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すのーでいず   作者: まる太
第三章
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夏の夜は 7

「それで楓ちゃん。ボクに何か言うことがあるんじゃないかな?」 

 遥のツッコミにより、再び頭を抑えている楓ちゃんに、僕は腕を組み半眼で睨みつけた。

 楓ちゃんはびくびくしながら上目使いをしている。

「あ、あのね……」

「あのね――がどうしたのかな?」

 更に視線を強くする。

 そんな中、楓ちゃんは気丈にも胸を張った。

「雪ちゃんのおっぱいが柔らかかったのがいけないんだよ! それと、浴衣の時にブラは禁止だよ!」

「……何を言うかと思えば、全然反省してないみたいだね。赤ちゃんだから理解出来ないのでちゅか?」

「わたしは赤ちゃんじゃないよ!」

「どうだろう? それが嫌なら言う事があるよね?」今度は笑顔を作ってみる。目が笑ってないから、効果がある筈だ。

「ううう、雪ちゃんの感度が良過ぎるからだよ! ずっと触りたくなるのは雪ちゃんのせいなの!」

 ……どうあっても僕のせいにするのね。

 これはお仕置きが必要かな。

「それで、ごめんなさいは?」

「う――」

 僕の空気が変った事を、楓ちゃんは敏感に感じとったらしい。

 目をキョロキョロとさせて、退路を探しているみたいだ。

「遥!」

「あいよ!」

 予想通り楓ちゃんは逃げようとしたが、僕の意図を察した遥に簡単に捕まえられて再び僕と正面を向く形で拘束された。

「あぅ……」

「お帰り♪」

 怯える楓ちゃんに、僕は鼻歌交じりに両手をワシワシと見せ付ける。

「ええとね、雪ちゃん。ごめんなさいなの」

「もうちょっと早かったから許してあげたのにね。世の中にはタイミングがあるんだよ」 

 冷めたい表情のまま、楓ちゃんに近付く。

 雪女だけあってプロの仕草だよ。

「あの、いや、その、許して、ね?」

「だーめ!」

 懇願する楓ちゃんを無視して、僕は両手を楓ちゃんの胸に這わせた。

「あううう」拒絶する楓ちゃん。

 そして、

「アレ?」

 僕がやられたように揉もうとしても――指が空を切るだけだった。

 スカ、手を開く、スカ、手を開く、スカ……繰り返しても同じ結果になる。

 これは――仕方が無いので、パンパンと胸を軽く手で押しただけで終わらせてあげることにした。

 それと同時に遥による拘束も解かれた。

「…………」

 うん、あれだよ。無いものを揉もうとしても不可能だったよ。

「はぅ……酷い! 今迄の仕打ちの中で一番の酷さだよ!」

 楓ちゃんが、下駄をダンと地面に鳴らしながら柔らかそうなほっべを膨らませている。「いや、まぁ……女は胸じゃないよ。うん、今の時代ぺちゃぱいはある種のシンボルらしいから大丈夫」

「――それは、あれなのかな? 自分はあるからという余裕発言なんだね。わたしだって、雪ちゃんみたいな、手の平に吸い付いて夢中になるぐらいのモノが欲しいんだよ!」

 あまり、その感想を言わないで欲しい。

 とういうか、何時の間にか僕が責められてる?

「元はといえば楓ちゃんが悪かったんだから、おあいこだよね。今ので僕の件も無かったことにしてあげるよ」

「うー。わたしの方が精神にダメージ受けたよ!」

「ボクも十分受けたよ。人前で散々陵辱されたんだからね!」

「悶える雪ちゃん可愛かった……」

 それ、何か違うよ!

「まぁまぁ、2人ともその辺にしときなって、男性陣の目の毒になってるからさ」

 遥に宥められて、氷兄と太一が居る事を思い出した。

 振り返って2人を見ると、何処か別の方向に業とらしく目を逸らしていた。

 む、なんだろうこの反応、八つ当たりするのはこの2人がいいと僕の勘が訴えているよ。

 それにしても、僕も女慣れしてきてるような気がする。

 じゃなかったから、女の子の胸を揉もうなんてしないだろうしね。

 あっ! でも、楓ちゃんだからかもしれない。

 遥を――チラリと横目で見る。

 そして、すぐに結論が出た。

 紺色の浴衣の上からでも判るふくよかな聖域に触れるのは僕には無理だ。

 小さい子には性別は有って無いようなものだから可能なのであり、普通の女の子には出来ないということである。

 普通か……とりあえず楓ちゃんには内緒にしとくことにした。絶対怒るよね。


 

