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すのーでいず   作者: まる太
第一章
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長い一日の始まり 6

第一章


長い一日の始まり 6


 今日初めてだろうか? 平穏な時間が流れている。

 きっと最大の強敵てきと書いて母と読むが家に居ないからだろう。

 更にその手下である父さんと氷兄も仕事と学校にいっているので、この家は今パラダイスとなっていた。

 何処に居ても抱きつかれたり、訳の判らない喜声を聞かないで済むのだから、もうこのまま帰ってこなくていいよと本気で思ったりする。

 残された冬耶は、現在僕の部屋で暗黒魂に悪戦苦闘中だ。 

 今度こそあのボスに勝つと息巻いていたので、軽い攻略法を口伝してあげた。

 そして、僕はというと自室のTVを冬耶に占拠された為、リビングにあるTVで夕方にやっているドラマの再放送を視聴していた。

 昔やっていた刑事ドラマで、二人組みのサングラスをかけた刑事が、破天荒な仲間と悪人を懲らしめるアクションコメディだ。

 しばらくソファーで横になりながら、キッチンから拝借したのり塩味のポテチをつまみつつ見ていると、太陽が大分陰り部屋の中が暗くなってきてしまう。

 さすがにまだ3月だけあって、日の暮れるのが早かった。

 キリ良く主人公二人が悪人を逮捕し、その後のお決まりの小言で番組が終わったので、主要な部屋の灯かりをつけていく。

 ついでにカーテンも閉め終わると、時間は17時5分という処だ。 

 母さん遅いなぁどうしんたんだろ?

 さっきは帰ってくるなと思っていたが、少し心配してしまう。

 なんだかんだいって自分の母親なのだから、嫌いな訳がないのである。

 お昼ご飯を食べ、後片付け全てを僕に押し付けて出掛けたのが13時前、よく出掛ける近所のスーパーに行ったにしては帰りが遅すぎるのだった。

 まぁ、近所の誰かに会って長話でもしてるのはあり得る話。

 母さん達の無駄話が長いのは衆目の事実なので深く考えるのは止めた。

 チャンネルを変える事もしなかった為、そのまま始まったニュース番組を流し見ながら時間を潰していると、玄関の辺りで音がして誰か帰ってきた気配がする。

 リビングの入り口から玄関の方を見ていると、学生服の裾が目に入りすぐに氷兄だと判った。

「ただいまぁ。疲れたー。母さんなんか飲み物頂戴」

 氷兄は自室に戻る前に僕の居るリビングに顔をだした。

 リビングのソファーに僕が居るのに気付いて嬉しそうな表情になったと思ったら、キッチンにいつもいる母さんの姿が無いのに首を傾げた。

 先程僕が考えたように、母さんがこの時間居ないのは珍しいのだ。

「雪、母さん居ないん?」

「お昼に出たきり戻ってこないんだよね。どこか寄り道してるんじゃないかなぁ?」

「ふーんそっか――」

「しゃーねー」氷兄はそうぼやいてキッチンに入り、冷蔵庫の中から麦茶のパックを取り出して、自分専用のグラスに注いでいった。

「雪も麦茶いる?」

「うん、お願い」

「あいよ」 

 丁度ポテチの塩辛い味で喉が渇いてきていたので、頼むことにした。

 氷兄は、二つの麦茶を両手で持ち、僕の分も僕専用のグラスに入れ持ってきてくれた。

「ほい、どうぞ」

「ありがと」氷兄から手渡された麦茶を受け取りお礼を言う。

 そのまま僕の対岸のソファーに氷兄は腰を下ろした。

 僕は一口麦茶を口に含むと、独特の香りを堪能してから喉に流し、良い具合に潤された感じになった。

 氷兄は喉が渇いていたみたいで、座ったと同時に一息に全部飲み干していた。

 その後、何もせずジーッと僕の事を見ていたと思ったら、だんだん目付きがおかしくなってきた。

 僕は麦茶をローテーブルに置いて怪訝な顔をして氷兄を見返した。

「雪、その格好ってあれか? ああうまく説明できない。男の萌え心をくすぐる為にやってるのか?」

 氷兄は何かに堪えるようにウズウズしている感じだ。

 ちょっと身の危険を感じるのは気のせいだろうか?

