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すのーでいず   作者: まる太
第三章
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夏の夜は 3

「さて、もう脱いでもいいよね?」

 撮影がやっと終了したので、僕はこんな窮屈なモノさっさと脱ぎ捨てたいのだ。

 この状況にしてくれた父さんは、今頃自分の書斎で写真の加工に勤しんでる最中だろう。

「えー、雪姉ちゃん、それ可愛いんだから、脱ぐの勿体無いよー」

「そうよね。折角なんだし、夏祭りでも行ってらっしゃいな。お小遣い貰ったでしょ?」

 冬耶の非難に続き、母さん迄も余計なことを言い出した。

 しかし、僕の辞書に夜遊びなんて文字は無いのだ! 

 これぞ健全な高校生だよね。

「アレはお小遣いとは言わないの。例えるならモデル料だね。慰謝料と言っても過言ではないよ」

「隆彦さんの唯一の趣味だし、家族サービスの1つぐらいしなさいな。雪ちゃんの可愛い姿は本当に癒されるのよ」

 母さんが急に怪しい目をしだした。微かにピンク色のオーラが漂っている。

 これが、○太郎なら髪の毛が1本立ってる状態だよ。

「家族サービスなら毎日料理作ってるからそれで十分! ママがその分、暇になった筈だし父さんを構ってあげてよ。なんなら、ママの写真を撮って貰えばいいんじゃない」

「嫌よ、恥かしいもの」

 ……え? 僕にはOKなのに、自分は恥かしいってオカシイよね。

「うんうん、雪姉ちゃんだから価値があるんだよ! 僕もお父さんから一枚プリントして貰おうかなぁ」

 冬耶……その発想は汚染されてるぞ! 消毒しなくては――

「そんな写真は燃やすといいよ。それに、冬耶なら留美ちゃんか咲ちゃんの写真でも飾ってあげると2人は喜ぶんじゃないかな」

「えー。雪姉ちゃんが良いよ。僕は雪姉ちゃん大好きだもん」

「勿論わたしも雪ちゃんが大好きよ!」

 母さんまで張り合わなくても良いと思うんだ。

 はぁ……世の中って不条理だね。

 そう溜息を付いていると、「ピンポーン」玄関のチャイムが鳴った。

 僕は此処に居るよりはマシだろうと率先して玄関に向かう。

 どうせ、宅急便とかだろうし、2人に攻勢されるよりよっぽど楽だよね。

 背後から引き止める声がしてるけど聞こえないよ。

「はいはーい、ちょっと待って下さいね」

 そう外に声を掛けながら廊下を早足で歩き玄関のドアを開けた。

 ムワッとした熱気が入りこんでくる。

 すると、そこには良く見慣れた人物が手で顔を扇いでいた。

 僕が出てきたのを見て、口をアングリと開けたまま呆然としているのが何処か間抜けだね。

「あれ? 急に来るなんて、太一どうしたの? 今日は大人しく家でネカマの技術を極めるんじゃなかったっけ?」

「…………」

 太一からは反応が無い。

 これでは僕の冗談が滑ったみたいじゃないか!

「ちょっと、太一聞いてる?」

 僕が怪訝な表情を浮べると、やっと太一も気付いたようで、

「いい――」

 謎の言葉を一つ放ってきた。まだ完璧には抜けきれてないのか呆けたようにしている。

 意味は判らないけど、開けたままだとクーラーの冷たい空気が逃げるよね。

「用が無いみたいだし、ドア閉めるよ?」

「あっ! ――ちょい待て。どうして浴衣やねん。まさか、オレの誘いを断ったのに、他の誰かとお祭りでも行く予定なんか? あれか? 氷兄ちゃんか?」

 太一はやっと普通に戻ったと思いきや、興奮した感じでまくし立てている。

 これなら、さっきのままの方が良かったかもしれないね。

 大体、なんで氷兄が出てくるんだろ? 

 別に氷兄だってそこまで――いや、あの変態ならその可能性も……

 僕を納得させるとは、やるな太一!

「別に誰とも約束してないよ――これ似合うかな?」

 太一の前でくるっと浴衣を翻してターンしてみた。

 此処で平衡感覚をなくして倒れる程僕はドジじゃないよ!

「……似合い過ぎやねん。たく、折角暇してる思って来たらこれやし、ほんま雪は訳判らんわ」

「失礼な。とりあえずドア閉めてよ。外の暑い空気が入ってくるからね」

「ああ……」

 太一は素直にドアを閉めると、再び僕の格好を吟味している。

 気のせいか少しイヤラシイような感じがするのはどうしてだろう?

