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すのーでいず   作者: まる太
第三章
40/84

忘れたころに…… 2

6/4 ルビと誤字を修正しました。

 やっとお昼休みになった。

 その間、触らぬ雪に祟り無しという状況で、僕に声を掛けてくる者は居なかった。

 いや、正確には1人いた、その1人とは勿論太一である。

「雪どうしたんや? 可愛い顔が台無しやぞ? なんなら胸揉んでやろうか?」

 こんな時に言う台詞がこれだよ? 優しさなんて消えたね。

「……そ、ん、な、に、揉みたいのかな?」フフフという声が聞こえていたかもしれない。

 鬼気迫る表情で、睨んでやる。

 太一がドン引きして後ろずさりながら逃げていった。器用な真似だと関心したね。

 幼馴染だけあって、僕の怒りのレベルぐらいは察し出来るらしい。

 ここで、「おう」とか肯定の返事をしたら、4階から突き落とすところだっただけに、命拾いしたね。    

 これを見ていたのだろうう、誰も近付いて来なくなったのだ。 

 

  

 早速僕は目的地である2階の3-A教室を目指す。

 途中、僕に声を掛けてくる人が何名かいたけど、「すいません急いでます」とバッサリ切り捨てた。

 普段ニコニコ笑顔をしてるだけに、この様子に只事じゃないのを感じたみたいだ。

 その後は、すぐ引いてくれて助かった。

 たぶん、しつこくされてたら、感情を爆発させていたに違いない。



 2階に到着すると、お昼休みだけあって廊下にも生徒が散らばっていた。

 その中に1年生が混じるという光景は、特に目立つものがある。

 しかし、そんなものを気にすることなく、2階の角にある3-Aの教室前に着いた。

「ふぅ」軽く深呼吸する。

 怒りは収まっていないけど、今から話す相手は見ず知らずの上級生。

 失礼があってはならないのだ。それぐらいの冷静さはまだ残っている。

 この間も注目されているのを感じていた。しかし、ここで躊躇してる場合ではない。

 今も、刻一刻と僕の恥が全世界に発信され続けているのだから。

 丁度、教室から女子の先輩が出てきたので声を掛ける。クールな美人って感じの人だ。

「すいません。ちょっとお願いがあるのですが、氷室を呼んで頂きたいのですが?」

「え、うん。って雪ちゃんじゃないの! 氷室ってことは、お兄さんね。判ったわちょっと待っててね」

 美人な先輩は優しい人だったようで、すぐに教室に取って返し氷兄を探してくれた。

 暫くして戻ってきた先輩は残念そうな表情をしている。

「うーん。阿南君居ないみたい。どうする?」

 くぅ、逃げたな! でも氷兄は母さんから弁当を貰っていた。

 なら、それがあるかどうかで、この後の行動は予想出来るはず。

「それでしたら兄の席を教えて貰いたいのですが」

「あ、うん。いいわよー」

「ありがとうございます」頭を軽く下げた。

「それじゃ、こっちだから付いてきてね」

「はい」

 美人な先輩の後を中に入る。すると、教室内の視線が一瞬で集まった。

 知らない人間が混じって居たらそうなるのは当然だろう。

 が、ここで予定外なことが起った。

「うわ、雪ちゃんだ!」

「可愛い!」

「同性からみても、可愛いわぁ」

「お人形さんみたいだし、お家に飾っておきたいわ」

「1年ずりーな。いつも近くで見れるのかよ」

「雪ちゃん俺の彼女になって!」

「馬鹿かお前? 顔を見て言えや」

「はぁ? お前には言われたくねーわ」

 一瞬にして騒ぎが起き、囲まれてしまったのだ。

「あの……通して欲しいのですが」

 僕の願いは喧騒に紛れて聞いてもらえない。 

 困ったなぁと逡巡していると、案内してくれている美人な先輩が雷を落とした。

「こら! 用事があるんだからどきなさい!」

 この先輩、結構権力があるみたいで、皆は少し不満そうだったけど、道を作って譲ってくれたのは助かった。

 ツイテルのかもしれない。初めに声を掛けたのがこの人でよかったよ。

 氷兄の席まで案内され、「この席よ」と指差して教えてもらう。

「ありがとうございます、助かりました」軽く微笑んでお礼を言う。

「うわ、生雪ちゃんの笑顔、何これ……ああ――」

 さっきまでのクールな態度が何処かへ消え、体をよじって変な行動してる。

 今の表情、見覚えがあったような?

