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すのーでいず   作者: まる太
第三章
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夏と言えば 1

「ねぇ、雪姉ちゃん、行こーよ~!」

「はいはい、雪姉ちゃんだよ~」

 冬耶の声を聞きながら、僕はノートパソコンでFSCCを遊んでいた。

 もう少しで、インスタンスダンジョンのボスを攻略するところだ。

 朝から遊べるなんて、夏休み素敵過ぎるよ!

「雪姉ちゃん聞いてるの?」

「聞いてるぞー」

 前衛の盾持ちキャラがボスを殴ると同時に、そのボスの背中をパーティーに向けさせる。 アタッカー陣が、盾持ちキャラにヘイトが溜まるのを待っていた。

「ねー。ちゃんと聞いてよー!」

「聞いてるってば~」

「もう!」冬耶が癇癪を起こした声を出したと思ったら、僕の肩を持って揺すってきた。

 頭がぐわんぐわん動いて気持ち悪い。

「判った。判ったから揺すらないで、少し待っててよ」

「むぅ……約束だからね!」

 やっと冬耶が手を離したことで、平和が戻った。

 その頃には十分なヘイトが溜まり、パーティーがボスの背後から攻撃を開始した。

 僕の大槌、魔法使い達の破壊スペルが炸裂し、ボスのHPはがんがん削られていく。

 何回も大技を繰り出すボスを、僕達は回避しながらHPを減らし続ける。

 そして、誰も死傷者を出すことなくボスが地面に崩れ落ちたのだった。

 ……この後はお楽しみ、ドロップアイテムの時間である。

「来い! 僕のエリオンネックレス!」

 PTの一人、太一の操る剣聖にゃん姫(回復キャラ)がドロップアイテムを参照している。

『剣:本日のドロップは! エリオン!』

『『PT:おおおおおお!』』 

『剣:クローク……』

 終わった……太一後で殴る。

   

 ちなみに、エリオンネックレスとは攻撃速度1.5倍になる優れもの、前衛職垂涎の一品であった。

 エリオンクロークはこのボスの外れドロップ、毎回倒すと落ちる御馴染みのゴミ装備だ。

 

「で、冬耶? 何の話だっけ?」

 僕は振り返り、後ろのベットに腰掛けていた冬耶に話掛けると、冬耶はむくれたように頬を膨らました。 

「もう! 全然聞いてないんだから。プールに連れて行ってってお願いしたじゃん!」

 うわ、よりにもよってプールなのか……拷問だね。

 何を好き好んで裸同然の格好を披露しないといけないんだ。

 そんな羞恥な真似出来ないね。

「うーん。プールねぇ。それなら氷兄に連れていってもらえばいいと思うよ」

「氷室兄ちゃんと行ってもツマラナイもん」

 氷兄使えないなぁー。

「だったらほら、咲ちゃんと留美ちゃんだっけ? あの2人と行けばいいんじゃないか? 冬耶の歳なら保護者と行くより、友達同士の方が楽しいだろ?」

「あの2人と行くと僕が大変なんだよ。雪姉ちゃんは大好きだから楽しいもん!」

 そう言われると悪い気はしないんだけど。

 プールはねぇ……

 ああ、そうだ。

「でもさ、残念ながら僕は水着が無いんだよね。いやー本当は行きたかったなぁ♪」

 うちの学校にはプールなんて代物が無い為、僕には水着を購入する理由が無かった。

 これこそ完璧な言い訳だね。

「ええ! だったら水着買おうよー!」

「それは無理。だってお金無いもん。仮にそのお金があったとしても、携帯代にしてフリーダムを満喫するけどね」

「むぅー!」

 折角の夏休み、携帯代さえ無ければ、朝起きてからずっとFSCCをプレイ出来るのだ。 でも、普通の人はバイト代で携帯を払ってたりするし、それを考えると家事ぐらい温いものかもしれない。結局料理だけが僕の担当になったしね。

「ということで、諦めるんだな。氷兄かさっきの2人と行っといで」

「うう、雪姉ちゃんの意地悪!」

 冬耶はそう言って部屋から出ていった。

 意地悪も何も、体育の着替えですら恥かしいのに、水着なんてありえません!

 それに、僕カナヅチだから、泳げないのに行っても楽しくもなんともないよ。



 お昼ごはんの準備をし、母さんと冬耶の3人でリビングでご飯を食べている。

 氷兄は部活の練習、父さんは勿論仕事で不在だった。

 本日の献立は、オムライスと卵スープ。

 オムライスは安売りしていたデミグラスソースをかけただけの手抜き料理だけどね。

 時間が掛からず美味しい。ビバレトルト!

「さて、雪ちゃんお話があります!」

 あらかた食べ終わってお腹一杯になった頃、母さんが思わせぶりな台詞を吐いた。

 この言い方、過去に良い思い出が無い。

「な、何?」

「ママは酷く悲しんでいます。弟の冬君がお願いしたのに、雪ちゃんは遊びに連れていってあげないのね」

 母さんはヨヨヨヨとばかりに泣いたフリなんて始めた。

 涙が全然出てないから、本当にフリだけど。

「冬耶!」

 僕の非難の視線を感じて、冬耶がビクリと肩を震わせた。

「だって、雪姉ちゃんはお金が無いから水着買えないって言ったじゃない。だから、お母さんにお金貰えれば買えると思ったんだよ……」

 く……正論だ。

「勿論ママは、雪ちゃんの水着代なら幾らでもお金を出してあげるわよ」

 母さんはそういうだろうと判ってたよ。だから催促しなかったのに!