 その後は、合流してお祭りを回ることにした。

 遥が氷兄と居たそうだったし、僕も気を使ったんだよ。

 氷兄はというと、僕の当てたカキ氷機、通称ペン太君を持ってくれている。

 僕の力では結構重かったので、正直助かった。

 この辺りの気配りを出来るのが大人なのかもしれないね。

 夜の帳が下りて満天の星空が輝き、お祭りは一層賑やかになってきた。

「うーん。これからどうする?」 

「わた飴が食べたいかも!」

「そやな、雪の胸を揉む!」

「雪の行きたい処でいいぞ!」

「アタシは氷室さんの好きな場所で!」

 皆を見ながら僕が尋ねると、一人だけ変なことを口走った馬鹿がいた。

「太一、わた飴買ってきて」

「えっ? わた飴を買えば揉ましてくれるんか!」

 太一が妙に期待してるけど、そんなことさせる訳が無い。

「いんや、楓ちゃんが食べたいみたいだから言ってみただけ。そもそも、なんでボクが胸を揉ませないといけないのかな?」

「それは、あれやな、雪の胸は皆のモノやからだ」

「いつなったのさ!」

「いつなったのやろ、江藤さん?」

 太一から急に話を振られた楓ちゃんはキョトンとしている。

 しかし、すぐに人の悪い笑みを浮べると僕を見た。

「実は、太古から決まっていたんだよ!」

「……そんな昔から生きてないし――そうだ! 太一の期待に応えて、楓ちゃんの胸を揉ませてあげるよ」

「え……」太一が楓ちゃんの胸の辺りを見て、哀れむように視線を逸らした。

 楓ちゃんは体を戦慄かせてている。

「雪ちゃん……揉めるものなら揉んでみろということなの!」

 凄いよ楓ちゃん、自分で言い切るとは。

 大体、初めに喧嘩を売ったのは楓ちゃんだからね。

「うーん。口は災いの元だよね」エヘっと首を傾げる。

「ううう、矢神君のせいだ!」

 その通り太一のせいだね。

「いやいや、それはちゃうがな。雪が揉ませればええねん」

 太一……まだ諦めないのか。

「こら太一いい加減にしろ。俺の前で何をさっきから言ってやがる」

「軽い冗談やないですか、でも、氷兄ちゃんも本当は揉みたいんでしょ?」

 真面目顔の氷兄に、太一が茶化すように訊いた。

「いや、別に揉みたくはないぞ?」氷兄の表情に変化は無い。

 嘘! 

「嘘やー。氷兄ちゃんがそんな訳無いやん!」

「お前失礼だな。俺を一体なんだと思ってるんだ」

 変態? 氷兄は隙を見つけるとすぐチョッカイ出してくるからね。

「…………」

 太一は言葉に窮している。

 流石に変態とは言えないか。

「まぁいい、そもそも女性陣が居るのに、胸を揉むとかいう話題をするのは失礼だぞ!」

 やっぱり、氷兄がオカシイ。変なモノでも食べたのかな?

 ずっと僕達と一緒だった筈なのに――あっ! ひょっとして会う前?

「雪、今変なこと考えてなかったか?」

 氷兄の一言で僕はギクっと首をすくめた。す、鋭い。

「な、何も考えてないよ、うん。変なモノでも食べたのかな? なんて少しも――」

 しまった! 慌てて口元を押さえる。

 氷兄は軽く呆れたように首を左右に振ると、僕の頭をポンポンと叩いた。

「そんな訳ないだろ――」

 そして、僕の耳の側まで顔を近付けてきた。

 急にどうしたのだろ? と思った瞬間、

「(俺が揉むのは二人でラブラブの時だけに決まっているだろうが!)」

 そう僕だけにしか聞こえないように呟き、片目でウィンクすると元の体勢に戻した。

 台詞と行動が合ってない!

 つまり、遥と楓ちゃんが居るから格好つけてただけなのね……

 心配して損したよ。

 遥は遥で、氷兄が居ると大人しくなるんだよね。

 この変態の相手をいつになったらしてくれるんだろうか。

 はぁ……先は長そうだ。

「楓ちゃん……わた飴買いに行こうか?」

「うん……ふわふわであまあまだよ」

 結局、2人でわた飴を買って食べることにした。

 妙に疲れているし、甘いモノが必要だよね……

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