 そもそも僕の格好は朝着替えた寝間着のままという気楽な格好なのだ。

 さっぱり意味が判らない。

「普通の寝間着に何言ってるの。氷兄頭おかしいんじゃない?」

「いいや。雪が判ってない。美少女が無防備な寝間着姿を披露してるんだぞ? もうこれ男のロマンの一つじゃないか!」

「何それ。男のロマンといえば、そこに山があったら登りたくなるという奴じゃないの?」

「そこは声を大にしていなと言おう! 男のロマンといえば、バニー、スク水、ブルマに裸エプロンだろうがぁぁぁぁぁあ!!」

 家中に響き渡る声で、拳を振り上げ熱く語っている氷兄に冷めた目を向ける。

 やはり変態だ。

 確かに、僕も年頃の男の子だったのだから、その手の話を聞いた事があるが、何が良いのかさっぱり判らないのだから仕方がない。

 その時、玄関のドアが開いた音がした。

 氷兄を軽く無視してそちらを見ると、複数の紙袋を持った母さんの姿が見えた。

 それで、母さんが遅くなった訳が判った。

 あれだけ買ってれば時間もかかったに違いない。

「ちょっと氷君、何馬鹿なこと言ってるの! お外まで聞こえてたわよ」

 母さんがスリッパの音をパタパタさせながら歩いてきて注意する。

 両手には、先程見えた紙袋を持っている。

 近くで見ると結構可愛いデザインだった。

 それを僕の近くに置いた。

「えっ嘘! でも俺に悔いは無い!」

「ほら馬鹿言ってないで着替えてらっしゃい」

 氷兄は胸を張って主張したが、母さんに一蹴されて部屋に戻されてしまった。

 残ったのは僕と母さんだけだった。

「かあさ」不味い! 慌てて言い直す

「マ……マ遅かったね。どこまで行ったの?」

 母さんは一瞬ニヤッと笑ったが、とりあえず見逃してくれるみたいでホッとした。

 でも今の反応を見ていると本当に小遣い抜きにする気らしい。

「ええとね。近くのEAONまで行ってきたのよ」



 EAONとは家から一番近くの並木駅に併設されている大手ショッピングセンターで、沢山の専門店と、スーパーから成り立っている複合施設だ。



「へぇ。それだけ買ったってことはバーゲンでもあったの?」

「違うわよ。これ全部雪ちゃんのモノだもの」

「えっどういうこと?」

「はいどうぞ」母さんが置いてある紙袋二つを困惑する僕に手渡した。

 受け取った紙袋の中身は思ったよりも軽く、ふわふわしていた。

「これ何? 妙に柔らかいけど、カーテンかなにか?」

 今の部屋のカーテンは全体的に薄い青系で、結構気にいっている。

「違うわよ。雪ちゃんの下着に決まってるじゃない」

「下着? こんなに一杯下着買ってきたの? 大体下着なら今はいてるのがあるし問題ないって」

「だ、い、問題です! これぐらいでも少ないぐらいなんだから!」母さんはビシッと人差し指を突きつける仕草をする。

「な、何故に」ちょっと怯んでしまう。

「雪ちゃんは今女の子なのよ。女の子には女の子の為の下着があるの。大体今だってノーブラのままでしょ? そんな無防備な格好してたら襲ってくださいって言ってるものじゃないの」

 昼の事を思い出して、母さんの視線から胸を隠す。

「そ、そんな事するのは母さんだけだって、だから大丈夫だよ。大体男の俺がブラジャーとか有り得ないって!」

「ふーん。じゃー仮に雪ちゃんの意見を通したとするわね。その格好のまま高校に通うの? ノーブラ、トランクスの女子なんて奇異な目線を受けて当然よ? 恥をかきに行きたいのかしら」

「…………」

 母さんの説明はぐうの音もでない程の正論だった。

 普段の言動からはまるで想像もつかないぐらいだ。

「うん? 今負のオーラを感じたのだけど、何か言いたい事でもあるのかしら?」

 母さんにジロリと睨まれる。

「いえ、ないです……」

 恐い――母さんだけが使える心を読める秘密のチートスキルでもあるんじゃないだろうかと真剣に思ってしまう。

「だったら、学校に行く時だけ着けるでいい――よね?」

 母さんは何も喋らず、冷たい表情のままだ。

 どうやら駄目らしい。

「判ったよ。着ければいいんだろ! なんだよ全く」

「あら、不満そうね。折角雪ちゃんの為に時間を掛けて選んできたママに向かってよくそんな風に言えるわよねぇ。どうやらその下着を今此処で全部広げて、氷君と冬君の居る前で雪ちゃんはこんな下着を着けるのよって公開でもされたいみたいね。態々氷君を部屋に戻してあげたのに、そうした方がいいのよね?」

 何て恐ろしい事を考えるんだ!

 唯でさえ着けるだけでも恥かしいのに、それをどんなの着けてるまで知られるなんて、恥辱極まりない行為じゃないか。

 その相手が変態の氷兄、慕ってくれている冬耶。

 絶対嫌だ。

「ごめん。マ……マ、下着買ってきてくれてありがとう、今から部屋で着けるね……」

「そうそう、素直にそう言えば良いのよ。素直な娘はママ好きよぉ♪」頭を撫でてきた。


 

 ガクリと肩の力を落として部屋に戻っていく途中、母さんが呼び止める。

「ああ、初めてでブラの使い方判らないと思うし、付け方のマニュアルを買ったお店で貰ってきてあげたから、紙袋の中のそれ見て着けるのよ。どうしても、判らないなら手とり足とりママが教えてあげるので遠慮しないでね♪」

 絶対それだけはしないと心に決める。

 両手に持ったダークマターがとても重く感じた……


※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。

評価、コメントも是非にです。

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