今度は姑息な手段を使わないで、ラケットを斜めに構える。

 そして、球を軽く上に放ると、斜めにしていたラケットの面で落ちてくる球を擦るようにして打ち込んだ。

 球は強烈な斜め回転を伴ないながら自陣で弾み、氷兄の方に飛んでいく――かと思ったら自陣のネットにぶつかって戻ってきた。

「ぐっ……」

「ぷぷぷぷぷ」

 氷兄は肩を震わせて悔しがってる僕を見て大爆笑している。

 ……うるさいよ!

「コホン」軽く咳払いして氷兄をギンと睨むと、やっと氷兄も大人しくなる。

 まだ、目と口元が笑っているのが妙に気に入らない。

 い、今のも相手を油断させる作戦なんだからね!

「いくよ!」ラケットを再び斜めに持って構える。

「せめて、コッチの陣に飛ばしてくれよ、暇だからな」

「…………」

 気にしない、気にしない。

 氷兄に合わせちゃ駄目だ。

 先程は打点が低かったからぶつかった、つまりはもう少し上で打てばいいだけのこと。

 僕は集中してボールを軽く上に放ると、落ちてきた球を先ほどより早いタイミングでラケットを斜めに擦るようにして打ち抜いた。

 球は右斜め回転を伴ないコンと自陣で弾み、ネットを越して今度は氷兄のコートに飛んでいった。

 貰った! 素人が回転ボールを打ち返せるはずが無いのだ。

 これが決まりだしたのなら、僕の勝利は確定したようなものだよね。

 勝ち誇った表情のままボールの行き先を見る。

 その瞬間、氷兄が素早く動く、

「ふふん」

 右手に持っていたラケットを飛んできた球に被せるように擦りつけると、逆回転を与えながら打ち返してきたのだ。

「えええ!」

 飛んできた球は、そのまま僕の反応出来ない速度で自陣のコートに弾み後方に飛んでいった。

「それでおしまいなの雪ちゃん?」

 氷兄が肩をラケットでポンポンと叩きながらにやけている。

 ……タラーと背中から嫌な汗が流れ落ちた。 

 これはピンチだよ!

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