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すのーでいず   作者: まる太
第三章
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夏の夜は 5

「よー。太一、久しいな」

 軽い口調に反して、目が笑ってないよ氷兄!

「…………」

 太一は、無反応だ。

 僕の時とは違い氷兄からはツマラナイジョークは出てないよ。

「おいおい、どうしたんだ。折角お祭りなんだから、楽しもうぜ?」

 さり気なく、覇気を出して威嚇するの禁止!

「…………」

 緊張した空気が辺りに流れる。

 祭りの喧騒が良く聞こえる程だった。 

「……そ、そうですよね! 祭りは楽しむものやよね!」

 そして、太一は何事も無かったかのように明るい声を出した。

 ……数秒で陥落するとか……頼りにならないなぁ。

 ミジンコなんて生易しいものじゃなかったね。

 けど今日の僕は機嫌が良いから、余り気にしない。

 別に杏飴が2本あるからじゃないよ! これ大事な処、試験にでるからね。

「氷兄、さっさとどっか行ったら? 太一と合流するまでって約束だよね?」

「は? そんな約束した記憶はないぞ! 勝手に作るんじゃない」

 僕の台詞に氷兄は少し慌てている。

 可哀想な太一に援護射撃をしてあげるよ。

「そうかな? 僕が1人だと心配だからって言ってたじゃない。太一と合流したし、もう役目は終わったと思うよ」

「雪が冷たい……これはアレだろうか、少し距離を置いて、更に俺を焦らすという高等テクニック――本当に雪は可愛いよな」

 落ち込んだと思ったら、もう目を蕩けさせて変な視線を送っている変態が居た。

 はぁ……なんでこんな気持ち悪い展開になるんだろ。

 太一を助けない方が良かったかもしれない。

「そんなこと、一瞬、いや光の速さですら思ったことすらないよ?」

「ふふふ、照れるな照れるな。雪は良い娘だぞ」

 何故か氷兄に頭を撫でられている。

 ……僕は無力だ。でも、頭を撫でられるのは結構気持ち良いね。

 じゃない! 

「そうやってすぐ触れてこない! 変態禁止!」

 頭の上の手を握ってぽいっと投げ捨てる。

 氷兄はヤレヤレという風にしてるけど、僕の我が侭みたいに取られてるのが納得行かないよ!

 仕方ない、ここは少し……

「太一、氷兄が変態するから守って!」太一に向かって両手を組み、お願いのポーズをしてみる。

 いけ太一、木の盾ぐらいの防御力は見せてよ。

 せめて、鋼の盾ぐらいには進化して欲しいものだけどね。

「うぇええ、そこでオレに振るかよ! 面白いギャグとかの時だけにしてーや」

 ツマラナイギャグしか言えない癖に贅沢な。 

「いいから、頑張る!」

「ええええ……」

 それでも太一は勇気を振り絞って? 氷兄の様子を伺っている。

 木の盾だけのことはあるね。

「ほぉ……太一、なかなか勇気があるな。俺に歯向かうとは成長したじゃないか」

 氷兄は軽く睨み、再び覇気を出して脅している。

 一般人にそんなことしたら、訴えられるよ!

「いや、その、オレはしたくは無いねんけど……雪がお願いするから」

 弱い、弱いぞ太一! そんなことでは、氷兄(魔王)は倒せない!

「雪は、お兄ちゃん♪ と一緒に居たいもんな」

 氷兄は僕を見て、バックに花を咲かせながら笑顔を浮べている。

 僕以外の女の子が見たら恋に落ちるかもしれないね。

「え、邪魔だから帰って欲しいかな?」

「そうか、そうか――」

「ちゃんと聞いてる?」

 おかしい、本心から言ったのに、氷兄にはまるで通じた感じがしないよ。

「本当は居て欲しい癖に、照れなくても良いんだぞ。はっ! これが噂のツンデレか! いやーお兄ちゃん♪ ちょっと感激だな――た、い、ち、はどう思うよ?」

 氷兄は太一に反論を許さないと視線に力を込めている。

 僕じゃなくて、太一を落としに来たのか!

