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すのーでいず   作者: まる太
第三章
57/84

夏の夜は 2

「な、なーに?」

 僕が嫌々反応すると、眼鏡の奥にある父さんの目が怪しい光を放っていた。 

 普通に僕を眺めてるだけという噂もあるけど、僕にはそう見えるのだから仕方が無い。

「いえ、ちょっと聞きたいことがあるのです。雪くんは今晩どうするのですか?」

「えーとね。多分家でネトゲかな。外も蒸し暑そうで辛いし、第一お金が無いもん」

「そうですか……」

 父さんは予想通りみたいな表情で顎に手を当てて頷いた。

 内容もそうだけど、妙に気になる反応だね。

「用件はそれでおしまい? 僕お昼ご飯作らないといけないんだけど……」

「ええ、判りましたから。先に雪くんお手製の美味しいご飯を下さい」

「うん、ちょっと待っててね」

 さっぱり訳が判らないよ。


  

 その後、父さんの件はすっかり忘れてお昼の準備に勤しむことにした。

 細かい事を気にしても仕方ないしね。

 じゃないと、我が家では生きていけないんだよ。

 本日のお昼は、雪特製ジャンボカツ丼!

 昨日、ロースカツが一枚100円だったんだよね。

 サボれるところはサボる! これ僕の料理道。

 カツ丼を仕上げるだけなら、10分ぐらいで出来るから楽勝なのだ。

 一から全部作ってたら僕の遊ぶ時間が減るだけだしね。



 出来立てほかほかのカツ丼に、お新香、葱と豆腐のお味噌汁を添えて、人数分をリビングのテーブルに運んだ。

 父さんと冬耶の分だけなので、僕を合わせて3人前になる。

 母さんは近所の主婦仲間とランチらしく、氷兄は例の如くサッカー部の練習だ。

 氷兄はずっと練習だけしててくれればいいのに、と思わずには居られない。

 早速、自分の部屋で遊んでいた冬耶を呼び、その間にキッチンの後片付けを済ました。

 エプロンで濡れていた手を拭きながら自分の席に座ると、丁度冬耶も2階から降りてきたので、ご飯を食べることにする。

「「「いただきます」」」

 一斉にお昼ごはんに手を付けだす。

 僕はとりあえずお味噌汁を啜り、味を確認する。

 うん、母さんと同じ味が出ていると思う。

 お味噌汁は殆ど毎日作ってるだけあって、完璧に近いだろう。

 次にカツ丼を味わってみる。

 これも悪くない。もうちょっと辛くても良かったかもしれないね。

「雪姉ちゃん。このカツ丼美味しいよ」

「味もとても美味しいですが、愛娘の料理を食べれるなんて、世のパパ達から羨ましがられそうです」

 二人の評判も上々だね。

 流石に4ヶ月も料理ばっかりやってれば、上手くもなるってものだよ。

 その証拠に、2人の分はすぐに胃の中に消えていってしまった。

 冬耶なんてお替りを要求したぐらいだ。

 氷兄のおやつ用に少し残しておいたのがあったので、それは冬耶にあげることにした。

 少し悪い気がしたから、氷兄用には僕特製冷奴で我慢してもらう。

 豆腐に鰹節と醤油をかけただけなんだけど、何を出しても嬉しそうに食べるからこれで十分だよ。



 お昼もあらかた食べ終わり3人で一息ついていると、父さんが思わせぶりに僕を見てきた。

「さて、雪くん。ちょっとお願いがあるのですが」

「嫌かな……」

 明らかに邪なオーラを感じるのだから、僕が断るのは当然だ。

 冬耶は、なんだろうという顔をして展開を見守っている。

 その暇があるなら、僕の味方をするんだ!

「そんなツレナイ返事をしなくても……それに、雪くんにもお得な話だと思いますよ?」

「ふーん。それってどんなこと?」 

 最後の一言に釣られてしまうのは仕方ないよね。

 敢えて言うなら、父さんが狡猾なんだよ!

「ええとですね、いつもの写真撮影をさせてください」

 大体予想はしてたけど、又これか。いい加減飽きて欲しいよ。

 僕の写真を撮って何が楽しいんだろと本気で考えるもん。

「えー。こないだ撮ったばっかりじゃない。あれで十分でしょ」

「アレぐらいでは全然足りません。雪くんの魅力を伝えるのが僕の使命なのです!」

 そんな使命要らないよ。そもそも、楽しんでるのは父さんだけじゃないか。

「じゃー用件は済んだね。さっさと洗い物しちゃおー」

「ま、待って下さい! これだけ出しましょう!」

 父さんは僕が立ち上がろうとするのを慌てて留めた後、人差し指をピンと突き立てた。

 1本ってことは、

「1000円? 冬耶にでもやってもらうといいよ」

 精神的苦痛を考えれば安過ぎるよ。

「僕なら1000円でもいいよー」

「ほら、冬耶もそう言ってるし、良かったね父さん」ニンマリ微笑んだ。

 しかし、父さんは微動だにしない。なんだろこの余裕。

「ふふふ、雪君甘いですよ! 1と言ったら1万円です!」

「え、嘘! どうしたの急に!」

 この値段は魅力的過ぎる! 

