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すのーでいず   作者: まる太
第三章
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氷室の憂鬱 1

 今日は朝からツイてなかった。

 太一の為に可愛い格好をする雪を見せられたからだ。

 それが俺の為ならどんなに嬉しかったことか……

 だが、現実は儘ならない。

 俺の相手は雪、では無くてその友達の井波さんである。

 ふぅ……溜息が出そうだ。

 井波さんも十分魅力的だと思うのに、何故俺なんだろうかと考えなくも無い。

 現に今日のワンピース姿はとても似合っている。

 彼女が声を掛ければ男子が喜びそうなものなのにな。

 現在は、駅のターミナルで雪達が腕を組んで歩いて行くのを見送った処だ。

 正直羨ましい! それも雪からだったのが更に悔しい気持ちになる。

 辛抱だ俺、頑張れ俺、負けるな俺。お昼ごはんになれば雪に会えるじゃないか!

 それだけが唯一の心の拠り所だ。

「阿南先輩、これからどうしましょうか?」

 そんな俺の気持ちを知りもしないで、井波さんが硬い笑顔を向けてきた。

 緊張してるのが一目で判り、どこか初々しいものを感じる。

「そうだな……井波さんはどこか行きたい場所でもあるのかい?」

 俺は気持ちを切り替えることにした。

 デート中に雪のことばかり考えてるのは失礼だろうし、更に井波さんは雪の友達だ。

 井波さんから好評価を聞けば、

「そんな楽しいデートなら、ボクも行ってみたいな」とか雪も言うかもしれない。

 ――って、又雪のことを考えてしまった。いかんなこれは。

「実はアタシ、男の人とデートって初めてで、何処に行っていいのか良く判らないのです」

「そうかー。それなら定番だけど映画でも観ようか?」

 定番というものは、多くの人に好まれるから定番なのだ。

 初めてのデートには相応しいだろう。

 と言っても俺もデートの経験なんて、雪以外無いのだから偉そうには言えないのだが。

「いいですね、映画……最近観てなかったので楽しそうです」

「それは良かった。じゃー映画館に行こうか」

「はい。阿南先輩」

 井波さんが一つ頷き、それから一緒に肩を並べて商店街に入っていった。

 途中、井波さんから、阿南だとどうしても雪と被るので、氷室さんと名前で呼んでもいいですかと聞かれ、それを了承した。

 その時の井波さんの表情が、満開の桜のように輝いていたのが印象的だった。

 氷室様と言われなければ何でも良いし、雪の友達だからそれもそうかと思っただけなのに、こんなことで喜んで貰うと悪い気がしてしまう。


 

 俺達が選んだ映画は、アクションモノの大作だった。

 同じ時間に恋愛モノの映画も在ったのだが、井波さんがずっと緊張したままだし、硬い内容よりは、アクションモノの方がリラックス出来ると思った為だ。



 映画が始まると井波さんも力が抜けたのか画面に釘付けになっていた。

 時節、手を握りしめて体を前のめりにしたりして、楽しんでいるのが良く判った。

 一先ずホッとする。このまま、普段の井波さんを取り戻してくれたらと願わずに居られない。

 だが、その考えも儚く散った。

 終わって外に出た時には、井波さんが又緊張した顔を浮べていたのだ。

 此処で面白いギャグでも言えたらいいのだろうが、俺はそういうのは苦手ときた。

 太一なら得意そうなので、俺と雪、太一と井波さんでデートすれば楽しくなるのではないだろうか? なんて変な思考が浮かんできたりする。

 しかし、それは負けに等しい、最後には笑顔にさせてみせると誓う。

 誰と戦っているのだろうか? 俺は……

 その前に、俺がエネルギーを補う時間だ。雪エネルギーを充填しなくては生きていけない。

 丁度お昼の時間が来たので、イタリア料理の食べ放題のお店に行くことにする。

 井波さんも反対は無く、イタリア料理が好きと言ってくれたので助かった。

 又、何の気無しに仕組んだことだが、雪と会えるのは井波さんにとってもプラスに運ぶに違いない。

 瓢箪から駒とはこのことだろう。



 店内で会計を済ましてトレーを貰い、4人分の席を確保する。

 井波さんは一瞬疑問を浮べたが、雪達が後から来ることを説明すると素直に喜んでいた。

 どうせすぐ来るだろうと、井波さんと2人で先に食べるモノを小皿に取り、自分達の席に戻って、5分ぐらい経った頃だろうか……

 急に店内の空気が変った。

 それだけで、雪が来たのが判る。

 雪を見たら目で追わずには居られない。

 さすが俺の雪だよな。 

 会計コーナーには、予想通りの清らかな白い髪の美少女が立ち、その横におまけがついていた。

 グリ○のおまけや、食玩のおまけと違い、何の価値も無いゴミなので、この際くず篭に捨てたほうがいいんじゃないだろうか。

 そして、会計が終わるのを待ち、

「おーい! 雪、こっちこっち!」

 もう限界とばかりに声を出してしまった。

 しかし、雪は此方を見ようともせず太一と何か話している。

 聞こえなかったのだろうか?