「な、何?」軽く睨み、腕を胸元で組むと太一の視線から体を隠すようにする。

「いや、なんていうか、綺麗やなと……」

 太一からそう素直な感想言われるとちょっと照れるものがある。

 少し耳の辺りが赤くなってるかもしれない。

「まぁ、何の用かしらないけど、ちょっと着替えてくるから待っててよ」

 居た堪れなくなった僕は、本来の目的を遂行して時間を稼ぐことにした。

「はぁ? なんでやねん。折角浴衣を着たのに、何処へも行かずに着替えるんか? それじゃ意味ないやろが」

 太一は頭が混乱しているみたいだ。

 でも、僕的にはこんな苦しい格好は拷問に近いからさっさとおさらばしたいんだよね。

「別に出掛ける為に着た訳じゃないしね。騙し打ちと欲に負けてこうなっただけなんだよ」

「なんじゃそりゃ」

 流石にこの説明では判らないか。

 仕方ないので、父さんの写真を撮る為にこの格好でアルバイトしたことを告げた。

「なるほどなぁ。ってことは、お金も入ったんやな?」

 僕の説明を受けた太一が急に活き活きしだした。

 とても、嫌な予感がするよ。

「……一応入ったけどね。それがどうしたの?」

「アホか。お金が無いからお祭りに行けないと言うてたんやろが、その資金が手に入った今、何の障害も無い訳やな」

「そ、そうなるかな?」小首を傾げてみた。

 真夏の夜は、クーラーの効いた部屋でゲーム。

 これが一番の贅沢だよ!

「いやぁ、このタイミングで遊びに来たオレって凄いわ。雪のことやから、ほんまに着替えて、状況証拠を抹消されるところやったな」

 僕は犯罪者か!

「そもそも太一は祭りに行くのを諦めたじゃん。今更行く気は起きないでしょ?」

「だ、か、ら、オレは雪が無理だから止めたねん。その雪の問題が全部クリアされたんやから、祭りに行くのが当然やろが」

 むむ、そんなに行きたいものなのだろうか? 

 蒸し暑い中、人混みにまみれるだけだと思うんだけどね。

「太一の意見はよく判ったよ。それなら、一緒にネトゲをしようよ!」爽やかな笑顔で篭絡してみることにした。

「なんでやねん。ネトゲは逃げんし今日はお祭りにしよや。年に一回の行事やで!」

 はい、全く効果無かったよ。

「ちょっと雪ちゃん、まだなのー? ママの目の保養をさせてー」

 その時だった。いつまでも戻ってこない僕に痺れを切らしたらしく、母さんが玄関に迎えに来たのだ。

 当然ながら、玄関には僕と話す太一が居て、母さんがそれに気付くと

「あら、太一君じゃない。こんな場所で立ち話なんてしてないであがりなさいな」

 ニッコリ笑って促している。

 太一はペコリと頭を下げた。

「桜子おばさんこんにちわ。いや、そうもいかんのです。雪が着替えるから待っててなんて言い出すから、その格好でお祭りに行こうと説得してる最中なんですわ」

 うわ、よりにもよって母さんに告げ口したよ。

 僕はこの後の母さんの台詞が容易に想像出来る。

「雪ちゃん。太一君なら信用出来るし、一緒にお祭りに行ってきたら?」

 ほらね、母さんなら絶対そう言うと思ったよ。

「でもね、僕には大事な使命が残されているんだよ!」

「ふーん。それは何かしら?」

 母さんの、どうせ下らないことなんでしょ? みたいな視線が痛い。

「ええと……勇者は一日にして成らずなんだよ!」

「ああ、桜子おばさん、今のはゲームの話なので気にしないでください」

 太一! どっちの味方なの! 

「全く、すぐ引きこもろうとするんだから、雪ちゃんはもう少し外に出掛けるようにしないと駄目よ」

 母さんは溜息をついている。まるで僕が悪いみたいだ。

「別に誰にも迷惑掛けてないじゃない。それに、家に居たほうがママと一緒の時間も増えるよ!」

 どうよこれ! この完璧な理論は久々に大勝利じゃないかな。

「あらあら、雪ちゃんったらそんなにママと一緒に居たいのかしら。甘えんぼさんなんだから」

 オカシイ、完璧だった筈なのに、再び母さんの目線が危険なものになっている。

 ……背筋から悪寒がするのはどうしてだろうか。

 それに耐え切れず、思わす太一に助けてと目配せしてしまった。

「桜子おばさん安心して下さい。オレが責任持って雪とお祭りに行ってきますから」

「うぐ……た、楽しみだなぁ~」

 太一に頼んだ手前、僕は乾いた声でそう返すしかなかった。

 母さんは、「あら、損した気がするわ」と冗談とも本気とも判断しにくい台詞をつぶやいている。

 これは一応助かったのかな?

 母さんよりは、まだ太一とお祭りの方がマシに思えたんだから仕方ないよね!

短い気もするのです、丁度キリが良いので此処でキリます。


暫定勝者は太一でした。

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