副賞を行使しよう 2
「ええとさ、なんで模型屋に来てるんや?」
「顔なじみだったし、商店街に来たら寄るのは当然だよ!」
氷兄達と別れて最初に向かった先は、模型ショップアルゴスだった。
小さな店内にプラモが山積みになっており、宝探しをしてるみたいな感覚になるお店だ。
しかし、僕的には楽しいのだけど太一には不満だったらしい。
文句を言うなら僕の行きたい処とか言わなければいいのにね。
「確かに、オレもこの店にはお世話になってる。せやけど折角のデートやろ? 趣が無いやろが……」
「そうかな? 好きな場所行くのが一番楽しいと思うけど。それに、太一にも良い事があるよ!」
「まさか改造モーターが手に入るとかそんなオチやないやろな?」
「それも欲しいね! ミニ4WDの直巻きモーターって此処しか手に入らないもん」
「何ノリ気になってるねん! それで得ってなんや?」
うーん。そう真面目に聞かれると言うのが恥ずかしいんだけど、言わないと何時までも聞いてくるんだろうなぁ……
「ええとね……僕の笑顔が見れるよ! いやー太一ってば幸せ者だね!」照れを隠すように太一の肩をパンパン叩く。
「…………」
うわ、太一の視線が冷たいです。
僕のアイスストームより強そうだよ。
「ほらほら、見て、雪ちゃんスマイル!」エヘッと渾身の笑顔を向けてみる。どうだ!
「いや、まぁ。確かに雪は可愛いと思うんやが……それでええんか?」
何故だ! 僕が負けた気がするのは……太一の癖に生意気な。
「それなら――雪ちゃんスマイルパート2!」今度は太一の顔を覗き込むように上目遣いを足してみた。後ろに手を組むおまけ付だよ。
「…………」
「――ああ、もう判ったわ。オレの負けやわ。そんな顔すんなや」
太一が顔を逸らした。ちょっと顔が赤くなっている。
「最初から素直に喜べばいいんだよ!」
ふふふ、勝ち! 敗者には何も残らないって誰か言ってたしね。勝てばいいんだよ。
「さて、MGどんなの出たかなぁ」
太一が納得したなら物色を再開しないとね。
――僕がMGのガ○プラコーナーに夢中になっている時だった。
「おお、太一君じゃないか。今日はどうしたんだい?」
「おはようっす。今日は相方の希望で寄らせてもらったねん」
急に掛かった声に太一が返答したみたいだ。
僕はその話してる方に顔を向けてみた。恰幅の良いデニムのエプロンをした、このお店の店主さんが髭を弄くっていた。太一も店主さんに愛想笑い等を浮べてる。
「へー、良く太一君に彼女が出来たね。俺的には雪ちゃんと付き合うと思ってたんだがな」
「店主さん何言ってますねん。この娘が雪やん」
「え?」店主さんが目を丸くしている。それと同時に僕の心臓も跳ね上がった。
太一のアホ! 妹で通す予定だったのに、なんてことしてくれたんだよ。
男から女になりましたなんて言えないんだからね。
太一を軽く睨むと、大丈夫やみたいな顔をされた。何処がだよと言いたい!
「ほら、良く見てーな。髪とか目の色が変ってもうたけど、どっからどう見ても雪やんか」
太一の説明を聞き、店主さんは僕の容姿を上下に眺めた。
「……おお、本当に雪ちゃんだ。少し見ない間に女っぷりが上がったなぁ。その髪とかどうしたんだい?」
少し違和感を感じるのは何故だろう?