 否、俺に会えることを感謝して照れてるに違いない。

「おーい! 雪、雪ちゃーん。こっちのテーブルだよー」

 これならば、間違いなく俺の方を向くだろう。

「ああ、もう煩いな! 恥かしいから叫ばないでよ!」雪の顔が赤くなっている。

 元が白いから、その染まり具合がはっきりと判りとても綺麗だ。

 多少、むっとしてるのもツンデレのツンだろう。

 雪が近付いてくると、井波さんの肩から力が抜けるのが判った。

 やはり、雪は凄いな。俺に出来ないことを一瞬でやってのけるのだから。

 隣の席は太一になったが、雪の顔が見やすいから許す事にした。

 何処に居ても雪は可愛い。 



 その後、イタリア料理を満喫し、大分落ち着いて来ると、さっきから目の端に入ってくるモノが気になってきた。

「なぁ、その大事そうにしているぬいぐるみどうしたんだ?」

「うん? これのこと?」

 雪はそう言うと、猫仙人、多分カリ○様のぬいぐるみをテーブルの上に出し、花が綻ぶような笑顔を浮べた。

 一瞬、見惚れそうになる。この笑顔を見て落ちない男は居ないだろう。

 だが、その前に聞いておくことが……

「そう、それだ。買ったのか?」

 太一からプレゼントされた可能性が大いにあり得る。

「ううん違うよ。UFOキャッチャーで太一が入手してくれたんだ――いいでしょ!」

「へぇ……太一がな?」

 やはり太一か……一回シメねばなるまい。

「そそ、結構簡単に取ってくれたんだよね。太一と一緒じゃなかったら無理だったかもしれないよ」

「そうか、よ、か、っ、た、な……」

 俺では無理だということかそれは! 苛立ちが募っていく。

「ちょ、雪その辺りでええやろ!」太一が慌てて止めに入った。

 どうやら俺の気持ちを察したらしいな。今止めなかったら……くくく。

 雪は鈍いからそれでも太一を誉めていたが、太一が屁理屈つけて雪を納得させたので、今回は見逃してやることにした。

 なんせ、俺にも弱味があるからな。

「氷兄は遥に何かプレゼントしたの? まさかしてないなんて事無いよね?」

 ――って、ピンポイントでそれをついてきた。

 雪の天然がこんな処で発揮されるとは……

「ええと、それはだな」

 思わず雪から目を逸らしてしまった。

 だが言い訳をさせてもらえば、映画を見てたのだから買う暇なんて無かったのだ。

 俺だって、記念の品ぐらい贈ろうと思っていたんだからな。

「雪、別にそんなの要らないって!」井波さんが援護してくれる。ありがとう。

「遥は優しいね――氷兄、どうするのかな?」雪がジトーっと俺を見ている。

 その澄んだ青い目がとても綺麗だ。じゃなくて……

「ええと……遥ちゃんどんなものが欲しいのかな?」

 雪が急かすから、思わず名前で呼んでしまったじゃないか。

「ほ、本当に何も要らないですから……気にしないで下さい」

 とりあえず、名前の件は大丈夫だったらしい。

「…………」

 でも、明らかに雪が催促してくる。

「それなら、ゆ、雪と一緒でぬいぐるみとかは、どうだろう?」

「……いえ、本当に、ぬいぐるみとか高いですし」

 雪の機嫌が治まるならと安易に言ってしまったが、同じモノでは流石に芸が無かったよな。

 後悔先に立たずだ。

 その後も色々あったが井波さんにプレゼントすることは決定事項になったようだ。

 初めから何かプレゼントしようと思っていたし、楽しみにしておいてくれと井波さんには心の中で言っておこう。

 そして午後からは、思ってもいなかった幸運が舞い降りてきた。

 雪達と一緒に回ることになったのだ。

 井波さんがお願いしてくれたお陰だが、俺って実はツイてるかもしれない。

 あれ? 朝ツイてないとか言ってたような。きのせいだろう。

やはりというのか、5話分を1話でまとめるのは無理がありました。

ということで2部構成です。はい。


氷室視点書いてて楽しかったです。

偶にはいいですね。

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