副賞を行使しよう 5
「氷室さんどうしたんだろ?」遥が心配気な表情をしている。
「ちょっと遅いね。でも氷兄なんてほっとけばいいよ。どうせ、迷子にでもなってるんでしょ」
「それは雪だけやな。あの氷兄ちゃんが迷子とかあり得へん」
さり気なく太一に貶されてる?
「じゃー太一はどうしてこんなに遅れてると思うんだよ?」
「そやな。ナンパされてるんちゃうか? 氷兄ちゃんかっこええからな」
「うーん、別にカッコイイと思わないけど……」
普段あれだけ変態なのに何処がだよね。
「雪は近くで見てるからや、現に学校でだって女子から大人気やろ?」
「あれは学園七不思議の一つだねー。銀田一少年なら殺人事件が起きちゃってるよ! でも、遥も氷兄が好きだしなぁ、そういえばなんで氷兄がいいの?」
急に話を振られた遥が驚いたようにビクっと背筋を伸ばした。その後モジモジしだす。
「え、ええと、アレだよ。氷室さん、優しくてカッコイイし、好きな人にはトコトン尽くしてくれそうじゃないか……」
「井波さんよー見てるなぁ、氷兄ちゃんはそれに実行力もあるからな。正直モテルのはよく判るんや。雪の目が曇ってるねん」
ふむふむ。2人がそう言うんだから氷兄の評価は結構高いんだね。でも――
「ボクの目はサファイアのようだと良く言われるよ!」
「さよか、よかったなぁ」
むーかーつーく!
そうこうしてると、氷兄がドアを開けて入ってきた。
「悪い遅れた。サッカー部の連中と会ってさ、雪が居るのバレルと煩いから撒いてきた」
「何でボクが居ると問題なのさ!」
氷兄に溜息をつかれた。
「雪は相変わらず鈍いよな。そこが雪らしいけど、お兄ちゃん♪ が居るから防波堤になってるんだぞ?」
「そうなの太一?」
「そやな、狙ってる奴が多いのは事実やろな」
「ちょっと待て、なんで太一に聞く!」
「だって氷兄の言うことなんて信じてたら生きていけないじゃない」
「うわ、酷……」
あっ、氷兄落ち込んじゃった。
日頃の行いが悪いだけなのにね。
「雪、言い過ぎだって、氷室さんが雪を守ってるのはアタシが見ても判るぞ」
遥にまで言われるとは……
「しょうがないなぁ。氷兄ありがと助かったよ」ニッコリ微笑んであげる。
「いやいや、雪の為と思えば何のそのだ、ははははは」
それだけで氷兄は立ち直った。こんな単純でいいのかな?
「氷兄、そこでつっ立ってられても邪魔だから座ってよ」
「それもそうだな」氷兄がボクの隣に躊躇すること無く座った。
遥の隣にしようとしたんだけど、又緊張しだすしこの方がいいかと諦める。
「それで、雪はアニソンばっかりか?」
「またそれ……ボクだってアニソン以外も歌えるんだよ!」
「どうせ、アニメのオープニングとかに使われている一般の曲やろが……」太一がボソリと呟く。
その通りだけど、言わなければバレないのに~!
「そかそか、まー好きな曲歌えばいいさ、楽しいが一番だしな。井波さんも歌ってる?」
氷兄が来たことで急に大人しくなった遥に氷兄が気を使ったようだ。
「あ、はい。大丈夫です。楽しんでますよ」
「了解、今日は井波さんとのデートだし、楽しんでくれないと困るからな」
一応氷兄の頭にそのことがあったのは驚きだね。
「それじゃ、折角だし氷兄と遥でデュエットでも歌えばどう?」
「ちょっと……」遥が僕の台詞に赤くなった。
うん、可愛い反応だね。正直氷兄には勿体無いぐらいだよ。
「井波さんがいいなら俺はいいぞ。後で雪も歌おうな」
「ボクは太一と一緒に歌ったもん。遥とだけで十分だよ」
「太一とは歌えて、俺とは嫌なのか!」
又始まった……
「だったら、氷兄と太一で歌えばいいんじゃない?」
「「嫌だ(や)!」」2人に即答されたよ
こういう時は妙に気が合うよね。
全員揃ったカラオケは大いに盛り上がり、時間を忘れて堪能することが出来た。
歌い過ぎで喉が痛くなったのは愛嬌だね。
カラオケが終わり外に出ると、商店街が夕焼けのオレンジ色の光に照らし出されていた。
夏が近付いて来たのを肌身で感じる瞬間だ。
そして、此処でデートは解散という方向になった。
時間も17時過ぎ、妥当な判断だと思う。
「あっ……」
商店街の出口まで向かう途中、遥が何かに気付いたように小さく呟いた。
遥の目の先には、昼の時に見ていた洋服屋さんがあった。
「どうしたの遥?」
「リ、リボンが無くなってる……」
確かにマネキンのリボンが別のモノにすり替わっていた。
「……やっぱり、欲しい時が買い時なんだよね」
遙には悪いけど、こればっかりは時間が戻りでもしない限り無理だと思う。
「そうだよな……」遥はガックリと肩を落とした。
「さっきから何の話をしてるんや?」
空気の読めない太一が僕に尋ねてくる。
「ええとね、遥が欲しいと言ってたリボンが売れちゃったみたいなんだ……」
「そうか、それは縁が無かったと思うしかないわな……」
「でも、マネキンのリボンとか皆良く気付くよね、ボクには絶対無理だなぁ」
「雪ならそうやろな――じゃなくて普通気付かない気もする。服や無くてリボンやしな。オレらがカラオケしてる間に、店員さんが気分を変えて変化させただけ、いう落ちもあるんちゃう?」
「そういう考え方もあるか――ちょっと僕聞いてくるよ!」
駄目元って言うしね。
沈んでいる遥の代わりに、僕が店内に入り店頭のリボンについて尋ねて来ることにした。
――店員さんと話して戻ってきた僕に太一がどうやったと顔を向けてくる。
「うんとね。やっぱり売れちゃったみたい……お昼過ぎぐらいに買われたらしいよ」
「そか……まーそう都合良くはいかんか」
「遥もゴメンね。店内にあったら買ってきたんだけど」
「いや、雪は悪くないって、散々雪は買うように言ってたんだからさ、アタシが躊躇したのがいけなかったんだよ」
遥の表情から無理をしているのが判る。
さっきまで楽しかったのに――てか、こういう時になんで黙ってるかな!
