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すのーでいず   作者: まる太
第三章
71/84

海に来たよ 7

11/14 本文の一部を修正しました。

 海で十分? 遊び、ホテルに戻った阿南家一同は、先にお風呂に入って塩でべたつく体を流していた。

 その後僕は、母さんの隙をみつけて素早く女湯から脱出した。

 これ以上、遊ばれたくなかったのだ。

 ゆっくり寝て体力も万全な母さんは、二人っきりになると洗うという名目で僕の体に手を這わせ……うん、日焼け止めを塗って貰った時よりも酷い目にあったよ!


 

 浴衣に着替えてから、夕ご飯までは時間があることもあり、先に部屋に戻ってネトゲでもしようかと思い風呂の出口付近を歩いている時だった。

「雪姉ちゃん!」 

「うわっ!」

 丁度横切った隣の男湯から顔をだした冬耶が僕に飛びついてきた。

 冬耶の着ている浴衣は少し大きいのかダボ付いて見える。

 Lサイズを着てるからだろう。

 僕はMサイズ、女の子だからいいんだよ。別に悔しくないもん! 

「今から遊ぼうよ!」

「えぇ、氷兄と行っといでよ」

 腰に手を回して強請る冬耶に、僕は諦めるように諭す。

 精神的に多大なダメージの残る修行を受けたばかりなのだ。

 早く、夢と魔法の異世界に逃げ込みたくなっても仕方ないよね。

「氷兄ちゃんと太一兄ちゃんはまだお風呂に入ってるよ!」

「うーん。だったら少し待ってればいいじゃないかな。すぐ出てくると思うよ」

 幾ら変態だとしても、長時間入っていればのぼせるに違いない。

「ぶぅ!」冬耶は頬を膨らませた。

「それじゃ、そういうことで!」

 張り付いていた冬耶を振り払って部屋に戻る為に歩き出すと、

「駄目! 雪姉ちゃんと遊ぶの!」

 冬耶が僕の浴衣の袖を引っ張って止めてきた。

 結構力が込められていたのか、思わずつんのめりそうになる。

 危ないなぁ――仕方なく振り向いた。

「それなら、一緒にネットゲームでもする?」

 僕の操るFSCCのトールを横から見てるだけという画期的遊びで、きっと・・は楽しいだろう。

「雪姉ちゃんさ、なんで海に着てまでネトゲなの? ありえないよ」

 冬耶は溜息交じりに言うが、僕の袖を離す気配は無い。

 再び逃げられないように警戒しているのだろうか。

 だが、そんなことでめげる程僕は甘くない。

「ふふふ、冬耶、予想を裏切るからこそ、遊びになるんだろ? 予想通りの展開なんてツマラナイものじゃないか!」

 決まったね!

「ええとさ、雪姉ちゃん。上手く誤魔化したつもりかもしれないけど、遊ぶのがネトゲなんだよね? 旅行先でネトゲをするのは残念って言うんじゃないかな」

 ……残念。

 なんだろうこの僕の胸に深く突き刺さる言葉は。

 でもさ、僕は海になんて来たくなかったんだよ?

 水着にさせられて、殆ど裸みたいな格好を人に見られるなんて恥かしいだけだよね。

 それに少し泳げるようになったといっても海は恐いし、写真はとられる……良いことって何? 美味しいものが食べれるぐらいだよ。

 それだったら、ネトゲでもしてて料理だけ食べてた方が一番楽しいじゃないか!

「いや、そうは言うけどね。残念と天才は紙一重って話もある。つまり、他の人には奇妙に見えても、それがどう転ぶか判らないよ!」

「つまり、雪姉ちゃんも残念だと思ってるんだよね」

 ズバリと痛いことをつかれた。

 うう、冬耶が苛めるよ!

