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すのーでいず   作者: まる太
第三章
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夏の夜は 9

 突然現れた謎の男に、再び辺りが騒然となり始めた。

「氷兄、声が大きいよ!」

 そこで僕が機転を利かせて実の兄なことを示したことにより、すぐに沈静化しつつある。

 身内から犯罪者を出したくなかったら良かったよ。

 その間も、西条さんが僕に抱きついたままだったので、幾分間抜けな格好だった気がしなくもない。

「おい、そこの変態、いつまで雪にしがみついてやがる、俺だって今日はしてないんだからな!」 

 氷兄は素早く近寄ることで声量を落とすことに成功していた。

 一応周りにも配慮しているみたいだね。

 しかし、後半の内容が駄目すぎると思う。今日・・はって何!

「あら、誰かと思ったら氷室様じゃないの。大声を出して邪魔しないで欲しいわ。私と雪ちゃんは今、愉しんでる最中なのだからね」

 西条さんは氷兄の非難を聞いても何処吹く風だった。

 そればかりか、皮肉たっぷりに目を細め、氷兄に見せ付けるようにして、僕の耳にふぅと息を吹きかけた。

「ぁん!」

 思わず悲鳴を漏らしてしまう。軽く睨んで抗議したいけど、背後に居るために効果が無さそうだ。

「なんて、羨ましい真似を……じゃない! 雪が嫌がってるだろうが!」

 今本音が漏れたような――氷兄、助ける気があるんだよね!

「そうなの、雪ちゃん?」

 西条さんは、僕の右肩から顔をだして目を覗き込むように尋ねてきた。

 僕はその通りとばかりに首を高速で上下に動かす。

「ほら、雪ちゃんは一緒がいいって言ってるわよ?」

 え! 今見てたよね?

「どこがだ! 凄い嫌がってるだろうが!」

 僕の気持ちを氷兄が代弁してくれた。 

「あら、古来から女の子のいやいやはもっともっとの裏返しなのよ。知らないのかしら?」

 凄い都合の良い解釈な気がする。

「それはあるかもしれない……特に雪は照れ屋だからな」

「ちょっと! 氷兄、何説得されそうになってるの!」

 顎に手を当てて頷く氷兄を見て、遂、声を荒げてしまった。

「あ、危なかった。魔女に上手くはぐらかせるところだった、雪サンキューな」

 氷兄が頭を一振りして、正気に戻ったのをアピールしている。

 そもそも、今ので納得しそうになる方がオカシイよ!

「……魔女って誰のことかしら?」

 しかし、氷兄の放った捨て台詞はある一定の効果を生み出したらしく、西条さんの注意が氷兄に集中した。変態は良くても魔女は駄目なのがちょっとオカシイ。

 今だ!

 その隙を見逃す程、僕はボケてはなかった。

 普段ボケボケとか散々言われてるけど、皆の方がオカシイのだ。

 素早く、力が篭もってなかった西条さんの両手を外すと、氷兄の方に逃げだした。

「あっ!」 

 西条さんのしまったという呟きが聞こえたけど後の祭りである。

 僕は久々に自由になったことにホッとした。

 ――と気を抜いた瞬間、

「雪、でかした!」

 今度は氷兄に見つめ合う形で抱きしめられた。嘘ぉ!

「氷兄、離してよ!」

「大丈夫だ。俺が魔女から守るからな」

 氷兄の力が更に込められ、浴衣越しでもその手の熱を感じた。

 僕の顔は鍛えられた胸板にあたり、汗の匂いを感じる。

「ちょっと、変態! 雪ちゃんから離れなさい!」

 西条さんからは鋭い声が飛んでくる。

「ふん、俺と雪の間は、何人も阻むことは出来ないのだ。羨ましいだろう?」

 氷兄の顔は見えないが、その口調から先ほどの仕返しをしているみたいだ。

 調子にのって僕の髪に顔を埋めてクンクンと匂いを嗅いでいるのが判る。

 この変態は! これでは西条さんから氷兄になっただけじゃないか。

 前門のへんたい、後門のへんたいとはまさにこのことだね。    

 しかし、氷兄は気付いていなかったのだろう、僕の腕の中には偉大な騎士がいることを――自分で入手たのに間抜けな話だ。

 僕は、右手で熊オーディンのもふもふした胴体を握ると、氷兄のお腹に軽く突き出した。

 熊オーディンの手には鋼鉄製のグングニルが持たされており、出来も伝説の武器コレクションのフィギュアに優るとも劣らない代物なのだ。

「ぎゃ!」

 僕に軽く刺された氷兄は、予想外の刺激に拘束を外してお腹を押さえている。

 チクッと血が出ない程度に刺さっただけでも、驚いたに違いない。

 その隙に、今度こそ僕は自由を取り戻す。

 左右を見回して安全を確認すると、やっと肩から力を抜くことが出来た。

 それにしても長い戦いだった。

 ひょっとして、ナンパ男が一番簡単だったような気がするのは、この際気にしたら負けだろう。

 うん、身内と知り合いが一番の敵なんて思いたくないしね。



 西条さんとは、その後すぐ別れることになる。

 やはりお祭りに1人で来た訳も無く、一緒に来た他の女の子達が西条さんを見つけたからだ。

 氷兄が最後まで威嚇していたし、一緒だと気苦労しそうなのでホッと胸を撫で下ろしたものである。

 西条さんも迷子だったのかもしれないね。勿論僕は違うよ。

 そして、僕も太一や楓ちゃん達との合流に成功した。

 そこまでは良かったけど……何故か怒られることになる。

「勝手にうろつくんやない!」

「雪は狙われやすいんだから1人になったら駄目だろ!」

「ほわわんとしてるから心配したんだよ!」

 等のフルコースだった。

 迷子になったのは皆の方だよね?

