忘れたころに…… 1
6月になり、星桜学園の制服も衣替えされた。
紺に桜色のラインが入った、チェックのスカート。首周りに桜色のラインの入る丸首の半袖ブラウス。それに、スカートと同色のリボンタイという組み合わせだ。
ぶっちゃけ、ブレザーの上が消え、半袖ブラウスになっただけとも言う。
それにしてもこの格好、よろしくないです。とても心細い感じがするんだよ。
絶対、ブラとか透けて見える気がするもん。
母さんに聞いたら、「見せ付けてやればいいのよ」とかいう訳の判らないアドバイスだった。
遥に至っては、「別に今更って感じ?」まるで眼中にないみたいだ。
うーん。恥かしいの、僕だけなのかな?
でもなぁ。うちには変態が居るし、嫌なんだよねぇ。
キャミソールを着るのも手らしいけど、此処で一つ問題が……
僕、暑いの駄目みたい。さすが、雪女! 6月の段階でも結構しんどいんだよ。
女になってから割り増しした感じがする。
真夏とかどうしようと心配になってくるね。
「はぁ」暗い気持ちで学校に登校している時だった。
「ひょっとして雪にゃん?」大学生ぐらいだろうか? 道端で男の人に声を掛けられた。
僕は怪訝な顔をその人に向ける。
「うわー、実物の雪にゃんだ。応援してるから!」
そう言うと僕の反応を無視して去っていった。
……何今の? 新手のナンパだろうか――でも、なんで名前知ってるんだろ?
というか何故『にゃん』さっぱり判らない。
その後も、同様のことが繰り返され、
「がんばって雪にゃん!」
「本物の方がもっと可愛い!」
「握手してください!」
とか理解不能なことまで言われる始末。ちなみに握手はしてあげたよ。
女性だったしね。
悶々とした気分で教室に入ると既に楓ちゃんが登校していた。
遥と太一はまだみたいだ。
僕が自分の席に付くのを待ってたかのように、楓ちゃんが目を輝かせてコッチを向いた。いやーな感じがぎゅん○ゅんします。
「雪ちゃーん見たよー。もう何で言ってくれなかったのぉ!」
「見たって何? 楓ちゃんが見れるなら、ネ○ーランド?」
「へ? なんでピー○ーパンの世界なの?」
僕は人の悪い笑みを浮べる。
「だって、純粋な子供だけが見れる夢の世界でしょ♪」
「むぅ、雪ちゃんそんな酷いこと言うんだ……」
「別に酷くないよ。純粋って誉めてるんだから♪」
「そ、の、あ、と、の、子供って部分が余計なんだよ!」
「そうかなぁ? 楓ちゃんが子供って言うのは世界の常識でしょ? 今更じゃない」
「むきー、そうやって馬鹿にしてればいいんだよ! 雪ちゃんの身長なんていずれ抜いてみせるんだから!」
ぐさっ……心にト○ピー大の角が突き刺さった。
身体測定の時、確かに楓ちゃんの身長は伸びていたのだ。一方の僕は下がっている。
僕って伸びるのだろうか? いやいや、まだ成長期。
シュークリームを食べていれば育つはず!
同じ乳製品だし、牛乳みたいなものだよね?
この話は不味い、お互いに傷口を深くするだけだ。
「それで、さっきの話だけど何を見たの?」
「雪ちゃんが変なこと言うから、話がずれたんだよ! ええとねぇ」ムフフといやーな顔が復活する。
「雪にゃんのことだよ♪」
またそれ?
「何故か今日登校してる時も、見ず知らずの人からその名前言われたんだよねぇ? どういうことなの?」
「あれ? 雪ちゃんが自分でやってるんじゃないの? 凄い人気が出てて、もうすぐ1位になりそうなのに」
「1位? 判らないなぁ。何かのランキングなのかな?」
楓ちゃんが先程までと違い、困惑した感じになった。
「本当に雪にゃんのこと知らないの?」
「うんうん。まるっきり心当たりが無いね」
「そっかぁ。じゃーコレを見てもらったほうが判り易いかなぁ」
楓ちゃんがピンク色のスマフォを取り出し、僕にサイトを見せてくれた。
タイトル名『ネットアイドルは君だ』
……名前からして、嫌な展開しか思いつかない。
そのまま楓ちゃんはURLをクリックし、ランキングのページを開いてくれる。
1位、『雪にゃん♪』名前と一緒に、どこかで見た猫耳の写真が掲載されていた。
恥かしそうにポーズしてるのが初々しいね――って忘れたい黒歴史じゃないか!
「おおお、1位になってるよ! 昨日まで2位だったのに――さすが雪ちゃん!」
「…………………」
更に、その名前部分のURLをクリックすると、公園でポーズを取る僕の写真が複数枚確認された。
最後に、応援してにゃん♪ とかいうふざけたコメントまで。
くくくくく、殺す!
「ゆ、雪ちゃん、ど、どうしたの?」
僕の殺気に反応したのだろう。楓ちゃんが怯えた声を出した。
「ああ、うん。こんなことする変態に心当たりがあるん、だ、よ!」語尾に怒りが漏れてしまった。
絶対氷兄だ! この写真、以前氷兄のPCで見たもん。
最近大人しいと思ってたらこんなことしてやがったのか!
ふふふ、いい度胸じゃないか。僕を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる。
スマフォの時計を確認する。時間は――もう無いか。後10分もしないでHRが開始されてしまう。
とりあえず、楓ちゃんからこのページのURLを貰い、この次の休み時間の為の作戦を練る。いや、それでは足りないかもしれない。
となるとお昼休みか……後少しの命を満喫するがいい。
短いです。そして、たぶん2部、3部? 2部で収めたいなぁと思っています。
そして、ここから3章スタートです。
今後とも宜しくお願い致します。