「あはは、お久しぶりです。急に先祖の遺伝子が発現したらしくて、こんな姿になっちゃいました」もう笑って誤魔化すしかないよね。
「そうなんだ。まぁ似合い過ぎるぐらいだから問題ないかな。でもあの雪ちゃんがこうなるとは――男装も止めたようだし、女の子は本当に綺麗になるのが早いな」
はい? 今ので違和感の正体に気付いたよ……僕のことを男じゃなくて女だと思ってたのか……
昔からの付き合いなのにこれは酷い。何で僕だけ『ちゃん』付けなのかずっと不思議だったんだよね。
――って、良く考えたら太一は知ってたの? だから問題無いって顔してたんだ。
それなら……ジーっと太一を見る。太一はビクっと反応した。
相変わらず危険を察知するのは素早いね。
しかし、僕の思考はここで強制終了させられた。店主さんが話を振ってきたからだ。
「そうだ雪ちゃん。良いタイミングで来てくれたし、お願いがあるんだけどいいかな?」
「あ、はい。何でしょう? ボクで出来ることですか?」
「勿論だとも。というよりも雪ちゃんが最高だな!」
最高ねぇ……
「……それでどんな事なんですか?」少し警戒した声を出す。
「実はな、今度商店街振興企画として、各店対抗の美少女コンテストがあるのさ。それにうちの店代表で出て欲しいんだ」
うん、聞かなければ良かったね。
「嫌ですよ。恥かしいですから」
「そこをなんとか、俺と雪ちゃんの仲じゃないか。太一君もお願いしてくれよ」
太一はあからさまに迷惑そうな顔をしている。
だが、親父さんが出す懇願の目に折れたようだ。
「ゆ、き、や、っ、て、や、れ、よ」
幾らなんでもその片言な表現は誠意無さ過ぎだろ! とツッコミたいけど、太一にやる気になられても困るからこれでいいかもしれない。
「あっ! 思い出した。店主さんの家には娘さんが居ましたよね? その娘に頼めばいいじゃないですか」
「確かに居るけどな。アレなんか雪ちゃんと比べたら、ローレ○アの王子とサマ○トリアの王子ぐらいの差があるんだって!」
サマ○トリアの王子も役に立つよ! メガ○テだって使えるしね。
「うーん。でもやっぱりお断りしますよ」
「まぁ、待ってくれって。何も無料でやって欲しいとは言ってないし、それを聞いてからでも遅くないだろ?」
その言葉には少し惹かれるものがあるね。
店主さんの言うとおり、内容を聞いてからでもいい気がしてきた。
そこで期待しながら続きの台詞を待つことにする。
「コホン!」店主さんが咳払いして一拍置く。
「もし雪ちゃんが出てくれるなら――なんと! このお店の商品の中から好きなものを1点進呈しようじゃないか!」
「本当ですか!」
うわ、エアーブラシのセット欲しかったんだよね。
○ゲージのセットもいいかも。電車模型はロマンだよ!
ううう、迷うよ――
「雪、のせられてるぞぉ」太一の呟きでハッと我に返った。
危なかったよ……すっかりやる気になってた。
「太一君どっちの味方なんだよ!」
「勿論雪の味方ですわ」
店主さんの非難に当然とばかりに太一は即答した。
おお、太一どうしたんだろ。珍しいじゃないか!
「むむぅ、本当にうちの品なら何でもいいんだよ。雪ちゃん?」
店主さんが懲りずに僕を見てくる。
そう言われると捨てがたいものがあるんだよね。
「でも……」
「別に早急に結論を出さないでさ、時間はあるんだから前向きに考えてみてよ。欲しい物が出来て出場したくなるかもしれないだろ?」
それなら問題無いかな。
「一応考えておきますよ」
「それじゃ、よろしく頼むな」
そう言いながら店主さんはカウンターに戻っていった。
これ以上押して僕のやる気が下がるのを警戒したのかもしれない。
その後、僕と太一は見物だけして、このお店を後にした。
今買ったとしても荷物になるだけだし邪魔になるからね。
MGの黄色い奴欲しかったなぁ……
次の目的地は太一の行きたい場所となり、太一が悩んでる間にアイスを屋台で購入した。
抹茶のシングルを頼んだのに、ストロベリーまでおまけして貰えたのはついてたね。
女の子はお得だよ!
「太一決まった?」
アイスが増えてホクホク顔で尋ねる。
「それがな、オレって雪と一緒なら何処でも楽しいことに気付いたねん。かといって雪に任せるとロクな場所選ばんからな」
「そう文句言うから太一の好きな場所にしたんじゃないか。それと、はい、さっき助けてくれたからストロベリー食べていいよー」
手に持ってるコーンの、抹茶の上に乗っているストロベリー部分を差し出した。
「ありがたく貰うねん。今日は少し暑いからちょうどええわ」
太一がパクッっと口に含んだと思ったら、ストロベリーアイスの丸い物体が消失した。
冷たかったのか、くぅと少し顔を顰めている。
「ええええ、まさか全部食べるとか信じられないよ! 少しは僕の分を残しとくみたいな優しさは無いの?」
「――どうせ雪のことやから無料で貰ったんやろ? 別にええやんか」
う……何故判ったんだろ?