 うーん。判らない。でも思い出さない方がいいような……

 まぁ、気にしたら負けだろう。

 早速、周りにATフィー○ドを張り、氷兄の席に座って物色を開始する。

 いまだに好奇の視線が消えてないので、これを張らないと集中出来ないのだ。

 まずは机の中から――

 教科書と筆記用具だけしか見つからなかった。

 結構マトモだったのに驚きだね。

 では、本命の鞄を拝見。

 横に掛かっている鞄を机の上に置き、ジッパーを降ろして中身を探す。

 重さから判っていたことだが、お弁当は中に入っていた。

 とりあえず、すぐ戻ってくることが確定した。

 ここで嬉しいハプニングが、何故か以前買うのに苦労した、ふんわり滑らかシューが入っていたのだ。

 冷蔵保存が鉄則なのに、常温なんてけしからんよ。

 これは没収しょう……慰謝料でもいいかもね。

 さて、ここからは氷兄が戻ってくるのを待つだけ。

 普段なら、目立つような真似したくないところだが、2人っきりになると、いつの間にか氷兄のペースにされることが間々ある。その対策の為この場所が都合がいいのだ。

 大勢の同級生の前では、いくら氷兄が変態でも悪さは出来ないだろうと思う。

 僕も少しは賢くなってるんだよ。


 

 うーん。ちょっと遅いなぁ。教室の時計を見ると5分程経過していた。

 その際に、チラリと確保したシュークリームに目がいってしまう。

 美味しそう……でも周りの人見てるしなぁ。

 いきなり入ってきて、氷兄のシュークリームを食べ出す図はかなりシュールな気もする。

 我慢するんだ僕、そういえばご飯まだ食べてないんだよね。これ食べて待ってればいいんじゃ。

 いやいや、ここは耐える場面な気がする。うーー、何か拷問にあってる気がする。

「雪ちゃん。それ食べたいの?」

「え?」

 急に掛けられた声に驚く。

 何時の間にか、目の前の席に先程の美人な先輩が後ろ向きに座っていた。

「あ、ボクのだと思うんですけどね。戻ってくる迄は食べれないかなぁって……」

「あら? 気にしないで食べちゃえばいいじゃない。あんな黒いのに食べられるより、雪ちゃんが食べた方がシュークリームも喜ぶと思うわよ?」

 ううう。この先輩良い人かも。さっきのは幻覚だったみたい。

「そ、そうですかね?」大分心が動かされる。

「勿論よ。ほら遠慮しないでどうぞ。何かあったらお姉さんが文句言ってあげるわ。それに、今日も暑くなってきたし早く食べないと腐っちゃうわよ」

「で、ですよね♪」

 此処まで言われたら、食べないと悪いよね? 別に僕が凄く食べたいからじゃないんだよ? 腐ると勿体無いじゃない。

「それじゃ、食べながら待つことにします」

 箱から中身を取り出すと、まだ少し冷えていた。

 あれ? 結構もつのかなこれ? でも、この状態なら安心して食べれそう。

 ビニールの袋を破り、中身を半分ほど表に出す。シュー生地が食欲を更にそそった。

 はーむぅ。思い切って一口食べてみる。

 口に広がるカスタードの甘い香り、美味しいよぉ。自然と笑みが零れちゃうね。

 やっぱり、シュークリームは最高だよ!