「……ありがと。でも僕って暑いの苦手だし、真夏に出掛けるのはしんどいんだよね」

 これならどうだ!

「あらあら、水の中に入りに行くのだもの、涼しいでしょ? 冬君もそう思うわよね?」

「うん。涼しいから行くんだもん!」

「いやいや、それは甘いね。皆その発想だからイモ洗い状況になってて、疲れるだけだって!」

「確かに一理あるわね」母さんが考えだした。

 後一押しだ!

「お母さん、そんなことないよ! 昨日出掛けた友達が空いてたって言ってたもん!」

「なら、問題ないわね」

 冬耶の説得にあっさり母さんは意見を翻してしまった。

 これは拙い……何か無いか必死に考える。

 ならば、母さんじゃなくて冬耶を攻略することにした。

「冬耶は一人で行くのは駄目なのか?」

「うん。ツマラナイもん!」

「そうか、だったら2人なら問題ないよな?」

「うん、そうだけど……知らない人とか太一兄ちゃんとかは嫌だよ」

 ふふふ、掛かったな。

「ああ、大丈夫だよ。ママと2人で行ってくればいい」

 完璧だ。何このシナリオ、自分の才能に驚くよ。

「「ええ!」」2人から非難の声が上がった。

「この歳でお母さんと一緒は恥かしいよ!」

「さすがに、ママも少し恥かしいわね」

 僕も恥かしいんだよ!

「ママなら大丈夫だよ。美人で若いもん。どうみても20代だよ。きっと皆に羨ましがられるよ」

「あら? そうかしら」

 ふふふ、母さんのって来たよ! 

「お母さんと一緒に出かけたなんて知れると、僕が後で何言われるか判らないよ!」

「冬君大丈夫よ。きっとお姉さんと一緒って思われるわ」

 くくく、頑張れ冬耶。母さんに勝てるかな?

「それでもだよ! 大体お母さんは大事なことを忘れてるよ。雪姉ちゃんが水着を持ってないと、海とか一緒に出掛けれないんだよ?」

 僕はそれでも一向に構わないぞ!

「確かに大問題ね。やはり、雪ちゃんに水着は必須よね」

 うそー。あっさり形勢が不利になったよ。

「その時はほら、僕は食べ物とか食べてるから大丈夫だよ!」

「でもね。ママは自慢の一人娘を皆に披露したいのよ!」

 ……しなくていいからね。

「ほらほら、ママの水着姿なら僕なんて霞むから問題ないってば!」

「そうかしら、でも雪ちゃんの可愛さはママを越してると思うのよね。ならこうしましょう。私達2人で浜辺を制覇するのよ!」

「うん。僕も雪姉ちゃんとお母さんが制覇するところ見てみたいよ!」

「冬君は良く判ってるわね!」

 くう、やるな冬耶、まさか母さんを使いこなして見せるとは……

 これは戦略的撤退をするべきな気がする。

「――さて、ご飯も食べたし、僕は行くね……」ソファーから立ち上がり、食器を重ねはじめる。

「待ちなさい雪ちゃん!」

「はい……」

 母さんの獲物を狙う鷹の目に、思わず作業を止めてしまった。

 僕はまるで野ウサギのようだ。

「後で一緒に水着を買いに行きましょうね♪」

「ええええ、なんで!」

「なんでじゃないの! 雪ちゃんのことだから、いつまで経っても買わないで、夏が終わるなんてこともありえるでしょ!」

 さすが実の母親だよ……良く存じてらっしゃる。

「でも、僕これから約束があるから無理だよ!」

「なら、明日でもいいわよ?」

 うう……どうあっても逃がしてくれないらしい。

 ならば、せめて被害は最小限にすべきだろう。

「それなら、こうしない? ママが買ってきたものを僕着るから、好きなの買ってきてよ」

 どうせ一緒に出掛けても、玩具にされた挙句僕の意思なんて反映されないんだから、初めから母さんの好みに任せた方がマシってもんだよ。

「本当? それならいいわよ――その代わり、必ず着るのよ!」

 初め母さんは訝しむ視線を向けていたが、僕の意見を聞き終わるとすぐに機嫌が良くなり笑顔を浮べた。

 僕からすると、狩った獲物を食す前のように見える。

[うん。でも露出のキツイ恥かしい奴は嫌だからね」

「その点は大丈夫よ。雪ちゃんはセクシー系じゃなくて、可愛い系ですもの。すごい可愛いの選らんでくるわ」

 母さんはすごい楽しそうだ。勿論、冬耶も喜んでいた。そして、僕だけが無力だ。

 あれ? でも水着を手に入れてもプールに行くとはまだ言ってないよね?

「わーい。これで雪姉ちゃんとプールにいけるよ!」

「良かったわね。冬君」

 あっさり退路も経たれた……もうあれだよね。氷兄が居ないだけマシだよね。

 はぅ……どうして僕こんなに妥協してるんだろ。

 酷い、酷すぎるよ!

 

とりあえずはプールから(笑)

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