 太一は、口元をひくつかせると、愛想笑いを浮べた。

「勿論ですよ。雪が氷兄ちゃんを嫌う訳が無いねん……」

 本当に木の盾だったよ。鋼は贅沢だったかもしれない、せめて鱗の盾ぐらいには進化して欲しいものだね。

「太一もそう言ってるぞ。それじゃお兄ちゃん♪ も一緒でいいよね、雪ちゃん」

「はぁ……もう好きにしなよ。その代わり太一を苛めるのは駄目だからね。判ってる?」

「そんなことした事も無い」

 氷兄は顔を綻ばせて喜んでいる。

 そんなに一緒に居たいのかな? ヤレヤレだよ。

 確かに、最近一緒に出掛けたりしてなかったけど、その分の鬱憤が貯まっていたのだろうか?。

 それなら、丁度良い機会だし、少しサービスする方が後々の為かもしれない。

 これ以上、変態になられても困るしね。

 でも、これ以上って……ランクの上がりようが無いきもする。

 なんだかねぇ……



「ふふふ、太一には無理だろうな?」

 氷兄が自慢気な表情を見せている。

 丁度、射的屋の的になっていた小さな人形を撃ち落とした処だった。

 だけど、落としたものはとてもいらない気がするよ。

「氷兄ちゃんはまだまだやね。雪どれか欲しいものあるか?」

 太一はフッと鼻で笑いなら、僕に欲しい景品を聞いてきた。

 僕はうん? と首を傾げながら、3段に並んでる棚の景品を眺めて欲しそうなものを探した。

 すると、すぐに目に止まるものがあった。

 前から欲しかった、伝説の熊シリーズでレアと言われる、熊アーサーのフィギュアだ。

 握りこぶし大の大きさで、エクスカリバーを持った熊という作品であり、こんな縁日にあるとは思ってもなかった品である。

「太一! 熊アーサー取って! 凄いアレ欲しいよ」

「おう、任しとき!」

 僕が指差す先を見て、太一は軽く親指を上げて射的の姿勢に入った。

 ちなみに、僕は参加しては居ない。

 何故って? それはあれだよ……うん、せ、背がね小さいんだよ!

 射的なんていうものはね、いかにして近くまでガンを近づけるかの勝負なんだ。

 僕の身長だと距離が長くなるから取れないのが判ってるからね。

 つまり、射的なんて僕の敵なんだよ。

 僕が膨れている間に、太一は狙いを決めてトリガーを押した。

「あ、太一汚いぞ、それ俺が落とす!」

 氷兄が文句を言っているけど、太一の集中力は途切れなかったようだ。

 太一の撃ったコルクはポンという音の後、熊アーサーの頭に当たりぐらぐら揺らすことに成功した。

 しかし、落ちそうにはなかった。

 やっぱり、簡単には取れないよね。

 そう諦めそうになった時、太一は素早くコルクをガンに付け、まだ揺れが収まっていない熊アーサーに狙いを定めて再びトリガーを引いたのだ。

 ポンと再び音が鳴ると、コルクは台座の部分に命中し、2度による衝撃から今度は呆気なく落下したのだった。

 太一はドヤ顔で肩にガンを乗せて格好付けている。

「凄い太一!」

「兄ちゃんやるなぁ」

 僕と屋台の親父さんの賞賛する声が重なった。

「くぅ……」

 氷兄だけが、何処か不満そうだ。

「ほら、雪これやるねん。大事にするんやで」

「ありがとー」

 太一は親父さんから熊アーサーを受け取ると僕に渡してくれた。

 手の中の熊アーサーがとてもプリティだよ。射的って素敵だよね。

「雪、他に欲しいもの無いのか!」

 氷兄がムキになって聞いてくる。

「そうだね……」

 熊アーサーが取れた後だし、他に欲しいものは――って何であるの!

「あの、熊オーディン。前弾のレアで、アーサーとセットにしたいかも!」

 グングニルを持った熊、可愛いよね。

「任せとけ!」

 氷兄は僕の指し示した先を見て、太一に出来ることが俺に出来ない訳が無いとでも言うように、妙にやる気になっている。

 そのやる気で是非共落として欲しいものだね。

 氷兄は、ガンを構えて熊オーディンに狙いを定めている。

 そして、長い手足を使って、超至近距離からコルクを放った。

 そのコルクの弾は、本体に当たらず支えている土台の細い部分にぶつかった。

 此処で奇跡? が起きる。

 通常はそのまま反射するのだが、何故か人形の背中の間に挟まり、衝撃とコルクの重みで一撃にして後ろに落下したのだった。

「氷兄凄い!」

「うは、兄ちゃんもすげーな」

 再び僕と親父さんの声がシンクロする。

「ほら、雪どうぞ。太一のは捨ててもいいけど、これは大事にするんだぞ」

 氷兄は、親父さんから受け取った熊オーディンを僕に渡してくれた。

「氷兄ありがと!」

 両手に熊アーサーと熊オーディン。凄い嬉しいよ!

「ふふん、1発で仕留めたのだから、俺の勝利って奴だな」

 氷兄が勝ち誇ったように胸を張っている。

 少しは誉めてあげてもいいかもね。うんうん。

 熊シリーズのレアが一気に2体も揃うなんて、今日は凄いツイテルかもしれない。 

「ほぉ、氷兄ちゃんがオレよりゲームが上手いと思えないんやけどね」

 太一がジトーと氷兄を見ている。

「今証拠を見せてやっただろ?」

 氷兄の目も険悪になってきた。

「ならば勝負しますか?」

「おう、望むところだな」

 何時の間にか二人の目から変な火花が散っている。

 太一はゲームだけは本気になるからね、こんな勝負でも負けたくないのかもしれない。

 ちなみに僕はもう欲しいものが無いから、二人の勝負を眺めていることにした。

 初めからやる気がないとか言っちゃいけません。 



 ――その二人の勝負は一進一退で、結局5発の弾を使い終わり、氷兄3個、太一3個の同数で終わった。

 あれだけ意気込んでだから、もう1回やるのかと思ったけど、それはしないらしい。

 なんでも、「雪の欲しい物が無いだろ(やろ)?」という訳の判らない理由だった。

 現実的なんだか、よく判らない2人だよね。

氷兄と太一の絡みって実は少ない気がする。

と思って書いてみました。



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