体育祭です! 3
まったく……アリ○の服のままご飯を食べてた自分に文句が言いたいよ!
あの後すぐ父さんが帰ってきてしまったのだ。
父さんの目の輝く様、今思い出しても溜息しか出てこない。
変な声出しつつ写真を撮りまくるから、妙に目立ってしまったのだ。
挙句の果てに周りの人からも撮られる始末。可愛いとか散々言われたよ。うううう。
最後には此処ってコスプレ会場? みたいな状況になっていた。
こうして――僕の悪名が一つ増えるんだろうね。
はぁ……溜息が出るけど、それは置いとこう。
別に現実逃避じゃないからね!
問題は1位の白組と30点離れていることなのだ。
更に午後の部の競技は棒倒し、騎馬戦、玉入れ、男女混合リレーの4つである。
その中の玉入れしか僕は参加出来ないから、目立つチャンスはとても少ない。
つまり、球入れで、僕のMVPを印象付けるしかないのだ!
その前に逆転が最優先事項だけどね。
――点差は縮まることなく、玉入れの種目が迫ってきた。
僕も体操服に着替え、赤組の鉢巻をして合図を待っている。
……数分の後、明るい音楽が会場に流れた。
「次は1年生による玉入れです。参加選手は入場して下さい」
そのアナウンスに従い1年生全員がグラウンドに散っていく。
そして、開始場所にチームごと固まり準備に取り掛かった。
僕の役目は篭を担いで、敵チームから球を入れられなくするものだ。
いくら味方が敵チームの篭に玉を入れても、僕が大量に入れられたら意味が無い為、結構重要なポジションなのである。
この配置は太一の考えだ。
僕が篭担いでたら、ぶつけてくる勇者は居ないと自信たっぷり気だった。
体育祭だからそこまで甘くないと思うけど、これで勝てるなら楽だし言う事を聞いたよ。
本当太一は僕を利用しまくるよね。優しさとか無いんだろうか?
「パーン!」スターターピストルの音が流れ、競技が開始された。
その瞬間、
「赤組、その作戦は詐欺だろ!」
「汚ねーぞ!」
「悪魔の知恵かよ!」
「卑怯過ぎだろうが!」
「考えた奴出して!」
「雪ちゃんに嫌われたらどうするのよ!」
「篭持ちを変更しろ!」
他の組から怒号が飛んできた。
本当に効果があるみたい。
その間、容赦の無い赤組は他のチームの篭に玉を入れていく。
一方の僕は――トコトコ歩いていた。
他チームの篭持ちは必死に逃げ回っているのに……
これでいいんだろうかと少し罪悪感が沸いてくるぐらいだよ。
当初は僕の篭に入れようとする人も居たのだ。
だけど、素早く入れられないように投げる人の正面を向き、小首を傾げて相手の目を見たら、
「くそぉ! 俺には出来ねーーーー!」とか叫んで他の篭に向かっていくんだもん。
それは、男子だけでは無く女子にも同様だった。
「ううう、雪ちゃんにぶつけるなんて私には無理よ!」
みたいな感じで去っていってしまう。
暇だから、球を拾って投げるのもありなんじゃと思うぐらいだよ。
グラウンドに絵でも描いているのもアリかもしれない。
なんて、新しい遊びを考えていると、
「パーン!」終了の音が流れた。
集計の結果――赤組78個、他の組の平均が50個ぐらい。
5個しかない篭のうち4個をフル活用出来る赤組、3個しか使えない他の組の差が顕著に出たとも言える。
敢えて言おう! これって僕目立ってたの? ううう。
――点差が10点差に縮まり、後すのは男女混合リレーのみとなった。
応援するだけになった僕の前には、何故か赤組のリレー選手が列を成していた。
皆、期待するような顔をして言葉を待っている。
マスコットなんてするものじゃ無いとしみじみ思うね。
「頑張って下さいね」
「雪ちゃんに次の勝利を捧げるぜ!」
「あはは、期待してます」
そう、白い歯を見せて男子の先輩が去って行った。
……次の人
「ガンバですよ!」
「俺の活躍を見ててね雪ちゃん!」
「はい、応援してますね」
鼻息を荒くして男子の先輩が列から抜けていく。
はぅ、疲れるよー。
代わりの人が前に出る。変態だった。
これは放置でいいかな。
「はい、忙しいからさっさと行って!」
「ちょ、折角並んだのになんでだよ。少しはお兄ちゃん♪ にも優しくしてくれよ」
「……煩いなぁ。じゃー何て言って欲しいの?」
「そうだな。お兄ちゃん♪ 頑張って、愛してるの! こんな感じ?」
はぁ……寝言は寝てから言って欲しいね。
「カマ○ウマ頑張れー、さっさと消えて! こんな感じだよね?」ニッコリ笑顔を向けてあげた。僕って優しいね。