「楽しいんだからいいじゃないか!」

 もう開き直るしかない。

「うーん。でも折角だしホテルには遊戯施設があるんだから、一緒に遊べばきっと楽しいよ、雪姉ちゃんは何が嫌なの?」

「う……」

 少し考えてみる。

 現在僕が着ているのは浴衣だから、肌の露出はとても少ない。

 写真に関しても父さんは部屋でデータの編集をしている筈。

 風呂にも入らないでよくやるよと関心する。

 そして、泳ぐことがないってことは恐くないよね。

 あれ? 別に冬耶と遊ぶぐらいいい気もする。

「ほらほら、さっさと行こうよ!」

「あ、うん」

 僕は遂頷いてしまい、冬耶に連れていかれるのだった。



 暫く、冬耶と二人でレトロなアーケードゲームで楽しんでいると、怪しい2人連れが肩を並べて僕達に近付いてきた。

 1人は長身で日に焼けた黒い肌をし、もう1人は愛嬌のある優しい顔付きをしている。

 氷兄と太一だ。

 両人ともホテルの浴衣に着替えていた。

 入り口で誰かを探しているようなので、軽く近くにあったピンボールの台に隠れてみたのだけど無駄だったみたいだね。

 それにしてもこの2人、僕にアンテナでも取り付けているのかと本気で疑いたくなるよ。

 良く簡単に僕を見つけられるよね。

「雪みっけ! こんなところにいたのか」

 早速、氷兄が満面の笑顔を作り僕の肩に触れてきた。

 何故態々僕に触る!

「居て悪いの?」

 体をよじって氷兄の手を振り落とす。

 氷兄は一瞬残念な顔を浮べたが、すぐににんまりと表情を改めた。

「湯上りの雪もいいなぁ。こうなんていうのか浴衣から出てる白いうなじが最高だ!」

 ……髪で隠れてる筈なのに、どうやって氷兄は見てるんだろう。危険だ。

 というより、もう変態全開だよ!

「氷室兄ちゃんも、まだまだやね。この白銀の髪が濡れて肌に張り付く感じが色っぽいねん」

「太一、お前通だな!」

 そして、僕を肴に2人で盛り上がりだした。

 ……絶対この2人仲が良いよ。いつものアレは演技なのだろうか。

「冬耶次何して遊ぼうか?」

 戯言ばかり言う2人は放置して、僕の唯一の味方冬耶に顔を向ける。

「え? いいの? 氷兄ちゃんと太一兄ちゃんに悪いような……」

「「ちょっと待て(待つんや)!」」

 冬耶の台詞に被るように氷兄と太一がすぐに悲鳴を上げるけど、気にしない。

「いいよ別に、それとも冬耶は僕と2人っきりは嫌なのかな?」

「ううん、僕は雪姉ちゃんさえ居ればいいよ!」

 冬耶はきっぱりと宣言する。

 流石冬耶だ。出来た弟を持って僕は幸せだよ。

 多少、冬耶の顔が上気しているみたいけど風呂上りだからだろうね。

「ということだから、僕は冬耶と遊ぶから邪魔しないでね」ニッコリと微笑む。

「えー、俺も雪と遊びたいぞ!」

「そうや、横暴や! それに、雪は危なっかしいからオレらと一緒じゃないと駄目や」

 どういう意味だよ!

 僕が心の中で文句を言った瞬間、

「太一兄ちゃん安心して、僕が一緒だもん!」冬耶が胸を張る。

「「え……」」

 それを見た氷兄と太一が戸惑っている。確かに冬耶では頼りない。

「それに、雪姉ちゃんは僕のものだもん!」

「え?」

 今度は僕が戸惑う番だった。

「どうしたの雪姉ちゃん?」

 急に僕迄変な顔をしたことで、冬耶が小首を傾げて不思議そうにしている。

「ええとさ、冬耶? 今なんて言ったのかな?」

 僕は顔が引き攣りそうになるのをなんとか誤魔化して訊く。

 きっと、聞き間違いだよね……

「うーん」冬耶はそう一言漏らして考え出すと、ポンっと手を打った。

「雪姉ちゃんは僕のものかな?」

 僕の冬耶のイメージが崩れていく……まさか、変態ズの仲間に――

 いや、待て、相手は冬耶だ。

 氷兄や太一みたいな変態思考な訳が無い。

 きっと深い訳がある筈だ。

「そ、それってどう言う意味なのかな?」困惑する内心を隠して愛想笑いを浮べてみる。

 太一と氷兄も気になるのか、僕達の話の流れを黙って注目していた。

「どうって言われても、僕と遊ぶってことで雪姉ちゃんが此処に来たんだから。条件が変わったら雪姉ちゃんがごねて部屋に戻るかもしれないじゃない。だからこの時間は僕のものって意味だよ」