 氷兄に助けてと目を向けても、反省しろとばかりに無反応だった。

 むぅ、何か納得いかないよ!

 ちなみに、僕のペン太君は太一が大事に抱えていた。

 氷兄が持ってないから少し不安だったんだよね。


  

 ……お祭りから帰ってきた阿南家のリビングでは――

「あーん。雪ちゃんこの氷イチゴ美味しいわぁ。ママお替り!」

「雪姉ちゃん、氷メロンも美味しいよ! 僕もお替り!」

「娘の手作り氷レモンが食べれるなんて、僕は世の父親の中で一番幸せものです」

 僕のペン太君(カキ氷機)が大活躍していた。

 父さんに至っては微かに涙を流す程だ。

 しかし、1人落ち込む人物が居た。

「雪、雪ちゃん? お兄ちゃん♪ も食べたいなぁ?」

 まだ、めげてないようで甘えた声を出してくる。

「うん? 氷兄にもちゃんと作ったよね?」

 氷兄の前にある、ブルーハワイの器をスプーンで指し示す。

「え、だってこれ……」

 氷兄が言葉に詰まったところで、僕は自分用のブルーハワイを掬って一口食べた。

 冷たい!

 舌に細やかな氷が爽やかな酸味と濃厚な甘みを残して溶けていく。

 夏のカキ氷は定番だよね。

「雪ちゃーんお替り!」

「僕も!」

「いいけど、余り食べ過ぎてお腹壊さないでよね」

 僕はしょうがないなぁと、先に食べ終えた母さんと冬耶の催促を利くべくして、空になった器を貰いキッチンに入っていく。

「雪、俺のは?」

 氷兄が何か言った気がするけど放置だね。

 ちゃんと水道水で作ってあげたんだから、ありがたくそれを食べればいいんだよ。

 ――そんなことより、意識を集中する。

「アイスストーム!」

 僕の意思により特製の氷を召還し、ペン太君の容器に入れてかき回す。

 シュッシュという音と共に、すぐにパウダースノーのようなカキ氷が器に盛られ、二つ分が完成した。

「今度は何のシロップにする?」

「又イチゴがいいわ!」

「僕、今度はレモンが食べたい!」

 キッチンからカウンター越しに尋ねたら、すぐに二人から返事があった。

 リクエストの赤と黄色のシロップを氷にかけて戻ると、二人は待ちきれないような表情を浮べていた。

 作った僕もちょっと嬉しくなる程だ。

「はい、どうぞ!」

「「ありがとう」」

 御礼を言って受けッとた二人は、すぐにスプーンで削って食べ始めた。

「あーん。美味しいわぁ。もう市販の何て食べれないわ」

「うん、雪姉ちゃんお店出せるよ!」

 すぐに絶賛の声が聞こえてくる。

 氷兄は、それを羨ましそうに見つめ、

「雪ぃ」まるで捨てられた子犬のような目を向けてきた。

 ちょっと、可愛い。

 うーん。仕方ないなぁ。

 抱きついたりした件は十分反省しただろうし、僕も鬼じゃないしね。

 変なことされたといっても普段通りともいえるので、それ程怒っている訳ではないのだ。

 慣れって恐いかもしれないね……

「はい、氷兄、食べかけでいいならこれあげるよ」

 氷兄に、僕のブルーハワイを差し出した。

「え、いいのか!」

 氷兄は急に元気になったけど、まだ何か疑っているようで器を受け取ろうとはしない。

「いいから、先に食べててよ。僕は自分の分をもう一度作ってくるからさ」

 僕はニッコリ笑って、氷兄の手に強引にブルーハワイを押し付けた。

 そこまですると、やっと疑いが晴れたみたいだ。

「ありがとう雪。ううう、お兄ちゃん♪ 感激だ……後で返せと言っても、嫌だからな!」

「そんなことしないって」

 思わず苦笑してしまう。そこまで食べたかったとはね。

「本当に返さないからな!」

 氷兄は、器を手で隠してさも大事なモノのように扱っている。

「判ったから、早く食べなよ。溶けちゃうよ?」

「おう、水道水じゃないもんな。それに、(雪の……)」

「うん? 何か言った?」

 最後の方は良く聞き取れないけどなんだったのだろうか、ちょっと気になる。

「うま!」

、僕が疑問を浮べている間に氷兄はブルーハワイを口にして、その美味しさに目を丸くしている。

 水道水の後に食べると、味の違いに驚くんだよね。

 氷兄のを作るときに味見をしたから、実感したのだ。

 そのまま氷兄は、もぐもぐと食べてすぐに器を空にしてしまった。

「美味しかった?」

「おう! 雪の味がしたぞ、間接キッスみたいなものだもんな!]

 ……は? そんな馬鹿なこと考えていたのか!

「あら、氷君ったら羨ましいわね」

「良かったね氷兄ちゃん」

「僕は、はいあーんでいいですよ? 雪くん」

 冬耶はまだしも、父さんのそれは何! それより、

「氷兄、返せ!」

「ふふん、もうお腹の中だよーん」

 むか! 



 こうして、阿南家の夜は更けていくのである。

 氷兄に情けは要らないと気付いたよ!



 

夏祭り編、終了です。


長かったですね。

ちょっと影が薄かった西条さんも目立たすことが出来ましたし、作者は満足です(お


次からはあのイベントの予定です。

夏といえばあれが無いとさびしいですよね。




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