 あれ? 僕何しに来たんだっけ? ま、いっか美味しいし。

「はぅ、やばいわ。その表情……可愛すぎる」美人の先輩に何故か頭をなでなでされる。

 なんだかよく判らないけど、別に気にしなくてもいいかな。

 はーむぅ。再び味わいだす。

 今日のお昼にシュークリーム食べれるなんて、ラッキーだったかも。

 その時だ。

「おい、おい、どうしたんだお前等?」良く聞き覚えのある声が教室に入ってきた。

 この異様な状況に疑問を持ったのだろう、怪訝な顔をしていた。

 その声の主、氷兄と目が合う。

「へ? 雪? 何してるの?」氷兄が目を丸くする。

 氷兄がこうなるのも仕方ないと思う。自分のクラスに戻ったら、いきなり僕が居てシュークリームを食べていたら驚かない方が変だろう。僕が逆の立場でもそうだしね。

 ごくりとシュークリームを飲み干す。

 その間に、氷兄が素早く僕の元に移動してきた。

「遅いから、これ貰っちゃったよ」3分の1になったシュークリームを見せる。

「ああああ、それって雪を喜ばそうと3時間目の休み時間に買ってきた奴じゃん。何で食べてるんだ――っていうかどうしてこのクラスにいるんだよ!」

「あ、やっぱりボクのなんだ。ありがとう。美味しかったよー」

 これで心置きなく食べる事が出来るね。

「どう致しましてじゃないっつーの! それで、何で居るんだよ? シュークリーム食べに来たわけじゃないんだろ?」

 そうだった。危うくシュークリームの魔力のせいで本題を忘れるところだったよ。

「ふーん。判らないんだ? 少し自分の行動を思い出して見るといいよ?」軽く睨みつける。

「俺の行動? ふむ」氷兄が腕を組んで考えだした。 

 ここに来たのは正解だったみたい。

 いつもならすぐべたべたしてくるのに、それが無いからね。

 今回は作戦の勝利だ!

 氷兄が思案してる間に、残りのシュークリームを食べる。

 うっうっ美味美味うまうまって感じだね!

 氷兄が、腕を戻した。

「さっぱり、判らんな!」

「……ふ~ん。まだ白を切るんだ。なら、雪にゃんに心当たりがあるんじゃない?」

「雪にゃん? なんだそれ? 雪が猫にでもなるんか?」

 ちょっと反応が変かもしれない。どういうこと?

「嘘、本当に知らないの?」

「ああ、さっぱりな。俺は雪に嘘つかないだろ」

「えええ、じゃーこれ氷兄の仕業じゃないの」僕のスマフォを取り出し、『ネットアイドルは君だ』のページを氷兄に見せた。

「1位、雪にゃん。凄いな。雪の可愛さは皆が認めるってことかぁ――って待てよ! これを俺がやったと思って来たのか?」

 う……その通りとは言い辛い。

「あは♪」誤魔化すように満面の笑顔を浮べる。ネットアイドルNO1の笑顔だよ! 価値があるよーきっと。

「そんな可愛い顔をしても、騙されんぞ。つまりは俺に文句言いに来て、腹いせにシュークリームを食べたってことでFA?」

「うーーーーーー。FA」首を軽く傾げてみる。

「さて、雪ちゃん2人っきりの場所に行こうか♪」

 氷兄の顔が恐い。邪な気配が漂ってくるよ!

「そ、それは嫌かな……」

「お兄ちゃん♪ 凄く心が傷ついたんだよね。大体冷静に考えてみろ。その写真雪が消去したよな。更に、そんなサイトにアップして俺に何の得がある。余計人気を増やすだけだろうが。俺はそこまで馬鹿じゃない」

 氷兄の言うことは逐一納得出来る。となると、犯人は――

 1人しかいないじゃないか! 父さんだ。あの写真を撮った張本人だもん。

 なんで、そのことに気付かなかったんだ。これも全部氷兄の日頃の行いが悪いからだよね。

「それじゃ、氷兄シュークリーム美味しかったよ」席を立って逃げることにした。

 が、立ち上がろうとした瞬間に、氷兄に肩を抑えられ、席に再び座らされる。

「こらこら、急に慌ててどうしたんだ?」

 むむむ、雪ちゃんピンチ!

