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すのーでいず   作者: まる太
第三章
63/84

夏の夜は 8

「まったく!」

 皆はどうしてこう落ち着きが無いのかな。

 僕以外の全員が迷子になるって、オカシイと思うんだよね。


  

 お祭りにおける夜のメインイベント、神楽舞を僕達は見に来ていたのだ。

 並木神社の境内にある特別に用意された催事場では、白い小袖と赤袴を纏った巫女さんが手の鈴を鳴らしながら華麗に舞を披露していた。

 四隅には大きな篝火が焚かれ、笛や琴、太鼓の音色が流れている。

 それは清らかで幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 この行事中は外灯が消されている為、唯一の光源が炎によるものだけとなる。

 薄暗い状況では、大勢の観客の中に紛れた迷子を探すのはとても難しいことだろう。

 電話で連絡を取れば楽かもしれないけど、神聖な行事の最中に電話をするほど僕は非常識では無いので、結局は終わるまで待つしかないのだった。

 僕が神楽舞に夢中になってる間にうろつくんだから、本当に困った人達だよね。

 まぁ、迷子になった人は現地に戻ってくるらしいし、僕はこの位置で見物してればいいのかもね。

 決して、迷子になった時は、むやみに動かない方がいいという意味じゃないよ! 

「困ったなぁ……」

 いや! 困ってないからね。うん。

 別に心細くも無い……

 何故なら僕には強い味方がいるのだ。

 両腕に抱えている、熊アーサーと、熊オーディンという頼もしい騎士がね。

 触り心地も良いし、全く問題無いね。


 

 神楽舞は終盤に差し掛かっていた。

 未だに僕は1人のままである。

 巫女さんの演舞に集中しだしてからは時間の経つのも早かったようで、あまり気にしてはいなかったのだ。

 努力と練習の積み重ねによる動きは、僕と同年代ぐらいにも係わらず凄いと感嘆してしまった。

 但し、年齢は僕よりは上に違いない。

 理由は――身長がね僕より高そうなのだ。

 僕は後1年で10cmは伸びる筈だから、年上じゃないと計算が合わないよね。

 そう心を逃避させている時だった。

 急に肩をポンポンと叩かれたのだ。

「ふぅ、遅いよ! 何処行ってたの!」

 本日3度目のバックアタックに、今度は太一か遥あたりかなと思って振り返った。

 えっ! 

 しかし、そこに居たのは、見ず知らずの茶髪に鼻ピアスをした大学生ぐらいの男で、赤いアロハシャツみたいな服を着たいかにもナンパ目的という感じの奴だった。

「はーい、君可愛いね。これから一緒しない?」

 茶髪男は愛想笑いを浮べている。その癖に目は獲物を狙うように研ぎ澄まされているのだから、要注意だ。

 そして、僕は自分の不注意に舌打ちしたい気分だった。

 普段なら、なんちゃってイングリッシュで撃退するのに、油断して日本語で口を利いてしまったからだ。

 このまま黙っていても見逃してはくれないだろう。

 男の態度がそれを物語っている。

 ならば仕方ない――本当のことを言うのが正解だと思う。

「すいません。友達を待っているので、無理なんです」

 これが終われば合流する予定なのだから嘘は言っていない。

「いやいや、さっきから見てたけど、ずっと1人じゃない。君みたいな子を1人にするような奴なんてほっときなよ。俺が楽しませてあげるからさ」

 消えてくれるのが一番楽しいよ、とは言えないし、ずっと見られてたと知って少し恐怖も沸いてくる。相手がこの男なら身の危険を感じて当然なのだ。 

 ――そう躊躇している間に、神楽舞は終了してしまったようで、外灯が点灯され始めた。

 最後を見逃したのが少し心残りだった。

 そして、急に光が戻ったことで、眩しさに目を細める。

 お陰で、茶髪男の醜悪な容姿がはっきりと判ってしまう。

 観客は徐々に去り始めていた。

 このまま此処にいると嫌な予感しかしない。

「結構です。本当に困りますから」

「まぁまぁ、そう言わずにさ、ちょっとコッチおいでよ」

 僕が拒否したことを気にもしないばかりか、茶髪男は急に僕の腕を掴んできた。

「えっ!」

 危うく、抱いていた熊騎士達が落ちそうになって、其方に注意を払うことになる。

 その結果、力が抜けていた左手を引っ張られ、あまつさえ、男の方に動かされる。

 多くの観客は、境内から賑やかな参道の方に戻って行くのに、この男の目線の先は、人気が無く暗いまるで逆の位置だった。拙い――

「離して下さい!!」

「あん? 俺は何もしてないだろうが?」

「「「なんだ?」」」

 僕の悲鳴が聞こえたらしく、周りの人達が足を止めて、僕達を注視し始めた。

 人が沢山いる場所でよかったよ。

 これで、拉致される可能性は減った筈だ。

「てめーら見世物じゃねーぞ!」

 茶髪男は周りの人達にガンをつけながらケッとばかりに唾を吐いた。

 周りの人達は、茶髪男の視線が向くとサッと目を逸らしていく。

 誰も係わり合いになりたくないと思うような容姿の人物だからそれも当然だろう。

「ほら、早く移動しろ!」

「嫌! 誰か!」

 茶髪男に力を込められ、僕は引き摺られながらも慌てたように再び助けを呼ぶ。

 この状況で強行するとは思ってなかったのだ。

 しかし、僕の運も捨てたもんじゃなかった。

「あらあら、無粋な人も居るのね。お祭りに来て楽しむでもなく、相手を不愉快にさせるだなんて、言語道断だわ」

 僕の願いを聞き届けてくれた女性が一人、観衆の中から現れたのだ。

 その女性はお祭りの会場で配られていた団扇を茶髪男に向けている。

 肩までかかっている真っ直ぐの髪が動きに合わせてパサリと揺れた。

「あぁ? 誰に向かって口をきいてやがる! っておめーも中々可愛いじゃねーか、一緒に可愛がってやろうか?」    

 男は一瞬不機嫌になったが、すぐに顔を歪めて舌なめずりしている。

 その仕草が蟷螂に似た捕食者のようだった。

 だけど、これだけ周りに男の人がいるのに、なんで助けてくれたのが女の人なのだろう――って? あれ、良く見ると……私服のスカート姿をした西条さんだった!