「ちょっ! 酷す――」
氷兄はその台詞の途中で横に蹴られて列からどかされた。
代わりに僕の前に居るのは西条さんだった。
「何しやがる!」氷兄は西条さんに噛み付く。
「長すぎ。皆平等に一言だけ貰ってるのだから、黒いのはサッサとどく。ちゃんと応援して貰ったでしょ!」
「あんなの違う! 雪、まだ終わってないよな?」
氷兄が僕に確認取ってきたので、シッシッと手で追い払う。
「ひ、ひでー! だがそんな冷たい雪も好きだからな!」訳のわからないこと抜かして去っていった。結局言葉はなんでも良いみたいだね。
「さて、雪ちゃん。馬鹿も消えたし、私にも一言頂戴な。多賀子お姉ちゃん♪ て混ぜてね」
……まぁ、氷兄をどかしてくれたし、そ、それぐらいはいいかな。
「多賀子お姉ちゃん♪ 頑張って!」愛想笑いを浮べる。
今日だけで、何回したんだろう。
「す……凄く心が震えたわ。お姉ちゃん♪ 頑張るから!」
「あぅ」
西条さんに軽く抱きつかれて変な声を出してしまった。
すぐ離してくれたので、今の何? という感じだ。
その後手を振りながら笑顔で歩いていったのだが、
「雪ちゃんとのデート、これがずっと続くのね!」とか黒いモノ出していたのは見なったことにしよう。これは、深く考えたら駄目な気がするよ。
そのまま数人激励すると、次に来たのは太一だった。
「ああ、太一もリレーの選手だっけ? どんなズルしたの?」
「……雪の見る目がどんなのかよー判ったわ!」
「そうかなぁ。太一を知る者なら皆言うと思うんだけど」
「……これって応援してくれるんや無かったのか? 逆にやる気がどんどん減っていくんやが」
「ああ、そうだった。太一のせいで忘れるところだったよ」ポンと手を叩く。
「どんな理屈やねん!」
「はいはい、それでどんな言葉がいいの?」
「パ……」
冷たい目をすると、太一の口が止まった。
「ど、ん、な、言葉がいいのかな?」
「む……」
氷点下の目をすると、再び太一の口が止まる。
パンツ見せろ、胸触らせて以外言えないのかこの馬鹿は!
「用件は終わりみたいだね。さっさとどいて邪魔だよ」
「じょ、冗談やがな、ゆ、雪をリラックスさせる為に、やったんや!」
「フーン? ソウナンダ?」
それだけ慌ててたら1発で嘘なのが判るんだけどね。
「うわ、信じてへんし、そんなんだから身長が伸びへんのや」
「…………」シベリア級の目を向けてみた。バナナで釘も打てちゃうね。
「……冗談や、スマイル、スマイル」
全然面白くない。というより喧嘩売られてる気がする。
「ああ、なんだ、そう、あれや。雪が笑ってくれたらオレも頑張れる気がするんやけどなぁ……」
「冷笑、失笑、嘲笑のどれがいいのかな?」
「鬼か! オレと雪との仲やないか、あんまりやがな」
「もう後つかえてるんだから、さっさとしてよ」
「じゃー。『頑張って』って言って微笑んでくれや」
「初めから素直にそう言えばいいのに……太一頑張ってね。応援してるよ」リクエスト通りに微笑んであげる。太一は妙に嬉しそうな表情になった。
「おう、任せとけ。MVPはオレに任せるんや!」ポンポンと頭を叩かれて列から離れていった。
考えてみれば、太一がMVPを取るのは問題ないんだよね。
僕が取れなかった時の保険に丁度いいかもしれない。頑張ってもらおうじゃないの。
――やっと応援が終わると思った時に遥まで来た。
「やほー雪元気してるかぁ?」
「もう疲れたよー。遥の裏切りのせいでこうなったんだからね!」
「まだ言ってるのか、悪かったって謝っただろ。それに、某シュミレーションRPGみたいに、雪が応援したら2回攻撃になりそうだし、そっちのほうが有利だろ」
「何それ。それならボクが勇者になって、会心連打で倒したいんだけど」
「あはは、無理だろ。雪ってさ鈍くて天然だからなぁ」
「む……遥はボクをカラカイに来たの?」
「違う違う。ほら、縁起物みたいだから、アタシも一言貰おうかなぁって思ってさ」
「ふーん。別に良いけどね……頑張ってね! ボクのMVPの為に」
「なんじゃそら。まぁいいや、行って来る!」
遥は小気味良い返事を残して、入場口に歩いて行った。
ええと、4部です!
玉入れが無ければ3部だったのですが、ほら主人公活躍させてあげたいじゃないじゃいですか!
ということで4部になりました。
本来省いても良かった話なんですけどね。