「ええと、ボクもお昼食べないと時間なくなるかなぁって」

「だったら、俺もまだだし一緒に食べようか♪」

「と、友達と食べる予定なんだよね……」自然と目を逸らしてしまう。

「それは嘘だな。雪はすぐ顔にでるから騙すのは無理といつも言ってるだろうが」

 くぅー。どうしよう。

 そう困っていると、

「ちょっとそこの黒いの。私の雪ちゃんに何言ってるの?」美人な先輩が助けてくれた。

 ありがとうと心の中でお礼を言う。

「はぁ? 西条さいじょうには関係ないだろ? これは兄妹の問題だからひっこんでろ」 

「いいえ、いたいけな女の子が野獣に狙われている図よ。このままにしておけないわ!」

「誰が野獣だ! それを言ったら、お前の方が危ないだろうが。女の子なら誰でもいいんだろ?」

「は? 何を言ってるの? か、わ、い、い、女の子だけに決まってるでしょ? その点雪ちゃんは、SSランクよ。今迄見たこと無かった最上級ランクなのよ!」

 なんだろ。女版氷兄に見えてきた。この人やっぱり危険だ。

「雪ちゃん。こんな駄目兄なんて捨てて、いつでも多賀子たかこお姉ちゃん♪ って呼んで頼ってくれていいのよ」

「…………」何と言っていいのか判らない。

「雪、コイツだけは駄目だ! 半径5m以内に近付かない方がいいぞ! 取り込まれたら最後、女の子は皆泣いてるからな」

「はぁ? それはそっちでしょ。氷室様とか言われて調子に乗ってんじゃないわよ。わたしの可愛い子羊ちゃんたちを毒牙にかけないでくれない?」

「俺がいつ毒牙にかけたんだよ! 雪の前で、いい加減なこと言うな!」

「そっちが、私に変な言いがかりつけたのでしょ!」

 やはり、ソックリな反応だ。世の中似た者っているんだね。

 ああ、でもすごい名案思いついちゃった。

 2人共、いつの間にか僕を放置して論戦を開始している。今なら、逃げることも可能な気がした。

 思い立ったらなんとやら、速やかに行動に移す。

 そーっとバレないように、音をさせずに席から立って、2人の視界を避けながら移動を開始する。

 周りの先輩達にはバレているので、両手でお参りするように見逃してくださいねと合図しながら、片目でウィンクした。

 皆優しくて、笑みを浮べて頷いてくれた。

 やっぱり、年長者だけのことはあるね。

 僕が教室の外に出ようとした時、

「「で、雪 (ちゃん)はどっちがいい(の!)んだよ!」」という大きな声が聞こえた。

 勿論、僕は氷兄の席に居ない訳で、すぐに僕を探す二人に、「失礼しました」と頭を下げているのを見られてしまった。

「「待った!」」

 2人の制止の声を無視して、速やかに自分のクラスに逃げだした。

 いやー危機一髪だったね

 そして、戻る途中で、先程の美人な先輩、西条多賀子さんのことも思い出した。

 入学式に花を付けてくれたお姉さんがそうだったのだ。

 あの時から、ソッチの気配がしてた気がする。確か胸触られたもん。

 まぁ危険だけど、今日の雰囲気から見て氷兄の天敵に間違いない。

 氷兄を抑えれる人を発見できたのは、幸運だった……と思う。

 頼ったら頼ったで、身の危険が危ないのは気のせいだろうか?


 

 さて、その後? 

 父さんにはメールを送りつけておいた。



『大嫌い! 30分以内にネットアイドルのサイトを消去して! じゃないと二度と口を聞いてあげない、写真も撮らせない!』



 こんな内容だ。

 効果はすぐに現れ、お昼休みが終わる頃にはランキングサイトから僕の痕跡は抹消されていた。



『はぅ。雪くん許してください。先程全部消去しときました。パパは雪くんがいないと駄目なのです。帰りに、大量のシュークリーム買って帰りますから、それで、なんとか……』



 というお詫びのメール付きで。

 なんで、こんな馬鹿なことをしたのか問い詰めたら。

 会社の机に飾ってある僕の写真が、すごい評判らしいのだ。

 そして、例にやってみたらと薦められて、調子に乗った結果こうなったらしい。

 色々ツッコミ処は多いけど、解決出来たのは良かったと思う。

 実質公開されていたのは3日ぐらいの間だったらしいし。

 だが、この行為が予想外の結果を招く。

 数日間で1位になり、頂点を極めた瞬間消えたのが、潔くカッコイイ行為に写ったみたい。

 実際は恥かしいから急いで消させただけなんだけどね。

 伝説の美少女 雪にゃん♪ 

 そうネットの世界で、語り継がれることになったのは笑うしかない。

 

やっと複線を一つ回収出来ました。


氷室無双状態でしたからね、良い意味で抑止力になってくれるといいですが。






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