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すのーでいず   作者: まる太
第一章
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長い一日の始まり 3

プロローグ、長い一日の始まり1、2の句読点抜け、スペースずれと父さんの会話シーンを一部改変しました。大筋のストーリーに変化はありません。



第一章



長い一日の始まり 3



 脱衣所で、用意してあった替えのトランクスとだぼだぼの寝間着に着替えた後。

 リビングに向かう事にした。

 朝から何も食べてない為、いい加減お腹が空いてきたのだ。

 髪をバスタオルで拭きながらリビングに入る。

 すると父さんの姿は無かった。

 きっと仕事に出掛けたに違いない。

 一家の大黒柱なんだからがんばって。

 心の中で応援する。

 その代わりと言ってはなんだが、焼けた肌に180cm程の長身な兄、氷室ひむろが朝食を食べていた。

 あの身長、正直に羨ましかった。

 同じ遺伝子で出来てるのに僕との背丈の差が許せない。

 父親似であり、それほど僕とは似た顔をしてないが精悍な甘いマスクをしていて結構人気があるみたいだ。

 今から学校なのだろう制服を着ていた。

 ふふふ。本日休みの僕はちょっと優越感が沸いてくる。

 やはり休みは多い程嬉しいものなのだ。



 そして、氷兄ひょうにい(僕はこう呼んでいる)を無視するように、キッチンに向かおうとしたところで、氷兄と目が合ってしまった。

 位置取りは、リビングの入り口を向いて食べている氷兄。

 その入り口から入ってきた僕。

 目が合うのも仕方なかった。

 氷兄のへっ? 誰? って感じで口をぽかーんと空けている顔が面白い。

 面白いのでこのままスルーする事にする。

 氷兄は僕の中では第一種危険人物と認定されているので、近付かない方が好ましいのだ。

 理由は、その見た目とサッカー部のレギュラーという地位にも係わらず、彼女を作っていない事。

 まぁ僕も居ないし、それは良い。

 問題はそこではなく、大のブラコンなのである。そのせいで彼女が出来ないんじゃと勘ぐる程の。

 弟の冬耶にはそれ程でも無いのに、僕に大してだけ厚苦しいほど可愛がるのだ。

 女になる前でそれだったのだから、今の姿は氷兄からしては夢が叶ったようなモノな気がする。

 君子危うきに近寄らずべしという奴である。



 氷兄の痛い視線を感じながら、母さんに近付いて話掛ける。

「母さんお腹すいたよー。何か頂戴」

 母さんはその声に作業を止めて風呂上りの僕を見るとパッと花を咲かせた。

 そして、素早く手を洗ってエプロンで拭ってから、

「あーん。雪ちゃん本当に可愛いわぁ」ガバッという感じが適切だろう。

 抱きついてきたのだ。僕の顔に頬擦りするようにして髪の匂いを嗅いでいる。

「苦ぅし~い。放して!」

 必死にもがきながら暴れて、何とか引き離す。

「ただのスキンシップじゃない。ちゃんとトリートメントしたか確かめたかっただけなのにぃ。雪ちゃんのケチ!」

「ケチじゃなーい!」

 母さんはまだ物足りなそうな目をしているので、油断は出来ない。

 その僕と母さんの会話に聞き耳を立てていたのだろう。

「えっ! 雪って? 雪? どうみても可愛い女の子じゃん」氷兄に正体がバレてしまう。

 チッ、気付かなくてもいいのに! 面倒事が又増えた感じだ。

 母さんだけでも手一杯というところに、氷兄の相手までしたくない。

「そうなのよ。雪ちゃん可愛くなったでしょう? もうねぇ、むちゃくちゃにしたくなるのよね」

 僕のシックスセンスが危険アラームを鳴らした。

 素早く今立っていた処から、後ろに一歩後退した。

 そのすぐ後に、母さんが再び抱きつこうとして見事に腕が空をきり、体勢を少し崩した姿があった。

 我ながらGJという奴である。

「それじゃ、朝ご飯よろしくねぇ」

 さっさと、キッチンから逃げるように出て、リビングのソファ-に腰掛ける為に向かった。

「それは判ったけど……うぅ」母さんが恨めしそうな目をして口を尖らせているが気にしない。 


 ソファーに行くという事は、氷兄の近くまで行かないと駄目なのだが、ご飯は此処で食べないと駄目なので、仕方なくそこに座った。

「本当に、雪なのか?」氷兄が待ち構えてましたとばかりに声を掛けてきた。

「そーりー。あいきゃんとすぴーくじゃぱにーず」

 僕の見た目はパッと見、外国人にしか見えないのだからこれで通用する筈である。

「おい! さっき母さんと日本語で話してただろうが!」

 ちっ、目敏い奴だ。

 諦めて普通に話す事にした。

 本当に、英語をしゃべられても困るのでこれはしょうがない。

「冗談も通じないの? 氷兄カルシウムが足りないよ」

「いやいやいや。てか昨日までと全然違う姿じゃないかよ! どんなトリックだよ?」