「氷兄も何か遥に言ってあげなよ」
「あ、うんそうだな。井波さんもあまり気にしない方がいいと思う。別にそれだけが全てじゃないんだからさ。今度、他に良いものが見つかるかもしれないだろ?」
「……そ、そうですよね。氷室さんのお陰で元気が出てきました!」
氷兄の励ましを受けて、遥がほのかに微笑んだ。
うわ、これが恋する乙女のパワーか! 僕と太一が言うより100万倍効果があるよ。
「ねー太一、ボク達って邪魔者だろうし、さっさと2人で帰ろうか?」
「そやな。後は若い者同士、親交を築くのがええよな」
僕と太一がお互い頷き合う。
「ささ、参ろうではないか、太一さん」
「そうですわね、雪さん」
「ちょっと! そこの2人聞こえてるからね」
あらら、氷兄と2人の世界に入ってると思ったら、ちゃっかり遥にばれてたみたい。
本当はその方が嬉しい癖に、素直じゃないよね。
「まぁまぁ、ボク的には今日の遥を1人で帰らすのはどうかと思うし、デートは家に帰るまでだから氷兄に送ってもらいなよ」
「ア、アタシは別に問題ないから、氷室さんに迷惑は掛けれないって」
どうせ遥はこう言うだろうと思ってたよ。説得するのは氷兄の方なんだけどね。
「氷兄文句ないよね?」
「……そうだな。雪の友達を危ない目に遭わせる訳にはいかないし送っていくことにするか」
氷兄は何か考えるようなそぶりを見せたが、すぐに頷いた。
なんだったのだろう? ま、気にしても仕方ないよね。どうせ下らないことだろうし……
自転車置き場で氷兄達と別行動となり、僕と太一は同時に自転車を漕ぎ出した。
「それじゃ太一、さっさと帰るよ! FSCCが待ってるらね」
「待ってるのは雪だけやろが……今日のデートはオレ的にかなり中途半端なんやからな」
むむ、ダブルデートみたいになっちゃったしな。太一が文句言うのも多少は判るかぁ……
「まぁまぁ、落ち着いて、別に太一とならいつでも構わないし、又2人で遊び来ようよ」
「……しゃーないなぁ。ぼけぼけの雪に言っても無駄やし、その約束忘れたら駄目やからな」
「判ったって」
「はぁ……氷兄ちゃんに邪魔されないで済むデートやったのに、ついてへんわ」
「それはあれだね、太一の日頃の行いが悪いからじゃないかな?」
「嘘ー。オレみたいな清廉潔白な人物は居ない筈やん!」
「よくそこまで自分で言えるよね。まぁ、でもあれじゃない。僕と知り合えたんだから太一は幸運なんだよ」エヘヘと太一に笑いかける。
「…………」太一は呆けたように僕の顔をジーっと見ていた。
ちょっと! 軽い冗談で言ったのにそう本気に取られると恥かしいじゃないか!
頬が赤くなってくるのが判るよ……
「それもそうやな。オレは一人っ子やから、雪は勿論のこと、氷兄ちゃんも弟みたいに扱ってくれるし感謝してる分はあるんや」太一は照れ隠すように頭を掻いている。
氷兄にも今の台詞を聞かせてやりたかったな。
そしたらもっと太一を……いやそれは無いか、僕が絡んでる限り絶対氷兄はこのままだろうしね――
ダブルデート偏 終了です。
いやー、長くなってしまいましたねぇ。
この後は、遙視点or氷室視点で1話ぐらい挟む予定です。
どちらにすべきか……
さすがに両方だとクドイですしね。




