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すのーでいず   作者: まる太
第三章
61/84

夏の夜は 6

「ふふふ、僕の実力を見せてあげるよ!」

 僕の視線の先には、くじ引き屋さんがあった。

 一回300円で、数字の出る紙を引く定番の屋台である。

「うわ、アレはないんちゃうか。どうせ当たりなんて入ってないんやから、損するだけやろが」

「確かにな、アレをやるぐらいなら、何か食べた方がいい気もするな」

 折角やる気を出しているのに、太一と氷兄にはこのロマンが理解出来ないようだ。

 所詮素人だよね。

「世の中には勝負しないといけない時があるんだよ。お祭りに来たんだからやってみてもいいでしょ!」

 決して、一等の商品に目が眩んだ訳じゃない。

 大きなプラモが当たると嬉しいな、とか思ってないよ?

「まぁ、雪がどうしてもやりたいって言うなら止めはしないけどな、でも余りのめり込むのは禁止だぞ。こういうのは当たらないと思ってやるものだからな」

 氷兄は僕が諦めないと悟ったのか、すぐ妥協案を出してくれる。

 太一も同様の気持ちなのだろう首を振ってヤレヤレとしていた。

 しかし、氷兄はそう言うけど、当たれと祈ってやった方が良いモノが出る気がするんだよね。

 とりあえず許可が下りたし、遊んでみることに決めた。

 あれ? 良く考えたら、許可を取る必要なんて無かったんじゃ? 

 まぁ、後々煩いからいいけどね。



 屋台に近付き、

「オジさん、3回お願いします」

 日に焼けた、この業界が長いと思われる中年のオジさんに宣言して1000円札を渡した。

 背後から、「「おい!」」とかいう声が聞こえたけど、雪ちゃんスマイルと違ってロマンは無料じゃないんだよ!

「あいよ、100円のお釣りだ」

 オジさんからお金を受け取り、紙で出来た四角い箱を渡された。

 その後、僕がやるのが珍しいのか、しげしげと観察されている。         

 実際この店の商品は男子向けの品物が多いので、浴衣姿の女子がやるのは滅多に無いのだろうね。

「でろでろぉ……」そう念じながら3枚の三角くじを箱から取り出し、箱はオジさんに返却した。

「「どうだ(なん)?」」

 氷兄と太一が背後から様子を伺っている。

 文句を言う癖に、興味はあるみたいだね。 

 早速、1枚目を真中の部分を残して丸く切り抜いた。

「こい!」

 期待しながら注視すると、中央に書かれた番号は――52!

 び、微妙だ……

 最初から高級品なんて貰ったら後2回が詰まらなくなるし、これはウォーミングアップと思うことにした。

「52番です」

「52と……ほい、これな」

 番号を申請してオジさんに紙を渡すと、袋に入ったベーゴマが数個入ったセットを渡された。

 鉄で出来た駒は少し重く、うん、損はしてないと信じたい。

「うわっ」

 太一のホラ見たことかみたいな声が聞こえたので、これは太一にあげることにした。

 決して、邪魔だからじゃないよ!

 太一なら楽しんでくれるに違いないしね。うんうん。

「次行くよ!」

 そう仕切り直して、次の紙を切り抜いていく――

 そして、出た数字は、35!

 さっきより番号が小さくなっているということは、当然良い品になっているだろう。

「オジさん35番です!」

「やるな嬢ちゃん、ほいおめでとー」

 先程同様、紙を渡すと、屋台の手前にあるシャボン玉のセットを貰った。

「ぷっ」

 氷兄が噴出している。

 ……これは、氷兄にあげることにしよう。

 童心の穢れなさを忘れちゃ駄目だからね。

 シャボン玉は綺麗だし、氷兄の心が少しは洗浄されることに期待することにした。

「さ、最後!」

 2人の分は十分だから、そろそろ僕用のモノが出る筈。

 こい! 気合を込めて紙を切り抜く。

 ちょっと手に力が入ってる気もするけど、これは僕の握力が無いせいということにした。

 軽く瞬きしてから、中身を見ると――13番!

 きた! って……13? 呪われてるんだっけ?

 いやいや、そんなことは無いよね。カナリ当たりに近い数字だもん。

「オジさん! 13番です」ニッコリと笑いかける。

「おおお! お嬢ちゃんツイテルなぁ……」

 オジさんは今迄に無く少し驚いた表情を見せると、屋台の下の方でゴソゴソしだした。

 その間に、店頭にある13番の見本を探していく。

 10番までが僕の欲しかったものだけど、3番の誤差だからそれに順ずるモノだと思う。

 しかし、見本品は簡単には見つからなかった。

 12番はミニ4WDのコースセット、14番がMGのプラモ、その間の13だけ置いて無い。

 うーん。番号だけはあるのにどういうことなのかな?

 そう思っていると、

「ほい、おめでとさん! 13番のカキ氷機な」

「へ?」

 予想外の代物をオジさんから渡された。

 なんともこの屋台の商品に相応しくないモノなのだ。

「13番ってこれなんですか?」

「ああ、そうだぞ、ほら此処に書いてある」

 両腕でダンボールに入ったペンギンさんのカキ氷機を抱えながら訊くと、オジさんは見本品の山をずらして番号プレートを表示してくれた。

 その場所には確かにカキ氷機と黒い文字で書かれてあった。

 えええ、なんでこれだけ微妙なの?

 他のに変えてくれないかな……ジーっとオジさんを期待するように見つめてみると、イイ笑顔で頷かれた。

 うん、どうみても無理だね。

「すげーな雪、それ当たりじゃないか、900円の価値はあったな」

 氷兄の賞賛する声が痛い。ついでに肩に顔乗せるのも止めて欲しいね。

「雪らしいっちゃらしいな。この残念感が……ぷぷ」

 太一に至っては、笑い出している。

 失礼な! カキ氷機だって価値があるんだからね!