 ごもっともな意見である。

 僕も未だに信じられないぐらいなのだから、初見で判ったらすごいってものだ。

 このままあれこれ聞かれるのも煩わしいので母さん達に聞かされた内容を伝える事にした。

 その間氷兄はふんふんと頷きながら聞いていた。

 全て話し終わると、急に目を輝かせだした。

 まるで母さん達みたいな反応だ。

 ちょっと後悔してきた。 

 あくまで他人で通すべきだった気もする。

 だがいずれ家族なんだからバレルのは時間の問題だったろう。

 そう思案していると、

「なぁ、雪ぃ。お願いがあるんだけどぉ聞いてくれないかなぁ?」

 氷兄は急にモジモジして気持ち悪い声を出してきた。

「い、や、だ!」

 どうせ下らない内容に決まっているのだから遠慮は要らない。

「えぇ! なんでだよ。まだ言ってもないんだから。それから判断しても良いだろぉ?」

「い、や、だって言ったら嫌なの!」

「ううう。実の兄のお願いも聞いてくれないほど、雪は冷たい人間なのか?」

 大男がいじけても可愛くない。

 しかし、僕の心は少し動かされてしまった。

 なんだかんだでお人好しなのだ。

 それを見越して相手はやっているのだろうけど、こればっかりは性格なので治すのが難しい。 

「もぉ。その仕草うっとおしい。じゃー聞くだけ聞くから言ってみなよ。だけど、絶対叶えるって訳じゃないからね。判ってる?」

「ああっ判ってるよぉ」

「で、何?」

「ええとな。その……俺の事を氷兄じゃなくて、お兄ちゃん♪ ってこれからは呼んでくれないかなぁ?」

「………………」はぁ、聞かなければ良かった。

 案の定しょうもないことだったよ。

 ジロリと睨みつける。

 氷兄はビクっと体を震わせて、愛想笑いを浮かべだした。

「……だ――めかな?」

「うん♪」声を大にして言ってやった。

 その瞬間、氷兄はしゅんとしてうな垂れてしまった。

 それと同時に、母さんが僕の料理を持ってきてくれた。

 ローテーブルに、トーストとサラダにコーヒーを順次置き、僕らの話に割り込んできた。

「じゃぁ、今日から私の事もお母さんじゃなくて、ママと呼んでね。娘にママと呼ばれるの夢だったのよねぇ♪」

 がくっとなる。

 子が子なら親も親だよ。

 本当にうちの連中は似たものばっかりだ…… 

 疲れてくる。

「ねー? ママって呼んでくれるよね」

 黙っている僕に母さんは笑顔で脅迫してきた。

 とっても恐い。

「恥かしいから嫌!」

「なんで、なんで。女の子なんだからママって言うのが標準なのよ?」

「それなら僕は男だから関係ないだろ」

「今は女の子でしょ? それもすごく可愛い。氷君もそう思うわよね?」

「ああ、超可愛い。なんていうの? このまま拉致して監禁したくなるぐらいだ」いつのまにか立ち直った氷兄がハァハァ言いながら賛同する。

 それって犯罪だろが!

 やはり危険だと再確認させられた。

「だから、ママって呼んでね♪」

 目を逸らす。

「ママって呼ぼうね」

 聞こえない聞こえない。

「ママと呼ぶよね」

 母さんの声がとても低く感じた。

 慌てて顔を見ると眼が完璧に据わっている。

 げっ! これはまずい。

 うう言いたくない。

 でも、このままでは……

「マ……マ」言うしかなかった。

 顔が完璧赤くなっている。 

 それにより、がらりと母さんの表情が変った。

「はぅあ」両手で顔を押さえて変にもだえている。

「ちょっと、その反応気持ち悪いんだけど!」

 照れを隠す為についキツイ口調になってしまう。  

「恥かしがる雪ちゃんも良いわぁ。それにたった一言でこんな破壊力を秘めているなんて。もう! ママを殺す気なの?」

 変態がいた……

「雪ぃー。母さんだけそんな風に呼ぶなんてずるいぞ。俺の事も、お兄ちゃん♪ って呼んでくれよぉ」

 ここにも変態がいる。

 変態さんだらけですね。

 この家でまともなのは?

 父さんを思い出す。どうみても変態さん3号です。論外。

 最後に、冬耶が出てきた。

 冬耶は僕がずっと可愛がってきたのだから、まともな反応をしてくれるに違いない。

 でも最後の希望が年端もいかない弟だけっていうのはなんなんだ。

 絶対おかしい……

 そして、このままでは何をさせられるか判らない。

 そう思うと、さっさとご飯を食べて部屋に戻るのが正解だろう。

 何か話しかけられていた気もするか、もう悟りを開いた僕には無駄だ。

 沈黙は金也とは良く言ったものである。

 その後速やかに部屋に撤収したのだった。

この話から作者お気に入り? の氷室君が登場しました。

なるべく登場シーンを多くしてあげたいですが、どうなるのでしょう。


※ それにしても、変な文字列の移動が起きるのはなんなんでしょうね……

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