「お父さん、雪姉ちゃんだけズルイよ! 僕も欲しい!」

 冬耶が喚くのも良く判る。1万円だもんなぁ。 

「冬くん、これは特別なんですよ。ちょっと来て下さい」

「むぅ……」

 父さんが手招くと、冬耶は膨れた表情のままそれでも近付いていった。

 そして、2人で

「ごにょごにょ、ごにょごにょ」

 僕に聞こえないように、内緒話を始めた。

 時節僕のことをチラチラ見ているのが気になるぐらいだ。

 そんなことより、今の僕は手に入れた1万円の使い道で頭が一杯になっていた。

 欲しいモノがいっぱいあるんだよね。

 その間に、2人の話し合いは終わったらしく、先程と違い妙にイイ顔をしてるのが気持ち悪い。

「それで、雪くん。受けるのですか? それとも諦めます?」

 僕の答えはもう決まっている。

「当然受けるよ! だって1万円は素敵過ぎるもん!」

「ですよね。それでは、桜子さんが帰ってくるのを待ちましょう」

 父さんの楽しい声と、冬耶の期待する目を見て、早まったかと後悔したくなる。

 だけど、背に腹はなんとやらだよ。

「今すぐじゃないんだ。それはいいけど、先払いね!」

 これは鉄則だね。

 父さんがお金を持ってると、母さんに没収される恐れがあるもん。

 先に取り上げとかないと僕が痛い目に合うからね。

「ええ、判りました。後で僕の部屋に取りに来て下さい」

「うん。了解!」


 

 ――それから約1時間が過ぎた頃、

「はい、おしまいよ!」

 母さんの宣言と共に、僕の浴衣の着付けが終了した。

 とても苦しい、そして、お金に釣られた僕が馬鹿だったと心から後悔している。

 あの後、母さんが帰宅すると、手には呪いの布切れが入った袋が握られていた。

 中身は、そう僕が今着ている、桜と菊の花柄を縦に描いた、ピンク系の浴衣だった。

 帯は淡い赤色に花柄が散りばめられ、後ろで大きなリボンのようになっている。

 これは、片花文庫と言う縛り方らしい。

「ううう、騙された!」

「きゃー、雪ちゃん可愛いわ」

「雪くん、流石です」

「雪姉ちゃん、可愛いよ!」

 僕の悲痛な声は、3人には届かないないらしい。

 父さんが1万円なんて、オカシイと疑問を持つべきだったのだ。

 母さんとぐるだったから出来たんだね。 

 黙っていたことについて、冬耶に文句を言ったら、

「雪姉ちゃんが着てる姿が見たかったんだもん!」

 と逆に謎の輝いた目をされて押し切られてしまった。

 最近、冬耶の僕を見る目がおかしいような。

 いや、夏だし、身近のじょ……じょ……しが、僕しか居ないから仕方ないのだろうか。

 その単語は微妙に認めたくないんだけどね。

 そう考えていたら、

「はい、雪くん、スマイルです!」

 いつの間にか父さんの右手には、デジタルカメラがあった。

 準備万端、いつでもOKの体勢だ。

 その、声に嫌々反応する。

「えへ」思わず口元が引き攣ってしまった。

 これは仕方ないよね!

「うーん。表情が硬いですね」

「雪ちゃん、可愛い顔するのよ!」

「そうだよ、雪姉ちゃんの笑顔は天上の煌きにも優るもん!」

 外野からは批評のオマケがついてくる。

 何これ、1万円じゃ安い気がしてきたよ。

 そして、冬耶その例えは問題があるだろう、中学生独特のって、そのまんま中学生だった。

「はい、次いきますよ、少ししゃがんで上目遣いです!」

「はぅ……」

 父さんの指示に従ってポーズをとる。このポーズはちょっと恥かしい。

「こ、これは、私を試しているのかしら!」母さん。

「僕も何かムズムズした感じがする……」冬耶と続く。


 

 その後、僕の試練は1時間に渡って続くのだった。

 最後には何故か猫耳も付いてたよ!


雪は浴衣を手に入れた!


防御力1


特殊効果

魅力に10のポイントが足される。

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