「そうだけど……むぅ、いいよ抹茶好きだから」
何か違う気がするんだけどね。
「そやそや、それでええねん。大体雪は甘いもの食べ過ぎなんや。太っても知らないで?」
「ふふふ。何故か僕って太らない体質なんだよね。きっと良い子だからだね!」
軽くなってしまった抹茶アイスを一口味わう。抹茶独特の香りと苦味がアイスを更に美味しくしてるね。
「あれだけシュークリーム食べてるのに不思議やよな。それとさっきのは他の女の子の前で言うのはやめとくんやで、殺されるからな?」
「了解。そんなことより太一はさっさと次行く場所考えてよ」
「わーたから、ちょっと待つねん」
抹茶アイスを再び口に含む。一気食いとか勿体無い真似僕には出来ないよ。
お昼ご飯の時間も近いということで、太一が選んだ場所は近くのゲーセンだった。
あれだけ言ったのに模型屋と大差ないと思うんだよね。
店内に入るとゲーム筐体から流れる大量のBGMが聞こえ、入り口付近にはUFOキャッチャーが並んでいた。
「うわ、カリ○様の人形がある!」
UFOキャッターの筐体に近寄り、取れそうな位置にあるか素早く目視した。太一も一緒に眺めている。
「なんで、カリ○様やねん。普通なら、隣の筐体のチョッ○ーとかじゃないんか? ああ、雪はアレでええやん。ヴァンパイアプリンセスのエリカ人形」
太一はぷぷぷと笑いながらエリカの人形を指差している。
「まだ言うか! 別に太一の趣味なんてどうでもいいんだよ。この猫仙人が欲しいの。プー○ルでもいいけどね」
「とかいって、○ーロンが取れたらどうするんや?」
「○ーロンは要らなからら太一に上げるよ」
「ってやる気なんかい……」
「当然じゃないか!」
早速200円をスロットに入れてスタートさせる。
ボタンを押す前に取る対象を前後左右から見るのがコツだよね。
「ふぅ」軽く深呼吸して→のボタンを押した。
独特のBGMが流れ、僕の目算通りの場所にクレーンが動いて止まった。
どうせ持ち上げようとしても簡単に掴めないから、片方のアームにぶつけて転がす位置に調整したのだ。
横が決まれば縦は楽かもしれない。と言いつつも筐体の横に体を移動して、そこからボタンを押すんだけどね。
勝負! ↑ボタンを押してタイミングを計って指を放す。
すると、ゆっくりとアームが開きクレーンが落下していく。
この瞬間がワクワクするんだよ!
クレーンは予想通りの軌跡を描き、良い具合に爪がカリ○様にぶつかった。
数秒待ってからクレーンが上がると、それにつられてカリ○様が押し出されるようにダクトに向かって転がりだした。
キタ! ――と思ったが、此処で予定外なことが起きてしまう。
ダクト付近にあった○ーロンの人形が邪魔して跳ね返ってしまったのだ。
……さすが○ーロン、要らないだけじゃなく僕の邪魔をするとは……
次やれば取れるだろうか? でも位置が微妙になったし難しくなった気もする。
うーん。迷うな。
「おお、惜しかったやないか」
「そうなんだけどね。太一が○ーロンとか言うからだよ!」
「あはは、軽いギャグやがな。ほな、わいがやったるから。ちょっとどき」
「う、うん」太一に場所を譲り渡した。
転がし作戦が使えないと難易度が上がると思うんだけど大丈夫なのかな?
そんな僕の心配を他所に、太一は特にこれといったことをしないでいきなりボタンを押してスタートさせた。幾らなんでも適当過ぎると思う。
その結果、クレーンはカリ○様から少しずれた場所に落下する。
やっぱりちゃんとやらないと駄目だよね。
しかし、太一の表情は変らない。どちらかといえば此処からが本番みたいな顔をしている。
僕が終わったなぁと眺めていた時だった。
クレーンが上がる際にカリ○様のタグに爪が引っ掛って持ち上げたのだ。
「ええええ!」
「見たか! 秘技タグ掛けねん!」
「凄い! 狙ったの?」
「当然や。こんなん適当で出来るかいな」
そのまま順調にクレーンはダクト迄動き、コトンっと音をさせてカリ○様が穴に吸い込まれていった。
太一は排出口からカリ○様を取り出すとそのまま手渡してくれる。
「ほら、雪にやるねん」
「うわぁ、ありがとう!」それを受け取って触りながら眺める。
うん、愛嬌ある顔がキュートだね!
「今日の太一は優しいね。どうしたの?」
「オレはいつも優しいやないか!」
「そうかなぁ?」
普段は僕を利用することばかりなのにね。
「そうやそうや、まぁ、今日はデートやからな雪を大事にしないとアカンやろ?」
「ふーん、そうなんだ」
そこまで女の子扱いしなくてもいいと思うんだけど……
まぁ、カリ○様は嬉しいし、偶には太一の好意に甘えてもいいかもしれないね。
「ほな次はアレでもするか?」
太一が顎で示した先には、格闘ゲーム、ヴァーチャ闘士6があった。
「ふふん。この僕にヴァーチャ闘士を挑むとは100年早いね!」
ヴァーチャ戦士5を家でやり込んでる僕に抜かりはないのだ。
「オレも結構強いし勝負しよや。どうせ雪のは強がりやろうからな」
「言ったな! この並木リオ○と呼ばれた僕の実力を見せてあげるよ!」
「初めて聞いたわ!」
その格ゲー勝負は――僕の圧勝だった!
3連敗の太一は、「華を持たせてやったねん」とか苦し紛れの台詞を言ってたよ。
悔しそうな表情が嘘なのが丸判りなのにね。
この話は4話構成です! あくまでも……予定ですよ。
余計なシーンを入れすぎた為にこうなってしまいました(汗)
素直にオチまで一直線の方が良いのかいつも迷います。
それでも大抵入れちゃうんですけね。