「そ、そうなんだ……」

 良かったよ。氷兄と太一はまだ渋い顔をしているけど、僕はほっとしていた。

 これで冬耶までも変態道に足を踏み入れるようだと僕の救いが無いからね。

「うんうん、雪姉ちゃんは大好きだし遊ぶと楽しいもん」

「そうだね、僕も冬耶と遊ぶのは好きだよ」頭を撫でてあげる。

「雪姉ちゃんくすぐったいよ!」冬耶はそういうと僕に抱きついてきた。

 まだまだ冬耶は子供だね。

 すぐこうやって甘えてくるもん。

 でも、最近は良く抱きついてくるんだよね。何故だろう?

 


 結局、氷兄と太一が折れる訳も無く、僕達は4人で遊ぶようになるのはそう時間が掛からなかった。

 僕が押しに弱いといわれる所以かもしれない。

 だって可哀想になってくるんだから仕方ないよね。

 さて、4人で遊べるものとなると数は少ない。僕達が目を付けたのは卓球だった。

 旅行に来て卓球、定番だし僕も得意、言う事なしだよ。



「それじゃ、ルールどうするんや?」

 勝負事となると俄然やる気を出す太一が率先して僕達に話し掛けてきた。

 各自、ラケットを握り素振り等をしている。

「勝ったら、服を脱ぐとかどうだ!」

「おお!」

「僕もそれでいいよ」

 氷兄の戯言に太一が喜び、冬耶が素直に頷く。

 僕? 聞くまでもないよね。

「却下!」

「「「えええ」」」

 3人がすぐに不満の声を上げるけど当然だよね!

「なんで僕が、そんな勝っても負けても嬉しくないルールでやらないといけないのかな?」

「脱衣卓球なんて定番だろうが、要は罰ゲームとして恥かしがらせようってことだぞ、負けたら俺達も嫌だしそこに何の他意もないだろうが!」

「ふーん。本当に無いのかな?」

 まだ諦めていない氷兄を睨み付ける。

 絶対、僕の裸を見れるとか邪なこと考えてる筈だよ。

「無いな!」

 しかし、氷兄はきっぱりと宣言した。

 すると、今度は太一がしたり顔(僕にはイヤラシイ顔に見える)を作って言った。

「散々水着姿を見せたばかりやから別に問題ないやろ? まさか、ノーブラ、ノーパンなんか?」

「そんな訳ないでしょ!」一瞬にしてりんごのようになってしまった。

 太一の言うように下着を着用してるから面積上は大差無い。

 でも、下着と水着は似てるようで違うものなんだよ!

「なら、構わないやろ?」

「そうだそうだ」

 太一と氷兄が示し合わしたようにごり押ししてくる。

 むぅ、何で僕がこんなに弱いんだろ? 正義は僕にある筈なのに。

「冬耶もこんなのオカシイって思うよね?」

 ならば最後の砦を頼ることにする。

「うーん。僕も裸になるのは恥かしいし、身内だからこれぐらいの罰ゲームは適当だと思うよ」

 ……正論なようで、僕が女の子だってことが抜けている気がするよ。

 以前は普通にやってたしね。

 ならば、これで……

「僕が負けたら、裸を他の人に見られるじゃないか、それでもいいの?」

「それは、嫌だ」

「むむ、雪の癖に悪知恵を……」

「絶対駄目だよ!」

 3人とも心底嫌そうだ。てか太一、悪知恵ってなんだよ!

 はぁ……変態ズには困ったものだよね。    


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