 一目で判らない僕は、鈍感なのだろうか?

「馬鹿も休み休み言いなさい。それに、今すぐ私の雪ちゃんから手を離すのよ!」

 ……カッコイイよ西条さん! 私のじゃないけどね。

「雪って誰だよ! まさか、お前のことか? 名前のように可愛いよな」

 茶髪男は訝むような顔をした後、すぐに僕と判ったらしく黄色い歯を見せながらニヤリといやらしく笑った。

 気持ち悪い!

「誉められても嬉しくないから、離してよ!」

 僕が力の限り動かしても手はピクリとも動かなかった。

 自分の非力がこういう時に恨めしい。

「くくく、可愛い反応だなぁ」

 その仕草が茶髪男の琴線に触れたのか、今にも襲われそうな感じがする。

「あなたいい加減にしなさい――さもないと強行手段に出るけど構わないかしら? 美少女を暴行しているのだから、死んでも法律上問題ないわよね」

 嫌がる僕を見て西条さんの空気が変った。

 まるで冷たい氷のような研ぎ澄まされたものを纏っている。

 僕の本業の筈なのに、何故僕には出来ないのだろうか?

 これは、修業が必要かもしれないね。

 知り合いが居ることで余計なことを考える余裕が生まれていた。

 西条さんが現れてから周りの人の雰囲気にも変化が生じている気がする。

 圧倒的に有利になっているのだ。

「おい! やんのかよ!」

 茶髪男が再び西条さんを睨み、怒鳴った瞬間、

「女の子に何言ってやがる!」

「そうだ! ふざけんな!」

「どっかいけ! この屑野郎!」

「去れ!」

「早くその娘を開放しろ!」

 周りの人達が一斉に茶髪男に非難を浴びせ出した。 

 女の子が初めに啖呵をきったことで、自分達が不甲斐ないとでも思ったのかもしれない。

 こうなると、多勢に無勢で、逆に男の方が腰が引けてきた。

 集団真理とは恐ろしいもので、勢いがついた彼等は何でもしそうなのである。

「なっ! わったーよ。冗談だっつーの、ちっ、こんな女なんて知るか!」

「え、きゃ!」

 茶髪男は捨て台詞を吐くと、乱暴に僕の腕を離してそのまま逃げるように参道へ去っていってしまった。

 一方の僕は、急に不自然な力をかけられバランスを崩して倒れこみそうになる。

 下駄のせいで足元が不安定なのだ。

「あっ! 大丈夫?」

 それを支えてくれたのは西条さんだった。

 背中を押さえて助けてくれたと思ったら、そのまま背後から抱きしめられた。

「ありがとうございます?」

「う、うん、気にすることなんてないわ♪」

 思わず疑問系で御礼を返してしまった。

 気のせいか、西条さんの鼻息が荒く感じたのだ。

「お見事!」

「「良かった」」

 周りの人達から賞賛と安堵の声が聞こえてきた。

 それに気付き、

「ありがとうございました! 本当に助かりました」

「「「気にしないで(いいよ)」」」

 僕は周りの人にペコリと頭を下げて感謝の気持ちを表した。

 しかし――いつまで経っても西条さんの手が離れない。

 更に力が込められているような……

「あの、西条さん? 恥かしいですし、そろそろ離して欲しいのですけど?」

「違うでしょ! 多賀子お姉さんよね?」

 西条さんが目を細めて拗ねたように口を尖らしている。

 見た目がクール系の美人なので妙にアンバランスな反応だ。

 うーん……それを言えば離してくれるのかな?

「多賀子お姉さん、もう大丈夫だから離して欲しいな?」

「ダーメ! なんて可愛いのかしら!」

 西条さんは人の悪い笑みを浮べると、僕の浴衣から出てる首筋の辺りに顔をよせて、すりすりしだした。

 う、この反応は――身に覚えがありすぎる。

 まるで氷兄だ!

 襲う相手が、男から女に変っただけじゃないの! 

 僕には変態が寄ってくる磁石でも仕込まれているのだろうか?

 周りの人達は、助かったことに喜んでいると勘違いしてるらしく、微笑ましいものを見てるみたいな感じなのだ。

「あの……本当に――」

「もう! 駄目よ雪ちゃん。こういう時は目を瞑って、嬉しそうにそっと俯くものなのよ!」

 西条さんは僕の言葉を遮って、持論を展開している。

 ううう、助けてもらったからには強く言えないし、どうしよう……

 首とか凄いくすぐったいよ!

「ひゃん!」

 今、耳噛んだ!

 その時だった。

「こら! 変態、雪から離れろ!」

 究極の変態が、思考の変態? に顔を赤くして怒鳴っている姿が目に入ってしまった。

やっと西条さんが出せました。


そして、ラスト1回でお祭り編は終了の予定です。

なんだかんだで、結構長かったですね。

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