 そうだ、僕の氷で作ればいいんだし、これはきっとお宝に違いないんだよ!

 在庫処分の筈は無いよね…… 

 とりあえずこの場所で話していても迷惑が掛かるので、商品を持ってその場を離れた。



 少し歩いて、歩道の柵を背後にしながらカキ氷機を地面に置き、ベーコマを太一、シャボン玉を氷兄にあげた。

 いらなそうな顔をしたので軽く睨んだら、急に嬉しそうに受け取ってくれたよ。

 初めから素直になって欲しいよね。

「それにしてもカキ氷機って、笑いの天才やよな」

 太一は思い出し笑いをしたように口元を手で押さえている。

 まだ言うか!

「煩いよ、太一はベーゴマでも回してればいいんじゃない?」

「そうだぞ、太一はそこで一生回して遊んでろ、その間に俺と雪が楽しんでくるからな」

 味方してるように見えて、さり気なく変なこと言ってるよねこの変態は。

「なんでオレだけベーゴマなの。夏やし丁度ええ言うただけやん」

 太一が拗ねてるフリをしているけど、未だに目が笑ってるのだから騙されないよ。

「まぁ、確かにアレだけプラモとかあってカキ氷機を当てるのは天才だよな」

 氷兄の意見も一理ある。なんで混ざってるんだろね!

 だけど、そんなことを言ってられるのかな?

「カキ氷を貶すものはカキ氷に泣くんだよ。覚えておくといいよ」

 思わせ振りな顔をしてみる。

「どういう意味や?」

「は!」

 太一は判らなかったけど、氷兄は理解出来たらしい。

 僕の氷の味を知っていたら、これがどれだけ価値のあるものか判るしね。

「うわ、ちょっと俺わくわくしてきたわ。シロップ買って帰ろうな」

「うん、そうだね。でも、太一と氷兄には食べさせてあげないけどね」

「「なんでだ(や)」」

 2人はすぐ文句言ってきたけど当たり前だと思うんだ。

「さっき散々馬鹿にしたじゃない。そんな人には作ってあげないんだよ」イーっと舌を出す。

「くぅ、太一のせいだ!」

「えええ、氷兄ちゃんも笑ってたやないですか!」

 ふふふ、そうやって醜い争いをしてればいいんだよ。

 そう、氷兄と太一が向き合って罵り合いを開始した時だった。

「ひゃん!」

 急に、胸から強い刺激を感じたのだ。

 その声に、2人は僕を注視する。

 甘いような痺れるような刺激は続き、脇の下から出た白い手が僕の両胸を揉んでいるのに気付いた。

 だ、誰?

「や、やめ、ふぅ、うん、や、やん」

 巧みな揉み方による刺激に力が抜けていき、抗議の声も迫力が無い。

 氷兄と太一に助けてと視線を向けたが、2人は両手をにぎにぎして羨ましそうにしていた。

 その手の動きがイヤらしく、全然頼りにならないよ!

「いや……んん」

 陵辱? は少しの間続き、上気した顔で無意識に甘い声を漏らしてしまう。

 そして、やっと満足したのか、

「裏切りモノの雪ちゃんにお仕置きだよ!」

 幼い女の子の声が背後から聞こえた。とりあえず痴漢じゃないことにホッとする。

 実際男の痴漢なら氷兄達が黙っている訳無いのだから、最初から女子だということは判明してたのかもしれないけどね。

「こら、楓、いいかげんにせい!」

 その言葉と同時にポカリという音がして、僕を襲っていた刺激が収まった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 肩で息をしながら、僕の体にも力が戻ってくる。

「遥ちゃん痛いよー。クラーケ○の手で殴られたら死んじゃうよ!」

 僕は再びの悪夢を回避したく、胸に張り付いている手をなんとか引き剥がすと素早く後ろを振り向いた。

「何するの、楓ちゃん!」

 もう犯人は判っているのだから、抗議するのは簡単だ。

 そこには、頭を抑える楓ちゃんと、右のゲンコツを握りしてめている遥の姿があった。 

 楓ちゃんは白に金魚の模様、遥は紺に菊の模様の浴衣を着ていた。

 2人は僕に気付いてすぐ此方に注意を向けた。 

「えへへ、雪ちゃんの胸はやっぱり至宝の揉み心地だったよ!」

「そんなこと聞いてないからね!」真っ赤な顔のまま、少し涙目で楓ちゃんを睨む。

 楓ちゃんはまるで気にした様子もなく、指をチッチッチと左右に振る。

「雪ちゃんが悪いんだもん。電話で誘った時に来れないって言った癖に、今此処にいるんだから、裏切り者なんだよ!」

「あ、あの時は、本当にお金が無かったし来るつもりも無かったの。それに、急にお金が入手出来たからお祭りに行けるよって電話したけど、楓ちゃんに繋がらなかったんだよ。仕方が無いからメールで、現地で逢えるといいねって書いて送ったよ!」

「え、嘘!」

 慌てて楓ちゃんは自分のピンク色のスマフォを取り出して確認しだした。

 画面を弄る電子音が響いた後、   

「……えへ」楓ちゃんは小首を傾げて素敵な笑顔を披露した。

 それはまるで無垢な白百合の花のように穢れなど何も存在しないという表情だった。

「えへじゃない!」遥から高速なツッコミがスパコンと振り落とされたのは言うまでもない。


 

 それにしても、なんで皆僕の背後から迫ってくるのだろう。

 僕を驚かすのが楽しいのかな? 疑問だよね。



雪はカキ氷機を手に入れた。


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